Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Steve Bateman

2007-06-28 | SSW
■Steve Bateman / Someday■

  人気のない廃墟のような街角のベンチに座る男が一人。 おそらく、この街では何もすることがないのでしょう。 本を読むか、昼寝をするか、あるいは太陽の出ている時間からバーボンを煽るか…。
  そんな C 級な予感に満ちた Steve Bateman の唯一のアルバムは、1976 年に発表されました。 正直、このジャケットではなかなか手が伸びないのですが、内容はそれほどひどいものではありません。 もしかして、絶望的に陳腐なカントリーかもしれないという恐怖すら感じるのですが、実はそうでもない内容となっています。 そもそも、Steve Bateman がギターをかき鳴らす曲が少なく、ピアノや女性コーラスを交えたミディアムなバラード集といった趣のアルバムなのです。

  アルバムには、2 曲の Beatles カバーが収録されており、この 2 曲が中々の出来栄えです。ななかでも「Drive My Car」は、Steve Bateman の大胆なアレンジと歌いこなしが格好良く、アルバム最大の聴き所になっています。 「Drive My Car」は初期 Beatles のナンバーの中では、珍しくも素行が良くないというか、不良少年みたいなイメージが強い曲だと思いますが、そこを上手くついてスワンプ味を付け足したという印象です。 もう 1曲の「I’ve Just Seen A Face」は「夢の人」という邦題で有名な Paul McCartney の曲。 オリジナルからして、カントリー・タッチな曲ですが、Steve Bateman はノンフライ・オイルのようにさりげなく軽く揚げています。

  他の収録曲では、ピアノとストリングスを基調としたセンチメンタルなバラード「Full House」や、 アルバムタイトル曲の「Someday (We’ll Do It Right)」が光っています。 ともに音数の少ないピアノとバックの女性コーラスとストリングスにまろやかに包まれた洋菓子のように甘い名曲に仕上がっています。 抑制された音作りと、人柄の伝わってくる温かいボーカルがこのアルバムの魅力であることを再認識させてくれます。
  また、いかにも南部の匂いを強く感じさせる曲もあり、「Louisiana Darkness」や「Let Me Down Easy」はそんなテイストに満ちています。 と思えば、軽いペダル・スティールに主導権を預けた「Stronger Than You Think」や「The Blues Over You」といった純正カントリーもあったりして。 このように振れ幅はそれなりにあるのですが、アレンジ・センスのブレがないためか、アルバムとして散漫になることはなく、落ち着いた印象のアルバムに仕上がっています。 

 とはいえ、このアルバムが後世にまで残るべき名盤だということはありません。 広大なアメリカを一人旅したいと思っても、なかなか南西部の見知らぬ街へ一人でバスを乗り継いで出かけようという気にならないのと同じで、何か特別な理由がない限りは、このアルバムと接する必要はないかもしれません。

 冒頭で述べたこのジャケット。 テキサス州ヒューストンで撮影されたということがクレジットされています。 この場所が、いまどのようになっているのかを、知りたいと思う人は誰一人としていないでしょう。  仮に知りたいと思ったとしても、たどり着く術がないことに、途方に暮れてしまいます。 ついつい、そんなことを考えてしまうマイナー感あふれるアルバムです。



■Steve Bateman / Someday■

Side-1
Stronger Than You Think
The Memory Of You
Full House
Drive My Car *
In The Form Of Me

Side-2
Someday (We’ll Do It Right)
The Blues Over You
Louisiana Darkness
I’ve Just Seen A Face *
Let Me Down Easy

Produced by Vic Clay
Arranged by Steve Bateman
Engineered by Larry Ratliff

All Songs Written by Steve Bateman Except * by J.Lennon & P. McCartney

Amherst AMH 1004

Harbus

2007-06-23 | SSW
■Harbus / Harbus■

  いつ見ても聴きたいという気持ちにさせないジャケットにため息をついてしまうアルバム。 Harbus の唯一のアルバムは、こんなジャケットになってしまったことから、彼の真の姿をとらえた写真は一枚も知られていません。 この横顔からは、相当にしゃがれた声の持ち主かと思いますが、意外にもジェントルでマイルドな声の持ち主だから、レコードは聴いてみないとわかりません。 
  1973 年に Evolution からリリースされたこのアルバムは、スワンプなテイストを感じる場面もありますが、汗臭さのない同時代のシンガーソングライター達に近いものを感じます。 さっそく、アルバムを振り返って見ましょう。

