Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Dorian

2008-03-29 | Folk
■Dorian / No Longer Than Forever■

 カナダのオンタリオ出身のローカル・フォーク・グループ Dorian については、その詳細を知りません。 同名のグループはアメリカやイギリスに複数存在していますが、ここで紹介する Dorian とは別のものです。 このチープなジャケットとタイトルに魅かれて手にしたアルバムですが、アコースティックでバラエティ豊かなサウンドが全編を貫いており、マイナーレーベルにしては演奏力も高い上に音質も良く、掘り出し物の一枚となりました。

 グループは 7 人の大所帯。 うち 5 人がボーカルをとっており、コーラスやハーモニーを重視した編成であることがわかります。 アルバムも全 14 曲あり、CDの無い時代のアルバムとしては曲数が多いほうです。 ほとんどの曲は 3 分未満ということもありますが、アルバムは長さを感じさせずにあっという間に聴き終えてしまう印象。 このブログのためにアルバムを2回聴きましたので、この 14 曲を 4 つの分類に括っていました。

 最初の分類は「カントリー」です。 主にバンジョーやフィドルが活躍するミディアムからアップの曲をここに分類しました。 「She Went To Waterloo」、「Room In Heaven」、「Year In, Year Out」が該当します。 なかでも、「Year In, Year Out」は珍しく男性がリードボーカルを務めるナンバーで、ミディアムで和み系のアレンジが秀逸です。

 次の分類は「アコースティック・スウィング」です。 「City Blues」、「My, My, My」、「Rumours」が当てはまりますが、総じてベースがリズムを刻む 2 拍子のアップ・チューンです。 全体的にバラードが多いアルバムのなかで、飽きの来ないように配置されているように思います。

 3 つ目の分類は、多くの曲が当てはまりますが「ドリアン節」と命名しました。 この「ドリアン節」の特徴はピアノとベースを基調としたバラードで、ボーカルがユニゾンもしくは二人のハーモニーで構成されていることが多いことです。 なかには、「Good Times」のように英国トラッドの香り満点のワルツもありますが、「Many Streams」、「Understanding Hearts」、「No Longer Than Forever」、「How Can I Say It Again?」、「Broken Wings」などアルバムを代表する名曲がここに集まっています。  なかでも「Understanding Hearts」はアルバムを代表する楽曲。 女性ボーカルのユニゾンで歌われ、その 2 人が時に緩急を使い分けたり、見事にハーモナイズするあたりはソフトロック的展開を見せますが、そのあたりも含めて欠点が見当たりません。 アルバムタイトル曲の「No Longer Than Forever」も見逃せません。 ピアノとベースのみを背景にしたバラードですが、モノトーンの美しさに言葉をなくす名曲です。 「How Can I Say It Again?」もドリアン節 100 %ともいえるナンバーでピアノとベース、男女のハーモニーで歌われるバラード。 「Many Streams」や「Broken Wings」も佳作なのですが、それらがかすんでしまっています。 

 最後の部類は「インタリュード」としました。 これはインストやアカペラによる楽曲で編成上のアクセントとして効いている楽曲です。 男女混声のコーラスによるアカペラ「Walking In Jerusalem」とピアノの教則のようなイントロにコーラスをかぶせたインストゥルメンタル「Song For June」をここに入れてみました。

 このように個性豊かな 14 曲が安定したアレンジと曲の質の高さのもとに輝きを放っているのが、このアルバムの最大の魅力です。  1981 年に制作されたアルバムですが、同時代の流行のサウンドには見向きもしなかったオンタリオの若者たちの伝統への敬意、音楽に対する真摯な姿勢、愛情の深さと志の高さと、といったものが伝わってくる名盤です。




■Dorian / No Longer Than Forever■

Side-1
Good Times
City Blues
Many Streams
My, My, My
Understanding Hearts
Walking In Jerusalem
Rumours

Side-2
No Longer Than Forever
She Went To Waterloo
Year In, Year Out
Song For June
How Can I Say It Again?
Room In Heaven
Broken Wings

Produced and Arranged by John H. Wiebe

Dorian:
Edi Gubler : violins , vocals
Doris Martin : piano, vocals
Gerry Steingart : lead vocals
Peter Klassen : vocals
John Wiebe : guitars , vocals
Jeffrey Laughton : bass
Imre de Jonge : percussion

