Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Peter Ritchie

2009-02-27 | SSW
■Peter Ritchie / Alice’s Restaurant Massacree (complete)■

  「アリスのレストラン」といえば、1967 年に発表された Arlo Guthrie のデビュー・アルバムにして最大のヒット曲。 「俺たちに明日はない」のアーサー・ペン監督によって 1969 年に映画化もされ、Arlo Guthrie は音楽のみならず出演もしています。 映画を見たことはありませんが、いわゆるアメリカン・ニュー・シネマ的な作品との評がネットには多く見受けられました。
  そんな時代を代表する有名曲を同時代に堂々とカバーし、アルバムタイトルにまでしてしまったのが Peter Ritchie の「アリスのレストラン」です。 その大胆なやり方には、当の Arlo Guthrie はどのように感じたのでしょうか。 括弧して Complete とまで書かれては、オリジナルの作者として不快な気持ちを持ったのでは…と考えてしまいます。
  しかし、そんなことは関係なく、Peter Ritchie の「アリスのレストラン(完全版)」は少量ではありますが、世に出回ったのです。 発売されたのは、おそらく 1969 年のこと。 ジャケットにはアルバムに関する記載は全く無く、歌詞カードも存在しない不親切さのせいで、アルバムが生み出された背景や関連する人脈をたどることができません。 

  Arlo Guthrie の父は言うまでもなく、偉大なフォークシンガーでありプロテストソングの父でもある Woody Guthrie ですが、この Peter Ritchie の母は、女性フォークシンガーの始祖にしてダルシマーの名手である Jean Ritchie だという説があります。 Jean Ritchie は 1922 年生まれですので、20 代で Peter を産んでいたとしたら、1969 年にはすっかり大人になっていてもおかしくありません。 もしそうだとして、Arlo Guthrie と Peter Ritchie に二世シンガーという共通点があったのであれば、もうひとつの「アリスのレストラン」が生み出された理由が少し判ったような気になるのです。
  
  では肝心の音源はどうかというと、Peter の「Alice’s Restaurant Massacree」は、ほぼ原曲に忠実なカバーに聴こえます。 歌詞も変えていないと思いますが、歌詞カードはないし、僕のヒアリングは適当なので確信は持てません。 いすれにしても、大胆なアレンジが施されたとか、大きく創意工夫を加えたという形跡は無いので、敢えて Peter のバージョンを聴く意味合いは薄いと言えるでしょう。 ですから、オリジナル 5 曲が収録された B 面にこのアルバムの価値が集約されているのです。

  「A Picture Of Life’s Other Side」はポエトリー・リーディング形式をとりながらも、サビの部分で温もりのある女性ハーモニー(もしかして Jean Ritchie?)が加わり、湯たんぽを抱いているような気分にさせられる名曲。 「You’re Gonna Quit Me Baby」は、もっとスロウで怠惰な気分のフォーク。 つづく「I Want To See My Father」はファミリー・コーラスという趣のアカペラ。 アナログ盤ならではの素朴さが伝わってきます。 「Guitar Thing」は 2 本のギターによる美しいインスト。 ラストの「The Plywood Guitar」もほんわかしたサウンドで、田舎で別荘暮らししているかのような気分になりました。

  このレコードが発売されたのは 1957 年に生まれた Pickwick 傘下の Design Records です。 同レーベルは、Ray Charles や Sammy davis Jr. の作品をてがけるなど、一時は隆盛を極めたレーベルのようですが、1970 年には経営難で閉鎖してしまいます。 先に述べたような不親切な作りは、レーベル晩年の経費節減のせいだったのかもしれません。



■Peter Ritchie / Alice’s Restaurant Massacree (complete)■

Side-1
Alice’s Restaurant Massacree

Side-2
A Picture Of Life’s Other Side
You’re Gonna Quit Me Baby
I Want To See My Father
Guitar Thing
The Plywood Guitar

