Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Niki Aukema

2010-11-28 | SSW
■Niki Aukema / Nothing Free■

  レコードのクレジットを見ながら、当時の状況を妄想しながら思い浮かべるのが好きです。 このブログにわざわざ時間をかけてクレジットを転記しているのもそうした理由からなのですが、その過程で時折訪れる意外な発見にはたまらないものがあります。
  名門 Paramount から 1973 年リリースされた Niki Aukemaのアルバムにはそんな発見がありました。 そもそもこのアルバムは E-Street Band の中心的な存在である Roy Bittan がプロデュース協力していることで手に取ったレコードです。 もちろん、この時期の Paramount から発売された SSW 作品の外れは無いだろうという確信もあったのですが...。 Roy Bittan が Bruce Springsteen の E-Street Band に加入したのは、1975 年の「Born To Run」からですので、ここにはプロとして活動し始めたばかりの Roy Bittan の貴重な記録が収められているのです。 それだけで興味は掻き立てられるのですが、このアルバムには3名のミュージシャンとの意外な出会いが隠されていました。

  A-2の「Son Of A Rotten Gambler」は Chip Taylor が作曲し、彼自身もギターで参加している曲です。 Chip Taylor は 1970 年代から活動している SSW ですが、まったく音に触れていないのでここでは興奮はなかったのですが、コーラスのクレジットに驚きました。そこには、Roy Bittan と並んで、Ric Otcasek の名前があったのです。 もちろん、この名前はのちに The Cars を結成するリック・オケイセックのことです。 今はtを外してOcasekと表記している彼は、当時は The Cars の前身グループ Milkwood のメンバー。 彼らは Paramount から唯一のアルバムを 1972 年に発表しているので、そこでの縁で参加することになったのでしょう。 Roy Bittan と Ric Ocasek の邂逅がここにあったのです。
  一時クラブ DJ の間で評判になったという B-1 の「Lucky Lost Sin」にも意外な人の名がありました。 それは奇才 SSW、Andy Pratt です。 1970 年に「Records Are Like Life」でデビューしたピアノ系 SSW の彼ですが、ここではなぜかベースとして参加しています。 しかも Ben Orzechhowski というもう一人のベーシストも参加しており、二人もベースがゲスト参加する意味合いが理解しづらいところです。 しかし、このハイ・テンションでファンキーな楽曲を聴きこんでみると、ベースとパーカッションの重要性が見えてきました。 激しいソロプレイの応酬となる中盤の聴き応えは、聴き手を圧倒するエネルギーにあふれ、このアルバムの代表曲として定着していることを認めざるを得ません。 さて、もう一人のベーシスト、Ben Orzechhowski の名前でピンと来た人はいませんか。 その方はかなりの通だと思いますが、彼も The Cars のメンバー、今は亡き Benjamin Orr です。 贅沢なセッションだったわけですね。
 
  さて、Niki Aukema のボーカルの魅力は、低音から天に届きそうなハイトーンまでの声域と、曲によって違う表情を見せる豊かなエモーションにあります。 Roy Bittan 作曲の「Hello Sunshine」のふわっとしてリラックスしたムードから渋めのバラード「Path To Freedom」では泣きそうな雰囲気へ、タイトル曲「Nothing Free」での悲壮感あふれるシャフトから「Just Like You」では甘美でマイルドに変化、といった具合です。 個人的に最も好きな「I’ve Never Been Loved Like This Before」はスケール感あふれるソウルフルなバラードで最も伸びと艶を感じさせる仕上がりの 1 曲です。 
  しかし、これほど歌唱力のある SSW がどうして消えてしまったのでしょうか。 このアルバムが彼女の残した唯一の作品のようですし、彼女について多くを語るサイトも発見することができませんでした。 運よくアルバムを発表できたものの、Paramount Records の活動停止に直面。 その後、彼女に手を差し伸べるレコード会社が無かったということなのでしょう。

■Niki Aukema / Nothing Free■

Side-1
I’ve Never Been Loved Like This Before
Son Of A Rotten Gambler
Hello Sunshine
Path To Freedom
Sad Dream

Side-2
Lucky Lost Sin
Nothing Free
Just Like You
To Eyes

Produced by Al Schwartz in association with Roy Bittan
Arrangements : Roy Bittan

Niki Aukema : vocal, background vocals, acoutic guitar
Roy Bittan : piano, electric piano, accoridon, acoustic guitar
Chip Tayleor : acoustic guitar
David Bershtein : piano
Tao Leyasmeyer : piano
Jeff Levine : organ
James Goodkind : electric guitar, acoutic guitar
Frank Baier : bass
John Nagy : bass
Andy Pratt : bass
Ben Orzechhowski : bass
Steve merola : drums
David Humphreys : drums, congas
John Payne : tenor sax
Stan Davies : trumpet, flugel horn
Dan Silverman : trombone

Background vocals on ‘Son Of A Rotten Gambler’
: Bob Knox, James Goodkind, Ric Otcasek, Chip Taylor, Tom Boughton , Roy Bittan, Vaughn & Debbie Smith