Manufactured by Boundary International Recordings

BIR / One River Records LP2


Nancy Hill

2008-03-26 | SSW
■Nancy Hill / Not Just Music■

 6 年の月日が Nancy Hill をどう変えたのか。 1986 年に発表されたこのアルバムは、その問いかけに対して、ジャケットである意味答えを出してしまっています。
 正直言って「A Tribute To Good Times」で見せていたいきいきとした表情に比べ、真っ直ぐに年老いたとしか表現できないこのジャケットを見ると、年月の残酷さを痛感します。 しかし、アップの表情を前面に出していることから、本人にはさほど自覚はなさそうで、むしろ自信にあふれているように見えます。

 実際その通りで、サウンドの変化はいい方向に向かっており、前作(かどうか正確にはわかりませんが)に比べて、シンプルな音作りになっています。 クレジットを見ても一目瞭然というくらいに音数は少なく、Nancy Hill のボーカルもより艶が出ており、大人の SSW サウンドとなっています。 もう少し包み込むような優しさや憂いがあれば、Mary Black の絶頂期のような完成度に近づけたのにと思います。 

 アルバムタイトルの「Not Just Music」がサビの部分として歌われる「Symphony」でアルバムはスタートしますが、この曲こそが、アルバムの特徴を集約している名曲です。 ♪You’re not just music , You’re a symphony♪ という壮大な愛の表現にはたじろぎますが、このようなスケールの大きなバラードがNancy Hill にはお似合いです。 
 この曲を除くと、B 面のほうがミディアム中心の楽曲がならび、出来が上のように感じます。 A 面で好感触なのは、ミディアムでライトなカフェミュージックのような「Just A Phone Call Away」と、ジャジーな味わいの「Scotch And Soda」です。

 B 面に移ると、聴き応えのある安定した楽曲が並びます。 アップなカントリー調の「Long Time Friends」は、Emmylou Harris と間違えそうです。  つづく「Can We Be Two?」は出色のバラード。 Nancy Hill の伸びやかなボーカルと控えめな演奏が見事に溶け合った名演です。  「Firmly On The Ground」も同系統のメロウ・ナンバー。 春風に包まれた草原を散歩しているかのような気分の楽曲です。  つづく「We’re Going To Find Away」と「The Years Long Time Past」もクオリティの高いミディアムとなっており、B 面の 5 曲の並びには何の弱点もみつかりません。 初々しさは、「A Tribute To Good Times」のほうに軍配が上がりますが、アルバム全体の出来としては、こちらの作品のほうが上だと思います。

 前回に続けて 2 回連続で Nancy Hill を取り上げてみましたが、僕の持っているアルバムはこの 2 枚です。 ともに Hillsound という自主レーベルからのリリースなのですが、その間が 6 年もあるので、この間に数枚のアルバムがあったとしても不思議ではありません。 しかし、彼女の経歴やディスコグラフィーを発見することができず、僕は彼女の作品はこの 2 枚しかないのでは、と思うようになりました。
 10 年送れて世に出た女性シンガーソングライター、というキャッチ・コピーをつけたくなる Nancy Hill...  彼女の行方は誰にもわからないまま、僕の心にはもどかしさだけが残ります。



■Nancy Hill / Not Just Music■

Side-1
Symphony
This Game Of Life
Scotch And Soda
Just A Phone Call Away
You

Side-2
Long Time Friends
Can We Be Two?
Firmly On The Ground
We’re Going To Find Away
The Years Long Time Past

All Songs written by Nancy Hill / Hillsound Music
Except ‘This game Of Life’ by Mark Dziuba, Nancy Hill , Marilou Hinrichs
‘Scotch And Soda’ by Dave Guard
‘Just A Phone Call Away’ by Nancy Hill , Jan Paluska
‘Long Time Friends’ by Mark Dziuba, Nancy Hill


Nancy Hill : vocals , acoustic guitar
Jeff McElroy : bass
Glenn Schaft : drums , percussions
Mark Dziuba : acoustic guitar
Andrea Zonn : fiddle
Glenn Dewey : bass
Neal Robinson : keyboards
M. Spaulding : drums
Mark Ahola : acoustic guitar
Diane Reed : background vocal
Tim Miklas : background vocal
Maurus Spence : background vocal