Design Records SDLP-314

Jerry Sinclair

2009-02-22 | Christian Music
■Jerry Sinclair / It’s Just The Mercy Of God■

  一度見たら忘れることのできないアルバムです。  僕も長年、クリスチャン・ミュージックのレコードに多く接してきていますが、このジャケットを超えるインパクトを持つ作品には未だに出会っていません。 このジャケットが故に、このアルバムでもアメリカでもカルト的な扱いをされているようですが、内容はいたってマイルドで予定調和なサウンドで占められており、典型的な CCM として語ることのできる作品です。 時代的にも、サイケ感やアシッドなテイストを想像してしまいがちですが、そういった指向性は全くありません。 

  アルバムがリリースされたのは 1974 年、オクラホマ・シティのマイナーレーベル CAM の作品です。 時代的には、まだ洗練されておらず、まったりとした MOR 感が全体を包んでいるのですが、厚めのコーラスと、全編に漂うストリングスがアルバムを美しくコーティングしているような印象です。 この手のサウンドの魅力を上手く伝えることは難しいのですが、参加ミュージシャンのなかに、唯一見覚えのある名前がありました。 
  その人物は、Hadley Hockensmith です。 彼は AOR 的な CCM アルバムのなかでも名盤の誉れ高い Bruce Hibbard の「Never Turnin’ Back」に参加し、ギターやプロデュースで大活躍しているのことで知られているミュージシャン。 その Hadley Hockensmith の参加したレコードとしては最も古い部類に入ると思われるのが、このアルバムなのです。 ‘Hawk’ というミドルネーム付のクレジットもここでしか見たことがありません。
  そういえば、Bruce Hibbard もオクラホマ出身。 彼のデビュー作「A Light Within」は 1976 年の作品ですので、このレコードよりも 2 年遅れでのリリースです。 Bruce Hibbard と Jerry Sinclair をつなぐのはオクラホマの CCM 人脈ですが、この 2 人がどこかですれ違っていた可能性は少なくないのではと思っています。

  前置きが長くなりましたが、アルバムを簡単に紹介しておきましょう。 冒頭の「He Is The Truth Of Life」は、仰々しすぎるくらいのバラードですが、嫌味のないアレンジに好感。 つづく「I’m Gonna Rise」も同様の歌い上げ系。 しっとりしたバラード「Jesus Lifegiver」、女性コーラスが桃源郷のような気分にさせる「Here’s The Same」と続き、ハイライトの「It’s Just The Mercy Of God」へ。 この曲はゴスペル的なコーラスとJerry の熱唱が重なり、全ての人の心に染み入るであろう感動的な楽曲です。 
  B 面は、メロウで落ち着きのあるバラード「Just Now」、ソフトロック的な陽気さが漂う「You Can Count Your Nickels, Girl」、ホームパーティで歌うような「Happy Birthday (Jesus)」と元気のいい曲が並びます。 「Stompin (In The Name Of The Lord)」は平凡なミディアムですが、ラストの「The Cross Is The Bridge」は、Jerry Sinclair が歌い上げるスロウ・バラードで、ホーンセクションが唯一入った曲。 ラストに拍手が収録されており、この曲だけが 1973 年のライブ録音に、ボーカルを録り直したものでした。 
  こうして楽曲について簡単に触れて見ましたが、どことなく野暮ったい雰囲気は拭えないものの、メロディの美しさやボーカルの魅力など楽曲の持つ本質的なクオリティはかなり高いものがあると言えるでしょう。 

  このアルバムは、Norm MaGary なる人物が描いたこのジャケットの影響もあって、正当な評価がされないまま埋もれてしまいました。 クレジットには、「Front cover drawn from personal experience」とありますが、いったい彼はどんな経験をしたのでしょうか。 そして、何故 Jerry Sinclair は自らの大事な作品にこの絵を選んだのでしょうか… 
  残念なことに、Jerry Sinclair は、1993 年 1 月にロスで亡くなっており、この疑問が解明されることは永遠になさそうです。



■Jerry Sinclair / It’s Just The Mercy Of God■

Side-1
He Is The Truth Of Life
I’m Gonna Rise
Jesus Lifegiver
Here’s The Same
It’s Just The Mercy Of God

Side-2
Just Now
You Can Count Your Nickels, Girl
Happy Birthday (Jesus)
Stompin (In The Name Of The Lord)
The Cross Is The Bridge

