Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Len Udow

2009-12-30 | SSW
■Len Udow / Through Curved Glass■

  今年最後に取り上げるアルバムは、長年探していてようやく入手することができた 2009 年収穫の 1 枚です。 カナダのシンガーソングライター Len Udow が 1976 年に発表した唯一のオリジナル・アルバムです。

  このアルバムには、畢竟の名盤 Ron Baumber の「China Doll」に参加していた Jon Goldsmith、Bob Desalle、Bruce Pennycock や Ben Mink といったセッション・ミュージシャンがクレジットされています。 しかも、レコーディング年度も同じことから、名盤の匂いがぷんぷん漂っていたのです。 いわばトロント人脈とも呼べる彼らが作り出した音楽が悪いはずはありません。

  アルバムの印象ですが、A 面は予想に近い優れた SSW サウンドが展開され、B 面はやや地味でこじんまりとまとまっているように感じました。 さっそく A 面から曲順に追っていきましょう。 まずは、「Tendency To Flow」から。 この曲はけだるい昼下がりのような雰囲気のミディアム。 Mark Rutherford のエレピがサウンドの色を付けており、まさにビター・スウィートの典型ともいえる楽曲に仕上がっています。 つづく「Come Over To My House」は意外にも Len Udow 自身によるピアノ弾き語りの曲。 同じカナダの Ian Tamblyn にも通じるバラードで、中盤で曲調が変化してくるところなど聴きどころの多い名曲です。 Len Udow のピアノ・テクニックにも驚かされます。 ちなみに、クレジットではギターとボーカルとなっているがこれは明らかにミスでしょう。 バスーンの深遠な響きに導かれて、「Beauty Raise The Tree」へと続きます。 この曲は東洋的な雰囲気も感じられ、音数が少なく空間を意識したアレンジは禅の世界に近いものを感じます。 そのなかをたゆたう Len Udow のボーカルはもの寂しげな印象です。 つづく「Let Me Fly」は唯一の非自作曲ですが、これも Ian Tanblyn 風のミディアムです。 Jon Goldsmith が参加しているのですが、ほとんど目立ちません。 むしろ、Bruce Pennycock の哀愁あふれるサックスが効果的に挿入されていました。

  B 面は 5 曲収録されていることもあり、個々の楽曲が短めになっています。 「River Run」は SSW 仲間である Chris Whitely と Dan Donahue のハーモニーが美しい素朴な楽曲。 トラディショナルかと思うほどのシンプルな仕上がりです。 つづく「Gypsies Came One Night」は Len Udow のボーカルが、Ben Mink のバイオリンと絡むバラード。 抑制されつつも、こぼれ落ちる情感が聴きどころ。 「Long Memories Ago」と「Christina’s Suite」はともに Len Udow のギター弾き語りの地味な小曲。  ギターの名手であり SSW でもある Michael Johnsonや Mark Henley に近いイメージです。 ラストの「Ease Her Down」久しぶりにバンド編成に戻り奥行きと広がりのあるサウンドが展開されています。 Len Udow はギターではなくピアノで演奏に加わり、エンディングに相応しい余韻を残る曲となっています。

  さて、今年もあと 1 日となりました。 一年を振り返って思うことは、今までリアルに感じたことがなかった「世界の終わり」がすぐそこにあるのではないかと思うようになったことです。 COP15 の紛糾をニュースで見たとか、映画「2012」の影響(そもそも見ていないし)とか、単に自分が年をとったということとは別に、当たり前のように成立していた様々な物事が、とても危ういと感じるのです。 これは芥川龍之介であれば「将来に対する漠然とした不安」なのでしょうが、こうした気分が日本中を蔓延しているような気がします。 そんな気分を払拭するには、ひとりひとりが希望あふれる未来のために、明日を担う子どもたちのために、困難を克服してゆくしかないのでしょう。 

  今年もこのブログを訪問してくださってありがとうございました。
  みなさん、良いお年をお過ごしください。

■Len Udow / Through Curved Glass■

Side 1
Tendency To Flow
Come Over To My House
Beauty Raise The Tree
Let Me Fly

Side 2
River Run
Gypsies Came One Night
Long Memories Ago
Christina’s Suite
Ease Her Down

Produced by Eugene Martynec
Sound and mix engineer : Jim Morgan
Recorded and mixed at Captain Audio Studios, Toronto, Canada
All songs written and composed by Len Udow
except ‘Let Me Fly’ (traditional) adapted and arranged by Len Udow and ‘Beauty Raise The Tree’ written by Stephen Gislason and Len Udow

