Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bat McGrath

2011-07-23 | AOR
■Bat McGrath / The Spy■

  前回とりあげた Robert John のジャケットに雰囲気が良く似ていることから、今日は Bat McGrath が 1978 年に発表したアルバムを取り上げてみました。
  Bat McGrath は、1969 年に Bat McGrath and Don Potter でレコード・デビューした SSW 。 その後 1970 年にファースト・ソロ「Friends And Love」を発売し、この「The Spy」が 4 枚目のソロとなります。 彼のソロは本作しか聴いたことがありませんが、初期のフォーキーなサウンドから徐々に AOR 寄りに変化していったようです。
  クレジットを見ると、プロデューサーには Jimmy Webb や Randy Edelman などを手がけた Matthew McCauley と Fred Mollin の強力タッグに加え、盟友 Don Potter も全面的に協力しており、盤石な態勢でこのアルバムが作られたことが想像できます。

  オープニングを飾る「The Spy」の流麗な始まり方は、贅沢な味わいの AOR アルバムの始まりを予感させる素晴らしいもの。 シルクのようなストリングスや甘いギターの音色も相まって、欠点の見出せない名曲に仕上がっています。 ホーンセクションが入って賑やかな「Grow Light」に続くメロウなバラード「You Should’a Asked」は適度にエモーションが抑制された佳作。 「How Would You Like A Punch?」はカントリー・テイストが感じられるワルツ。 スケール感のあるバラード「You Never Fooled Me」で A 面はゆるやかに幕を閉じます。

  テンション高めのロックンロール「Naples」で B 面がスタート。 つづく「Perfect Fool」はアルバムを代表する秀逸なバラード。 堂々とした佇まいと哀愁が重なり合った曲調は後世に残るべき出来栄えだと思います。 つづく「I Think It Stars With ‘M’」はさりげないタッチだけが印象に残る2分20秒の小曲。 つづく「Angel」はアコギのソロやフェンダーの音色が切なく響くメロウなナンバー。 サビのメロディーなどは AOR のコンピレーション・アルバムに選曲してもけして劣ることのない味わいです。 ラストの「Mornin’ Harv」も流れを組みながら、よりリラックスしたムード。 過ぎ去っていく夏を惜しむかのようにアルバムはエンディングを迎えます。

  こうしてアルバムを聴き通してみると、AOR のアルバム・ガイドに入れても差し支えのない作品だということを再認識しました。 あいにく CD 化されていないことから、あまり認知されていないことはもったいないと思います。 前回の Robert John もそうですが、良質な大人向けのロックを奏でながら、もてない片思いの男を想起させるジャケットなのは、その時代の流行りだったのでしょうか。 それとも、一人でもてまくっていた Boz Scaggs を意識してしまったからなのでしょうか。
  Bat McGrath のサイトを見るとすっかり白髪になった初老の男性が写っています。 きっと、彼は気ままにマイペースで音楽をやっているのでしょう。 そして今はより身近な形での音楽を楽しんでいるようで「House Concert」という宅配ライブを行っていました。 

■Bat McGrath / The Spy■

Side 1
The Spy
Grow Light
You Should’a Asked
How Would You Like A Punch?
You Never Fooled Me

Side 2
Naples
Perfect Fool
I Think It Stars With ‘M’
Angel
Mornin’ Harv

Produced by Matthew McCauley and Fred Mollin
Strings Arranged by Matthew McCauley
Horn Arranged by Matthew McCauley
All Lyrics and music ny Bat McGrath except ‘ I Think It Stars With ‘M’’ by Bat McGrath and Don Potter
Recorded at Manta Studio Company, Tronto

Fred Mollin : acoustic guitar, percussion, background vocals, saxophone
Matthew McCauley : percussion, background vocals, synthesizer
Don Potter : acoustic guitar
Tony Levin : bass
Tom Szczesniak : bass
Terry Clark : percussion
Etha Potter : electric guitar
Bob Mann : electric guitar, slide guitar
Bobby Ogdin : fender rhodes, piano, organ
John Capek : fender rhodes
Larrie Londin : drums
Debbie Fleming : backgrounda vocals
Colina Phillips: backgrounda vocals
Sharon Lee Williams: backgrounda vocals
Liam McGrath : background vocals
Bert Hermiston : saxophone
Russ Little : horns
Pat LaBarbera : horns
Don Englert : horns
Gary Morgan : horns
Ron Dann : steel guitar
Andrew Hermant : banjo

Amherst AMH-1011

Robert John

2011-07-18 | AOR
■Robert John / Back On The Street■

  節電の夏が始まりました。 連日のような猛暑日、そして熱帯夜。 まだ 7 月下旬なのであと 1 ヵ月以上もこんな毎日が続くかと思うと体じゅうから力が抜けていく感じです。

  そんななか、1980 年の AOR 名盤がようやく CD 化されるというニュースを知りました。 数ある AOR の名盤のなかでも、納涼効果は指折りの存在ともいえるこのアルバムが夏の盛りにCD化されるとは節電対策の一環ではないかと思えるほど、ぴったりなタイミングです。 

