Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Jon Tabakin

2006-05-31 | Soft Rock
■Jon Tabakin / Jon Tabakin■

 ‘A good melody is like a good friend.’

 今日は、裏ジャケットのクレジットにこっそりとこんなメッセージをしのばせた Jon Tabakin のアルバムを紹介したいと思います。 このメッセージを読むと、大学生の頃の自分の失言を思い出します。 その頃、大学のゼミ仲間では音楽の嗜好のあう同期が多く集まっていて、そんななか僕はシラフで「つまんない女の子とデートしているよりは、いいアルバムを何枚か聴いているほうがいいな」みたいな趣旨の発言をしました。 それが小さい輪のなかで反響を呼び、「女性よりレコードに価値を見出す男」みたいにからかわれたのです。 そんなにひどいことを言ったつもりでもなかったのですけど、言い方が悪かったのかな、と今でも思ったりします。

 さて、それはさておき、この Jon Tabakin のレコードは、今までほとんど紹介されたことがないレア盤だと思います。 特に最近ではアメリカの中古市場で 100 枚しかプレスされていないという情報が流れてしまったせいで、e-bay などでも三桁ドルが相場になってしまっているようです。 プレス枚数が非常に少ない自主制作盤であることは間違いないと思いますが、100 枚というのはウソだと思いますね。 僕は、このレコードを 20 ドルくらいで買いましたし、5 年頃前には神保町の某レコード店で 3,000 円前後で売られているのを目撃しています。

 このアルバムを初めて手にしたとき、この顔とメガネからして、Randy Newman風、もしくは Randy Edelman 風な SSW に違いないと思ったものです。 ところが、1 曲目でそんな予想は撃沈。 まったく予期しなかったソフトロックなアルバムだったのです。 
 1 曲目 「It’s Never Too Late To Smile」で SSW 風の予想はキレイに裏切られます。 イントロも無く一気に始まるボーカルに猫だましを喰らい、その曲の良さに一気に押し切られてしまいました。 この左右のチャンネルで絶妙に異なるボーカルテイクを重ね合わせ、ビーチボーイズ風のコーラスを味つけしてしまう展開にはゾクゾクします。 曲のタイトルで何かあるなとは直感するものの、アルバムの幕開けにふさわしい素晴らしい仕上がりです。 つづく、「Your Eyes」は、軽いボサノバ・タッチのイントロで始まる憂いを帯びたミディアム・ナンバー。 左右のユニゾン風ボーカル録音はここでも聴かれます。 この曲は 1 曲目と違いボーカルの勢いに流されないサウンドなので、バックの音が良く聴こえます。 そして、Jon Tabakin が多彩な楽器を操るミュージシャンではあるものの、凄腕でもないということが判明します。 気恥ずかしいほどのテンションの高さで始まる「I’ve Got Bad News」は、パワーポップに近いサウンド。 一転、ソフトバラードの「Where Are The Angels」では、予定調和な展開とは分かっていてもその甘い展開にハマッてしまいます。 サビの重なるエンディングではフェードアウトがちょっと早すぎて惜しいですね。 これもサビで始まる「The Day Were Long , The Nights Were Sweet」は、スローなブギ調(昔、そんな曲ありましたね)の曲。 途中でアップな曲調に展開しますが、また戻ってきます。 A 面ラストの「Home Is Us Together」は、軽いサーフ調の曲。 すでにおなかいっぱいになって A 面が終了します。

 B 面では、ニルソン風のミディアム「It’s The Little Things」で始まり、派手なシンバルの連打がテンションの高さを象徴するような「I’m Gonna Love You」と続きます。 ボーカルパートで押し通すタイプの曲「Let’s Do It Again」では途中で数秒間、聴くことができるギターソロのたどたどしさが印象に残ります。 この 3 曲は、A 面の個性豊かな曲に比べては地味に聴こえてしまいます。 それはメロディと展開において、ちょっとアイディア不足なのが要因でしょう。 ガットギターの静かなイントロで始まる「I Never Realized」は、一聴では平坦なバラードに聴こえてしまいますが、ラストの落としのサビの部分の味わいが決め手。 ここは何度も聴かないと良さが伝わらないように意図されているかのようです。 続く、「I’m Takin’ My Time」は子供向け娯楽番組のテーマのようなノリに聴こえてしまいますが、次第に落ち着きを取り戻します。 後半で聴けるチープなオルガン・ソロが聴き所でしょう。 そして、ラストの「You Mean Much More To Me」は、Jon Tabakin 得意のイントロなし即歌スタイルのミディアム・ナンバー。 途中曲調がハードにソフトにと切り替わってアイディア豊かな楽曲です。 そして、I Love You というメッセージともにフェードアウトしたかと思うと、またフェードイン。 そんな子供だましなのですが、僕は久しぶりに聴いたのですっかり忘れており、やられてしまいました。 

 そんな内容のこのアルバムですが、自主制作レベルではクオリティの高い名盤だろうと思います。 どんな形容が相応しいかをあれこれ考えたのですが、とてもマイナーな比喩で言うならば、Mark Eric と Robert Lester Folsom を足して 2 で割ったようなサウンドではないかと思います。 こんな例えでは伝わらないと思うのですが、他に形容するフレーズが思いつきません。

 Jon Tabakin は、10 代の頃からカリフォルニア大学の学生時代にかけて、ピアノ・ギター・ベース・オルガン・ボーカルそして作曲を学んできたとジャケットに書かれています。 おそらく独学でしょう。 そして 1975 年、自身のレーベルだと思われる Larrow Records から満を持して世に送り出されたのがこの作品。 彼のファーストにして唯一のアルバムなのです。 Jon Tabakin についてインターネットで検索してみましたが、このアルバム以降の足取りは一切つかめませんでした。 何となく勝手にお金持ちなのではないかと想像しているので、西海岸で会社経営でもしていそうなのですが。



■Jon Tabakin / Jon Tabakin■

Side-1
It’s Never Too Late To Smile
Your Eyes
I’ve Got Bad News
Where Are The Angels
The Day Were Long , The Nights Were Sweet
Home Is Us Together

Side-2
It’s The Little Things
I’m Gonna Love You
Let’s Do It Again
I Never Realized
I’m Takin’ My Time
You Mean Much More To Me

Music and Lyrics by Jon Tabakin

Many Thanks for the help of
Bruce McCoy : drums
Tari Tanbakin : photos
Bill Taylor : album design
Hank , Roger and Randy , at United Audio
A very special thanks to Geroge Garabedian

Larrow Records LR 100

The Movies

2006-05-28 | AOR
■The Movies / The Movies■

 Arista といえば、同レーベル史上で最も情けないジャケットだと思われる(ついでに言ってしまうとグループ名もですが)The Movies を忘れてはいけません。
 彼らの唯一と思われるアルバムは 1976 年のリリース。 一説にはセカンドアルバムもあるとのことですが、The Movies という同名のグループが複数存在するようで、セカンド説の真偽のほどはわかりません。 ジャンルを AOR としてしまいましたが、これは自分でやっていておかしいですが、ウソですね。 内容的には、POPS というジャンルがあったらそこに収納します。
 
 このアルバムを手にしたほとんどの日本人がそうであると推測されるように、僕はこのアルバムをジャケット買いではなく(当然ですが)、プロデューサーのVini Poncia の名前で買いました。 それも 10 年以上前に 500 円箱のなかから見つけた感じです。 もし、プロデューサーが無名の人、もしくは興味のない人物であったら、このアルバムを聴くことは無かったでしょう。
 そんなアルバムではありますが、こうして聴くことができたことを、ほんの少し感謝したい気分になったりします。 一番好きな曲は買ったときから今でも「Rainy Weather」なのですが、久しぶりに全曲通して聴いてみたところ、案外出来が悪くないということを感じました。 Arista に残された未 CD 化作品で一番 CD 化して欲しいのは、David Pomeranz の「It’s In Everyone Of Us」ですが、この The Movies もついでにどさくさに紛れて CD になったらいいなと思います。

 A 面では、「Rainy Weather」と「Satellite Touchdown」がお薦めです。 前者はポップな曲調にコーラスアレンジやサビの繰り返し方などがお気に入りの曲だったのですが、改めてクレジットを見て驚きました。 この曲には、5 月 2 日のブログで紹介した Prairie Madness のメンバーの Edward Mills が作曲で参加していました。 地味に作曲活動を続けていたのですね。 「Satellite Touchdown」は、いまや映画音楽界の巨匠とも言える James Newton Howard が ARP シンセサイザーで参加しています。 この曲は、部分的に軽いグルーヴ感が漂ったりしていい雰囲気を出してます。
 B 面では、最初の 3 曲のクオリティが高いです。 60 年代風なポップスに近い「Empty Room」は聴いてるほうがちょっと照れてしまいそう。 続く、「If I Can Just Get Through Tonight」は、Vini Poncia の元同僚でもある Peter Anders の作品です。 これもミディアムなポップソングですね。 イギリスのメロディックなロックバンド「Smokie」のベストアルバムに収録されていそうな曲です。 「You Think You’re Too Good To Be True」も前 2 曲からの流れを消さない曲調です。 ここまでくれば見事な B 面になってほしかったのですが、以降の 2 曲はちょっと肩透かし。 もったいない気持ちのままアルバムは幕を閉じます。