Len Udow : guitar, vocal
Mark Rutherford : piano
Bob Desalle : drums
Ken Whitely : dobro, mandolin
Chris Whiteley : scho harmonica, vocal
Dennis Pendrith : bass
Pat Godfrey : piano
Jack McFadden : double bass
Harvey Saltzman : bassoon
Eugene Martynec : acoustic guitar, synthesizer
Jon Goldsmith : piano
Bruce Pennycock : saxophone
Dan Donahue : guitar , vocal
Ben Mink : violin, electric violin

Appellation Music CSPS 1055


Bob Stegner

2009-12-23 | SSW
■Bob Stegner / Sweet Song■

  枯れた草原に横たわる髭の濃い男。 白いシャツの下に濃い色のシャツを着ているのかと思いきや、それは首まで達しようかとする分厚い胸毛でした。 この胸毛に気づくのにはかなりの時間が必要でしたが、多くの日本人女子からは敬遠されそうな佇まいです。 
  辛口な紹介から入ってしまいましたが、Bob Stegner はコロラド州デンバーを拠点としたシンガーソングライター。 1980 年に発表した本作の前に、もう1枚のオリジナル・アルバムがあるようですが、こちらは未聴です。 では、本作はどうかというと、正直それほど優れたアルバムとは言えません。 個人的には、彼のボーカル・スタイルが暑苦しくて、重たすぎるのです。 声量もあり、男らしい声の持ち主なのですが、声が好きになれませんでした。 この点は好みの問題なのですが、それを排除しても名曲と言えるレベルの作品が集まっているわけではありません。

  例えば、オープニングを飾る「Silk And Satin」はスマッシュヒットしたというシールが貼られていますが、おそらくローカル・チャートでのヒットと思われます。  初めて聴くと柔和な SSW という予想を裏切るエモーショナルさに驚くことでしょう。 さらに、ブラスとエレピの熱い演奏がファンキーさを強めています。 異色な曲としては、B-1 の「Caribou And Coyotes」。 この曲は、スロウからアップまで忙しく変化する難易度の高い楽曲。 ジャズのテイストの入った複雑な構成で、アル・ジャロウくらいの歌唱力でないとモノにできないと感じました。 アルバムタイトル曲だけに期待の高まる「The Sweet Song」は残念ながら平凡なミディアム。 ドラマチックに仕立てているのですが、メロディーと歌唱に物足りなさを覚えます。 ただ、後半のギターソロとコーラスの絡みは悪くありません。

  このアルバムで1曲選ぶとしたら、A-4 の「I’m Coming Home」でしょう。 イントロは日本人好みのフュージョン風のギターから始まるのですが、グルーヴ感と爽快感を併せ持つ佳作に仕上がっています。 マニアックな曲を探しているクラブ DJ 向きかもしれません。 次に挙げるとしたらカントリー風味の「The Mountain Tune」です。 軽快なフィドルを含む明るいメロディーの曲ですが、アルバムラストに配置したのは正解だと感じました。 ほかにも、ゆったりした余裕のあるミディアム「Fireweed」はソウルフルなムードで中々の出来。 リリカルなピアノをバックにしたシンプルな「The Lady Wore Red」も印象に残ります。 

  そんな厳しい評価のアルバムですが、気になる点がひとつあります。 それは、バック・コーラスにクレジットされている Richard Marx の文字です。 個人的には興味の範疇外ですが、1990 年代初頭にヒット曲を連発したソロ・ミュージシャンのリチャード・マークスと同姓同名なのです。 これが、同一人物かどうか分かりませんが、もしそうだとしたら彼のコアファンにとってはこの「Sweet Song」は最初期のレコーディングとして貴重な作品になることでしょう。 そこまでのコアファンがいるかどうかは、僕には判りませんが。

■Bob Stegner / Sweet Song■

Side 1
Silk And Satin
Songwriter
Every Dayata Time
I’m Coming Home
The Sweet Song

Side 2
Caribou And Coyotes
Fireweed
The Lady Wore Red
The Owl Called My Name
The Mountain Tune

Producer : Reed Williams
Arranger : P.Douglas McLemore

Recorded at Venture Studios, a division of Rainbow Ventures, Denver, Colorado

Bob Stegner : lead vocals, rhythm guitar, background vocals
Richard Nanista : bass
Richard Markus : drums, congas, percussion
Richard Watson : drums
P.Douglas McLemore : piano, clavinet, rhythm guitar, ARP Omni.
Perry Sheafor : piano
Randy Barker : electric guitar
Jim Stevens : flute
Dugg Duggan : harmonica
Bob Symmonds : trumpet
Gerald Endsley : trumpet
John Daley : trombone
Lynne Glaeske : first violin
Debbie Redding : second violin
Diana Oldsen : viola
Gerorge Banks : cello
Chip Chase : fiddle
Jim Wright : electric stick
Mike Russo : pedal steel
Barb Reeves : background vocals
Phyllis Murra : background vocals
Richard Marx : background vocals
Carolyn Stegner: background vocals