  本作「Back On The Street」は Robert John の 4 枚目のアルバムにして彼の現時点での最終作です。 1 枚目「If You Don’t Want My Love」(1968)と 2 枚目「On The Way Up」(1972)はレコード会社の事情による再発というニュアンスが強く、ほとんどの曲がだぶっているので、このアルバムが実質的には3枚目と考えたほうがいいかもしれません。 
   12 年間で 4 枚とは、かなり寡作な人ではありますが、そのキャリアは侮れません。 彼は 1979 年に発表した「Robert John」から、シングル「Sad Eyes」をわずか 1 週ではありますが、全米ナンバー 1 に送り込んでいるのです。 The Knack と Michael Jackson の間にうまくハマった幸運もありますが、全米チャート 1 位を記録したミュージシャンにしてはその存在感はあまりにも希薄です。 しかも彼は 1972 年に The Tokensの「ライオンは寝ている」をカバーして、全米 3 位に送り込んだ前歴もあるのです。 それなのに、彼の存在はウスバカゲロウのように、弱々しくはかなく思えます。 それは、1980 年以降の消息不明とウスバカゲロウの短命がオーバーラップすることもありますが、Robert John の最大の魅力である独特のファルセット・ボーカルに通じるものを感じ取ってしまうからでしょう。

  アルバムは完ぺきな入り方をします。 イントロのエレピ、やや遅れて入ってくるリズムセクション。 この数秒間だけで至福の空間へ誘われる感じです。 その「(So Long) Since I Felt This Way」は素晴らしいメロディとノスタルジックな歌詞が融合した傑作で、しかもエレクトリックシタールまで挿入され、すでにメロメロになってしまいます。 つづく「Hey There Lonely Girl」は 1970 年の Eddie Holman の名曲のカバー。 ほんのり甘く香る彼女の匂いを感じながら、海辺の夜にこんな曲を聴けたら最高に幸せでしょう。 ちなみに、この曲は山下達郎もカバーしています。 つづく「Just One More Try」も流れを汲んだメロウなバラード。 「On My Own」は、キャッチーなサビが日本人受けしそうなミディアム。 恋の甘さと切なさがまじりあった「Give Up Your Love」はメロウなさざ波のように完ぺきな A 面を締めくくっていきます。
  B 面は誰でも知っている The Four Seasons の「Sherry」のカバーで幕開け。 Robert John のボーカルと選曲センスのマッチングの正しさを実感する出来栄えです。  つづく「Winner Take All」はやや憂いのある感触からさりげないサビへの移行が素晴らしく、地味ながらこのアルバムを引き立てる名曲です。 サックスソロもクールな後味を残します。 ギターのイントロは日本のニューミュージックのような「Hurtin’ Doesn’t Go Away」は Robert John の自作曲。 曲が少し弱いかなあという印象です。 タイトル曲の「Back On The Street」は Jackson Browne が歌ったほうがいいのでは、と思うような爽快なナンバー。 サビのリピートで転調することもリスナーに読まれてしまうような予定調和な展開に好感するのですが、3回もするとは侮れませんね。 ラストの「You Could Have Told Me」は、お決まりのスムース&メロウな楽曲。 夜の海辺でモヒートでも飲みながら、アルバムを聴き終えた後のことを考えるカップルのために与えられた 3 分 22 秒です。
 
  しかし、34 度くらいある昼間に窓を開けて自然の風だけでこのアルバムを 2 回聴きましたが、不思議と熱さを感じませんでした。 冗談のように聞こえるかもしれませんが、このアルバムは体感気温を 2 度くらい下げて感じさせる効能を持っていると思います。 嘘だと思ったら、Amazon で CD を買ってみてください。
  
  いまは 2011 年、ほとんどの名盤が CD 化されているのに、今日まで忘れられてしまったこのアルバムが今年再発されるのは、何かの奇遇としか思えません。 今年の夏はクルマのなかではこのアルバムばかり聴くことになるのでしょう。 映画「波の数だけ抱きしめて」のような世界感に浸りたい方にもお薦めの名盤です。

■Robert John / Back On The Street■

Side 1
(So Long) Since I Felt This Way
Hey There Lonely Girl
Just One More Try
On My Own
Give Up Your Love

Side 2
Sherry
Winner Take All
Hurtin’ Doesn’t Go Away
Back On The Street
You Could Have Told Me

Produced by George Tobin
Arranged by George Tobin and Mike Piccirillo
Recorded and mixed at Studio Sound Recorders, North Hollywood, California

Drums : Craig Krampf, Ed Greene on ‘Hey There Lonely Girl’
Bass : Scott Edwards, Wade Short on ‘Hey There Lonely Girl’
Guitars : Mike Piccirillo, Bill Neale played solo on ‘Just One More Try’
Keyboards : Stewart Levin, Bill Cuomo on ‘Just One More Try’ and ‘Back On The Street Again’
Synthesizers : Mike Piccirillo
Sax : Joel Peskin
Harp : Katie Kirkpatrick
Bells : Mark Zimosky
Electric Sitar : Mike Piccirillo
Background Vocals : Robert John and Mike Piccirillo, Edna Wright and Darlene Love on‘Hey There Lonely Girl’

Horn arrangements : Gary Scott on ‘(So Long) Since I Felt This Way’ and ‘winner Take All’

EMI America SW-17027