  A 面は、可愛らしいフルートと重みのあるストリングスのコントラストが曲を盛り立てる「Gonna’ Make It This Time」で幕開け。  「While The Daylight Shines」ソウルフルな女性コーラスをバックにしたややファンキーな仕上がり。 音楽の都を渡り歩くタイトルの「Memphis To Nashville」は、カントリー風味。 「Hudson River」は、一気にニューヨークのハドソン河のことを歌った曲。 そもそもこのアルバムのレコーディング地が、ニューヨークというのも意外ですが、この曲はリズムトラックの入らないしっとりしたバラードです。  哀愁を帯びたボーカルが、肌寒そうなハドソン川岸をイメージさせる名曲です。 再び田舎に舞い戻った「Country Song」は、そのまんまのカントリー。 このちょっと曲順は考えものです。

 B 面に移りましょう。 1 曲目の「Songs For Singing」は少年っぽさの残る薫風のような曲。 プロデューサーでもあるNeil Portnow のベースを始めバックの演奏もなかなかです。 やや陰りのある「Bushes And Brambles」は、間奏部のフルートソロが印象的。 つづく「Arizona」は南部の匂いのするカントリー。 Memphis に Nashville に Hudson River ときて Arizona ですから、アメリカ横断ウルトラクイズみたいです。  つづく「Open The Door」は、Dan Fogelberg や Eric Andersen に通じるセンシティブな楽曲。  抑制の利いたストリングス・アレンジが気品あるサウンドに仕上げています。 ラストの「Brother Daniel」は中盤からファンキーさを増し、コーラスや荒削りなギターソロなどバラエティに富んだ展開を見せる曲ですが、ラストとしてはどうかなと思います。 このアルバムを通じて感じるのは、曲の並びが上手くないということです。 もう少しリスナーのことを考えて、バラード系、カントリー系、ファンク系をうまく並び替えたら、もう少し違った印象になったと思います。

  さて、今日の主人公、Neil Harbus のその後をたどってみようとインターネットを検索してみましたが、まったく分かりませんでした。 もちろん、本人の公式ページなどあるはずもなく、跡形もなく消え去ってしまったという印象です。 この Evolution というレーベルには、クラブ系 DJ に人気らしい Dorothea Joyce や、SSW の Stu Nunnery などのアルバムが知られていますが、この 2 人もたった 1 枚しかアルバムを残していません。 よっぽど不遇なミュージシャンが集まってしまったのか、レーベルの魔力が引き寄せた悪運なのかはわかりませんね。 「Evolution=進化」という言葉の響きがむなしく感じられる。 そんなレーベルです。



■Harbus / Harbus■

Side-1
Gonna’ Make It This Time
While The Daylight Shines
Memphis To Nashville
Hudson River
Country Song

Side-2
Songs For Singing
Bushes And Brambles
Arizona
Open The Door
Brother Daniel

All Selections by Neil Harbus
Produced by Neil Portnow & John Miller
Recorded at A&R Recording Studios , New York

Neil Harbus : acoustic guitar & vocals
Neil Portnow : bass
Jim Payne : drums
David Wolfert : acoustic & electric guitar
Marc Freeman : piano &organ
Hank DeVito : pedal steel guitar
Sid Cooper : flute on ‘Brother Daniel’
Jon Charles : vibes
Alexis Guevera : congas
John Miller : piano on ‘Brother Daniel’
Steven Nelson , Amy Hobish , Nina Tax : background vocals
Tasha Thomas , Carl Hall , J.R. Bailey : background vocals