Paramount records PAS 6055

Cymbal And Clinger

2010-11-24 | SSW
■Cymbal And Clinger / Cymbal And Clinger■

  前回取り上げた Sonoma を凌ぐ豪華セッション・ミュージシャンのクレジットが眩しい Cymbal And Clinger 名義の唯一のアルバムです。 1972 年に発表されたこの作品は、その時代から甘い A&M 風のソフトロックのようなイメージを持ちますが、男女の二人組というほどの対等性を感じることはなく、ほとんど男性である Johnny Cymbal のソロといっても差し支えのないアルバムです。 
  そもそもこの二人組の経歴に興味がわき、ネットで検索したところ、この Johnny Cymbal は 1960 年代から活躍していたティーンエイジ・アイドルだったのです。 この周辺には全く疎いのですが、1963 年のスマッシュヒット「Mr.Bassman」や素晴らしい邦題がつけられた「僕のマシュマロちゃん」などが代表曲のようです。 興味のある方はネットで検索すると動画もありますので、探ってみてください。
  さて、そんな Johnny Cymbal も音楽業界の荒波にもまれ、1970 年代に入って本物志向(語弊のある表現ですが)になったのでしょう。 活動の拠点をニューヨークから西海岸に移し、そこで恋に落ちた Peggy Clinger と意気投合し、二人の名義で心機一転の作品にとりかかりました。 こうして出来上がったのがセルフタイトルとなるこの作品です。 アルバムは The Rolling Stones の「Let It Bleed」のラストを飾る「You Can Always Get What You Want」を除いては全曲が Cymbal And Clinge rの手によるもの。 この辺りから彼らが、職業作家に頼らない姿勢、すなわちシンガーソングライター時代への適応を意図していたことが十二分に伝わってきます。 しかしここには、皮肉なことにここで初めてレコーディングされた彼らのオリジナルの「Rock Me Baby」がのちに、David Cassidy によりスマッシュヒットするという知られざるエピソードも隠されていました。

  アルバムは全体としてスワンプ色の濃い渋めの仕上がりとなっており、ジャケットとのイメージのギャップも感じられることから高い評価を受けたことは無いようです。 むしろ前述したセッション・ミュージシャンの骨太の演奏を楽しむくらいの軽い気持ちで接したほうが無難な作品だといえるでしょう。 たとえば、オープニングを飾る「Everyday Wants To Be Somebody」はメンフィス・ソウルを意識した曲調とアレンジですし、B-1 の「Nobody Knows」にも同じようなことが言えます。 前述の「You Can Always Get What You Want」をセレクトした理由もこうした曲を耳にするとすんなり理解できます。 しかし、個人的には、Peggy Clingerがリードをとる「Dreams Of You」、「A Little Bit No, A Little Bit Yes」、そして「For Ever And Ever」がお気に入りです。 とくに「For Ever And Ever」は Peggy Clinger と Johnny Cymnal とが交互にリードをとりあう温かみのあるミディアムで、当時の二人の愛情の深さが伝わってきます。

  この Cymbal And Clinger 名義のアルバムはこの作品のみとなってしまったのですが、二人の関係が崩れたあとの 1970 年代半ばに、Peggy Clinger がドラッグのオーバードースで死亡してしまいます。 この悲劇的な出来事に Johnny Cymbal はひどく落胆したようですが、1980 年代になってナッシュビルに活動拠点を移し、音楽活動を復帰します。 彼はそこで二度の結婚と離婚を経て、1993年に心臓発作で 48 歳の若さで亡くなります。 ジャケットの裏面に幸せそうな二人の写真が映っていますが、こんなストーリーを知ると、人生はどのように転がっていくかはまったくわからないということを痛切に実感してしまうのです。

■Cymbal And Clinger / Cymbal And Clinger■

Side-1
Everyday Wants To Be Somebody
You Can Always Get What You Want
Dreams Of You
Rock Me Baby
The Pool Shooter

Side-2
Nobody Knows
God Bless You Rock’n’Roll
A Little Bit No, A Little Bit Yes
For Ever And Ever
The Dying River

Produced by Wes Farrell for Coral Rock Productions
Rhythm tracks arranged by Wes Farrell
Strings and horns arranged by Mike Melvoin

Hal Blaine : drums
Jim Gordon : drums
Max Bennett : bass
Joe Osborne : bass
Larry Carlton : guitar
Dean Parks : guitar
Louie Sheldon : guitar
Mike Melvoin : keyboard
Mike Omartian : keyboard
Gary Coleman : percussion
Alan Estes : percussion
Ollie Mitchell : trumpet
Chuck Findley : trumpet
Slyde Hyde : trombone
Lew McCreary : trombone
Tom Scott : woodwinds
Jim Horn : woodwinds
Bob Hardaway : woodwinds