Hillsound Music


Nancy Hill

2008-03-23 | SSW
■Nancy Hill / A Prelude To The Good Times■

 海外から取り寄せたレコードのなかには、稀に以前の持ち主のサインが記されているものがあります。 そのレコードをよほど大切にしていたのか、持ち物には何でも名前を書くクセを持っていたのかは分かりませんが、1 枚のレコードが旅を始める出発駅の証なのかと思うと、自分の頭のなかで妄想が始まります。 
 このレコードの最初の持ち主は、Barb Harrison という男性で、ジャケットには「To Barb , Thanks , Nancy」という Nancy Hill の直筆サインもあります。 いまから28年くらい前、サイン会かライブ会場で、このレコードが Nancy Hill から Barb Harrison に手渡しされた瞬間があったことは間違いありません。 そのレコードは、数十年を経て海を渡り、いま自分のものとなっています。 そして、今日、ブログに取り上げられたのです。

 Nancy Hill はアイオワ州を拠点に活動したシンガーソングライター。 その経歴や詳しいディスコグラフィーは把握していませんが、ナチュラル指向の女性 SSW としての実力は侮れません。 とくに天性の声質と表現力あふれるボーカルは、好きな人にはたまらないものがあります。 優しいそよ風のような名曲「A Prelude To The Good Times」でアルバムはスタート。 オールドタイミーで陽気な「I Won’t Love You Back」、憂いを帯びたバラード「Knowing It Can’t Be」、グルーヴ感もただよう「Will You Be The One」と A 面はレベルの高い楽曲が並びます。 A 面ラストの「Mr. Bill」はトラッドとさえ思うようなほのぼの系のワルツです。

  B 面はアルバム中で最もキャッチーで特徴的な「Celebration」が出色の出来です。 もう少しメロウな感じが出ればという欲も出てきてしまいます。  A-1 と並ぶそよ風系の「Truckers And Other Lonely People」、アップでせっかちな印象の「It’s Too Soon For Me To Say」、カリプソっぽいアレンジでアルバムのアクセントとなる「Oh, New Mexico」とB面はバラエティに富んだ展開です。 アルバムを締めくくる「I Could Love You」は、潤いのあるバラード。 Nancy Hill の魅力的な歌声が癒しの世界へといざなってくれます。 このようにアルバムを通してのクオリティは高く、無名のままに終わらせてしまうには惜しい作品となっています。 唯一の弱点は、ストリングスの代用として時折挿入されるシンセの音が時代を感じさせるチープなものとなっていることです。  とはいえ、このようなコットンの温もりのような肌触りをもったアルバムは個人的な好みですし、ローカル作品ならではの詰めの甘さも作品の魅力を増す結果になっていると思うのです。

  冒頭に触れましたが、最初にこのアルバムを手にしたと思われる Barb Harrison は、こんな素敵なアルバムをどうして手放したのでしょう。 実は好みではなかったという物語性のない理由からかもしれませんが、レコードを手にし、その音を耳にするとき、過去をさかのぼって知りたくなってしまいます。 それは、レコードに遺された音楽が当時の空気をそのまま封じ込めているからなのでしょう。



■Nancy Hill / A Prelude To The Good Times■

Side-1
A Prelude To The Good Times
I Won’t Love You Back
Knowing It Can’t Be
Will You Be The One
Mr. Bill

Side-2
Celebration
Truckers And Other Lonely People
It’s Too Soon For Me To Say
Oh, New Mexico
I Could Love You

All Songs written by Nancy Hill / Hillsound Music
Hillsound Music – Council Bluffs , Iowa
Recorded at Crusade Studios , Flora , Illinois

Nancy Hill : acoustic guitar , acoustic piano , cowbell , maracas , lead and background vocals
Bill Casolari : bass , lead guitar , acoustic piano , electric piano , string synthesizer , drums , bongos and banjo
Joe Staedelin : tenor saxophone
Jean Dennison : background vocals
Tom Johnson : background vocals
Dave Wyper : background vocals
Patrick Murphy : sound effects
Marilou Hinrichs : photography and logo design

Hillsound LPS1344


Tommy Lucas

2008-03-21 | SSW
■Tommy Lucas / Marie■

 前回取り上げた Tim Harrison とは一転し、精悍で厳しい表情を浮かべているのはテキサス出身のシンガーソングライター Tommy Lucas です。 兄である John Lucas が友人の Royce Clark とともに創設した Lucas and Clark Music Company からリリースされたこのアルバム「Marie」は、Tommy にとって初めてのアルバムで、おそらく 1977 年前後の制作と思われます。 

