また昨日の続きです。
・母親のエゴは十分に描いてあっても、娘のエゴはよく見えません。母親の無責任さは描けても、娘の自己欺瞞と責任転嫁はもう一つ見えにくくなっています。
母に食われた娘『女優フランシス』
・この映画のテーマは、娘にとって、「味方」であっていいはずの母親が、実は最大の「敵」だったということです。なぜ最大の敵かというと、あまりにも身近にいて、しかも母の「仮面」をかぶっているので、敵が敵に見えない、したがって、闘えないということです。
・人は自分が大事に思っている人、身近にいる人、保護してくれる人のことを“鬼”だなんて、ふつうは思いたくないし、また思えません。そう思ったら、自分がみじめになるし、自分自身を支えてくれなくなりますから、ある意味では自分のためにも、必死になって自分を抑圧する人に自分を理解させようとするのです。もっと理解し合えればもっと愛すればと、愛の足りない自分を痛めつけることにもなります。
・さらに、その小説で興味深かったことは、女の人が正常かどうかの世間での判断基準は「お化粧をちゃんとしてるかどうか」ということです。
・娘が冗談半分に「お母さんに殺されそう」と言うと、母親はそれを医者に告げ口して退院取消となります。そしてその医者のことをフランシスは「神様のつもりかしら」「人の頭の中を再構築しようとする」というような批判をします。そんな中で、賢くなんてとうていふるまえません。誰も自分を助けてくれない、何を言っても聞いてもらえないあの恐怖と絶望の中にいたら、どんなに頭のいい人でも、ああなってしまうのではないでしょうか。
・私が知りたいのは、最初は神まで否定する能力があった、あんなに賢かった人が、どうしてそんなバカなことをくりかえしてしまうのだろうか、ということなのです。それが、私がこの映画を見るときのポイントです。
専業主婦と終焉宣言『愛と追憶の日々』
・専業主婦というのは、自分のために生きるのではなく、夫のため、子どものため、家族のためにだけ生きる存在で、子育てと家事と人の世話をやくことで人生の大半を過ごすことを社会から強制されています。
・今どきエマほど、ものを考えない人もめずらしいと言えます。昔の女学生がそのまま、妻になり母になったという感じで、夫の浮気はモラルを説けばなんとかなると考えているし、中絶はのっけから悪だし、自分の体を守ろうとか自分の時間を持ちたいとか、これまで生活を反省して将来のことを考えるといった態度もいっさいありません。
・一般に主婦の会話の内容は、亭主と子どもの話と相場が決まっていると言われていますが、だれでも一番大切なことを話したいのは当たり前だとはいえ、まず語れるような自分自身がはじめにあってもいいのではないでしょうか。
・この場合、女性でも、エマの不当な死を憤るというよりは、むしろ、エマの死にざまの凛とした美しさに魅せられ、主婦の自己犠牲を美化してしまうのではないでしょうか。あんなふうに死ねるなら、主婦をやりたい、あるいは、あんなふうな主婦が欲しいということになりかねません。そうなると、エマの専業主婦であったがゆえの苦労や屈辱とか、また、エマはその役割に殺されたのだという視点などが一切、忘れられてしまうわけです。かつて悲恋の女王が死ぬと、みんなあんなふうに恋されて死にたい、あんなふうに死ねるなら失恋してもいい、と考えたのと同じ心理と言えます。
・ただちがいがあるとすれば、昔は、それが女の生き方だと決まっていて、しかも世間から目に見えるかたちで強制されていましたが、ここでは、女の生き方の選択肢の一つになっているかのように、あたかもエマが自ら好んで、いとも楽しげに、主婦の生活を選び取ったかのように見えることです。
・この映画の隠れたテーマは、母のエロスの問題です。
オーロラは夫を亡くしたあと、娘エマをエロスの対象にします。
・これまで、エロスは、主として、男と女だけの問題として描かれることが多かったわけですが、ここではいろいろな位相のエロスが、しかも対等な比重のもとに人をとらえています。
・子育て中の女性は、夫に関心がなくなるとは、よく言われることですが、あれは、単に忙しいといった問題とは別に、女性にとって、赤ん坊は最高のエロスの対象になりうるからです。
・したがってこの映画のかなでもエマたちが笑い草にしていたように、せいぜい母親がセックスすることで教えられるのは、月経とか、「初夜の心得」ぐらいで、ましてやセックスや結婚そのものが自分にとってどうだったかなどという本音は、一番親しいはずの母娘のあいだでさえ、きかせてもらえないことになっています。
(また明日へ続きます……)
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~moto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