 まさに B 級ニッチポップの王道とも言える The Movies ですが、メンバーの仲も良かったのか、こんなジャケットになってしまったおかげで B 級から C 級の間をただようような存在になってしまいました。 ちなみに、ほとんどのリードボーカルは Michael Morgan が担当してますが、「American Beauty Rose 」と「Sugarloo」は Ted が、ラストの「Would You Believe」は Peter がリードをとっています。



■The Movies / The Movies■

Side-1
Dancin’ On Ice
Rainy Weather *
American Beauty Rose
Satellite Touchdown
Better Wages , Better Days **

Side-2
Empty Room
If I Can Just Get Through Tonight ***
You Think You’re Too Good To Be True **
Sugarloo
Would You Believe

Produced by Vini Poncia
Engineer : Bob Schaper

All Words and Music Are Written by Michael Morgan
Except * Music by Michael Morgan and C. Edward Mills
** Words and Music by Michael Morgan and Peter Barnes
*** Words and Music by Peter Anders

The Movies are :
Michael Morgan : acoustic piano , Electric Piano , mellotron , synthesizers , ‘Bruce’ harp , kazoo
Peter Barnes : acoustic guitar , electric guitars , mandolin , violin , chimes , shakers
Ted Medbury : drums , percussion , toys , harmonica

Guest Musicians
Davy Faragher : bass
James Newton Howard : arp synthesizer on ‘Satellite Touchdown’
Strings on ‘If I Can Just Get Through Tonight’ arranged and conducted by Barry Fasman

Arista Records AL 4085

Andy Mendelson

2006-05-27 | SSW
■Andy Mendelson / Maybe The Good Guy’s Gonna Win■

 異色のピアノ系 SSWとして知られる Andy Pratt の盟友もしくは弟子のような存在が、この Andy Mendelson です。 Andy Pratt のアルバム「Shiver In The Night」の裏面に写真入りでクレジットされていることから興味を持ち、たどり着いたのがこのアルバム。 1978 年に名門 Arista からリリースされました。
 Arista といえば、敏腕 Clive Davis が創設したレーベルで、1970 年代後半は、多くの名盤を残しています。 一番の稼ぎ手は Barry Manilow だったと思いますが、AOR ファンには、Silver や Gino Vanelli を思い出す人が多いのではないでしょうか。 個人的には、その影で Randy Edelman の 2 枚、そして David Forman などがお気に入りです。 いずれも、近年国内盤で CD 化されましたが、Randy Edelman 以上に David Forman の CD 化に感激したのを覚えています。 
 
 さて、この Andy Mendelson のアルバムは、発売当時も国内盤が出されなかったようで、ほとんど知られていない作品だと思います。 当然のように CD 化されていませんが、それも仕方ないかなという内容です。
 印象的な曲を取り上げてみましょう。 まず 1 曲目「Lifetime Woman」。 この曲は、強めのタッチのピアノで始まるのですが、時代的にも明らかに Billy Joel を意識したサウンドなのです。 A 面の 1 曲目に持ってくるのはマーケティング的には当然の戦略とはいえ、ちょっと似すぎかなとも思います。 続く「Fire in the Night」はユニークなサビが耳に残ります。 バラード調からミドルテンポに流れていく「We All Fall Down」はオーソドックスな展開ではあるものの、アルバム全体を通じて最もレベルが高い曲だと感じます。 B 面の「Outside My Window」は、上品で格調の高い作品。 流麗なオーケストレーションに魅かれます。 「Fortunately」は、Andy Mendelson の恋人であった Kathy Lou という女性のことを実名入りで歌った曲。 つまりは「おのろけソング」ですね。 かなり興ざめです。 二人がいまでもカップルならば許せますけどね。

 そんな内容なわけで、このアルバムは Andy Mendelson の唯一の作品になってしまいました。 クレジットを見ると Andy は、ほとんどの楽器を演奏することができるマルチ・プレイヤーなのですが、その多彩ぶりをゲスト・ミュージシャンとして発揮することもなく、表舞台から消えていってしまったようです。 



■Andy Mendelson / Maybe The Good Guy’s Gonna Win■

Side-1
Lifetime Woman
Fire in the Night
We All Fall Down
Free Is Free
Maybe The Good Guy's Gonna Win

Side-2
Hold On
Sweet Persuasion
Outside My Window
Fortunately
What Makes Me the One

Produced by Harry Maslin
Engineered by Rivhard Mendelson

Words and Music by: Andy Mendelson except ‘We All Fall Down’ by Andy and Richard Mendelson

Andy Mendelson : Synthesizer, Main Performer, Vocals (Background), Vocals, Keyboards, Bass, Guitar, Piano
Richard Mendelson : drums
Frank Defonda : drums on ‘Fire In The Night’ , ‘Hold On’ and ‘Outiside My Window’
David Shapiro : bass except ‘Maybe the Good Guy's Gonna Win’ and ‘ We All Fall Down’

Saxophone : Greg Hawkes , Tom Scott , Joe Farrell and Ernie Watts
Background Vocals : Andy Mendelson , Andy Pratt , Mary Haslin , Gail Heiderman , Greg Owens , Laura Creamer
Hand Percussion : Richard. Andy. Harry. Joe and John Hart , Bobby Rook

Arista Records AB 4207


Dan Jenks

2006-05-24 | SSW
■Dan Jenks / Say No More■

 繊細そうな青年が微笑しながらフルートを手にしているジャケット。 一見すると、フルート奏者のインスト作品かのように見えてしまうこのアルバムは、Dan Jenks が 1981 年に発表した SSW の名盤です。
 このアルバムは、シュリンクビニールに 1970 年代に活躍した SSW である 「Shawn Phillips 参加」ということだけを印刷したステッカーを貼ったり、裏面にはやはり Shawn の Dan Jenks 絶賛コメントが印刷されていたりと、他人頼りのプロモーション展開がやや興醒めなところが第二印象として残っています。 僕はそのステッカーの緑色やデザインが嫌いだったので、開封口しか開いていない状態だったのですが、ビニールを破り捨ててしまいました。 
 
 そんな Dan Jenks のアルバムですが、内容の素晴らしさで SSW ファンのなかでは有名なものだと思います。 ちょっとドキドキしながら、久しぶりに針を落としてみました。
 A 面 1 曲目の「My Part」は、本人の弾く軽やかなエレピをバックにしたソフトロック調の曲。 クレジットを見ると、かなり多くの楽器を本人がこなして、それをオーバーダビングしていることがわかります。 だからと言ってぎこちなさは全く感じません。 後半のフルートソロが心地いいですね。 この曲でアルバムの全体像がつかめると思います。 つづく「For My Lady」はアルバムの代表曲。 チェロの響きがおごそかな気分にさせてくれるイントロから展開していくアレンジの見事なこと。 楽曲の出来も素晴らしく、フルートとチェロがシンクロするあたりは、緩急自在の投球術という感じで、リスナーは見送り三振という感じです。 一転して、バロック調のギターをバックにしたシンプルな「A Child」へ。 Shawn は本当に器用な人なんだなということを実感します。 つづく「The Old Cliché」もステキな楽曲。 フルートとチェロが入ってくるとスピーカーからマイナス・イオンが出てくるかのような気分にさせられます。 A 面ラストの「Windy Winter Whisperings」は、硬めのチューンにしたギターと重々しいチェロの対比が印象的な仕上がりです。
 B 面に移りましょう。 軽いフュージョン・タッチの「In These Cackling Cafes I Pray」は、繰り返されるリフが George Benson の「Breezin'」を連想させます。 あちらもメロウな曲ですが、こちらもエレピとフルートのソロが短く交互にかけあう部分など、かなりメロウです。 Shawn がバックコーラスで参加した「Roots Of War」は、他の曲にない雰囲気を持っています。 地味というか重めというか、シリアス度が高いという感じの曲ですね。 曲名からして、歌詞の内容もそうなのでしょう。 かろやかなギターに導かれて始まる「Something Secret」は、アップテンポで軽快な曲。 参加している Mark Neuenschwander との会話まで収録されたアルバムタイトル曲「Say No More」は、ライブレコーディングか一発録りのどちらかだと思います。 Dan Jenks のボーカルもかなりリラックスしてるように聴こえます。 ラストの「After Darkness Takes Its’ Toll」は、mini-moog で作り出された雨と雷の SE 音から始まります。 序盤はスローな楽曲の上に Shawn のバックコーラスが響き幻想的な感じですが、曲調が次第にアップになっていく様は希望に満ちた感じです。 そして、最後はまた SE で幕を閉じていきます。