  アルバムタイトルの「Marie」で A 面はスタート。 このアルバムを買ったときに、この曲が Randy Newman のカバーであることを密かに願っていたのですが、その期待はハズレでした。 二拍子の軽快なアップチューンです。 つづく「Boo Hoo And Goodbye」は、3 人の女性コーラスとスティールギターのサポートが光るスローナンバー。 「Love’s Little Tricks」はさらにリラックスした雰囲気が楽しめるバラード。 アルバムを代表する曲です。 「Welcome Back To My House」でアップに戻り、ミディアムな佳作「I’m Gonna Love You」とアルバムはスムースに流れていきます。 

  B 面は典型的なカントリーワルツの「Take Me Back」でスタート。 アップな「Yesterday’s Music」、渋めのバラード「Misery」とサイドを変えても安定した楽曲が続きます。 つづく「Where Do We Go From Here」は David Tanner のピアノと Maurice Anderson のスティール・ギターが軽やかで、Tommy Lucas のボーカルと女性コーラスの掛け合いもあって心地よい仕上がりとなっています。 B 面が一気に盛り上がったところで、故郷テキサス賛歌とも言える「Raisin’ Texas」でアルバムはフィナーレを迎えます。 ジャケットのデザインからはかなり B 級の予感がするアルバムなのですが、こうして通して聴いてもメジャー・レーベルの作品に引けをとらない充実した内容になっています。 1970 年代初頭に Gram Parsons が切り開いたカントリーロックの新しい地平を忠実に継承し、故郷のテキサス風味を加えたような作品とも言えるでしょう。 少し褒めすぎですけど…

 クレジットによると 1944 年 7 月生まれの Tommy Lucas ですので、このアルバムは 33 歳前後での作品となります。 それにしては老けすぎに見えますが、そのTommy Lucas は今もなお現役で活動していました。 彼の公式サイトには「Raisin’ Texas」と「Picking Up The Pieces」いう 2 枚のアルバムが紹介されています。 いずれも 2000年以降の作品のようですが、この 2 枚のアルバムに「Marie」に収録されている曲のほとんどが再録されているのです。 このことは Tommy Lucas の音楽の原点はこの「Marie」であることを表していると同時に、Tommy が 30 年以上にわたって同じ音楽を実直に愛し続けてきたということの証とも言えるでしょう。  彼のトレードマークともいえるカウボーイハットがその一貫性と普遍性を象徴しているかのようです。



■Tommy Lucas / Marie■

Side-1
Marie
Boo Hoo And Goodbye
Love’s Little Tricks
Welcome Back To My House
I’m Gonna Love You

Side-2
Take Me Back
Yesterday’s Music
Misery
Where Do We Go From Here
Raisin’ Texas

Royce Clark : producer

The Desperado Band are
Howard Higgins : bass
Ronnie Salmon : guitarist
Lucky Lee Halcom : drums

Chastity Fox : vocals
Megan Ready : vocals
Wanda Wandalich : vocals
Maurine Anderson : steel guitar
David Tanner : piano
Gerald Jones : acoustic guitar , banjo
Paul Motter : engineer

Lucas and Clark Music Co.

Tim Harrison

2008-03-15 | SSW
■Tim Harrison / Train Going East■

 うだつのあがらない表情を浮かべるジャケットとは裏腹に素晴らしい内容のアルバム。 カナダを代表するシンガーソングライターの 1 人である Tim Harrison のデビューアルバムです。 Stan RogersDave Essig といったカナディアン・ミュージックシーンの重鎮のサポートを受け、世に送り出されたのが今から 30 年前の 1978 年のこと。 その後、目だったリリース活動は無かったのですが、1995 年からコンスタントに CD を制作し、最新作「Grey County」は 2005 年にリリースされています。

 1970 年代後半のカナダからは珠玉の SSW アルバムが数多く発表されていますが、この「Train Going East」もその中の 1 枚と言えるでしょう。 レコーディングとミックスのエンジニアは、後に U2 や Bob Dylan をプロデュースし、ミュージシャンとしてソロ・アルバムを発表する Daniel Lanois というところも見逃せないポイントでしょう。

 アルバムはタイトル・トラックの「Train Going East」でスタート。 スロウなワルツに暖かいコーラスが重なるオーソドックスな展開ですが、ピアノやギターのさりげないサポートが染みこんで来ます。 さらに地味なワルツ「All The Goodbyes」そして「One Woman」とアルバムは淡々と進行していきます。 「Dead John Howard」でようやくアップな展開を迎えますが、「Nothing To Show」で元に戻ります。 この「Nothing To Show」には Tim Harrison の最大の持ち味であるシンプルで飾ることのない世界が凝縮されていています。 