Evolution 3018

Hoover

2007-06-17 | SSW
■Hoover / Hoover■

  自らの墓に腰掛けたジャケットが発売当時に話題になったかどうかは知りませんが、今日取り上げたのは、正体不明のシンガーソングライター Hoover のファーストにして、ラストアルバム。 簡単に言うと唯一のアルバムです。 このジャケットを見るたびに、その事実を妙に納得してしまいます。
  このアルバムに関する情報は、メジャーレーベルからのリリースにしては極めて乏しいです。 発売は 1969 年説と 1970 年説がありますが、たしかにレコードからは確定できません。 Hoover の本名も、W.Hoover まではわかるのですが、そこまでです。 バック・ミュージシャンのクレジットも無いために、どこでレコーディングされ、どんなミュージシャンが参加したかのかも分からないのです。 こんな状況では、語りようがありません。

 アルバムはアコギの穏やかなカッティングで始まる「I’ll Say My Words」でスタート。 この曲はアルバムのなかで一番元気のある曲とも言えます。 しかし、この調子で全編が続くと思ってはいけません。  曲の後半は、三味線みたいな音のシタールのソロが延々とつづき、1960 年代後半ならではの空気感が伝わってきます。 つづく「Leave That For Memories」は、アルバムの中でも光る曲。 頼りなげなボーカルとメロウなサウンドが妙にマッチして、心に忍び寄ってきます。  「Kommst Du Doch Mit Mir (Come With Me)」は、何語なのでしょうか。 Hoover もしくは両親の祖国のことでも歌っていると推測されるマイナー調で暗めなナンバー。  「That’s How A Woman’s S’pose To Be」 アップにしては淡々とした曲。 音楽とは関係ありませんが、Suppose To Be をタイトルのように略して書くのは初めてみました。 A 面ラストの「Free To Run Free」は、タイトルとは裏腹にしんみりした地味な曲。 控えめで寡黙なアレンジが好印象ですね。 A 面では「Leave That For Memories」と並ぶ佳作だと思います。

  レコードを裏返しましょう。 「All That Keeps Ya Going」はミディアムなナンバー。 いつものようにヤル気なさげな Hoover のボーカルを聞くと、軽い睡魔に襲われそうです。  「そんな男じゃないよ」と歌う「I’m Not That Kind Of Man」は、バックの演奏が聴こえるか聴こえないかという程に奥まっています。 つづく「One Man’s Family」は、バンドらしいまとまりのあるフォーキーなナンバー。 スワンプ的なテイストもありますが、ディランに近いものあります。 「Games」は、ダルな雰囲気のブルーズ。  ボーカルよりもベースのほうが目立っているような気もします。 ラストは、架空のミュージカルのテーマ曲というイメージなのでしょうか。「Theme From ‘tick tick tick’ 」というタイトルです。 曲調もそんな感じで、ラストシーンに出演者全員が登場し、♪Set Yourself Free♪と合唱しているみたいです。 この曲はアルバム全体からは異色なのですが、ラストに配置されていることもあり、このアルバムの中から自分の頭の中に残っている唯一の曲なのです。 逆に言うと、このラストのせいで、他の曲をすべて忘れてしまいます。 それはそれで構わないのですが、Hoover というミュージシャンがこのアルバムで何を表現したかったのか、何かを伝えたかったのは、あるいはそんな深くは考えていなかったのか…みたいな思いがリピートされるサビとともに頭の中をめぐっていくのです。

  何か特筆すべき点があるかというと何もないといったほうがいいかもしれないこのアルバムですが、その微妙にポイントを外れて位置しているようなたたずまい、シンプルなアレンジと眠たげなボーカル、そして圧倒的な情報不足から、この作品は妙に孤立した存在になっています。 誰かが掘り起こさない限りは、Hooverの音楽は、墓の下で静かに眠ったままなのです。



■Hoover / Hoover■

Side-1
I’ll Say My Words
Leave That For Memories
KOmmst Du Doch Mit Mir (Come With Me)
That’s How A Woman’s S’pose To Be
Free To Run Free

Side-2
All That Keeps Ya Going
I’m Not That Kind Of Man
One Man’s Family
Games
Theme From ‘tick tick tick’ (Set Youreself Free)

Produced by Chuck Glaser
Strings and Horn Arranged by Bill Pursell
Arrangements by Hoover