 アルバムを聴き終えると、充実した内容にかなり満たされた気持ちになります。 入手しにくいアルバムのなかには、たいした内容でない作品も多かったりするのですが、このアルバムのクオリティの高さは保証できるものだと思います。
 本名、Daniel Aaron Jenks 。 彼のこのアルバム以外の作品をぼくは知りませんが、もしかして唯一のアルバムなのでしょうか? だとしたら、もったいない才能の持ち主なだけに、残念です。 Shawn Philips が裏ジャケで、extremely creative musician と語っているのですが、これはウソではありませんね。



■Dan Jenks / Say No More■

Side-1
My Part
For My Lady
A Child
The Old Cliché
Windy Winter Whisperings

Side-2
In These Cackling Cafes I Pray
Roots Of War
Something Secret
Say No More
After Darkness Takes Its’ Toll

All the songs written , arranged and produced by Dan Jenks
Engineered by Mark Copenhaver

Recorded at Soundsmith Recorders , Inc. Indianapolis , Indiana

Dan Jenks : lead and harmony vocals , acoustic and electric guitars , flute , alto flute ,
electric piano , mini-moog , fretless bass
Art Reiner : drums and congas , percussions on A-①④⑤ , B-①③ , timpani on B-⑤
Steven Morse : harmony vocals on A-①④ , B-①③
Marjorie Lange : cello on A-②④⑤ , B-③
Randy Kemp : drums and percussion on A-② , B-②
Leo Thompson : bass on A-② , B-②
Bob Airis : drums on A-④
Steve Dokken : fretless bass on B-①
Charles ‘Skeet’ Buchor : electric piano on B-①
Cliff White : congas on B-①
Steve Lester : triangle on B-①
Shawn Philips : background vocals on B-②⑤
Mark Neuenschwander : acoustic bass on B-④
Mark Copenhaver : mini-moog on B-⑤

Natural Act NA 8101

Nicholas Lampe

2006-05-21 | SSW
■Nicholas Lampe / It Happened Long Ago■

 世界最大規模のレーベル Atlantic 傘下の Cottilion からリリースされたNicholas Lampe のこのアルバムは、スワンプ系のアルバムと紹介されることが多いと思います。 たしかにクレジットを見ると、Muscle Shoals の面々が揃って参加しており、ジャケットのNicholas のたたずまいを見ても、泥臭いサウンドを想像しがちだと思います。 僕も、そんな印象をずっと引っ張っていて、このアルバムを聴いたのは今世紀になってからは初めて、というくらい敬遠していました。 ところが意外なことに、このアルバムはそれほどスワンプ色が強いものではなく、むしろナイーブな SSW 作品といったほうがいい内容でした。 そんなこのアルバムは、Nicholas Lampe が 1970 年にリリースした唯一の作品。 先ほども書きましたが、Roger Hawkins や Barry Beckett などの面々が参加しており、Muscle Shoals ファンはそれだけで買いでしょう。 

 自分のレコード棚には、内容を忘れてしまったアルバムは自分の在庫の半分くらいはあります。 僕がこのブログを立ち上げて 2ヵ月経ちますが、そんな事態をさけるための備忘と、アルバムを通して聴くための動機づけが、ブログ開設の理由のひとつとも言えるのです。 40 過ぎて、サラリーマンをやっていると、残りの人生で、これらのアルバムを一体あと何回聴くのだろうか、と考えてしまうことがありませんか?

 さて、アルバムの印象をまとめてみましょう。  Nicholas の声ってこんなにか弱い感じだったっけと思ってしまうソフトタッチな「Flower Garden」でアルバムは始まります。 つづく「After The Rain」は、エレピ・ギター・ストリングスなどの演奏とアレンジがメロウなスローナンバー。 A 面ではこの曲がベストかも。 憂いのあるメロディが歌謡曲っぽく聴こえる「Too Many Children」に続いて、ソウル風のイントロで始まるバラード「I’m A Gambler」です。 この曲はもう少しメロディにキレがあればと感じる惜しい曲です。 金属的なギター音が古臭く、ある意味では最もスワンピーな「Ballad To Love」は、ちょっと僕にはいただけませんね。
 B 面に入ると、「Don’t Blame It On My Mind」、「Laughter’s Secrets」と地味な曲に続いて、Roger Hawkins のドラムがユニークなワルツ「Life Of A Child」と進みます。 このまま終わってしまっていいのかという気分になったところで、「How & Why」に突入。 この曲はアレンジと演奏センスも抜群の佳作です。 アルバムではベストトラックだと思いますが、やはりもう少しメロディーにフックが欲しいところです。 ラストの「Fight For Our Right」も、リラックスした感じのボーカルが曲調にマッチしたスローな曲。 この曲は淡々として過剰にしないところに好感が持てますね。

 こうしてアルバムを通して聴くとサウンド面で最も貢献しているのが、Barry Beckett のキーボードだと感じました。 彼のサポートセンスはさすがですね。 続いての貢献は、大御所 Arif Mardin のストリングスアレンジです。 アルバム全体のプロデュースをしなかった理由はどこにあるのかなと考えてしまいました。
 そんな有名ミュージシャンに支えられてデビューした Nicholas Lampe ですが、このアルバムを出して以降の足取りは不明です。 裏ジャケットには、彼と幼い息子(だと思います)が写っていますが、この二人は今頃どこで何をしているのでしょうか。



■Nicholas Lampe / It Happened Long Ago■

Side-1
Flower Garden
After The Rain
Too Many Children
I’m A Gambler
Ballad To Love

Side-2
Don’t Blame It On My Mind
Laughter’s secrets
Life Of A Child
How & Why
Fight For Our Right

All Selections written by Nicholas Lampe
Recorded at Muscle Shoals Sound Studio , Alabama

Nicholas Lampe : guitar
Roger Hawkins : drums
Barry Beckett : keyboard
David Hood : bass
Jimmy Johnson : guitars
Eddie Hinton : guitars

Recording Engineer : Marlin Greene
The Strings Arrangements are by Arif Mardin
Produced by Ahmet Ertegun and Jackson Howe

Spiritual Advisors : David Astor ,Frank Borngiorno , Dion , Kenny Rankin

Cottillion SD 9038

Lyn Christopher

2006-05-20 | Female Singer
■Lyn Christopher / Lyn Christopher■

 この夏、UDO Music Festival というイベント開催されますが、2 日目のメインがKISS ですね。 たしか、以前最後の来日という名目でライブをしていたような気がしますが、どうなんでしょう。
 さて、そんな KISS のコアファンが追い求めているのが、1973 年に Paramount Records からリリースされた、Lyn Christopher の唯一のアルバムです。 というのも、KISS の Gene Simmons と Paul Stanley の名前がクレジットされている最古のレコードだからなのです。 KISS のデビュー前でもあり、そんな理由からこのアルバムは KISS のファンサイトで検索されることが多いですね。

 ところが、アルバムを通して聴いても、女性バックコーラスはよく聴こえてくるのですが、Gene と Paul の声がよくわからないのです。 裏声で薄くハモっているのだと思いますが、はっきりとこの曲に参加しているとは僕には断定できませんでした。

 アルバムはまったりしたアレンジの古臭いポップソング「She Used To Wanna Be A Ballerina」で始まります。 サビの部分は、1973 年にしては時代遅れという感じのいなたさで、フェードアウトも遅いのでちょっとしつこい印象を覚えます。 つづく「I Don’t Want To Hear It Anymore」は、Randy Newman の曲。 Dusty Springfield のバージョンがオリジナルのようです。 A 面でのベストトラックですが、こちらはフェードアウトのタイミングが変てこです。 Neil Diamond 作曲の「Canta Libre」は聴いたことがあるようなないような、です。 続く「Weddin」は売れないわりに 4 枚もアルバムを残した女性 SSW の Patti Dahlstrom の曲ですが、元気の良さばかりが目立っていまひとつの出来。 チェンバロみたいな音で始まる「Celebrate Ⅰ」は、B面の「Celebrate Ⅱ」へのつなぎとなる役割を持っている曲でした。
 B 面に入りましょう。 つなぎの「Celebrate Ⅱ」に続いて、最も SSW 的な趣きをもった曲「All My Choices」が始まります。 Spencer Michlin と Jon Stroll という人が曲を書いていますが、詳しい経歴などは不明です。 ミュージカルの曲みたいな雰囲気で可愛らしい「Is Everybody Happy」、オルガンの音のみをバックにしたささやくようなバラード「Unrequited」と続く、この 3 曲の流れがアルバムのハイライトでしょう。 ちなみにこの「Unrequited」は、Al Kooper の曲。 彼の最高傑作とも言える「Naked Songs」(邦題:赤心の歌)にオリジナルが収録されています。 「Take Me With You」は単調でつまらない曲、ラストの、「Billy Come Down」も Roger Greenaway ということで期待しましたが、いまひとつでした。

 Lyn Christopher は 1 曲も曲を書いていないので、このアルバムのカテゴリーは、Female Singer としました。 内容的にも SSW とは言い難いですし、Soft Rock でもありません。 冒頭に書いた KISS のメンバー関連の希少価値を除いては、それほど価値のあるアルバムとは言えないと思います。 今後、CD 化されたとしても買うことはないでしょう。 強いて言えば、このジャケットのデザインや表情とくにメイクは魅力的です。 このツケまつ毛の広げ方は、流行の循環サイクルによっては、受けるのではないでしょうか?