・母親のエゴは十分に描いてあっても、娘のエゴはよく見えません。母親の無責任さは描けても、娘の自己欺瞞と責任転嫁はもう一つ見えにくくなっています。
母に食われた娘『女優フランシス』
・この映画のテーマは、娘にとって、「味方」であっていいはずの母親が、実は最大の「敵」だったということです。なぜ最大の敵かというと、あまりにも身近にいて、しかも母の「仮面」をかぶっているので、敵が敵に見えない、したがって、闘えないということです。
・人は自分が大事に思っている人、身近にいる人、保護してくれる人のことを“鬼”だなんて、ふつうは思いたくないし、また思えません。そう思ったら、自分がみじめになるし、自分自身を支えてくれなくなりますから、ある意味では自分のためにも、必死になって自分を抑圧する人に自分を理解させようとするのです。もっと理解し合えればもっと愛すればと、愛の足りない自分を痛めつけることにもなります。
・さらに、その小説で興味深かったことは、女の人が正常かどうかの世間での判断基準は「お化粧をちゃんとしてるかどうか」ということです。
・娘が冗談半分に「お母さんに殺されそう」と言うと、母親はそれを医者に告げ口して退院取消となります。そしてその医者のことをフランシスは「神様のつもりかしら」「人の頭の中を再構築しようとする」というような批判をします。そんな中で、賢くなんてとうていふるまえません。誰も自分を助けてくれない、何を言っても聞いてもらえないあの恐怖と絶望の中にいたら、どんなに頭のいい人でも、ああなってしまうのではないでしょうか。
・私が知りたいのは、最初は神まで否定する能力があった、あんなに賢かった人が、どうしてそんなバカなことをくりかえしてしまうのだろうか、ということなのです。それが、私がこの映画を見るときのポイントです。
専業主婦と終焉宣言『愛と追憶の日々』
・専業主婦というのは、自分のために生きるのではなく、夫のため、子どものため、家族のためにだけ生きる存在で、子育てと家事と人の世話をやくことで人生の大半を過ごすことを社会から強制されています。
・今どきエマほど、ものを考えない人もめずらしいと言えます。昔の女学生がそのまま、妻になり母になったという感じで、夫の浮気はモラルを説けばなんとかなると考えているし、中絶はのっけから悪だし、自分の体を守ろうとか自分の時間を持ちたいとか、これまで生活を反省して将来のことを考えるといった態度もいっさいありません。
・一般に主婦の会話の内容は、亭主と子どもの話と相場が決まっていると言われていますが、だれでも一番大切なことを話したいのは当たり前だとはいえ、まず語れるような自分自身がはじめにあってもいいのではないでしょうか。
・この場合、女性でも、エマの不当な死を憤るというよりは、むしろ、エマの死にざまの凛とした美しさに魅せられ、主婦の自己犠牲を美化してしまうのではないでしょうか。あんなふうに死ねるなら、主婦をやりたい、あるいは、あんなふうな主婦が欲しいということになりかねません。そうなると、エマの専業主婦であったがゆえの苦労や屈辱とか、また、エマはその役割に殺されたのだという視点などが一切、忘れられてしまうわけです。かつて悲恋の女王が死ぬと、みんなあんなふうに恋されて死にたい、あんなふうに死ねるなら失恋してもいい、と考えたのと同じ心理と言えます。
・ただちがいがあるとすれば、昔は、それが女の生き方だと決まっていて、しかも世間から目に見えるかたちで強制されていましたが、ここでは、女の生き方の選択肢の一つになっているかのように、あたかもエマが自ら好んで、いとも楽しげに、主婦の生活を選び取ったかのように見えることです。
・この映画の隠れたテーマは、母のエロスの問題です。
オーロラは夫を亡くしたあと、娘エマをエロスの対象にします。
・これまで、エロスは、主として、男と女だけの問題として描かれることが多かったわけですが、ここではいろいろな位相のエロスが、しかも対等な比重のもとに人をとらえています。
・子育て中の女性は、夫に関心がなくなるとは、よく言われることですが、あれは、単に忙しいといった問題とは別に、女性にとって、赤ん坊は最高のエロスの対象になりうるからです。
・したがってこの映画のかなでもエマたちが笑い草にしていたように、せいぜい母親がセックスすることで教えられるのは、月経とか、「初夜の心得」ぐらいで、ましてやセックスや結婚そのものが自分にとってどうだったかなどという本音は、一番親しいはずの母娘のあいだでさえ、きかせてもらえないことになっています。
(また明日へ続きます……)
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