All Songs written and composed by Hoover

Epic Records BN 26537

The Random Sample

2007-06-12 | Soft Rock
■The Random Sample / The Random Sample■

 The Random Sample は、アメリカのカトリック系の大学に通う仲間たちで結成されたフォークロック・グループ。 ほとんど語られたことのないアルバムですが、大学生がまだ純粋で希望に満ち溢れていた時代の産物として、妙に新鮮に響いてくる音楽です。 ジャンルを CCM とするか、ソフトロックにするか迷ったのですが、内容を重視してソフトロックとしました。 クレジットは無いのですが、1970 年代の初期の作品と思われます。

 このアルバムには多くのカバーが収録されていますが、最も有名な曲は Bob Dylan の「I Shall Be Released」です。 ソフトロック調でアップなアレンジに、女性コーラスやフルート、そしてホーンセクションが彩りを添える内容は、The Band などの対極にある世界。 ジャケットの表や裏、インナーに写る笑顔のメンバーを見ながら聞くと、タイムスリップしてしまいそうです。 
 次に知られている曲は、Simon & Garfunkel の「Flowers Never Bend With The Rainfall」でしょう。 この曲は「雨に負けぬ花」という邦題がつくられた隠れた人気曲。 ベスト盤などには収録されませんが、名盤「Parsley Sage Rosemary and Thyme」の後半に収録されています。 ここでのアレンジは、男性と女性ボーカルによるユニゾン風のもので、清涼感あふれるものです。

 アルバムにはクリスチャン系のカバーも多く、女性メンバーのみで歌われる「I Wish We’d All Been Ready」は、Larry Norman によるこのジャンルのスタンダードで Cliff Richard や Spanky & Our Gang も取り上げている曲のようです。 Andre Crouch による「Heaven」はグループの実質的なリーダーである Dave Hopkins がリードをとりながらも全員のコーラスが快活なアップナンバーとなっています。
  他にもカバーが多いのですが、残念ながら詳しいことはわかりませんでした。 アルバムは B面のほうがスムースな曲順でしっくりと感じられます。 Johnny Rivers の「Something Strange」は、アルバム中では最もメロウでしっとりしたバラード。 つづく、前述の「Flowers Never Bend With The Rainfall」、「Nobody Cared」、「He Died On The Cross」と流れていくさまは、木漏れ日フォークにも通じる爽やかさです。 小鳥のさえずりのようなフルートが効果的に使われていることが、そういった印象につながるのでしょう。 どことなく、アソシエイションにも通じるのですが、女性コーラスが入るところが決定的に違いますね。

  このアルバムの見開きジャケットの内側には大きく「What is Campus Life?」と書かれています。 さすがにこれには気恥ずかしさを覚えましたが、よく読むとここで使われている「Campus Life」とは単に学生生活を指しているものではないようです。  Campus Life とは、Youth of Christ という国際的な組織の部門であるようなことが書かれていました。 詳しいことは分かりませんが、いろんな宗教組織がアメリカの大学には根を下ろしており、大げさにいうとそのひとつの宗派なのでしょう。

 その話題はここまでにしましょう。 The Random Sample の音楽にはレビューしてきたようにフォークロック・ソフトロックといっても派手さは全くなく、クラブ DJ が好むようなグルーブ感のある曲もありません。 ここにあるのは深い信仰と謙虚な生き方を貫こうとする若者たちの純粋な気持ちです。 そんな歌声を聴いて、自分の心が洗われたかどうかは分かりません。 ただ、アメリカでも日本でも 10 代の若者が、やがてこのような大学生活を送るという可能性はほとんどないでしょうし、このように無垢な音楽を生み出す土壌や環境はもはや存在しないだろうな、などと余計なことを考えてしまいました。



■The Random Sample / The Random Sample■

Side-1
Till The Whole World Knows
Love To Be Love
I Shall Be Released
Born Again (from ‘life’)
I Wish We’d All Been Ready

Side-2
Heaven
Something Strange
Flowers Never Bend With The Rainfall
Nobody Cared
He Died On The Cross

Produced by Jesse Peterson
Arranged and Conducted by Jimmy Owens
Recorded by Westminster Sinfonia Orchestra , London

