Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Joe Mondo

2010-01-30 | Folk
■Joe Mondo / Ain’t No Cows■

  ここ数年、東京では「フォーク居酒屋」なるものが出現し、夜な夜な熟年サラリーマンが通い詰めているようです。 店内では酔った客が自由にセッションを繰り広げているようですが、さすがにそのような店に足を運んだことはありません。 自分は一人か二人で好きな音楽に身を委ねるほうがいいですね。 時折、そんな小さなロックバーには顔を出したりもします。

  さて、音楽で自己を表現するにはアコースティック・ギターの弾き語りが最もシンプルで身近な手段であることは今も昔も変わりありません。 そんなレコードは数知れず存在していると思いますが、1972 年に Joe Mondo が発売したこの作品もその一つです。 サポートを受けた1曲を除いては単独で演奏し、ややブルージーな土臭さを漂わせながらモノクロームの残像を残していく様は、1970 年代の自主制作盤ならではの味わいです。

  アルバムは Slim Harpo の代表作「King Bee」、Gary Davis の「Cocaine」というド渋なブルースでスタート。 自作の「What Is This Thing Called Love?」もごつごつしたカッティングで同じ流れを踏襲。 ちょうど、Joe Mondo のボーカルのキーが高いことに気付き始めると、アルバムはフォーク寄りに展開してきます。 「Seventeen Years」、「You Can Search」はともにゆったりした佳作でした。 前者は、Randy Burns というマイナーな SSW の代表曲で、「Seventeen Years On the River」がオリジナル・タイトルのようです。

  B 面は作者のクレジットがないので手探り状態です。 「Daddy Rollin’ Stone」はブルース調ですが、次第に初期の Bob Dylan に近いサウンドへと移行していきます。 45 秒の「Blackeyed Suzy」、2 分の「Salty Dog」、57 秒の「Footprints On The Dashboard」と短い曲が並ぶ辺りは、アルバムのハイライトともいえる小気味良さを感じます。 アップテンポ「Keep On Truckin’」、マイルドな「You Don’t Need Me」も良質なフォークに仕上がっています。 ラストは意外にも「Dona, Dona, Dona」でしんみりと迎えます。 自分はこの曲を聴くとどうしてもペギー葉山を思い出してしまうのですが...

  こうしてアルバムはひっそりと開催された個展のように、しんみりした余韻で過ぎ去っていきます。 繊細な音色や情緒豊かな歌心を楽しむ作品ではありませんが、武骨で田舎くさいフォークが好みのかたならば気に入ってもらえる内容だと思います。 おそらく彼の唯一のアルバムと思われますが、再発される可能性は少ないでしょう。 

■Joe Mondo / Ain’t No Cows■

Side 1
King Bee
Cocaine
What Is This Thing Called Love?
Seventeen Years
You Can Search

Side 2
Daddy Rollin’ Stone
Blackeyed Suzy
Salty Dog
Footprints On The Dashboard
Keep On Truckin’
You Don’t Need Me
Dona, Dona, Dona

Produced by Bob Berliner
Recorded at Ultrasonic recording Studios, Hempstead, N.Y.
Back-up guitar in ‘Cocaine’ by Mike Frohne

Cow Records Inc. C-1001


Ness Harding

2010-01-17 | SSW
■Ness Harding / A Matter Of Time■

  南部ジョージア州出身の女性シンガーソングライター Ness Harding の唯一と思われるアルバム。 1980 年前後の作品と思われますが、詳細は不明です。
  デザインやジャケットの装丁からは、レベルの高い内容を期待していたのですが、正直に言ってそれほどの作品ではありません。 その要因となっているのは、演奏を Ness Harding がほぼ一人で行っているところにあります。 Todd Rundgren のような演奏力と緻密さによって多重録音が行われているのであれば違和感はないのですが、彼女には厳しかったように思います。 もちろん、自主制作に近い録音環境では、ハンディを負わざるを得ませんが、微妙な演奏のズレが気になって仕方ないのです。 