All materials on this album produced, written, arranged, and sung by Jerry Sinclair
Recorded at CAM studios, Oklahoma city, Oklahoma

Jerry Sinclair : piano, chimes, strings, lead vocals
Jonathan David : piano
Harlan Rogers : organ
Hadley ‘Hawk’ Hockensmith : bass, guitar
Mike Scone : bass
Mike Raymond : drums
Keith Edwards : drums
Jerry Hall : steel guitar
Vic Cappetta : flute, conga, cowbell
Billy Walker : guitar
Kenny Walker : guitar
Bobby Williams : guitar
Bruce Glover : horns, strings
Joe Wright : strings

Group One Background Vocals : Darrell Coppedge, DeLaine Wilson, Bill Myers, Renee Pitt, Tracy Dartt, Mike Cates, Kathy Newman, Diane Sulliva, Russel Hall

Group Two Background Vocals : Rhenda Edwards, Bob and Ruthie Renflow, Mark Knox, Jerry Sinclair

CAM Records 1428

Mike Beddoes

2009-02-18 | SSW
■Mike Beddoes / Souvenir Of B.C.■

  今年は暖冬傾向が続いており、先週末は全国各地で 20 度を超え、場所によっては夏日になるなど異常な天候でした。 週末に出かけていたゲレンデは前夜の雨のせいもあって、シャーベット状態。 せっかくの雪遊びの面白さも半減といった気分でした。 ところが、今日になって急に真冬の寒さに逆戻り。 ゲレンデは新雪で最高の状態に戻ったようです。 

  悔しさ紛れで取り出したレコードは、来年の冬季オリンピックが開催されるバンクーバーから生み出された自主制作盤です。 「ブリティッシュ・コロンビア州のおみやげ」という微妙なタイトルからして、名盤の予感はまったくしないこのアルバムは、Mike Beddoes and his Orchestra という名義で 1980 年に発表されました。 His Orchestra と名乗っていますが、それは彼のジョークであって、このアルバムは Mike Beddoes が全ての楽器を 1 人で演奏し、多重録音で制作されているのです。 リードボーカルだけが、曲によって交代しており、Mike Beddoes以外に男性 3 人、女性 1 人が参加しています。

  最近では、サウンドプロデューサーが曲によってボーカルを選ぶというスタイルは珍しくありませんが、1980 年という時代とミュージシャンの無名度を考えると、なかなか画期的な手法だと思います。 しかしながら、肝心の楽曲のクオリティーがいまひとつで、演奏も粗さが目立つことから、残念ながらコンセプト倒れといった印象です。 デジタルの時代には考えられない多重録音の精度の低さ、演奏(とくにドラムス)のヘタさが随所に表れてしまい、C 級作品として違う角度からマニアックに楽しむほうが、正しい聴き方かもしれないと思ってしまうほどです。 さきほど、冒頭の「Shanghai」を聴きながら、世界金融危機を打開するために開催された G7 の後の記者会見で酩酊状態だった中川財務相を思い出してしまいました。 Mike Beddoes には大変申し訳ないですが、「Shanghai」の微妙なズレは、容認できる範囲を超えているように思います。

  しかし、微妙に違和感を感じながらも、手作りの味わいにはそれなりの魅力があるものです。 とくに Gary Cramer が作曲し、リードもつとめる「Dead And Wild」は、かなりの傑作。 アルバムを代表する 1 曲ですが、どことなく Warren Zevon の後期のサウンドに近いものを感じます。  他には、Mike Beddoes のボーカルが聴ける唯一の曲「Angel On Horseback」や、文字通りのレゲエナンバー「Pinochet Reggae」などが聴き応えのある出来となっています。 

  ネットで調べたところ、Mike Beddoes のキャリアは 1968 年に結成した Mike Beddoes Blues Band でスタートしたようです。 1992 年には、The Ventures や The Shadows 直系のインスト・ロックバンド「The Falcons」を結成し、シングル・アルバム、カセット合計で 10 タイトルくらいの作品を発表しています。 驚いたのは、ショウケースで日本にも来たことがあるとのこと。 誰が何のために招聘したのかは全く見当がつきません。 The Falcons のサイトを見ても、この「Souvenir Of B.C.」については触れられていませんでした。 自分の作品を敢えて紹介しないということは、しばしば見られることですが、Mike Beddoes にとってこのアルバムは、封印したい存在なのでしょうか...