The Random Sample are
Ted Limpic , Jann Reynolds , Thom Fuller , Linda Handley , Garry Limpic and Dave Hopkins

Tempo TL 7014

Bruce D. McElheny

2007-06-11 | SSW
■Bruce D. McElheny / For The Record■

 Google で Bruce D. McElheny と入力してみたところ、一番上に検索されたのが、ブックマークしているサイト「S.O.N.G.S」でした。 ということは、このレコードを取り上げるサイトとしては世界で2番目なのかもしれないなと思いながら書いています。 そんな無名のこのレコードは、NASA のお膝元、テキサス州ヒューストンのマイナーレーベル Buttermilk から 1976 年にリリースされたものです。 
 このレコードとの出会いは、もう 10 年以上前のことだと思いますが、「For The Record」というタイトルが妙に気になって購入しました。 内容は後述しますが、封を開けて取り出したレコードの盤が見事に反っていて、それがショックだったことを思い出します。

 アルバムはいかにも南部といった趣のブルージーな「I’m Comin’」からスタート。 もう少しナイーブな SSW なのかと思いがちなリスナーの第一印象を覆します。 つづく「And So Nobody Care?」はアルバムを代表するナンバー。 Ry Cooder ばりのギター・テクニックをみせるインストなのですが、高速アルペジオとボトルネック奏法が融合する技は並外れたものです。 一転して、リラックスした R&B 調の小曲「That’s Life」や熱い弾き語りの「Movin’ On」など 3分に満たない小曲が続きます。 「Judy’s Song」はこれまでにない繊細な表情をみせるバラード。 繊細というより単に元気が無いという感じがしなくもないのは、つづく「Country Music」みたいに明るい曲のほうが、彼の持ち味が出ているように思えるからです。

 B 面は、「Allegro *Nightmare Suite*」というインストから始まります。 クラシカルなギターソロから静かに始まり盛り上がっていく様はこのアルバムのなかでも異彩を放っています。 タイトルからして悪夢組曲ですからね。 つづく「A Song For Mary」はシンプルなギターをバックにしたラブソング。 アルバム中のスロー系ナンバーでは一番の出来です。 その後は、翳りのあるマイナー調「Lorraine」、スワンピーな「Midnight In Mobile」とつづき、孤独感漂う「You Started Out To Bring」へと淡々と進んできます。 ラストの「Hi Goodbye」は、意外にもアグレッシブなナンバー。 3 人しかいない参加ミュージシャンが全員参加しており、パタパタしたドラムに 2本のギターで荒々しい展開となっています。

 このように曲によってかなり雰囲気が変わるのがこのアルバムの特徴でもあり、個性となっています。 個人的には、もう少しミュージシャンの数を増やして、メジャー・レーベルからもう 1枚くらいアルバムを出して欲しかったと思います。 彼の音楽の嗜好や持ち合わせたギターのテクニックを存分に披露したアルバムにはなっていると思うのですが、彼の持ち味を上手い具合に取捨選択すれば、もっと内容の濃いアルバムを残すことができなのではないかと感じます。 とはいえ、このアルバムの持つ B級感こそが、アメリカン SSW を探求する醍醐味でもあるし、そこは何とも言えませんね。

 さて、冒頭で検索にひっかからないという話をしましたが、試しに、「D.」を取って Bruce McElheny buttermilk で検索してみました。 すると、Texasretromusic.com というサイトを発見。 そこには、Bruce McElheny のことが明記されていました。 ざっと目を通しましたが、特に目新しい情報はなく、逆に彼のセカンド・アルバムが存在しないことを確認できました。
 ジャケットでは生真面目な表情を浮かべる Bruce D. McElheny の唯一のアルバム「For The Record」は、今から 31 年も前に生み出されました。 インターネットの時代になっても語られないことを考えると、これからはさらにスピードを上げて風化していくことでしょう。

 

■Bruce D. McElheny / For The Record■

Side-1
I’m Comin’
And So Nobody Care?
That’s Life
Movin’ On
Judy’s Song
Country Music