  B 面は相対的にポップに聴こえる「Boys In The Backroom」でスタート。 典型的な Tim Harrison 節のワルツ「Turnaround」につづき、バラードの「Thickness Of The Nights」へ。 この曲は頼りなさげな Tim Harrison のボーカルにも迫力と重みが感じられる名曲でアルバムの聴き所です。 地味な「Pleasure In Ruin」を挟んで、カントリー色の強いワルツの「Not Done Yet」でアルバムは幕を閉じます。  このアルバム、三拍子の曲が半数を占めているかもしれません。

 アルバムを久しぶりに聴きましたが、このような良心的な音楽はネットやモバイルで音楽を聴く世代にはどれだけ受け入れられるのだろうかと考えてしまいます。 すべてがコンピューターで製作された音楽、マスターテープではなくマスターがハードディスクという時代には、このような音楽の居場所が無くなってきつつあります。 「Train Going East」のようなワルツ主体のゆったりした音楽は、今の時代のスピード感にはそぐわないことは十分理解できますが、10 年 20 年という時間軸で聴き手を失っていくのは悲しいことです。

 そんなさなか、先日、USB 端子が装備され、PCにダイレクトで接続できるというアナログ・プレイヤーが発売されるという記事をみました。 個人的にはアナログ・レコードをデジタルに取り込むことには興味は無いのですが、公式の CD 化が見込めないアルバムに関しては、こうした機能も便利なのかもしれません。 
 ひとまず「Train Going East」に関しては、CD 化されることを気長に待つこととしましょう。



■Tim Harrison / Train Going East■

Side-1
Train Going East
All The Goodbyes
One Woman
Dead John Howard
Nothing To Show

Side-2
Boys In The Backroom
Turnaround
Thickness Of The Nights
Pleasure In Ruin
Not Done Yet

Produced by Stan Rogers for Second Avenues Songs
Recorded and mixed at Grant Avenue Studios, Hamilton, Ontario
Recorded and mix engineer : Dan Lanois

Words and music by Tim Harrison except ‘Turnaround’ by Stan Rogers

Tim Harrison : acoustic guitar and vocals
Kevin Dandeno : bass
Bill garrett : electric and acoustic guitar, mandolins
Ross Gibbons : drums and percussion
Ron Sellwood : piano, accordion

Kim Deschamps : dobro
Dave Essig : acoustic guitar
Dan Lanois : electric guitar
Jude Johnson : backup vocals
Garnet Rogers : violin , backup vocals
Stan Rogers : 12 string guitar , percussion , backup vocals

Second Avenue Songs SAS 1001

Robert Valente

2008-03-08 | SSW
■Robert Valente / No Hype■

  クセの強い弾き語りアルバムです。ほとんど単調なエレキのカッティング、朴訥として浮遊感のあるボーカルのみで構成された Robert Valente のファースト・ソロ・アルバムをピックアップしてみました。 Robert Valante は公式サイトがあり、そこでサウンドも聴くことができるので、雰囲気を捉えることが可能ですが、1979 年に発表されたこのアルバムだけが CD 化されておらず、入手困難な状態になっているようです。

  入手困難なアルバムに名盤が多いというのは明らかな事実誤認ですが、このアルバムも名盤とは呼べないでしょう。 しかし、彼の持つ音楽には独特の世界観が込められており、それを空間として共有することは十分に知的好奇心の対象となります。 サウンドにはスピリチャルな印象を受けるものの、明確にクリスチャン系の要素が出ているわけでもありません。

  先にも書いたとおり、エレキギター(もしくはそのようなエフェクトをしたアコギかもしれません)とボーカルだけが描き出すモノトーンの世界。どことなくLeonard Cohen に近い雰囲気ですが、声は彼のように低音ではありません。 個々の楽曲についてコメントするのは至難の業なので控えることとしますが、個人的に気に入っているのは、少し明るい兆しの射している「Dreamin’」、「Feel All Right」、「High School」などです。 逆に絶望的な気分になる「Looking For Blood」のような曲もあります。 明確に R&B を意識した「Chain Gang」、ロック指向の強い「Come On People」などが全体のなかでは微力ながらアクセントになっています。

