Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Gene Corbin

2011-06-19 | SSW
■Gene Corbin / Caribbean Moon Over Pittsburgh■

  ペンシルベニア州ピッツバーグ産のほぼ自主制作盤と思われる Gene Corbin のアルバムです。 タイトルからは、Nick DeCaro で有名な「Under The Jamaican Moon」を思い出しますが、多少は意識したのかもしれません。 アフロヘアでギターを抱える Gene Corbin の姿を見ると、彼が抱いていたカリブ海へのイメージは夢とか妄想に近いものだったような気がします。 レゲエのリズムを取り入れたとか、カリビアン特有の楽器が使われているという形跡はありません。 むしろ、Gene Corbin はアコースティック・ギターを軸としたオーソドックスな SSW だと思います。 ニューイングランドの独特の森の香りや冷たい空気感がまったくないのは、彼の南国指向の現れですし、それをタイトルとして伝えたかったのでしょう。

  アルバム全体はミディアムなテンポに支配され、Gene Corbin の低音ボイスがマイルドに楽曲を包み込んでいます。 SSW の声としてはかなり低いものなので、苦手な人も少なからずいるかもしれません。 弾き語りの声ではなく、むしろソウル系の声だと思います。 ただ、それを彼が自己分析して起用しているのか時おり挿入されるソプラノ・サックスの音色が好対照となっており、効果的に使われています。 そのクールな音色と鋭角な存在感は、実はこのアルバムの大きな魅力となっています。

  その影の主人公は David Kreimer という人物です。 A 面では「Hurry Home Babe」と「Please Stay」で、B 面では「New England Song」で見事なソロを決めています。 クレジットを良く見たら彼は「New England Song」では Gene Corbin を追いやってリードボーカルまで務めていました。 プロデューサーとエンジニアにも彼の名前があるので、このアルバムの主導権は David Kreimer のほうに分があったのではないかとすら思ってしまいます。 

  Gene Corbin のトロピカルな嗜好が表れた楽曲としては、「Caribbean Moon」や「Hole In My Pocket」などがあり、ジャズっぽい雰囲気が強く出た「Backpackin’ Blues」も彼の持ち味がうまく出ていました。 深みのあるバラードとしては、「Point Of View」や「Wanderer’s Waltz」などもあげられるでしょう。

  このアルバムが発表されたのは 1978 年ですが、この作品を同時代のクオリティの高い SSW や AOR 作品と比べてしまうのは酷かもしれません。 ギターの音色やアレンジ、曲の水準もそれほど悪いものではないのですが、どことなく野暮ったい雰囲気が全体を覆っているのが気になります。 それを唯一、突き破るのが前述のソプラノ・サックスだったというわけです。 Gene Corbin の唯一と思われるこのアルバムは、その後の消息不明を必然と思わせるような微妙な完成度とともに、徐々に人々の記憶から消えていくことでしょう。

■Gene Corbin / Caribbean Moon Over Pittsburgh■

Side-1
Caribbean Moon
Hurry Home Babe
Tiffany Jean
Human Bean
Please Stay
Linin’ Track

Side-2
New England Song
Hole In My Pocket
Country Dream
Backpackin’ Blues
Point Of View
Disillusiooned Gypsy
Wanderer’s Waltz

Produced by David Kreimer and Gene Corbin
Engineers : Jerry Reed, Davie Kreimer, God, Bill Thompson
Recorded, mixed and mastered at Jeree Recording Studio, New Brighton, PA

Gene Corbin : acoustic guitar, lead vocals(except track 7), hand and mouth
David Adomites : bass on tracks 10,12, vocals
David Kreimer : soprano and alto saxophone, vocals, lead vocals on track 7
Mike Evert : bass on track 1,2,4,5,7,8,9,11
Howard Bennett : drums and percussion
George Jones : congas
Carol Chew : flue on track 5
Matt Blistan : trumpet on track 11

Jeree Records 811077X-174

Rumer

2011-06-03 | Live Report
■Shibuya O-east / Rumer■

  久しぶりのライブレポートです。 この間に、まったくライブに行かなかったという訳ではありませんが、ここで紹介するに値するライブになかなか出合えませんでした。 しかし、今年になって姉妹ブログ「Till The Sun Turns Black」で絶賛したイギリスのシンガーソングライター Rumer が一夜限りのプレミアム・ライブを行うということで、渋谷の O-east まで出かけてきました。

  まず驚いたのは、Rumer 本人の姿です。 ジャケットでは華麗でソフトロックっぽさを感じさせるソフトフォーカスな写真でしたが、いざ登場となるとかなりの迫力ボディー。 水色のワンピースは一歩間違えるとハワイのムームーみたいな感じです。 とはいえ、いったん彼女が歌いはじめるとアルバムそのままの空気が会場全体を包み込みました。

  編成は、ギター、ベース、ドラムス、キーボードに加え、トランペット、サックス、コーラス 2 名という大編成で Rumer を含めると 9 名。 これだけのバックを従えてのライブは、ある程度予想した通りのアルバム再現に近い演奏。 ライブならではのチャレンジやアレンジはほとんどありませんでした。 それも無理は無いと思うのは、Rumer はまだアルバムを 1 枚しか発表していない新人だからです。 彼女の唯一のアルバムは、2011 年のベストアルバムに選ばれること必至の名盤ですので、まだチェックしていないかたは、こちらをご参照ください。
  ライブは、Hall& Oates の「Sara Smile」や、モータウンの「You Really Got A Hold On Me」などのカバーを無難にこなしつつ、アルバムでもラストを飾った David Gates の「Goodbye Girl」では、最も大きな拍手を浴びるなど、かなり想定内の展開で 1 時間があっという間に過ぎ去って行きました。
  アンコールの「Stone Cold」が終わり、照明も明るくなり、BGM もメジャーな「After The Love Has Gone」になってので、すべてが終了かと思ったら、メンバーがステージに表れて、「実は今日はLumerの誕生日なんだ」と….。 そして、スタッフからバースデー・ケーキが持ち込まれ、観客も一体となって「Happy Birthday」を合唱するという展開に。 ローソクの火を Lumer が一気に吹き消して、さすがにここで終わりかと思ったら、アンコールの拍手が鳴りやまず。 

  まさかと思ったら、Rumer が再びステージに表れて 「Anything Particular? 」と尋ねると、観客から「Alfie」の呼び声が。 「Challenge」と一言そえつつ、Rumer がバカラックの名曲を歌ったところで、コンサートは終了。 ここまで 1 時間とちょっとくらいで終了しました。 時間的には短いですが、無駄な MC や引き延ばしもなかったこともあって、かなり密度の濃い時間を過ごすことができました。
  このようなライブは渋谷ではなく、六本木の Billboard Live が良く似合うと感じながら、会場を後にしました。 

■Shibuya O-east / Rumer■

2011年6月3日
東京 渋谷 O-east

<Set List>

Come To Me High
Am I Forgiven
Saving Grace
Slow
Blackbird
Sara Smile
Lady Day
Take Me As I Am
Goodbye Girl
Aretha
You Really Got A Hold On Me
Thankful

Stone Cold

Alfie

19:10頃開演 20:10頃閉演