Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

The Way

2011-05-29 | Christian Music
■The Way / Can It Be ?■

  5 月なのに梅雨入りということで、憂鬱な季節の訪れが例年に比べて非常に早くやってきました。 日本全体を覆う不透明感と夏の電力不足を目前にして暗い気分にはなりたくないのですが、この梅雨入りの早さが悪い方向に影響が出ないように願うばかりです。
  そこで、西海岸の爽快なクリスチャン・ミュージックを取り出してみました。 The Way という 5 人組が 1975 年に発表した彼らのセカンドにあたります。 同時代の作品と比較しても洗練されたアレンジとグルーヴ感あふれる演奏が彼らの魅力となっており、CCM 臭さもほとんど感じないことから、AOR ファンを中心に幅広い層に受け入れられる内容に仕上がっています。 さっそく、全 8 曲を聴いてみることにしましょう。

  オープニングの「A Cowboy’s Dream」はいきなりウェストコースト・サウンドの教則本みたいな楽曲。 爽やかなメロディーとコーラス、駆け抜けるようなペダル・スティールそしてギターソロには、この土地の乾いた空気と青空無しでは生まれてこないものでしょう。 欠点の見出せない仕上がりでした。 やや落ち着いたミディアムの「Days Of Noah」は親しみやすいメロディーとそれを増幅する間奏のギターソロが魅力的。 テンポを落とすエンディングからメドレー的に「I’ve Been Sealed」が始まるあたりのアレンジも見事です。 この曲も息のぴったり合ったハーモニーが魅力で、ややカントリー色が出ているもの全く問題ありません。 アグレッシブなドラム、そして鋭角的なギターに導かれてアップテンポの「Do You Feel The Change」へ。 パーカッションがラテンっぽさを出していますが、メインのコーラスの美しさは滑空感あふれるもので、そこへ粘っこいツイン・ギターソロが挿入されるあたりは完ぺきに近い展開。 このギターソロは日本人にはたまらないインパクトがあり、この曲をアルバムの代表曲に推す人が多いのも十分に納得できます。

  充実度の高い A 面に比べると B 面はやや劣勢です。 「Living On The Bottle」は Stevie Wonder の「迷信」を連想させるリズムセクション、そしてキーボードの音色に彼らの嗜好が反映されています。 つづく「Sittin’ In The Pew」はバンジョーやペダルの音色からしてカントリー色の濃いミディアム。 切れのいいギターソロで持ち直しますが平凡な出来でした。 「Beared Young Man」はストリングスの展開など重々しい雰囲気のスロウで、美しいハーモニーが聴きどころですが、彼らの持ち味である爽快感に欠ける仕上がりです。 ラストの「Can It Be ?」はややトロピカルな雰囲気を漂わせた浮遊感あふれるメロウなナンバー。 この微妙な翳りは Seals And Crofts を連想させるものでした。

  こうして、アルバムを振り返ってみましたが、B 面でやや勢いを失うものの、トータルのクオリティはかなり高いものでした。 大胆な表現をすれば、The Eagles の「On The Border」(1974年)が好きな人には躊躇なくお薦めできると思います。 これほどポピュラーな作品なのにもかかわらず、世の中に浸透しなかったのは、やはり CCM というジャンルにカテゴライズされてしまったことが要因なのかもしれません。 The Way はこのアルバムを発表して惜しくも解散してしまうのです。

■The Way / Can It Be ?■

Side-1
A Cowboy’s Dream
Days Of Noah
I’ve Been Sealed
Do You Feel The Change

Side-2
Living On The Bottle
Sittin’ In The Pew
Beared Young Man
Can It Be ?