■Mike Beddoes / Souvenir Of B.C.■

Side-1
Shanghai (lead vocal : Cyndi Mellon)
Dead And Wild (lead vocal : Gary Cramer)
Saskatoon (lead vocal : Carl Trinkwon)
Angel On Horseback (lead vocal : Mike Beddoes)

Side-2
Smoking Mirror (lead vocal : Bing Jensen)
Back From Babylon (lead vocal :Carl Trinkwon)
Snail On The Run (lead vocal :Gary Cramer)
Pinochet Reggae (lead vocal : Cyndi Mellon)

All Songs Arranged by Mike Beddoes
Recorded and Mixed in July and August 1980 at Ocean Sound Studios, Vancouver, B.C.

Guitar, 6 String bass and drums played by Mike Beddoes.
There is only one guitar part and one bass part , the 6 string bass is played in a two-part style.
Back up vocals by C. (blind melon) Mellon and Mike Beddoes.

Red Queen Music RQ-1002

Dust And Ashes

2009-02-11 | Christian Music
■Dust And Ashes / A Different Kind Of Blue■

  Dust And Ashes はJim Moore、Tom Page、Jim Sloan の 3 人によるクリスチャン・ミュージック・グループ。 3 人それぞれが曲を書け、リードボーカルも務めるので、メンバーのソロ活動が前後に行われていた可能性があります。 しかし、このアルバムは特別なフロントマンがいたわけではなく、むしろ 3 人の声の区別がほとんど分からないので、3 人編成のアルバムということを忘れてしまいがちです。 唯一「When You’ve Been Away For a Long Time」だけは、ボーカルが交代して 3 人がリードを取るので、微妙に声が違うことは確認できました。 

  冒頭にも書きましたが、彼らは CCM に分類されますが、サウンドはカントリー・フォークといったところでしょう。 土埃や汗の匂いはしないのですが、中西部のテイストの漂う B 級サウンドといった趣きです。 特にテンポの速めの曲のほとんどは、取るに足らない出来で、スキップしたくなります。 しかし、ミディアムやスロウのなかに、3 人の音楽的な素養がにじむ場面もあり、そうした曲をつまみ食いして楽しむのが、このアルバムとの接し方です。 つまみ食いの対象となるのは「Do You Know My Name」、「Who Were The Children」、「The Beggar」そして「Song For A Carpenter」あたりでしょう。

  とくに、アルバム冒頭の「Do You Know My Name」はTom Pageによる慈愛に満ちたメロディーが美しい佳作。 この調子でアルバムが続くことを期待してしまうと残念な結果になるので、要注意です。 「Who Were The Children」は Jim Sloan による典型的な CCM バラード。 予定調和の世界です。 「The Beggar」と「Song For A Carpenter」はやや地味ですが、ブラザース・フォアのような 3 人のコーラスが聴きどころとなっています。

  全体的にたいした内容ではないこのアルバムですが、なかなか手放せない理由があるのです。 それは、このレコードが 1960 年代後半から 1970 年代にかけて存在したマイナーレーベル Avant Garde Records の作品だからです。 このレーベルは、個性的なフォークやサイケなサウンドで知られているニューヨークのレーベルで、トータルで 50 枚くらいの作品を残して消滅しています。 Avant Garde Records のディスコグラフィーを整理したサイトによると、「A Different Kind Of Blue」は 1972 年の作品でした。 しかも同じ 1972 年に「The Lives We Share」というアルバムが存在していることを知りました。 しかも、このアルバムは Avant Garde Records が発表した最後の作品でもあったのです。 あまり縁起のいい話ではありませんが、Dust And Ashes にとってもラストアルバムだったに違いないでしょう。

