紀子(のりこ)はお中元(ちゅうげん)のカタログを見ながら、眉間(みけん)にシワを寄せた。なぜ彼女がこれほど真剣(しんけん)に選(えら)んでいるのか。それは、前回の失敗(しっぱい)があったからだ。
去年(きょねん)の暮(く)れのこと。結婚(けっこん)間もない彼女は、義母(はは)からお歳暮(せいぼ)を選んで贈(おく)っておくようにと頼(たの)まれた。彼女は何も知らぬまま引き受けた。
紀子の嫁(とつ)いだ家は旧家(きゅうか)で、親戚(しんせき)も大勢(おおぜい)あった。正月(しょうがつ)には、その面々(めんめん)が一堂(いちどう)に会(かい)して宴(うたげ)が催(もよお)される習(なら)わしになっている。親戚の人たちは、彼女が嫁(よめ)だと知ると態度(たいど)を一変(いっぺん)させた。みんなは口々(くちぐち)にお歳暮にクレームをつけてきたのだ。「あんなのもらってもね」とか、「何を考えてあんなものをよこしたんだ」などなど、嫌味(いやみ)なことばかり言われてしまった。中には、せっかく贈ったお歳暮を突(つ)き返してきた人もいた。
宴が終わる頃(ころ)には、彼女はぐったりとして座(すわ)り込んでしまった。そこへ、とどめを刺(さ)したのは義姉(あね)だった。「こんなんじゃ、嫁として失格(しっかく)ね」
普通(ふつう)の嫁だったら実家(じっか)へ逃(に)げ出しただろう。でも、紀子は違(ちが)っていた。彼女は持ち前の負(ま)けん気で踏(ふ)みとどまった。今度のお中元はリベンジなのだ。
彼女の横では、気持ちよさそうに夫(おっと)が寝息(ねいき)をたてている。彼女は夫の頬(ほお)を突っついてささやいた。「君は、この家の長男(ちょうなん)のくせに、何の役(やく)にも立たないんだから」
夫はそれに応(こた)えるように笑いながら寝言で、「もう、やめろよ。くすぐったいって…」
<つぶやき>こんなお坊(ぼっ)ちゃんはあてにできません。嫁として家をしっかり守って下さい。
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