Venture Records LPV 0101


David Breece

2009-12-13 | SSW
■David Breece / Halfway Back To Eden■

  メルヘンチックなイラストと決意を固めた表情との対比が印象的なジャケットに包まれたアルバムを取り上げてみました。 その主人公はオクラホマ州を拠点とする David Breece という無名のシンガーソングライター。 彼の詳しい経歴は不明ですが、1979 年に発表されたこのアルバムは、独特の甘みが印象に残るドリーミーな作品です。
  作品のベースは David Breece 自身が弾くアコースティック・ギターとボーカルにあるのですが、ほぼ全曲に渡ってスタジオ専属のストリングスが奥行きを与えるように薄く挿入されています。 それはプロデューサーでもありアレンジも行うJim Rhodes という人物の影響と思われますが、アルバムのサウンドコンセプトの確立に大きく貢献していると思います。

  楽曲のタイトルからは、どことなく少女趣味的な傾向を感じますが、それは考えすぎかもしれません。 どの楽曲もミディアムで似たテンポ感なので、単調に陥りがちですが、このアルバムはメロディーの良さがレベルを超えているうえに、アルバム通して30分くらしかないので、退屈に感じることはありません。 艶のあるギターのアルペジオで「Ivy」がスタートします。 サビの部分からベースとストリングスが差し込んできて、親しみやすいサビのメロディーと絡み合うあたりが印象的な名曲です。 この 1 曲でアルバムへの期待と充足を感じることが出来ます。 つづく「Angelical Girls」はさらにドリーミーな楽曲。 疾走感のあるストリングスが耳に残ります。 草原を駆け抜けるかのようなフォークロック「Halfway Back To Eden」を挟んで、マリンバの響きに導かれた「Where Happiness Waits」へ。 可愛らしいタイトルですが、この曲とつづく「Windlake Lady」は波の音で結びついています。 「Windlake Lady」はギターとストリングス、そしてリコーダーによるシンプルな編成ですが、ボーカルが裏声になるサビの部分が素晴らしい仕上がりです。

  B 面は 4 曲で 13 分くらいしかありません。 「City Girl」はシングルカットできそうな楽曲ですが、このアルバムでは最も古く1974 年に作曲されたものでした。 David Breece がこのアルバムを制作するまでかなり苦労してきたことが伺えます。 つづく「The Farmer’s Daughter」もストリングスの響きが感動的、「Rosey Bell」はややカントリーに近い作風ですが、ハーモニカとストリングスがいい具合の郷愁を描き出しています。 ラストの「Phantom Revelation」は他の楽曲にはない翳りを感じる曲。 この曲だけミックスが違うことも影響しているかもしれません。

  このブログを書くにあたり、アルバムを 2 回連続で聴きましたが、聴くたびに好感度が増してくる作品でした。 それは、一度聴いたら忘れられないようなメロディーやアレンジが随所に散りばめられているからです。 広大なアメリカには、こうしたポップセンスをもった SSW が至る所にいるのかもしれません。 そのなかにはレコードを残すことすら出来なかった人もいるでしょう。 幸い、David Breece はマイナープレスながらも、彼の足跡を残すことができました。 しかしながら、これが彼の唯一の作品となってしまった可能性が高いようです。

■David Breece / Halfway Back To Eden■

Side 1
Ivy
Angelical Girls
Halfway Back To Eden
Where Happiness Waits
Windlake Lady

Side 2
City Girl
The Farmer’s Daughter
Rosey Bell
Phantom Revelation

Co-produced by Jim Rhodes & Tom Claiborne
Orchestrations by Jim Rhodes
Recorded at Tulsa Studios, Tulsa, Oklahoma
All words and music by David Breece

Don Shipps : bass
Lloyd Hicks : drums
David Breece, Don Juntenun : guitars
Dee Angel : oboe
The Tulsa Studio Strings : strings
David Dixon : alto and tenor recorders
Tom Clainorne : marimba

