徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ヒトラー著『我が闘争』、ドイツで著作権切れ

2015年12月30日 | 歴史・文化

アドルフ・ヒトラーが1924-26年に書いたプロパガンダ本『我が闘争』はナチス時代に数百万部発行され、どの新郎新婦にも結婚式で『我が闘争』が贈られたものでした。これにより、ナチス思想が拡散されると同時にヒトラーも億万長者になりました。
来年1月には『我が闘争』の解説付きの学術版がミュンヘンの現代史研究所から発行されることになっています。今年末の著作権切れを目途に三年前から学術版プロジェクトがスタートしていました。本は27章、1950ページ。第1刷は4000部で59ユーロだそうです。

ヒトラーは自分の遺産相続人としてNSDAP(ナチス党)を指定し、党が解散している場合には国がそれを継ぐ、としていました。ヒトラーの住民票は最後までミュンヘンにあったため、彼の遺産はバイエルン州が相続しました。その中にはもちろん『我が闘争』の著作権も含まれています。バイエルン州政府の政策は明瞭で、これまで『我が闘争』の復刻を許してきませんでした。
この著作権はヒトラー死後70年、即ち2015年12月31日を以て失効します。その為、新たに復刻版を発行するか否かで物議を醸しだしています。バイエルン州としては復刻版の発行により、数百万人の命を奪うことになった世界観が再び広められることを何としても阻止するつもりです。しかしながら、絶版以前の古本はこれまでずっと普通の古本同様売買可能でありましたし、電子書籍もドイツ国内で出回っています。ドイツ国外でも言わずもがなです。
州法務省は刑法130条第2項、「ある特定グループに対する扇動を内容とする書物の拡散する者は3年までの禁固刑あるいは罰金刑を科される」、に基づき、復刻版を出版しようとする者を罰せられると見ています。
これに対し、パッサウ大学の政治学教授バルバラ・ツェーンプフェニヒは、『我が闘争』を禁止するのは大袈裟であり、不必要だ、70年間の民主主義を経て、ドイツ国民もこの本と理性的に向き合えると信じてもいいはずだ、と批判しています。

参照記事:ZDFホイテ、2015.12.29付けの記事「ヒトラーの『我が闘争』は今なお議論を呼ぶ」及び「アドルフ・ヒトラーの『我が闘争』、新たに出版」

ドイツ人はしょうもない論争をする、と時々呆れます。議論があるのは民主主義の証拠なのかもしれませんが、ことナチスに関しては相当神経質です。
この記事とは別に、とある右翼団体の代表がインタビューで、今時の右翼は『我が闘争』にせいぜいシンボリックな意味しか見出していないし、大抵は本棚のどこかに飾ってあるだけ、と言っていました。
そもそも『我が闘争』は「読めない」という定評があります。私も日本語で挑戦したことがありますが、退屈なうえに論旨が一向に見えない悪文が多く、読破できるものではなかったと記憶しています。解説付きの学術版ならともかく、オリジナルの復刻をわざわざ買って読もうとする人はあまりいないと思われ、出版する経済的旨味がないかと予想されるので、わざわざ禁止にすることもないのではないでしょうか。

 

追記:「わが闘争」の学術版についてはこちらもご覧ください。

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