Produced by Al Perkins
Engineer : Bill Taylor
Recorded at Mama Jo’s Studio, North Holywood, California

The Way
John Wickham : lead guitar, bass, acoustic guitar, background vocals
Gary Arthur : bass, acoustic guitar, synthesizer, background vocals
Alex MacDougall : drums, congas & timbals, percussion
Dana Angle : lead & slide guitar, banjo, acoustic guitar & vocals
Bruce Herring : acoustic guitar, bass, vocals

Michael escalante : keyboards
Dave Diggs : piano on ‘‘A Cowboy’s Dream’
Al Perkins : pedal steel on ‘A Cowboy’s Dream’

Maranatha Music HS-777/16

Bill Garrett

2011-05-08 | Folk
■Bill Garrett / Bill Garrett■

  前回に続いてギターを抱えるジャケットを選んでみました。 SSW にありがちなデザインですが、やはり気になってしまうもの。 カナダのオンタリオ産ということもあり、Noah Zacharin のような名盤を期待して購入しました。
  結論からいうと、予想したよりもカントリー寄りでカナダ産の SSW に見られる個性のようなものは感じませんでした。 陽気なアメリカンというと馬鹿にしているように聞こえるかもしれませんが、自作の曲もわずかしかなく、気の向くままにレコードを作り上げたという感じが伝わってきます。 

  収録されている曲はほとんどがオーソドックスで実直なカントリーです。 個々の曲をコメントできるほどの耳を持ち合わせていないので、上手い表現が見つからないのですが、あまりにも保守的なサウンドが続くのは正直辛いところです。 そんななか、気に入っているのが 2 曲のインスト楽曲です。 A-2 の「Stubbs Stomp」は参加メンバーの Curly Roy Stubbs の手による楽曲。 彼と Bill Garrett のふたりの息の合ったアコースティック・ギターが堪能できます。 もうひとつはラストの「Creeping Socialist Rag」です。 これは数少ない Bill Garrett の自作曲。 ここで聴くことのできる彼のギター・テクニックは少しラグタイム風でもあり、心地よい余韻を感じさせてくれます。

  ボーカル楽曲では、トラッドの「The Haunted Hunter」が深みがあって最も聴きごたえがありました。 続いては、優雅なワルツ「Crossties On A Railroad」(Dennis Brown作)とRichard Thompson 風の「Northshore Train」(Bill Garrett 作)あたりが中々の出来です。 David Essig や Stan Rogers といった有名どころの参加もあってか、メンバーの演奏には余裕が感じられるところが全体を支えている感じがしました。
  SSW 好きであれば Ian Tyson 作の「Red Velvet」や Paul Siebel作の「You Don’t Need A Gun」に興味を持つかもしれませんが、個人的にはあまりいま一つの出来でした。 Paul Craft 作の「Railroad Line」、Ron Paul Morin 作の「Midnight Freight」などは凡庸な作品ですが、作曲者の名前に覚えもありません。

  話はそれますが、Bill Garrett はかなりの乗り物好きのようです。 Railroad や Train そして Freight という言葉がタイトル中に目立ちますし、レコードの内袋には蒸気機関車のイラストが描かれていました。 彼が「撮り鉄」だったら面白いのですが、そんなことはさすがにないでしょう。  
  最後に Bill Garrett の経歴を探ってみましたが、同姓同名が多く詳しいことは判りませんでした。 作品として確認できたのは、「Seems To Me」(1999年)、「Red Shoes」(2003年)の 2 枚のみでした。 1979 年のこのアルバムから 2 枚目まで 20 年もかかっていたことになります。 ここにも音楽に身をささげた苦労人の姿がありました。

■Bill Garrett / Bill Garrett■

Side 1
Railroad Line
Stubbs Stomp
Red Velvet
Midnight Freight
You Don’t Need A Gun

Side 2
Lillooet
Crossties On A Railroad
Northshore Train
Haunted Hunter
Creeping Socialist Rag

Produced by Paul Mills
Recorded and mixed at Grant Avenue Studios, hamilton, Ontario
Except ‘Stubbs Stomps’ and ‘Creeping Socialist Rag’ at Springfield Sound, Springfield, Ontario

Bill Garrett : 6&12 string guitars and vocals
Curly Roy Stubbs : acoustic guitar
Pepe Francis : electric guitar, spanish dobro and vocals
David Essig : mandolin and vocals
Ron dann : pedal steel, dobro
Kim Brandt : bass
Dave Lewis : drums and percussion
Stan Rogers : background vocals
Jude Johnson : background vocals

Woodshed Records PWS 014

Georgie

2011-05-04 | SSW
■Georgie / Only Me■

  せっかくの連休なのに、腰痛になってしまいしばらくパソコンに向かうこともままならないほどでした。 自宅で静養しながら、何気ない普段の生活のありがたみを切に感じているところです。