 さて、最後に気になることがひとつ。 あの「つのだ☆ひろ」が歌った「メリージェーン」という曲をご存知の方が多いと思います。 あの曲は英語詞なのですが、その作詞者名がなんと Lyn Christopher なのです。 時代の整合性からみてもこの Lyn Christopher と同一人物である確率が高いと思われますが、誰がどんなツテで、作詞を依頼したのでしょうか? 肝心の自身のアルバムにも作詞しなかった彼女なので、余計に不思議ですね。

■Lyn Christopher / Lyn Christopher■

Side-1
She Used To Wanna Be A Ballerina
I Don’t Want To Hear It Anymore
Canta Libre
Weddin
Celebrate Ⅰ

Side-2
Celebrate Ⅱ
All My Choices
Is Everybody Happy
Unrequited
Take Me With You
Billy Come Down

Produced by Ron Johnsen for Lynchris Productions

Horn & Strings Arrangements : Al Gorgoni
Accordion : Ron Frangipane
Background Vocals : Maragaret Dorn , Lynda Lawley , Sharon Redd, Gene Simmons , Paul Stanley
Banjo & Pedal Steel : Eric Weissberg
Bass : Kirk Hamilton , Terry Wilson
Bongos , Congas : Jimmy Maeulen
Calliope , Harmonium , Marimbas : Ron Johnsen
Drums : Tony Braunagel , Alan Schwartzberg
Electric Keyboards : Mike Montgomery , Pat Rebillot
Guitars : Bob Mann , Hugh McCracken , Jimmy Smith , Terry Wilson
Moog : Mike Montgomery , Jimmy Robinson
Organs : Ron Johnsen , Mike Montgomery
Percussion : Tony Braunagel , Jimmy Maeulen
Piano : Ron Frangipane , Mike Montgomery , Pat Rebillot
Solo Flutes : Lou Marini Jr.
Solo Sax : George Marge

Studio : Electric Lady Studios , New York , New York

Paramount Records PAS 6051


PFM

2006-05-18 | Live Report
■Premium Japan Tour 2006 / PFM■

 先月の New Trolls に続いて、イタリアン・プログレッシヴ・ロックの代表格PFMのライブに行ってきました。 一緒に行ったのもやはり友人 K ということで、2ヶ月連続のクラブチッタ川崎です。
 PFMは、2002 年にも来日していたようで、今回の来日は 4 年ぶりの来日です。 メンバーも 60 歳近いはずですが、やはり New Trolls と同じく衰えを知らないパフォーマンスに圧倒されてしまいました。
 僕が行った日曜日のライブは、金曜日・土曜日に続いての追加公演で最終日。 高齢にも関わらず、3 日間連続でライブをする体力には頭が下がる思いです。

 ライブは、超名曲「River Of Life」 から始まりました。 Franco Mussida の爪弾くバロック調のイントロから一気にヘヴィネスの世界に突入し、静寂へと流れていく様を目の当たりにして、すでに大満足。 このときに、きっとラストは「Celebration」だろうなと思いましたが、やはり正解でした。 何人かのブログを拝見して、セットリストを見ましたが、ファーストアルバム「Photos Of Ghosts」やアメリカ市場を意識したアルバム「Chocolate Kings」からのレパートリーが多かったようです。 休憩を挟んだ二部構成が終わり、アンコールの「Celebration」は、Franz Di Cioccio の盛り上げ演出が過剰でちょっと失笑してしまいましたが、これほどのベテラン・アーティストがサービス精神いっぱいで頑張ってくれていると思うとやはりありがたいですね。

 メンバーで好対照だったのが、Franco Mussida と Franz Di Cioccio です。白髪でほとんど禿げ上がった Franco は、後ろや横の毛をふさふさに伸ばして老ライオンのような風貌。 アルペジオでアコースティックギターを弾く様は音楽学校の校長先生のようです。
 一方、ど派手なドラミングとボーカルで客席を盛り上げたのが、Franz Di Cioccio 。この人のバタリティはものすごいですね。 マイクスタンドを持ち上げたり、時には投げ上げたりするパフォーマンスを生で見たのは初めてです。 いったい、今年は 2006 年なのか、というくらいのタイムスリップ感でした。 また、自分が歌っているときにはサポートドラマーの Roberto Gualdi に叩かせて、インストパートに移ると、曲の演奏を止めないままに自分がドラムスに入れ替わるという離れ技を見せくれたりしました。 おいしいところを常に持っていかれて Franz Di Cioccio の後ろに隠れてしまう Roberto が少し気の毒にさえ思えてしまいますね。 さすが、結成から 35 年くらいにもなると、オリジナルメンバーという肩書きには、誰も何もいえない感じですね。
 さて、オリジナルメンバーといえば、当初は来日予定だった、Fravio Premoli が健康上の理由で来日できなかったのは残念でした。 しかし、代役の Gianluca Tagliavini はまったく問題なく上手なプレイヤーでした。

 10 代の頃に買ったアナログ盤の「Photos Of Ghosts」を思い出します。 その見開きジャケットの内側に、長髪のメンバーが並んで立っている写真がありました。 たしか、一番前に Mauro Pagani が写っていて、パンを横笛のように吹いている真似をしているものです。 その写真が見たくてレコード棚を探したのですが、見当たりません。 CD の時代になってからかなりのレコードを処分してしまったので、そのなかに含まれていたのでしょう。
 残念ながら、僕のもっている国内盤 CD には、あの誰も近づけない芸術家集団のようなオーラを放っていた写真は掲載されていません。 あのモノクロのメンバー写真が見たいです。 そのためだけに、レコードを買ってしまいそうな気分です。

■Premium Japan Tour 2006 / PFM■

2006年5月14日
CLUB CITTA’ 川崎

18:10頃開演 20:30頃閉演 (途中15分休憩あり)

Franz Di Cioccio : drums , lead vocal
Franco Mussida : guirtar
Patrick Djivas : bass
Gianluca Tagliavini : keyboards
Lucio Fabbri : violin , guitar , keyboards
Roberto Gualdi : drums , percussion

The Go-Betweens

2006-05-14 | Australia
■The Go-Betweens / Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981■

 オーストラリアが生んだ偉大なロックバンド The Go-Betweens の Grant McLennan が去る 5 月 6 日に亡くなりました。 ブリズベンの自宅で睡眠中に亡くなったとのことですが、詳しい死因などは公式 HP でも触れられていません。 享年 48 歳でした。

 このニュースを教えてくれたのは、来日コンサートにも一緒にいった友人 H 。 携帯メールで教えくれましたが、The Go-Betweens の Grant McLennan のことを、「G ビトのグラント」と省略しまくっていたので、最初は何のことやら分かりませんでした。
 実は彼からメールを受け取ったのは、5 月 10 日の 15 時過ぎのこと。 ちょっと気持ちを落ち着かせてからブログにしようと思って、今日になってしまいました。
 
 The Go-Betweens は、Robert Forster とGrant McLennan という二人の才能豊かなシンガーソングライターを中心としたロックバンド。 デビュー当初は、イギリスの Postcard や Rough Trade からレコードを出したりしたこともあり、「ネオアコ」のカテゴリーで語られることが多かったバンドです。 しかし、彼らのサウンドはむしろ、楽曲指向の強い大人のロックだったと思います。 時代や世代・言葉を超えて聴き継がれていってほしい音楽です。

 そんな彼らのデビュー作「Send Me A Lullaby」のデモ制作段階での音源をまとめたのが、いま聴いている「Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981」です。 買ったのはこのアルバムがリリースされた直後の 1986 年。 もう 20 年も前なのですね。 その当時は、新作かと思いましたが、裏ジャケを見て、音を聴いてすぐにデモだとわかりました。
 このアルバムは、Missing Link からライセンスを受けて制作されており、また公式サイトのディスコグラフィーの Rarities and promotional releases にも掲載されていることから準公式のアルバムと考えていいでしょう。 
 ここで聴くことのできるサウンドは、鋭角なアコギやオブスキュアなボーカルなど、The Go-Betweens の照れくさいような瑞々しさにあふれています。 演奏もかなり危なっかしいですし。 アルバムには後に「Send Me A Lullaby」に収録される曲も数曲ありますが、ここでしか聴けない音源もあることも魅力ですね。