  ちなみに、そんな検索を続けているうちに、彼らには 1970 年に「From Both Sides」というファースト・アルバムがあることも発見。 あまり興味もなく、探そうという意欲の持てないクリスチャン・グループですが、彼らが世に残したアルバム 3 枚の全貌が見えてしまいました。 でも探さないぞ。



■Dust And Ashes / A Different Kind Of Blue■

Side-1
Do You Know My Name
Those Who Need A Friend
Travelin’ Down A Dirt Road
18th Hour Of Dyin’
Who Were The Children

Side-2
Charleston
When You’ve Been Away For a Long Time
Don’t You Know The Face
The Beggar
The Beatitudes
Song For A Carpenter

Produced by Clay Pitts

Acoustic guitar : Jim Moore, Tom Page, Jim Sloan (Dust and Ashes)
Bass guitar : John Darnall
Drums : Kenny Malone
Pedal Steel : Weldon Myrick
Dobro, electric guitar, harmonica, viola and drums : John Darnall
Piano : Clay Pitts

Recorded at Woodland Sound Studios, Nashville, Tenn. And Arlue Studios, Jackson, Tenn.
Mixed at Record Plant, New York City

Avant Garde Records AVS 134

Kay Gardner

2009-02-08 | SSW
■Kay Gardner / Moon Circles■

  フルート奏者の Kay Gardner が 1975 年に発表したファースト・アルバム。 ジャンル的にはひと昔前にはニューエイジ・ミュージック、最近ではヒーリング系と呼ばれる部類に近いものを感じます。 フルートと弦楽器による室内楽的なインストがメインとなっているのですが、Kay Gardner のボーカル入りの曲が 3 曲収録されていることから、一部ではアシッド・フォークとして語られることもあるようです。 しかし、そのボーカルもバイオリンやピアノといった楽器と同等に位置付けられており、歌唱そのものから感動が伝わってくるタイプの音楽ではありません。 そういった意味では、彼女の音楽はポピュラーミュージックの最も端っこにあるような存在と言えるでしょう。

  Kay Gardner の詳しいキャリアは分かりませんが、マネージメントが Wise Women Enterprises という名称であり、ディストリビューションが Olivia Records ということから、1970 年の女性解放主義運動の影響下にある可能性があります。 あるいは、参加ミュージシャンの名前が全員女性の名前なので、レズビアン・ミュージシャンなのかもしれません。

  では、アルバムのボーカル曲について軽く触れておきましょう。 ますは「Changing」から。 この曲は Linda Perhacs のような幻想的な浮遊感が際立つ曲です。 弦楽四重奏をバックにしたサウンドは気品のあふれる仕上がりですが、終始ただよう暗さが魅力となっています。 つづく「Beautiful Friend」も同傾向の曲。 翳りのあるメロディーに感情を抑制したボーカルがかぶせられ、憂鬱になってくるような楽曲です。 A 面ラストの「Wise Woman」はアップテンポでトラディショナルのような曲調。 途中で緩急を聴かせながらリピートの多いメロディーを引っ張るのですが、前述の 2 曲に比べると単調で平凡な出来と言わざるを得ません。 ボーカル曲はこの 3 曲なのですが、すべて A 面に収録されています。
  インストの曲も個性的な調べなのですが、特に印象に残るのは Meg Christian がギターで参加した「Touching Souls」と、ラストを飾る 9 分の大作「Lunamuse」です。 とくに後者は曇りがちな空気を最後に和らげてくれる癒しのエッセンスが含まれています。

  暖冬とはいえ 2 月の初旬は 1 年で最も寒い時期。 部屋の空気が少しでも暖かく感じられるような音楽を聴きたいところですが、このアルバムはむしろ背中から徐々に冷気が忍び寄ってくるような音楽です。 それは個々の楽器の音色のせいではなく、Kay Gardner や参加ミュージシャンのメンタリティに起因するものではないでしょうか。 リラックスとか笑い声とか、そうした雰囲気でレコーディングしたとはとても思えないのです。 それは、冒頭にも述べたような独特の女性中心主義に影響されたものでしょう。 