Hi Spot Records TRS 79-331

Scott Jones

2009-12-09 | SSW
■Scott Jones / Roads■

  今年も、「雪のないままスキー場開き」というニュースを見かけました。 気象庁の長期予想もここ数年はずっと暖冬予想。 平年並みとか寒い冬という予想を今後は見ることは無いのではないかとさえ思ってしまいます。 寒くならないと国内消費も伸び悩んで、このままでは永遠に不況が続いていくかのように思えます。

  そこで、取り出したのが冬の佇まいあふれるレコード。 Scott Jones が 1978年にミネソタの Sound 80 でレコーディングしたアルバムです。 Scott Jones は地元の Flight Records から数枚の作品をリリースしていますが、この「Roads」がデビュー作。 デビュー作品ながらも、自らが演奏するギターやピアノのインスト曲を上手に配置するなど、余裕を感じさせる質の高いアルバムに仕上がっています。

  その傑作を曲順に振り返ってみましょう。 まずは A 面から。 オープニングの「Getting’ Back Into The Land」はサビから入るオーソドックスな曲調ですが、Scott Jones のボーカルや雰囲気を最初に感じ取るには丁度いい曲になっています。 つづく、「Sometimes You’ve Got To Get Away」が変化球が飛んできます。 この曲はアコースティック・ベースとピアノが洒落たナンバーで初期の Tom Waits に通じるジャジーなサウンドです。 タイトル曲の「Roads」はバックアップ・ボーカルが素敵なノスタルジックなワルツ。 ここまでは何の問題もない流れですが、次の曲が唯一残念な楽曲となっています。 その「We Are Little Folk」はいきなりシンセの音にあっけにとられます。 80 年代に流行るフェアライト系の音色なのですが、このアルバムには不要なものです。 曲調もアルバムの流れを阻害する感じでこれは CD だったら確実にスキップです。 もし CD 化したら外してもらってもいいくらいです。 気を持ち直して、「Chattanooga To Lynchburg Trail」へ。 この曲はアコギとセロだけのシンプルな弾き語り。 枯れた味わいです。 つづく「Gate To The Valley」アコギのインスト。 Scott Jones が技巧派のギタリストだったという側面を垣間見ることが出来ます。

  B 面に移りましょう。 まずは「A Minstrel Comes To Town」から。 この曲はギターとハーモニカだけで静かに始まり、次第に楽器が増え音数も増していく楽曲。 その工夫とアレンジはなかなかの出来です。 つづく「Dressed In Candlelight」も典型的な Scott Jones 節ともいえる王道のSSW作品です。 そして異色な楽曲「The Virgin : Virgo」が始まります。 この曲はピアノのリリカルな響きがバッハの平均律クラヴィーア集を聴いているみたいな気分にさせるインストです。 何より驚くのが Scott Jones のピアノのテクニックです。 ピアノ弾きの SSW としては Randy Edelman に匹敵する腕ではないでしょうか。 この曲には完全に参りました。 アルトサックスがモダンな音色で差し込んでくると、アダルトな「Let Me Love You」が始まります。 アルバムの中で最も AOR に近く、夜を感じさせる曲です。 ラストの「Thank You」では流麗なピアノの弾き語りでカッコよく決めています。

  このようにアルバムはヴァラエティに富んだ楽曲と、メリハリの利いた構成もあって傑作と呼ぶのに相応しいものだと思います。 ジャケットの冬景色も素晴らしく、この季節にピッタリな作品でしょう。 唯一の減点曲が無ければ、ほぼ完璧な出来だっただけに、そこが残念でなりません。

■Scott Jones / Roads■

Side 1
Getting’ Back Into The Land
Sometimes You’ve Got To Get Away
Roads
We Are Little Folk
Chattanooga To Lynchburg Trail
Gate To The Valley

Side 2
A Minstrel Comes To Town
Dressed In Candlelight
The Virgin : Virgo
Let Me Love You
Thank You

All Songs composed and arranged by Scott Jones
Produced by Steve Greenberg, Reid Mclean and Marsh Edelstein
Recorded, mixed and mastered at Sound 80 Minneapolis, Minn.

Scott Jones : 6+12 string guitar, grand piano, organ, synthesizers, gong, lead and back up vocals
Steve Grrenberg : drums, percussion
Reid Mclean : organ, synthesizer
Paul Martinson : engineer
Jay Young : electric bass
Chris Brown : acoustic bass
Bobby Rivkin : drums
Tim Pleasant : drums
Mervill Piepkorn :harmonica , vocals
Greg Temple : pedal steel, vocals
Roz Madsen : vocals
Paulette Carlson : vocals
Eddie Barger : clarinet
Mike Frazier : alto sax
Cornie Evanik : cello
Roger Dumas : computer programmer

Flight Records FR1705