  アルバムは通しても 26 分ほどしかなく、あまりの短さにも驚かされます。 12分に満たない A 面からおさらいをしてみましょう。 まずは「A Matter Of Time (opening)」ですが、タイトル曲だけあってアルバムの中でも特に光る 1 曲となっています。 アシッドなフォーク感も漂い、演奏を除けば期待が膨らむ入り出しと言えるでしょう。 一番の親友のことを歌った「Me And Stacy」は彼女への愛情がアップテンポで歌われます。 つづく「Fly Away」も似た曲調で、アコギとドラムスが強調されています。 カモメの鳴く声と波の音からスタートする「Parting Of Man」は、アルバムのハイライト。 冷たいシンセの音とサイケデリックな雰囲気は、アメリカ南部の音とは思えません。 特に何の盛り上がりも見せずにフェードアウトするところもこの曲の魅力となっています。

  B 面に移ります。 明るいフォークロック調の「A Lesson」は最もポップな仕上がり。 つづく「Lissa’s Rose」はギターとコーラスのみの幽玄な佇まい。 独特の翳りが印象的な楽曲です。 「Your Colorado Way」もアルバムのなかでは重要な楽曲。 この曲のようにスロウな楽曲では、先に述べたような演奏のズレは少ないため、サイケな浮遊感が独特の味わいを出しているような気がします。 ギターの弾き語りの「Thank You」も流れを引くような曲調。 気だるい小曲には、押し殺した情念のようなものを感じます。 ラスト「A Matter Of Time (closing)」は、オープニングの楽曲のリプライズ。 オープニングに比べると一気に生気を失ったアレンジとボーカルを聴いて気がついたのですが、アルバムは曲を追うごとに気分が落ち込んでいくような流れになっていました。 特に B 面にはアップテンポの曲がないために、アシッドフォークが好きな方にはたまらない展開かもしれません。 

  とはいえ、アルバムの片面に毛が生えたような長さで、あっという間にアルバムが幕を閉じてしまい、物足りなさが強く残るのは事実です。 せっかく二つ折りの豪華な装丁にしたのに勿体ない気がします。 いつものように Ness Harding で検索してたところ、何一つ引っかかってきませんでした。 スピリチャルな光に包まれたこのアルバムは、マニア向けのアシッド・フォーク盤という位置づけのなかで、やがて忘れられる運命なのでしょう。

■Ness Harding / A Matter Of Time■

Side 1
A Matter Of Time (opening)
Me And Stacy
Fly Away
Parting Of Man

Side 2
A Lesson
Lissa’s Rose
Your Colorado Way
Thank You
A Matter Of Time (closing)

Produced and directed by Ness Harding
Recorded at Perfection Sound, Inc. Smyrna, Georgia
All instruments performed by Ness Harding otherwise noted
Syndrums : Jay Paul
Drums on ‘Fly Away’ : Gregg Giacobbe
All compositions by Ness Harding otherwise noted
Lyrics on ‘Parting Of Man’ by Melissa Rogers


Bright Morning Star

2010-01-04 | Folk
■Bright Morning Star / Arisin’■

  明るい一年になることを願って、ご来光のようなジャケットのアルバムを取り上げてみました。 Bright Morning Star はメイン州を拠点とする 6 人編成のグループ。 バンド構成となっているものの、実際に音を聴いてみると、むしろコーラスやアカペラを得意とするボーカルグループという印象です。

 彼らの活動期間は 1978 年から 1990 年までで、このアルバムは 1981 年にリリースされたデビュー作と思われます。 個々のメンバーの経歴は判りませんが、唯一 Charlie King は 1970 年代初頭からソロ活動を行ってきたミュージシャンです。 今日まで同姓の別人かと思っていましたが、彼の公式サイトに Bright Morning Star Reunion という記事があり、同一人物であることが判明しました。 