Side-2
Allegro *Nightmare Suite*
A Song For Mary
Lorraine
Midnight In Mobile
You Started Out To Bring
Hi Goodbye

The Players
Bruce D. McHelheny : acoustic guitars , banjo , vocals
Pete Gorish : electric bass , drums
Ric ‘FLASH’ Gordon : dobro , acoustic guitar

Recorded at Bickley Studios
Recorded October 1976 Houston Texas

Buttermilk Records

Frank Hurley

2007-06-10 | SSW
■Frank Hurley / Introducing Frank Hurley■

 タイトルからして、ファーストアルバムということがわかる Frank Hurley のアルバム。 1980 年にシアトルにある Piccadilly というマイナーレーベルからリリースされました。ディストリビューションは First American となっていることから、Music is Medicine に似た存在なのでしょう。
 さて、今日の主人公 Frank Hurley はシアトルを中心に活動したシンガーソングライターです。 以前、同じくシアトルを拠点とした Phyl Sheridan のソロアルバムを紹介しましたが、それよりもカントリー色が強い作品となっています。

 収録局の半数が自身の作品ですが、作詞は苦手のようでほとんどが John Grange という人物の手によるもの。 Paul Stoffel という人物が 3曲ほど曲を書いていますが、この人物も不明です。

 ピアノのサポートが心地よいワルツ「Harry & Helen」からアルバムはスタート。 ゆるいバラード「Six Candles」、「Dark River」も凡庸なカントリーと続きます。 Frank Hurley のボーカルはほんの少しハスキーさを感じるものの、強烈な個性があるわけでもないので、アルバムは淡々と進んでいきます。 ゆるい二拍子「Anderson Island」を経て、過剰にノスタルジックな「Christmas Was」で A面は終了。

 B 面に入っても傾向は変わらず、オーソドックスな「85 and Satisfied」、父親のことを歌っているせいでしんみりする「Daddys Song」、やや憂いのある「Church’s Ferry」、二拍子のミディアム「Ain’t No Use In Running」と続いていきます。 ラストの「Thank You God」は、得意のワルツで締めています。 アルバムを通して聴くと、退屈な印象は払拭できません。 早すぎたスローライフみたいなアルバムに仕上がっているために、実際の収録時間よりも、1.2 倍ほど長く聴いているかのように感じてしまいます。 この効果は意図的に出せるものではないかもしれませんが、メリハリが無いことがこの要因でしょう。 

 Frank Hurley はこの後に、もう1枚だけアルバムを発表しているようです。 そのタイトルは「I Like Honky Tonk」というもので、かなり意表を付かれた気分ですが、こちらには Larry Carlton や Jerry Scheff といった有名どころが参加しているようです。 機会があったら聴いてみようかと思いますが、それほど積極的になれないというのが正直なところです。

 

■Frank Hurley / Introducing Frank Hurley■

Side-1
Harry & Helen
Six Candles
Dark River
Anderson Island
Christmas Was

Side-2
85 and Satisfied
Daddys Song
Church’s Ferry
Ain’t No Use In Running
Thank You God

Blaine Allen : bass
Danny Breeden : drums
Dave Dixon : acoustics
Tony Welch : acoustics
Geno Keyes : piano , strings
Gene Breeden : lead
Jerry Forcier : steel . dobro
Frank Hurley : steel

Piccadilly PIC 3347



Lorence Hud

2007-06-05 | SSW
■Lorence Hud / Lorence Hud■

 中学生の頃、Mike Oldfield が弱冠 19 歳で「Tubular Bells」を制作したという事実を知ったときに、僕はプロのミュージシャンになろうなんてことはあきらめました。 というのは全くのウソで、僕はプロ・ミュージシャンになろうなどと思ったことは一度もありません。 しかし、若くして開花した Mike Oldfield の才能(というよりも執念?)には、多くのアマチュア・ミュージシャンが衝撃を受け、たじろいだことしょう。 当時の Mike Oldfield は多重録音によるマルチプレイヤーの代名詞だったと思います。 あとは Todd Rundgren かな。 いずれにしても、まだコンピューターや打ち込みが出る前の話です。
 そんな彼らとは異なり、全く無名のまま忘却されていったマルチプレイヤーが今日取り上げた Lorence Hud です。 彼のマルチ度合いは、並外れており、100% 自身による演奏であるばかりか、作曲・アレンジ・プロデュースに至るまですべてを彼一人で行っています。 こういったミュージシャンも珍しいでしょう。 睨み付けるような迫力のあるイラストからも、彼の自信が必要以上に伝わってきます。 そんなこのアルバムは、過日ご紹介した Bruce Miller と同様に、カナダの A&M から 1972 年に発表されました。 