  さて、今日取り出したのは、5 月の陽気に相応しいメロウなブリーズ感覚あふれる Georgie の唯一の作品です。 彼の本名は George Rizzo といい何と 14 人兄弟の末っ子。 6 歳の頃から働きはじめたという経歴は、今では児童労働となってしまい公表できない事象ですが、それほど経済的には厳しい環境の中だったのでしょう。 このアルバムが発表されたのは 1971 年に George Rizzo が何歳だったのか不明ですが、彼が何百もの町をヒッチハイクをしながら仕事を転々としてきた経験から生み出された音楽がここに凝縮されていました。 とくに暇があればつま弾いていたであろうギターの音色はこのアルバムの最大の魅力です。

  レコードに針を落とした瞬間、鮮やかなギターの音色にのけぞってしまう「Scarlet Lace」でアルバムはスタート。 この珠玉の名曲だけで、Georgie のサウンド指向がほぼ把握できます。 ソフトロックのようでもあり、ネオアコのようでもある「Fly」、シンプルな構成のなかにも情念豊かなボーカルが力強い「The Brown Eyed Kind」とアルバムは進行。 ピアノを中心とした MOR 風バラード「A Man’s Kind Of Woman」は彼の個性が前面に出てこないところが残念な印象。 ギターを再び抱えた「When The Good Times Rolled」は憂いを帯びた弾き語り。 解き放たれたような弦の響きと疾走感が心地よい「A Million Miles High」で充実したA面が締めくくられます。

  B 面に移りましょう。 まずは、優しい木漏れ日のようなミディアム「Mrs. Martin」で納得のいく立ち上がり。 ノスタルジックなホンキートンク・ピアノが印象に残る「Candy Store Blues」は後半に登場するブズーギも効果的。 つづく「Next Summer」は Ben Watt のソロ「North Marine Drive」に入っていてもおかしくない曲。 ほんわりした浮遊感がたまりません。 ひとりぼっちの孤独感を歌った切ないバラード「Only Me」は彼のこれまでの人生を歌ったものなのでしょう。 ヒット向きではないのですが、唯一シングルカットされた曲です。 つづく「Your Cake And Eat It」もしっとりした弾き語り。ギターの音色が荒っぽいけどまろやかという不思議な感じです。 ラストの「I’ll Chase Your Tears Away」では、映画のラストシーンのような安らかなムードに包まれならがエンディングを迎えていきます。

  このようにアルバムをレビューしてみましたが、このアルバムは隠れた名盤として語りつがれてもおかしくないないクオリティということを再認識しました。 1971 年という時代には早すぎた感すらあります。 このまま何枚かアルバムをリリースしていけば、Kenny Rankin や Michael Franks のようになったかもしれません。 あるいは、もっと AOR に寄った進化もあったかもしれません。 しかし、不幸なことに GWP はこのアルバムを最後の作品としてリリースした後に、倒産してしまったのです。 それを知った彼の失意はいかほどのものだったのでしょうか。 苦労して手にしかけた夢が途絶えてしまったのです。

  彼のその後については誰にもわかりませんが、自身のリリースはおろか、セッションとしての参加や楽曲提供もほとんど無かったようです。 ところが、興味深いサイトを発見しました。 Explore Talent というサイトに彼が登録していたのです。 それによると彼は現在 60 歳、まだニューヨークに在住しており、まだ音楽活動に意欲を燃やしているようでした。 どんなに辛いことがあっても乗り越えていく… 彼もそうした強い人間のひとりだったのです。

■Georgie / Only Me■

Side 1
Scarlet Lace
Fly
The Brown Eyed Kind
A Man’s Kind Of Woman
When The Good Times Rolled
A Million Miles High

Side 2
Mrs. Martin
Candy Store Blues
Next Summer
Only Me
Your Cake And Eat It
I’ll Chase Your Tears Away

Produced by Andy Wiswell
Published by Five Stars Music Inc.
Words and Music by George Rizzo
Conducted by Dick Hyman
Recorded at Century Sound Studio
Engineer : Joe Benneri

GWP records / ST-2040