徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ドイツ:ミュンヘンの銃乱射事件~ISテロではないらしい。テロは注意して避けられるものではない!

2016年07月23日 | 社会

ヴュルツブルクの凶行から間もない昨日、7月22日夕方にまたしてもバイエルン州で、事件が起こりました。今回は州首都ミュンヘン市北部のオリンピアショッピングセンター(Olympia-Einkaufszentrum=OEZ)内外で銃乱射事件です。22日17:50頃にマクドナルドを出た18歳のドイツ系イラン人は無差別発砲を開始し、向かい側にあるオリンピアショッピングセンターに入ってなお発砲を続け、そこから逃げ出して近くのパーキングハウスに入り、そこで住民と思われる人と論争し(そのビデオはネットでかなり出回っています)、更に発砲。最終的に9人殺害した後、現場から約1㎞離れたところで自殺を図った、というのが大まかな流れのようです。なお、犯人はフェースブックの偽アカウントを使って、「OEZに来いよ。君たちが望むなら俺がおごってやる。ただし、そんなに高いものはダメだけど」と投稿し、より多くの人を犯行現場へ誘いだすつもりだったようです。

事件発生当初、情報や通報が錯綜し、銃撃者は3人いて、市街地を逃走中という前提で捜査開始しましたが、ミュンヘン市内の交通機関を全面ストップさせ、数千人の特殊部隊を含む警察官を投入して捜索に当たった結果、銃撃犯は自殺した一人という結論が出されました。それでも当局は市民に外出自粛を呼びかけ、公共交通機関を停止するなど、混乱と緊張が続きました。今日は早朝から公共交通機関は通常運転していますが、現場付近は封鎖されたままです。

今の時期、このような事件が起これば、必ずISとの関連性が採り沙汰されます。ヴュルツブルク凶行事件の犯人の住まいからは手描きのISの旗や父親に宛てたと思われる遺書が発見され、またISに近い通信社Amaq News Agencyから犯行予告ビデオがあっという間に出てきたため、直接的なISとの関連性は証明されていないものの、少なくともISプロパガンダに影響された単独犯であったことが分かりました。犯人は17歳のアフガニスタン難民とのことでしたが、その素性が偽証だったのではないかと疑われています。

それに対して今回のミュンヘンの犯人はミュンヘンで生まれ育ったイラン人David S.で、難民的背景はありません。彼の両親とともに住むマックスフォァシュタットのアパートを家宅捜査した結果、ISとの関連が疑われるような物証は発見されず、代わりに銃乱射事件に関する新聞記事の切り抜きや本『Amok im Kopf - warum Schüler töten (頭の中のアモクーなぜ生徒たちは殺すのか)』などが発見されました。事件の起こった7月22日にちょうど5周年を迎えたノルウェーのアンドレ・ブレイヴィック銃乱射事件にもかなり関心を示していたことが分かっています。そのためこのブレイヴィック事件を意識した模倣犯の線でも捜査されています。

まだコンピューターやスマホのデータの調査が完了していないため断定はできないものの、ミュンヘン警察はテロ的な背景のない銃乱射事件という前提で捜査を進めています。ドイツメディアの報道もテロではなく、「銃乱射事件(Amoklauf)」で報道を統一しています。

犯人について分かっていることはミュンヘンで生まれ育ったこと、まだ高校生であること、これまで犯罪歴がなくて警察からノーマークだったこと、そして鬱病またはそれに近い精神病で治療中だったことくらいです。精神を病んでいた点については過去のいくつもの銃乱射事件の犯人たちと共通すると言ってもいいですが、ISに傾倒して単独にテロを起こす人や計画的にテロを起こす人たちもまともな精神の持ち主とは思えないので、プロファイリングの決め手になるようなものではありませんが。

彼の近所での評判は「目立たない」「大人しい」「挨拶はきちんとする」などで、素行の悪さなどで目立つことがなく、町内に埋没していたようです。パーキングハウスにおける犯人と住民の言い争いを録音したビデオで、彼は「俺はドイツ人だ。ハルツ4地区で育った!」と怒鳴ってから発砲しています。ハルツ4というのは正式には第2種失業手当と言い、就労可能な人に給付される生活保護のようなものです。「ハルツ4地区」というのはつまり、そのような保護を受ける人たちが多く住む地域、ということでしょう。ミュンヘンはドイツで最も家賃の高い都市でもあるので、ハルツ4受給者の限られた財力で払える賃貸物件は自ずと制限されてしまい、ゲットーとまではいかないまでも貧しい人たちが多く住む地域というのが形成されてしまうのはある程度仕方のない話です。

犯行に使用された武器は9mm経口のグロック銃で、ナンバーが削られていたことから不法ルートの銃と見られています。犯人のリュックサックにはまだ300発の銃弾が詰め込まれていたとのことで、可能ならばもっと大量に殺戮するつもりだったことが窺われます。警察が彼を追う途中に撃ったらしいですが、検死の結果警察の弾が当たった痕跡はなく、自殺と判断されました。武器の入手ルートに関してはまだ捜査中です。犯人は狙撃資格も銃所持許可も取得していなかったことは明らかです。

犠牲者は全部で9人で、45歳の女性を除くと全て子どもや青年でした。14歳3人、15歳2人、17歳、19歳、20歳各1人。この場を借りてご冥福を祈ります。

 