 今も鮮明に思い出すのは、2003 年 6 月 9 日の The Go-Betweens の初来日のこと。 あかり客の入りも良くなかったのか、ちょっと余裕のあるスタンディング状態で、友人の H と K と 3 人で渋谷のクラブクアトロの最前列近くを陣取りました。 クアトロであんなに前のほうに行ったのは、他には The Beautiful South のときくらいですね。 普段着よりもラフな感じでシャツの袖まくりをした Robert と温厚そうな表情の Grant の姿を思い出します。 あのライブが最初で最後のものになってしまうとは、残念でなりません。

 さきほど訪れてみた公式サイトには、Grant McLennan Tribute という追悼の書き込みコーナーが設けられていました。 そこの書き込みのなかには、Norman Blake の名前が。 内容を見るに、間違いなく Teenage Fanclub の Norman でした。 愛すべきミュージシャン仲間からも Grant が慕われていたことがよくわかり、胸がキュンとなってしまいました。

 The Go-Betweens の名をシーンにとどろかせた超名曲「Bachelor Kisses」や哀愁極まりない「Apology Accepted」といったかけがえのない名曲を僕らに残してくれた Grant McLennan。 彼の若すぎる死に言葉もありませんが、Grant McLennan の音楽のすばらしさは永遠。 僕は一生聴き続けいていくことを誓いますよ。
Thank you, legendary Australian singer songwriter , Grant W McLennan!



■The Go-Betweens / Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981■

Side-1
Sunday Night
One World
If One Thing Can Hold Us
Hope
It Took You A Week

Side-2
Ride
Arrow In A Boy
The Clowns Are In Town
Serenade Sound
Careless

Robert Forster
Grant McLennan
Lindy Morrison

All Compositions ; R.Forster / G.McLennan / The Go Betweens

Recorded in Brisbane at Queensland Recording Studio early 1981 as demos for the ‘Send Me A Lullaby Album’

Under License From Missing Link Records

Man Made Records MM008


Murray McLauchlan

2006-05-13 | SSW
■Murray McLauchlan / Song From The Street■

 Ann Mortifee から始まった友達の輪も今回が最終回。 Bruce Cockburn で有名な True North Records からのリリースとなる Murray McLauchlan のファースト・アルバムです。 Bruce Cockburn のファーストが TN-1 という品番で発売されたのが 1969 年ですが、True North は、それ以来「one of Canada's largest indie labels」として今も存続していることになります。 これは、ものすごいことですね。 レーベル規模の大小はともかく、歴史的には最も成功したレーベルの一つといっても過言ではないでしょう。 その側面には、Columbia との流通連携が大きかったと思いますが、レーベルの黎明期にコンスタントにアルバムを出し続けた Bruce Cockburn の貢献が最も大きかったのでしょう。

 さて、この TN-4 となる Murray McLauchlan のアルバムは 1971 年にリリースされました。 このアルバム、15 年くらい前に買って以来、なんとなく聴く機会が少なかったので、アルバムを聴いたのも記憶がないほどでした。 このアルバム、実はジャケットが好みではないのですね。 買ったのも 500 円くらいだったからというのが理由でした。 

 さて、アルバムの内容をさらっとおさらいしてみましょう。 1 曲目「I Just Get Older」は、Murray のボトルネック・ギターが聴けるミディアムで陽気なチューン。 つづく、「You Make Me Loneliness Fly」はよくありがちなワルツです。 ハーモニカに導かれて始まる「Sixteen Lanes Of Highway」は、ややルーズフィットな曲。 この曲などを聴いて思うのは、Murray McLauchlan の声は癒し系でもなくスワンピーでもなく、1960 年代の古典的なフォーク界の歌い方だなということ。 つづいては、アルバムで最も好印象だった曲「Jesus Please Don’t Save Me (Till I Die)」です。 サビの部分のメロディーとボーカルが裏声になる感じはかなりキャッチーでいい曲です。 「I Would Call You My Friend」は、特に感想がないですね。
 B 面に移ると、またピアノとハーモニカのサポートが光るワルツ「One Night By My Window」につづき、6 分を越える大作「Child’s Song」となります。 この曲はアルバムのハイライトと言えるかもしれません。 淡々としたギターの弾き語りに内省的なボーカルが重なり、独特の奥深い世界観を醸し出しています。 一転して目が覚めた感じのフォークロック「Back On The Street」、ややスワンピーな「Honky Red」、アルバム中で最もハードなギターが聴ける「Ranchero’s Lament」と流れてアルバムは一気に終了します。

 そんな Murray McLauchlan ですが、このファーストアルバム以降、コンスタントに 1 年 1 枚くらいのペースでアルバムを発表しています。 しかしながら、僕はなぜか他のアルバムを入手して揃えようと思ったことがないのです。 どなたかた、このアルバムが彼の最高傑作だというものがあれば、教えていただきたいと思います。 初期の頃の作品はおそらく未だに CD 化されていないものばかりなのでしょうね。



■Murray McLauchlan / Song From The Street■

Side-1
I Just Get Older
You Make Me Loneliness Fly
Sixteen Lanes Of Highway
Jesus Please Don’t Save Me (Till I Die)
I Would Call You My Friend

Side-2
One Night By My Window
Child’s Song
Back On The Street
Honky Red
Ranchero’s Lament

All Selections written by Murray McLauchlan
Recorded and Mixed at Thunder Sound Studios and at Eastern Sound Studios , Toronto between April 13th + May 4th,1971

Produced by Eugene Martynec

Murray McLauchlan : all vocals ,guitar , harmonica , bottleneck
Barry Flast : piano
Eugene Martynec : guitar
Dennis Pendrith : bass
Eric Robertson : organ
Jay Telfer : drums

True North Productions TN-4

Jay Telfer

2006-05-11 | SSW
■Jay Telfer / Time Has Tied Me■

 前回ご紹介した John Laughlin のアルバムをプロデュースしていた Jay Telfer の唯一のソロアルバムをご紹介します。 このアルバムは、1974 年に Axe Records というマイナーレーベルからの発売です。 このレーベルは、アルバムにも参加している Fergus Hambleton のお兄さんにあたる Greg Hambleton がオーナーということで、ほぼ自主制作に近いレーベルと考えていいでしょう。
 Jay Telfer は、Passing Fancy というグループの創設者でありリーダーだった人のようです。 Passing Fancy は 1967 年のトロント万博で演奏も行ったという伝説のバンドで、1967 年には唯一のアルバムを発表しています。 このオリジナルのアナログ盤は、かなりのプレミアムがついているようですが、2000 年頃に CD 化されています。 いずれにしても僕はまだ未聴なので、機会があれば聴いてみたいと思います。

 Passing Fancy が 1969 年に解散した後も、Jay Telfer は音楽活動を続けて、1971 年の Murray McLauchlan のデビュー作にもドラムスでクレジットされています。 その後、1973 年には前述の John Laughlin のプロデュースを行い、ようやく自身のソロアルバムを発表したのが 1974 年ということになります。 さっそくアルバムの内容をおさらいしてみましょう。

 1曲目の「Anything More Than Your Smile」は、タイトルから想像できるようなポップソング。 ちょっとニルソンがこんな曲をやりそうという感じの曲です。 曲が書かれたのは 1969 年ということなので、Passing Fancy の解散前後の作品ということになります。 つづく「Yellow Hair」は、Murray McLauchlan のハーモニカに導かれて始まるカントリー調の曲。 クレジットを見て今日発見したのですが、この曲はなんと John Laughlin の曲でした。 今までまったく気がつきませんでした。 クラリネットの音色が大道芸の BGM を連想させる「Ms ‘n You」、これまた John Laughlin の曲「Rich Man’s Song」と続きます。 この曲はミディアムスローな曲で、アルバムの中でも最もシリアスな雰囲気が漂っています。 続く「Doldrum」は一転して怠惰な生活を送る男のことを題材にした曲です。 そんなモチーフを表現するためか、Jay Telfer のボーカルも二日酔いのようなダメダメな感じを演じています。 この曲も 1969 年の曲。
 B面に移ると、アルバムタイトル曲「Time Has Tied Me」で始まります。 この曲は軽快なフォークロックで、キャッチーな出来。 つづく「Suite One」はしんみり系のバラードでなかなかの佳作。 いよいよ完全に Nilsson 化してしまったかのような「Hydro Bill」は、知っている人なら誰に聴かせても Nilsson 似ということに否定できないと思います。 時代考証的には、この頃は Nilsson の人気絶頂期だったということでしょう。Murray McLauchlan のピアノをバックに歌われるしみじみした「Ten Pound Note」は覚えやすく印象に残る曲。 この曲も1969年の作品です。 Pasing Fancy が解散しなければ、このアルバムに収録された 1969年の作品 3 曲は、彼らのセカンドアルバムに収録されることになっていたのでしょうね。 アルバムラストの「No Peace In Quiet」は、ちょっとブルース調の曲。 B 面の流れや曲のクオリティが良かっただけに、あまり特徴のないこの曲でアルバムのラストなのは残念です。
 さて、アルバムのクレジットで気になる人物がいますので、そのことを触れておきましょう。 その名前は、Fred Mollin です。 彼は Tony Kosinec の「Concsider The Heart」にベースで参加、 Randy Edelman の「You’re The One」のプロデュースなど僕の愛聴盤によく登場する人物なのです。 最近では、Jimmy Webb の新録作品もプロデュースしていますね。 そんな Fred Mollin は自身の公式サイトにもあるように、今ではカナダ音楽シーンの重鎮とも言える存在なのです。