Chalsea Records CHE-1002


Sonoma

2010-11-10 | SSW
■Sonoma / Sonoma■

  名門 ABC 傘下 Dunhill からのリリースにも関わらず、あまり語られることのなかった Sonoma の唯一のアルバムです。 このアルバムを語るには、あまりにも豪華な参加ミュージシャンのことを避けて通るわけにはいきません。 Carole King や James Taylor といった SSW が世の中を席巻していた 1973 年の西海岸を代表するセッションマンの面々を見ると、Dunhill の力というものを感じざるを得ません。 個々についてコメントはしませんが、逆に Dean Parks がいないほうが不思議というような見方をしたほうが面白いかもしれませんね。

  さて、この Sonom aは男女混成の 4 人組のコーラスグループ。 ただ一人楽器を操るのは、リーダー的な存在である Charlie Merriamで、他のメンバーは歌唱のみということになります。 Charlie Merriam は収録曲の過半数を作曲しており、それ以外の楽曲はカバーとなっています。 さっそく楽曲のレビューに入っていきましょう。

  オープニングを飾る「Rock & Roll Circus」は Sonoma のサウンドを凝縮したかのようなアレンジで、全員が代わる代わるボーカルを務める名刺代わりの楽曲となっています。 ちなみに、この曲はカナダ出身でパワーポップの世界では裏番長的な存在の Bob Segarini の作曲です。 つづく「To See About You」も流れを感じさせるアップで情熱的なナンバー。 この 2 曲は直球勝負なので嫌な予感がありますが、つづく「Don’t Apologize」でほっとさせられます。 この情感あふれるバラードは、Sonoma の代表曲にしたいほどで、清々しさを感じさせるコーラスと木漏れ日の様なストリングスが魅力です。 「Love For You」は Kathy か Tricia のいずれかの女性ボーカルがリードをとるソフトロック的なナンバー。 少し舌足らずで甘いところが A&M 的です。 つづく「Try To Reach Her」Steve Adler と思われる高音の男声ボーカルがリードをとるポップな佳作。 「Thank You Just The Same」も流れを汲んだ陽気なポップナンバー。 僕には、少し幼稚ではしゃぎすぎに聴こえてしまうので辛口な採点になっていまいますが。

  B 面は Bob Dylan のカバー「Don’t Think Twice, It’s All Right」でスタート。 意外な選曲ですが、ポップなアレンジが施され、サウンドの整合感は維持できているものの、特筆すべき仕上がりとは言えません。 つづく「Waiting For You」はオーソドックスなバラード。 二人の女性による清楚なコーラスは咲き誇るコスモスのような爽やかさを運んでくれます。 男の声に戻ってがっかりという感じの「Good Time」はやや凡庸な出来ですが、再度甘い女声に戻った「What Am I Gonna Do」はA&Mのソフトロックのような展開。 この曲は Carole King と Toni Stern の楽曲ですが、Carole King 自身による演奏は無いのではないかと思っています。 ご存知の方は教えてください。 アルバムの終盤は MOR 的なムード満点の「No Way Of Knowing」と進み、ラストの「Shake A Hand」へ。 この曲は、Carol Carmichael の手による陽気なナンバーで、いったん終わったと思ったら終わらない、この手のアルバムのラストにありがちなネバーエンディング感に包まれてフェードアウトを迎えます。

  こうしてアルバムを聴き直すと、1970 年代前半の良質な音楽のエッセンスが散りばめられて、制作する側としては狙い通りのクオリティの作品となっていたのだろうと思います。 欠点を見つけるのは難しいのですが、逆に言うと必殺のシングル楽曲の不在、決定的な個性の欠如、差別化しきれていないコンセプト、といったものが浮き彫りになってきます。 たしかに他に聴くべきアルバムは山のようにあるとは思うのですが、こうして埋没していく運命のアルバムを時々は思い出してあげる必要があるように思います。

■Sonoma / Sonoma■

Side-1
Rock & Roll Circus
To See About You
Don’t Apologize
Love For You
Try To Reach Her
Thank You Just The Same

Side-2
Don’t Think Twice. It’s All Right
Waiting For You
Good Times
What Am I Gonna Do
No Way Of Knowing
Shake A Hand

Produced by Bob Monaco and Charlie Merriam
Vocal arrangement by Charlie Merriam

Sonoma : Kathy Ward, Charlie Merriam, Tricia Johns, Steve Adler

Larry Carlton : electric, acoustic &12-string guitar
Wilton Felder : bass
Joe Osborn : bass
Jim Gordon : drums & percussion
John Raines : drums & percussion
Michael Omartian : piano, arp, organ, clavinette, Fender Rhodes electric piano
Charlie Merriam : acoustic guitar , RMI electric piano
Ernie watts : tenor sax solos
Tommy Morgan : harmonica
Allan Estes : vibes, percussion
Ed Greene : drums
David Cohen : electric guitar
Rick Kellis : baritone sax
Sid Sharp : concert master
Ollie Mitchell : horn conductor
Handclaps ‘The Clapettes’ – John Dixon, Sandy Horn, Jeff Lyman

Dunhill Records DSX-50156