  アルバムは、良くも悪くも Lorence Hud を聴く人に妙な後味を残す曲「Sign Of The Gypsy Queen」でスタートします。 アップで疾走感と悲壮感が同居するようなナンバーなのですが、ボーカルのエコーの影響でしょうか、彼自身がジプシーの血を引いているかのような印象を残します。 このような曲ばかりなのかと思うと、ややうんざりしてしまうのが、この 1曲目のマイナス効果ですね。 つづく「Where To Begin?」は、しっとり系のワルツ。  「Grab Hold & Hang On」はスケール感のあるバラードで、前半のハイライト。  ピアノをバックに歌いあげる様はなかなかの貫禄です。  軽快なピアノが前面に出たハッピーなナンバー「Kind Hearted Woman」につづく「Master Of Pantomime」は、スロウなワルツ。 アコーディオンがもう少し前面に主張してくれれば良かったのにと思うアレンジです。

 おだやかな空気感を漂わせる「Summer Rose」で B 面はスタート。 美しいメロディにくらべて、単調すぎるベースラインが面白くありません。 これは、自分で全部やろうとするマルチプレイヤーの悪いところですね。 アルバムの弱点がすぐに露呈してしまいます。  「Lost In The Crowd」も明るく伸びのある健康的なサウンド。 つづく「We’ll Get That Good Feelin’ Tonite」は、ゆったり系のワルツ。 これで 3 曲目ですね、こうしたワルツは。  ほぼギターのみのシンプルな「Someone I Know」は、インタリュード的な存在か。  シリアスな曲調の「Siren In The Night」につづいて、4 曲目のワルツ「Travelin’ Show」で、ややセンチメンタルにアルバムは幕を閉じます。

 こうして、アルバムを最後まで通して聴いてみての感想はただひとつです。 それは、このアルバムの最大の欠点が、Lorence Hud がすべての楽器の演奏にこだわったことだということです。 先にも書きましたが、ベースそしてドラムスの単調さは、数曲聴いただけでわかります。 ピアノはまあまあなのですが、ギターの音色もまろやかさに欠けますね。 このアルバムは、ふつうにセッション・ミュージシャンをバックに従えてレコーディングすれば全然ちがった表情をみせたのだろうと思います。 芸達者がゆえに陥った落とし穴。 もし、自分が Lorence Hud のような多才だったら、同じ過ちを犯したにちがいないと思うと、安易に彼のことを責めるのもどうかと思ってしまいます。
  しかし、その答えは彼のセカンド・アルバムにあるはずです。 このアルバムがどのような内容なのかによって、Lorence Hud の今作への自己評価がわかることでしょう。 聴いてみたくなりましたが、実はセカンドは持っていないのです。 このブログを書くまで、セカンドの存在すら知らなかったのですが、機会があったら買ってみようかと思っています。 すでに聴いている方がいらしたら、感想などをコメントください。

 

■Lorence Hud / Lorence Hud■

Side-1
Sign Of The Gypsy Queen
Where To Begin?
Grab Hold & Hang On
Kind Hearted Woman
Master Of Pantomime

Side-2
Summer Rose
Lost In The Crowd
We’ll Get That Good Feelin’ Tonite
Someone I Know
Siren In The Night
Travelin’ Show

All instruments & vocals by Lorence Hud

Instruments used:
Grand piano , Glockenspiel , Organ , Vibes , Mellotron , Tenor Saxophone , Clavinet , Guitar (acoustic & electric) , Bass , Drums , Harmonica

Written , arranged & produced by Lorence Hud

A&M Records SP 9004