 次回の予告をしておきましょう。 Ann Mortifee から始まり John Laughlin そして、Jay Telfer と友達の輪みたいにつながってきたので、次は Murray McLauchlan のファーストアルバムにしようかと思います。



■Jay Telfer / Time Has Tied Me■

Side-1
Anything More Than Your Smile
Yellow Hair
Ms ‘n You
Rich Man’s Son
Doldrum

Side-2
Time Has Tied Me
Suite One
Hydro Bill
Ten Pound Note
No Peace In Quiet

Produced by Greg Hambleton
Engineered by Terry Brown at Toronto Sound Studio

All Songs Written by Jay Telfer except ‘Yellow Hair’ and ‘Rich Man’s Son’ by John Laughlin

Jay Telfer : acoustic and electric rhythm guitars ,brush and percussion , organ
Richard Fruchman : bass
Malcolm Tomlinson : drums
Mitch Clarke : all strings and horns charts
Strings : Bill Richards , Andy Benac , Vicki Richards , Stan Soloman , Petere Schenkman , Dave Heatherington

Fred Mollin : acoustic guitar on A-①②④ , B-①②
Jack Zaza baritone sax on A-①③ , B-③⑤
Moe Koffman alto sax , clarinet on A-①③ , B-③⑤
Arnie Chycoski : trumpet on A-①③
Bill Durst : lead guitar on A-① , B-⑤
Murray McLaughlan : harmonica , piano on A-②⑤ , B-④
Peter Goodale :piano on on A-② , B-①②⑤
Kevan Staples : acoustic guitar on A-③、B-③
Walter Egoe : background vocals on A-⑤
Ian Guenther : violin on A-⑤
Dash Hopes background vocals on B-①
Fergus Hambleton : piano , 2nd guitar on B-③④

Axe Records AXS 505


John Laughlin

2006-05-08 | SSW
■John Laughlin / Morning Moon■

 前回ご紹介した、Ann Mortifee が自身のアルバムを出した 1975 年よりさかのぼること 2 年前、1973 年に初めてミュージシャンとしてクレジットされたのではないかと思われるのが、この John Laughlin のアルバムです。 Ann Mortifee 研究の素材としてはかなり重要な史料的価値を持っているでしょう。  そんな研究をする人がいるかどうかは別問題ですけどね。 ま、それはそれとして、このStamp Records という他の作品をみたことがないレーベルからリリースされたこの「Morning Moon」は、おそらく彼の唯一の作品と思われます。 見るからに神経質そうな彼の表情を見ると、その後の彼の消息がちょっと不安になったりしてしまいますね。

 アルバムは、ちょっとネコ声の John のボーカルがシンプルな演奏にのったナチュラルな楽曲「Changes In The Weather」で始まります。 アルバムのオープニングにはふさわしい曲だと思います。 つづく「Nicky’s Song」は、カナダ音楽界の重鎮ともいえるギタリスト Dave Sinclair の弾くギターをバックにした小品。 深みのある霧が立ち込めたような地味な曲「Seaman’s Sea」では、Kathleen Payne のスキャット風のコーラスが情景を演出しています。 かなり内省的な「Between Us」につづいては、久しぶりに音数の多い「Come Autumn」となります。 ここでは、Harmnium のイントロに Robbie King のピアノが印象的な曲。 注目の Ann Mortifee がバックコーラスで参加しています。 クレジットにあるとおり、ウー♪と歌うのですが、彼女の声はたしかに認識できます。 A 面ラストは、マンドリンも加わった初のカントリータッチの「One Two Many Songs」で終了。
 B 面に移ると、やはりマンドリンが入った曲「Demain , Demain」で始まります。 こちらの曲は、マンドリンのテケテケ風のタッチが日本の叙情派フォーク(もしかして死語ですか?)のようです。 この曲は途中の 2 番からはフランス語で歌われています。 続く「Do What You Can」は、煌く Robbie King のピアノが印象的な名曲。 さりげない存在感が逆に好印象を与えてくれます。 続くは、アルバムのなかで最も長い曲「Mid-November」です。 ピアノの演奏のみをバックにしたシンプルな楽曲で、典型的な SSW 的な展開で次第にボーカルにも力がこもってきます。 一瞬ですが、Ian Tamblyn を思い出してしまいました。 プロデューサーである Jay Telfer の曲「Okuzidoo」を経て、ギターの弾き語り「Let Me」が始まります。 この曲は悲しみのなかにもどこか陽気さも見え隠れする楽曲ですが、あっという間に終わってしまいます。 ラストの「Follow Me Up」はさらに短い曲で、聖歌のように美しい女性コーラスが胸に染みこんで来ますが、その余韻にひたらせない短さで 1分31 秒です。

 曲の紹介にも、あるいは下記のクレジットにも書きましたが、John Laughlin はかなり偏屈なのか、あるいは茶目っ気なのか、クレジットの用語を尋常でない言葉で表現しています。 たとえば、John 自身の guitar and larynx というのは、「ギターと咽頭」という意味。 ほとんど医学用語です。 さきほどの Ann Mortifee もコーラスではなくOoooo ですし、Kathleen Payne のコーラスは sweet siren と表されています。  ラストの曲では、mothery ですからね。 John Laughlin は果たして、文学青年なのか、オタクなのか、ウケ狙いなのか、native の人に聞いてみないとまったく分かりませんね。
 さて、そんなこの「Morning Moon」ですが、カナダ系 SSW としてもあまり知られていないようですが、ジャケットの雰囲気も含めて名盤とはいえないものの、手元においておきたい気分にさせられるアルバムだと思います。 当然のようにCD化されていませんし、その気配すらまったくありません。
 次回は流れでこのアルバムをプロデュースした Jay Telfer のアルバムを取り上げてみたいと思います。 今週は忙しいので、ちょっと日にちが空いてしまうかもしれませんが、そこはあしからず。



■John Laughlin / Morning Moon■

Side-1
Changes In The Weather
Nicky’s Song
Seaman’s Sea
Between Us
Come Autumn
One Two Many Songs

Side-2
Demain , Demain
Do What You Can
Mid-November
Okuzidoo
Let Me
Follow Me Up

Engineered and Produced by Jay Telfer at Studio ,Vancouver
All Selections written by John Laughlin except ‘Okuzidoo’ by Jay Telfer

John Laughlin : guitar and larynx
Doug Edwards : bass on A-①⑥ , B-②
Robbie King : piano and harmonium on A-①⑤ , B-②③
Paul Burton : drums on A-①
Dave Sinclair : lead guitar on A-②⑤
Marty Harris : bass on A-②
Jay Telfer : brush and mouth on A-② , pot on A-③ , guitar and bells on B-② , lead plink on B-④ , thumb harp on B-⑥
Kathleen Payne : sweet siren on A-③, motherly on B-⑥
Tom Haslitt : bass on A-④⑤,B-④
Bill Buckingham : guitar on A-④
Dick Stepp : tabla and baayan on A-⑤
Joni Taylor : Ooooo on A-⑤
Ann Mortifee : Ooooo on A-⑤
Rick Van Krugel : mandolin on A-⑥ , B-①
V.DeShorts : clapping and tambourine on A-⑥
Frank Allison : steel guitar on B-④
Jim McGillvary : drums on B-④
J.P and J.D.Turnip : forever chorus on B-⑤
Melady Greene : motherly on B-⑥