  Kay Gardner のアルバムは 1978 年の「Emerging」を持っていますが、こちらは完全にボーカルは排除されています。 サウンドも前衛さを増し、インプロビゼーションが入るなどさらに深化しています。 彼女は他界する 2 年前の 2000 年まで、10 枚ものアルバムを発表していますが、もしかすると彼女のボーカルが入っているのは、この「Moon Circles」だけなのかもしれません。



■Kay Gardner / Moon Circles■

Side-1
Prayer To Aphrodite
Changing
Beautiful Friend
Moon Flow
Wise Woman

Side-2
Inner Mood Ⅰ
Touching Souls
Inner Mood Ⅱ
Lunamuse

Produced by Kay Gardner and Marilyn Ries for Wise Woman Enterprises, Inc.
All songs, arrangements and compositions on this recording are by Kay Gardner
Urana records , a division of Wise Woman Enterprises, Inc.

Kay Gardner : alto flute, vocals, autoharp, guitar, flute, ginger cymbals
Dora Short : violins
Olga Gussow : violins
Nancy Uscher : viola
Martha Siegel : cello
Althea Waltes : piano
Bethel Jackson : hand drums, cymbals
Meg Christian : guitar
Jenny Smith : queen cow bells
Angie Walls : altar bells

Urana Records ST/WWE/80

My Morning Jacket

2009-02-05 | Live Report
■Shibuya Duo Music Exchange / My Morning Jacket■

  「宇宙最高のライブバンド」と評されるバンド、My Morning Jacket のライブに行ってきました。 彼らのライブはアメリカではスタジアム級のホールで行われるとのことで、Duo のような小規模なホールでライブをすることは奇跡的な出来事のようです。 それだけにアメリカ人のお客さんが多く見受けられました。

  My Morning Jacket は、「ルーツバンド」とか「ジャムバンド」とカテゴライズされることが多いですが、もはや現代アメリカのメインストリームのバンドと言っても異論はないでしょう。 Neil Young のオープニングアクトでオーストラリアをツアーするなど、ベテランミュージシャンからも一目を置かれる存在となっています。 (しかし、My Morning Jacket の後に Neil Young を見て、5 時間のライブとなったら体のほうがキツイですね...)

  そんなライブは想像通りの内容で、まさに圧巻でした。 最新アルバム「Evil Urges」の曲はほとんど演奏したと思いますが、穏やかな曲と爆音の曲が折り重なるように演奏され、メンバーが一体となって高みに登りつめていくサマは、凄まじいのひと言です。 
  ギターとボーカルの Jim James はマイクスタンドの位置を高めに設定し、顔をやや上向きにしながら歌うのですが、彼のボーカルの表現力はバンドの魅力のひとつ。 ファルセットから低音、シャウトまで変幻自在でした。 また、ツボを押さえたギターは曲によって何度も取り替えて大忙し。 ギターを弾かないときには、黒くて大きなタオルを頭から被ってマイクを握るなど、フロントマンとしてのパフォーマンスは場数を踏んでいることの証でしょう。
  また、ライブにおいてメンバーのボルテージをぐいぐい上げてるのは、ドラムスの Patrick Hallahan です。 終始、大きく口を開けて苦悶するキリストのような形相でドラムスを叩く姿は印象的でした。

  ちなみに、アメリカでは彼らのようなバンドは、観客が録音することを認めることがあるのですが、今回もそうだったようです。 DAT や MD を持ち込んで録音しているファンが柱の周辺に集まっていました。 また、撮影もフラッシュを使用しなければ可能だったようで、iPHONE でステージを写す人も目立ちました。 携帯ではなく、iPHONE ばかりが目立ったのも、My Morning Jacket のファン層の特徴でしょう。

  アンコール含めて 2時間 30 分くらいのライブでしたが、久しぶりに時間の経つのを忘れてしまいそうでした。 しかし、ずっと立ちっぱなしだったので、徐々に腰が痛み始めてしまい、最後の方には自分が 100% 集中できなくなってしまいました。 足腰をもっと鍛えないといけませんね。

 こちらの姉妹ブログも参照ください⇒My Morning Jacket

■Shibuya Duo Music Exchange / My Morning Jacket■

2009年2月4日
渋谷 Duo Music Exchange

19:10頃開演 21:40頃閉演