  さて、アルバムの内容ですが、トラディショナルにオリジナルの歌詞を重ねた曲が半分ほどあり、その他はカバーとオリジナルという構成となっています。 まずは、コーラスワークに力点をおいた曲をレビューしてみましょう。
  まずはオープニングの「Solar Carol」から。 この曲はリコーダーの可愛らしいイントロに導かれたアカペラがメイン。 賛美歌で聴き覚えのある♪グローリア♪のメロディがオリジナルの歌詞で歌われるので違和感があるものの、クリスマスに逆戻りしたかのような気分になります。 「A Satisfied Mind」はほのぼのしたワルツ。 ここでも混声で厚みのあるコーラスが繰り広げられています。 この曲を凌ぐ出来なのが B 面の「Goin’ Down The Valley」です。 Jesse Brown なる人物の曲ですが、広大なニューイングランドの森林を想起させる素朴なアレンジで、Court のボーカルと厚みのあるコーラスが冴え渡り、Bright Morning Star の真骨頂とも言える展開に仕上がっています。 曲の良さという点では、「Simple Gifts」や「Hangin’ Tree」も見劣りしません。 後者は ♪No Nukes for me♪ という歌詞がはっきりと聞き取れ、1979 年に起きたスリーマイル島の原発事故がアメリカ社会に及ぼした影響を感じ取ることができました。 ちなみに、この曲はBright Morning Star の初期のメンバーだった Pat Decou と Tex LaMountain による楽曲。 Pat とTex は共同名義でアルバムも発表しているようです。 バンド名を冠したラストの「Bright Morning Star」はニューヨーク州のイサカでライブ録音されたもの。 イサカといえば Bill Destler の名盤を生んだ Swallowtail Records の拠点で一度は訪ねてみたい町です。  このライブ録音はスタジオ録音に比べて、かなり危なっかしい場面もありますが、彼らの持ち味である温かみが伝わってきました。

  以上がアルバムの核を成しているコーラス中心の楽曲ですが、これ以外の曲で素晴らしいのは、「Love Around The Corner」と「Sea Legs」です。 前者は Court Dorsey、後者は Marcia Taylor という構成メンバーによるオリジナル曲ですが、とくに後者はギターとボーカルだけのシンプルな作りで、Marcia と思われる清楚で美しい歌声が心に響く名曲に仕上がっています。  
  個々に取り上げなかった曲もいくつかありますが、それらは各々個性的な内容で、アルバムをバラエティ豊かなものに引き立てる役割を演じている曲ばかりですので、マイナスになることはありません。 ただ個人的には Greg Brown による「Serious Men」は無くても良かったと思ったりしますが…

  先に書いたように、Bright Morning Star は 2008 年に再結成されました。 Charlie King のページには老いながらも元気そうな写真が載っていますが、再結成後の詳しい活動状況は明らかにされていませんでした。 

■Bright Morning Star / Arisin’■

Side 1
Solar Carol
Harriet Tubman Follow The Drinkin’ Gourd
A Satisfied Mind
Serious Men
Hangin’ Tree
Simple Gifts

Side 2
Truck Drivin’ Woman
Love Around The Corner
Sea Legs
Vine And Fig Tree
Goin’ Down The Valley
Bright Morning Star

Recorded and mixed at Sound Techniques, Watertown, MA

Court Dorsey : vocals, harmonica, tenor guitar, piano, bells, maracas, conga, recorder
Cheryl Fox : vocals, recorder, casaba, guitar, dulcimer
George Fulginiti-Shakar : vocals, acoustic bass, piano, recorder, bells
Ken Giles : vocals, viola
Charlie King : vocals, guitar, autoharp, electric bass
Marica Taylor : vocals, guitar, flute, electric bass

Karen Kane : recording engineer, flute on ’Vine And Fig Tree’
Ralph E. McGeehan : cover painting

Rainbow Shake Records RSR 004