Stamp Records ST 3-3

Ann Mortifee

2006-05-06 | Folk
■Ann Mortifee / Baptism■

 「洗礼」というタイトルのアルバム。 このジャケットのイラストも含め、かなり宗教色の濃い内容か、スピリチュアルなサウンドなのか、と予想してしまう作品です。
 そんなこのアルバムは、1975 年にカナダオンリーで発売された女性フォークシンガー Ann Mortifee のデビュー作です。 シンガーソングライターとしてカテゴライズするには、歌い方や曲調に違和感がありますので、ジャンルは Folk としました。 
 Ann Mortifee について、あまり語られてきたことはないと思いますが、彼女は今も現役で活動するミュージシャンで、セカンドアルバム以降は自身のレーベルからリリースしたり、最近の作品は CD でリリースされたりしてます。 しかし、このファーストだけは、いまだに CD 化されていません。
 クレジットを見ると、recorded とは明記されていないものの、engineered という表現で、アビーロード・スタジオの名前が出ています。 EMI 傘下の Capital からのリリースということもあり、おそらくアビーロードでレコーディングされたものと思われます。 残念ながら参加ミュージシャンのクレジットがないので、推測の域は出ませんが。
 
 アルバムは、この時代にしては全 13 曲と多めの収録曲です。 それが影響してか、かなり多くの「捨て曲」が多いのも確かです。 そんなことから印象的な曲のみをピックアップしてみます。 A 面 1 曲目の「The Moonlight」は、カナダの森山良子と命名したくなるような曲。 世界観は「この広い野原いっぱい」に近いフォークソングです。 Ann Mortifee の歌声は、小鳥のさえずりのような清潔感を感じさせます。 A 面はこの曲以降、静かめの地味な曲が続いていきます。 そんななか、ふと Joni Mitchell に似ているかも、と思わせる場面があったりします。
 B 面に移ると、「One Man Sally Ann」は、「The Moonlight」に近い雰囲気を持ったフォークソング。 彼女の震えるハイトーンのボーカルがこれでもかと味わえます。 「I Know Your Pain」は歌いだしのスキャット風の部分が、「宇宙戦艦ヤマト」が地球に帰還するときに流れる BGM のような感じです。 この曲は、アルバムを通して聴くたびに思い出しては、すぐ忘れてしまう曲です。 静かな波の音をバックに囁くように歌われる「So Long We Lay」が終わると、アルバムラストにして最大の名曲「Baptism」です。 この曲は、アルバムタイトル曲でもあり、「洗礼」という神聖な響きとともに、天国に上っていくときの天使の歌声を聴いているかのような気分にさせられます。 メロディーも、ホルンとストリングスによるアレンジも曲を盛り上げ、聴く人すべての心から不純物を取り除くかのようです。 アルバムの他の 12 曲は、この曲を聴かせるまでの巡礼だったのでしょうか。 そんな気にさえさせられる名曲です。
 ただ、最初に書いておけば良かったかもしれませんが、Ann Mortifee の歌い方や声そのものがどうもダメ、という人も少なからずいると思いますので、そのあたりはご注意を。以前、この「Baptism」を女性シンガー好きの友人に聴かせたところ、反応が良くなかったこともありました。

 さて、このアルバムは全曲 Ann Mortifee の作曲ですが、A①⑤⑥、B①④⑤ の作詞は、クレジットにもある Valerie Hennell が手がけています。 
 このアルバムをリリースして 5 年後の 1980 年に Ann Mortifee は、「The Ecstacy Of Rita Joe」というアルバムを発表してますが、これは演劇色の強いもののようです。 彼女のアルバムは他にも 1 枚アルバムを持っていますが、なぜか僕は「Baptism」しか聴く気になれないのです。 興味のある方は、彼女自身のページをお訪ねください。



■Ann Mortifee / Baptism■

Side-1
The Moonlight
Lady Singing The Blues
Evening Falls
Good Night , Gentle Sire
Ah ! Lover
Everybody Knows

Side-2
One Man Sally Ann
Sleep On
I Know Your Pain
The Elves Of Dawn
On Hearing Of Lori
So Long We Lay
Baptism

Produced and Nurtured by Norman Newell
Assistant Production by Gil King
Arranged by Nick Ingman
Engineerd by Peter Bown , Mike Tarratt & John Barnett
EMI Studios , Abbey Road , London

Valerie Hennell :lyrics and inspiration

Capital Records ST-6437

Ron Short

2006-05-04 | SSW
■Ron Short / Cities Of Gold■

 今日は、ケンタッキー州を拠点にブルーグラスや純粋なカントリー系のアルバムをリリースしてる June Appal Recording から 1981 年にリリースされた Ron Short のアルバムを紹介します。 タイトル名や銅版画のようなジャケットから想像できるように、このアルバムはゴールドラッシュ時期の炭鉱の町をモチーフにしたもののようです。 Ron Short 自身もバージニア州出身のネイティブなアパラチアンということで、この古い山並みやゴールドラッシュで湧いた街の風景、生活する人々のことなどを想像しながら聴いてみたいアルバムです。 とはいえ、僕にもそんなたくましい想像力はありませんが。

 この Ron Short は All Music Guide にも登録されていないのが残念なのですが、彼の残したアルバムはカントリー・テイストが濃いものの、心温まる SSW 作品に仕上がっていると思います。 アルバムタイトル曲でもある「Cities Of Gold」は、Nashville Street Choir というアマチュアコーラスらしきものとともに歌われるアカペラソング。 日本で言うと「炭鉱の歌」なのでしょう。 ゆったりとしんみりと炭鉱の町の暮らしがつづられます。  A面では、「Trying To Live Your Memory Down」、「Say Mister」などカントリーテイストが濃く表れた曲です。 「The Dancer」は、渋みのあるバラードで Ron Short の抑制の効いたボーカルから人柄が偲ばれてきます。 「Good Life」は、アルバムを通して最もハードなロック・ナンバー。 ホーンも入ったサザンロックのような曲調で、サポートする女性コーラスやテケテケしているギターなど爽快なアレンジです。
 そんな A 面ですが、このアルバムの真骨頂は B 面にあるでしょう。 「Walking Back To Georgia」は凡庸な曲でいただけないのですが、それ以降 4 曲は聴き応え十分です。 コンテンポラリーなサウンドに、語り口調のボーカルがのる「Do It Again」を皮切りに、切ない恋心を歌った名曲「Spend Some Time With You」と続きます。 この曲はうすく聴こえるスティールギターやサビのコーラスの雰囲気など、典型的なカントリーバラードと言ってもいいでしょう。 つづく「Willie And Sarah」は 10 代で結ばれた若い恋人たちのことを歌ったフィクション。 こうしたフィクションはいかにも 1980 年代のアメリカの音楽という気がします。 そんな歌は数多くあると思いますが、Ron Short の場合、舞台は炭鉱の町。 Sarah は「アトランタかニュー・オーリンズに行くわ」と手紙を残して子供を残したまま Willie の元を去っていきます。 ラストの「Going Home / Cities Of Gold」も、アパラチアの炭鉱町で働き人生を過ごしたすべての人々に捧げられているかのようなバラード。 そのラストには、1 曲目の「Cities Of Gold」が小さくリプライズされ、アルバムは幕を閉じます。 人の声や魂はその土地に根付いているものなのでしょうか、Ron Short のしみじみしたボーカルや歌詞を通じて、「Cities Of Gold」に描かれた世界が少しだけ分かったような気にさせられます。 B 面の 2 曲目以降の曲の歌詞は、シンプルでわかりやすく、それだけにまっすぐ伝わってくるものがあります。 レコード袋に歌詞が印刷されていて、良かったと思います。
 そんな Ron Short ですが、いまも地元バージニアで多方面の活躍をしているようです。 このページには近影となる写真も掲載されていました。 



■Ron Short / Cities Of Gold■

Side-1
Cities Of Gold
Trying To Live Your Memory Down
The Dancer
Say Mister
Good Life

Side-2
Walking Back To Georgia
Do It Again
Spend Some Time With You
Willie And Sarah
Going Home / Cities Of Gold

Produced by Beegie Adair and Ron Short
Recorded at L.S.I Studios , Nashville , Tenn.
Songs Written by Ron Short

Ron Short : acoustic guitar
Beegie Adair : piano
Bob Mater : drums
Billy Adair : bass
John Clausi : acoustic and electric guitars
Fred Newell : electric guitar , mandolin
Larry Sasser : steel guitar , dobro

Ron Keller , George Tidwell : trumpet
Herb Bruce , Ernie Collins : trombone
Denis Solee , Sam Levine : saxophones
Donna Sheridan , Doug Clements , Vicky Hampton , Beegie Adair , Ron Short : background vocals

A Special Thanks to the ‘ Nashville Street Choir’ for ‘Cities Of Gold’