  アルバムタイトルになっている「hype」を辞書で調べてみたところ、一番に出てきたのが「(主に麻薬を使用する際の)皮下注射」と出てきました。 次が「麻薬常習者」です。この言葉には明らかなメッセージが含まれていますが、僕は「No Hype」を第三者に向けたメッセージと素直に捉えることができません。 この不安定な音楽を聴くと、自らがその世界から脱却しようとしているのではないかと思うのです。 その意志を大きなフォントでジャケットにも示しているのではないでしょうか。

  公式ページを見ると、彼の不思議な世界を垣間見ることができます。最近の CD のタイトルを見ると、明らかにクリスチャン・ミュージック色が濃いことが伺える一方で、写真のコーナーには赤いフェラーリをサングラス姿で自慢する様も載っていたりします。 いったいこの人物は何者なのでしょう。 アイオワ州から現れた謎の SSW だけで片付けるわけにはいきません。



■Robert Valente / No Hype■

Side-1
Headed To L.A.
A Long Time Ago
Movie Show
Dreamin’
Chain Gang

Side-2
It Won’t Be Long
Looking For Blood
Come On People
Feel All Right
High School

Music and Lyrics by Robert Valente

Future Productions
SRU 4263

Chris Hickey

2008-03-01 | SSW
■Chris Hickey / Frames Of Mind , Boundaries Of Time■

  Chris Hickey は、いまも現役で活動するシンガーソングライター。 その音楽キャリアは、1978 年 The Spoilers というパンクバンドにまで遡ります。 彼のキャリアのなかで最も有名なのが、Show Of Hands での活動でしょう。  IRSから 1989 年に発表されたそのアルバムはリアルタイムで買ったことを覚えていますが、あまり熱心に聴き込まなかったうえに、CD が現在行方不明となっていてその内容を思い出すことができません。 その後 UMA というグループを経て、現在はソロ活動中のようです。 公式ページで、キックボードに乗っている若々しい彼の姿を見ると、とてもキャリアが 30 年とは思えません。

  その Chris Hickey が、The Spoilers と Show Of Hands の間、1985 年に発表したアルバムが、ファースト・ソロ・アルバム「Frames Of Mind , Boundaries Of Time」です。 全ての音源が自宅のカセットデッキで録音されたという「宅録」の元祖のようなアルバムですが、1970 年代後半以降のパンク・ディスコ・AOR といった大きなシーンの流れが過ぎ去った 1980 年代半ばに、シンプルに音楽の原点に回帰するかのような姿勢が魅力となっている作品です。

  サウンド的には、当時盛り上がっていたイギリスのネオアコ世代に近いものを感じます。 ただ、バンド編成ではないので地味でモノトーンな SSW といった納まり方です。 ボーカルスタイルもへなへな系で頼りない感じなので、素人っぽさが抜け切れていないと言われたら素直に同意してしまいます。
  個々の楽曲は微妙に色合いに違いを見せており、1960 年代のフォーク色が色濃いのは「Start Over Again」、「Man Of Principle」の2曲。 一方、1970 年代の SSW 的なものは、「Faraway」、「I Can’t Wait To See You」、「Don’t Just Say No」、「Different Days」などです。 なかには、元パンクの名残りがかすかに伝わる「Not You」や「There Was A Time」などもあります。 とくに後者は Velvet Underground のようです。

 このアルバムを取り上げたきっかけは、Joe Henry が昨年に発表したアルバム「Civilians」です。 ミュージック・マガジン誌の年間優秀アルバム(アメリカ編)の 1 位に選ばれたというこのアルバムに、Chris Hickey の名を見つけたのです。 ライナーノーツや多くのライターが、Van Dyke ParksBill Frisell の参加について言及した作品ですが、この Chris Hickey については誰も注目していないようです。 しかし、現代の鬼才 SSW ともいえる Joe Henry と Chris Hickey の交流には意外さを感じると同時にその理由を知りたくなりました。 なぜなら、わざわざゲストに招いてバックコーラスをしてもらうほどの声の持ち主ではないのですから。



■Chris Hickey / Frames Of Mind , Boundaries Of Time■

Side-1
June Fifth
Faraway
Carol
Start Over Again
Not You
I Can’t Wait To See You

Side-2
Man Of Principle
There Was A Time
Don’t Just Say No
Real Life Dangers
Different Days

All songs written and recorded by Chris Hickey
This album was recorded on a four-track cassette deck (fostex X15)
And mixed at Eldorado Recording Studio in Los Angeles with engineer Tom Root

CNC Records CH 1001