事件翌日になってメルケル首相を始めとする様々な政治家たちが地元警察、特殊部隊及びテロ対策部隊GSG9の素早い出動と対応を称賛しています。特に、ツイッターなどで事件とは無関係の写真や誤情報が出回っていたことに対抗するように地元警察が自ら現状報告のツイートを多発したことが時代に即している、と称賛を浴びました。

バイエルン州ではヴュルツブルクの事件が起こる以前から既にテロ警戒レベルを上げて、警察官の増員を含む様々な措置が準備されており、それらは予定通り来週州議会で議決される模様です。今回のミュンヘンの事件はどうやらテロではなかったようですが、抽象的なテロの危険性は依然として高いままなので、今後も警戒を強化していく、とのことです。

お隣のフランスではニースの事件のために、今月終了する筈だった緊急事態宣言がまた延期されることになりました。これに関しては賛否両論あると思いますが、感染犯・模倣犯によるテロなど根絶できるわけありませんし、フランスがシリア爆撃に加担し、ISを敵に回していることを含め、元植民地関係の因縁など解決されていない過去の負の遺産を引きずっている限り、今後もテロの標的にされることは間違いないと思います。今のところオランド大統領はエルドアン・トルコ大統領のような強権発動はしていませんが、それでも緊急事態(Etat d'urgence)が常態(état permanent)となるのは民主主義にとって好ましい状況でないことは確かです。ドイツに緊急事態宣言のようなものがないことを改めて「よかった」と思う次第です。ドイツでは敵襲がなければ戒厳令(Verteidigungsfall)が発動しないので、テロの危険性くらいでは人権が制限されるようなことにはなりません。

ただ、ドイツに住むものとして、自分の住むところがまるで戦地のような危険な場所であるかのようにみなされることには非常に違和感を感じます。違和感を感じると言えば、私がメルマガ登録している在デュッセルドルフ日本領事館からの警告メールで「ミュンヘン方面への旅行等を計画しておられる方は十分注意されますようお願いいたします」という呼びかけもそうです。こういう事件はそもそも一般人が「十分注意」して避けられるものではありません。唯一の危険回避は外出せず、公共交通機関を使ず、ショッピングセンターやサッカー試合などの人の集まる所や催し物などに行かないことでしか達成できません。それはつまり「普通の生活を一切するな」ということに等しいのです。そして私たちがそのように怖がってびくびくと生活することこそ、テロの真骨頂というものではないでしょうか。でもテロを殊更怖がることにも私は違和感を感じます。確かに危険ですし、運悪く現場に居合わせれば死ぬなり負傷するなりのシャレにならない結果になります。しかし、テロ現場に居合わせる確率と通り魔事件や連続殺人事件や強盗殺人事件などに当たる確率はどれほど違うのでしょうか?この中では強盗殺人に当たる確率が一番高いと言えます。ドイツでは近年空き巣や強盗が急増しており、過去最高レベルに達しています。事件解明率は5%にも満たない状態です。テロは1件でも、そしてヴュルツブルクのように譬え死者が出なくても大きく報道されますが、強盗事件は連続で起こっていても、ローカル紙の記事になるくらいです。その報道の違いで感情的な受け止め方に差異が出てしまうのでしょうが、どちらも当たってしまった場合の結果はほぼ同じで、負傷か死です。確率的な話では、強盗よりも交通事故死の方がもっと頻繁です。こちらも個人が注意できることには限度があります。酔っ払い運転やスピード凶にいつどこで出くわすかだれも予想できませんから、その意味ではテロ現場に居合わせてしまう不運と似通っています。

国などの行政機関がテロを警戒し、それ相応の対策と取ることには十分に意味のあることですし、必要な措置です。そういうことのためにも私たちは税金を払っているのですから。だけど個人が「テロに注意する」ことは不可能です。スリ対策なら個人でも何とか注意することもできますが、そういうレベルの話ではありません。あるFB友も言ってましたが、ヨーロッパ在住者に「テロに気を付けて」というのは、日本人に向かって「地震に気をつけて」というようなものだと。ドイツ在住の私にとってはむしろ地震が多く、放射能汚染が進み、かつ一カルト集団の占拠するファッショに向かいつつある安倍政権支配下にある日本の方が余程【怖い】です。

というわけで私は予定通り明日からバイエルン州周遊旅行に出発します。

参照記事:
ZDFホイテ、2016.07.23、「集中的に銃乱射事件を研究していた」 
シュピーゲル、2016.07.23、「ミュンヘン銃乱射事件:犯人のリュックサックには300発の銃弾」 
シュピーゲル、2016.07.23、「防犯コミュニケーション称賛:ミュンヘン警察を誇りに思う
他様々なニュース。 


ドイツ:世論調査(2016年7月22日)~トルコのEU加盟反対、過去最多

ドイツ:ヴュルツブルク行の電車の中での凶行(ローレベルテロ)



2 コメント

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引用させていただきました (センターサークル)
2016-07-24 13:09:58
ミュンヘンでの銃撃事件の詳細を読ませていただきました。詳しい内容でしたので、当社の運営する金投資サイトにて引用させていただきました。ご迷惑などございましたらお知らせいただければ削除・変更いたします。
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Re:引用させていただきました (mikakohh)
2016-07-24 16:04:37
引用元がきちんと書かれていればOKです。サイトのURLをお知らせ下さい。
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