June Appal Recording JA039

Rhoda Curtis

2006-05-03 | Female Singer
■Rhoda Curtis / Rhoda Curtis■

 かなり迫力のあるモノクロのジャケット写真。 対照的に真っ赤なリンゴがおかれ、想像力を掻き立てられます。 かなりジャジーなサウンドなのかな、彼女の声は太めのアルトなのだろうな、という感じです。 ところが、Rhoda Curtis のボーカルは意外なことに、そんなことはなく繊細でやさしいソプラノボイスなのです。 
 このアルバムは、1977 年にリリースされた彼女の唯一のアルバム。 クレジットには楽器名が出ていないので、純粋なシンガーなのだと思います。 アルバムでは 2 曲を除いてすべての作詞・作曲を手がけていますが、カテゴリーは Female Singer としました。

 アルバムは先行きが不安になるような地味な曲「Jordan」から始まります。 この曲はジョーダンという人名のことではなく、中東のヨルダンのことを歌った曲でした。 続く、「For All Seasons」は、ギターをバックに優しく歌われる三拍子のバラードです。 徐々にストリングスが入るアレンジも良く、Rhoda のボーカルを引き立てる佳作と言えるでしょう。 続く「Baby As You Turn Away」も名曲で、このあたりの流れはアルバム最大の聴きどころです。 この曲は、Bee Gees の1975 年の名盤「Main Course」のラストに収められている名作です。 このアルバムは Bee Gees 中期の最高傑作と言われているようなのですが、きちんと聴いていなかったので改めて初期からディスコ直前までの Bee Gees を聴いてみようという気にさせられました。 楽器なしの独唱となるアクセント「Questions」に続いては、曲間がほとんどないまま「Rocketship」に突入。 この曲はややハードな曲調で凡庸なこともあり、Rhoda のボーカルの魅力を引き出せていません。 A 面ラストの「The Candles」は、アップライトピアノのようなこもった響きにのせて、Rhoda が切ない心情をキャンドルにたとえて表現するなかなかの名曲です。
 B 面に移ると、カントリータッチの「Mama Oh Mama」から始まります。 タイトルからして陽気な感じは想像できますが、彼女のボーカルには似合いません。 憂いのある「Jamie」も淡々としすぎて印象に残らない曲。 続く、「Day’s End」と「Where Do You Go?」も平凡な出来で後半息切れという展開になってきます。 ラストの「Daydream Sunday」は、B.Neary という人物の曲。 この人については詳細不明ですが、1973 年の曲ですので誰かがすでに歌ったものなのでしょう。 この曲はクオリティの落ちる B 面においては、唯一典型的な SSW らしいポップテイストのある楽曲です。 

 最後にクレジットを見てみましょう。 Producer の Don Shain という人物はよくわかりません。 Director としてクレジットされている John Hobbs と Bill Fletcher はこのアルバムのサウンドには大きく関与しています。 特に John Hobbs はピアノやアレンジとしてバックバンドの中心人物だったのでしょう。 彼は、1970 年代中盤から活躍してるミュージシャンで、1977 年には、Bruce Johnston の名盤「Going Public」にもクレジット されています。 このRhoda Curtis と同時期にレコーディングだったのでしょうか、Special Thanks ということで、Bruce Johnston の名前がクレジットされています。
 ほかには、AOR シーンでは有名な Joe Chemay がベースとして参加。 彼が The Joe Chemay Band として唯一のソロアルバムをリリースしたのが、1981 年ですのでそれよりも 4 年前のクレジットとなります。 しかし、Joe Chemay の名前で買う人はいないでしょうね。 もちろん、僕もその理由で買ったのではありません。 知らない名前とジャケットで興味を引かれたのが最大の理由ですが、後押ししてくれたのやはり Bruce Johnston という文字だったりするのです。 

■Rhoda Curtis / Rhoda Curtis■

Side-1
Jordan
For All Seasons
Baby As You Turn Away
Questions
Rocketship
The Candles

Side-2
Mama Oh Mama
Jamie
Day’s End
Where Do You Go?
Daydream Sunday

Produced by Don Shain
Directed by John Hobbs and Bill Fletcher
Recorded at Sounds Good Studios in Los Angeles
Arranged by John Hobbs

All Selections Written by Rhoda Curtis
Except ‘Baby As You Turn Away’ written by B.Gibb ,R.Gibb ,M.Gibb
‘Daydream Sunday’ written by B.Neary

John Hobbs : keyboards
Billy Walker : guitars
Gary Mallaber : drums
Joe Chemay : bass
J.D. Maness : steel guitar
Dennis Dreith : woodwinds
Went Garvey : strings
A Special Thanks to Bruce Johnston and Nick Venet

United Artists Records UA-LA761-G

Prairie Madness

2006-05-02 | SSW
■Prairie Madness / Prairie Madness■

 今日、ご紹介するのは 1972 年に発表された Prairie Madness の唯一のアルバムです。Prairie Madness は、ジャケットで並んでいるむさ苦しい無精ヒゲ面の男ふたり Chris Ducey と Edward Millis によるユニットです。 
このアルバム、まずプロデューサーが、元 Procol Harum の Matthew Fisher というところが注目されます。 Procol Harum の 3 枚目「Salty Dog」の後に脱退した Matthew Fisher がどのような経緯で彼らをプロデュースすることになったのかは不明ですが、彼の最初のプロデュースワークとなったようで、ジャケットの裏面にもそのことがわざわざ記載されています。 無名の二人組みを売り出す際の、プロモーション・トークにしようとしたのでしょうか。

 さっそく内容をご紹介しましょう。 「Nothing For Sophia 」は、オーソドックスなバラードでスケール感じのある Chris のボーカルが光ります。 ストリングスアレンジが冴えていると思ったらと、クレジットには大御所 Sid Sharp の名前が。 指揮は Edward が務めています。 続いて、Matthew Fisher も参加している「Up You Go」です。 かなりしっとりしとした曲調ですが、ふたりのコーラスが見事です。 「Girl From Cincinnati」に続く、「Choo Choo Nairobi 」は、アルバム全体のアクセントとして配置された風変わりな曲。 アフリカやブラジルのパーカッションや Edward の弾く Tack Piano がスティールドラムの音のように聴こえます。 この Tack Piano というのはプリペアド・ピアノの一種のようですが、あまりお目にかかったことのないクレジットです。
 A 面ラストの「Moondust」は、ふたりのハーモニーが美しいバラードですが、名曲というにはもう一歩という感じです。 ここまで聴いてきての感想は、カントリーテイストがまったく無いということです。 ジャケットのイメージやプレイリーという言葉から、少なからずカントリー色はあるだろうと思ってしまいますが、このアルバムは B 面も含めて、バンジョー・フィドル・マンドリンといった楽器は一切登場しません。
 B 面に移ると、「Shame The Children」、「Sunbeam To His Heart」と完成度の高い曲が並びます。 とくに後者は Patti Austin も名を連ねる女性バックコーラスや Edward のピアノがいい感じです。 ややブルース色の強い「Broke Down」、やや翳りのある「I’m Ready」と続いてアルバムは終わります。 

 アルバムを通じて何かしっくり来ないのは、サウンドとふたりの声質の微妙なアンマッチなのではないかと考えます。 サウンド面を活かすのであれば、もっと優しい James Taylor や Jackson Browne のようなボーカルのほうがしっくりしたでしょうし、声質を活かすのであれば、もっとスワンピーな音作りを目指すべきだったでしょう。 そうした中途半端さが、時代に受け入れられず、Prairie Madness はこのアルバムのみを残して解散。 Chris Ducey は、前回紹介したソロアルバムを残しましたが、Edward Millis のその後はまったくわかりません。 プロデューサーの Matthew Fisher は、イギリスに戻ってソロアルバムを数枚リリースしています。

■Prairie Madness / Prairie Madness■

Side-1
Nothing For Sophia *
Up You Go *
Girl From Cincinnati *
Choo Choo Nairobi *
Moondust

Side-2
Shame The Children *
Sunbeam To His Heart
Broke Down *
I’m Ready

* Produced by Matthew Fisher and Joel Sill
All Other Songs Produced by Matthew Fisher
.
The selections were written by Chris Ducey and Edward Millis
Except lyrics for ‘Girl From Cincinnati’ were written by Kendrew Lascelles

Chris Ducey : acoustic guitar , electric guitar
Edward Millis : piano , celeste , organ , accordion , tack piano

Jack Conrad : bass guitar on ①③④⑤⑥⑦⑧
Richard Hayward : drums on ①③⑥
Matthew Fisher : organ and harpsichord on ②⑤⑦
Ralph Bryan : electric guitar on ③
Emil Richards : assorted african percussion and steel drum on ④
Airto Moreira : assorted brazilian percussion ④
Jim Young : percussion and drums on ⑤⑦
Patti Austin , Joyce Vincent , Telma Hopkins : background chorus on ⑦
Michael Brecker , Randy Brecker , Barry Rogers , Lewis Delgatto : horns on ⑧
Richard Davis : upright bass on ⑨

Edward Millis : conductor on ①③⑥
Sid Sharp : concert master on ①③⑥

Columbia Records KC 31003