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ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その11

2020-09-01 07:14:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

東 1958年10月~12月
第二十四章 ミューズ 矯正収容された女 使者 母親 使者
 彼は受賞した。彼は受賞した。彼は受賞した。(中略)ボリス・レオニドヴィッチ・パステルナークは、ノーベル文学賞を受賞したふたりめのロシア人なのだ。彼の名は歴史に刻まれ、彼の功績は揺るぎのないものとなるだろう。
 それでも、ボーリャがその賞を受け取ったら、次にどんなことが起こるのか、わたしは怖かった。(中略)
 ボーリャが帽子を手に近づいてきた。(中略)「ストックホルムに電報は出したよ」彼は言った。
「なんて送ったの?」わたしは尋ねた。
「ノーベル文学賞とそれに伴うあらゆるものを受け取ったと」
「じゃあ、あなたは行くの?」わたしは言った。「ストックホルムへ?」(中略)
「それは無理だ」ボーリャはそう言って首を横に振り、わたしの手を取った。(中略)

 ボリスがストックホルムへ電報を送ったあと、クレムリンはスウェーデン・アカデミーに対する公式回答を出した。「貴財団およびこの決定を下した人々が、例の小説の文学性または芸術性を重視していないことは、当該小説にそれらが皆無である点から明らかであり、その代わりに重視されているのは政治的側面である。理由は、パステルナークの小説はソ連の現実を歪んだ形で描き、社会主義革命、社会主義、ソ連国民を誹謗中傷しているからである」(中略)
 彼らはボーリャをユダと呼んだ。(中略)
 だれもが大声で意見を述べたわけではなく、ほとんどはただ沈黙を守っていた。(中略)

 ある日、学校から帰ってきたイーラが、モスクワで学生デモがあったと告げた。(中略)ある学生が掲げているプラカードには、アメリカ紙幣が入った袋をわしづかみにしようとするボーリャの漫画が描かれていた。別のプラカードには、黒の太字でこう書かれていた。「裏切り者をソ連から放り出せ!」(中略)
 作家同盟の白の大広間に彼らが集合したとき、モスクワは五日間も雨が降り続いていた。(中略)ボーリャも出席を求められたが、わたしは家にいてと彼に懇願した。「処刑場に行くようなものよ」とわたしは言った。ボーリャは自分が出席してもなんの意味もないと認め、読み上げてもらうための手紙を書いた。(中略)
 大広間に集まった人々からの嘲りの声が響き渡った。それから、作家がひとりずつ演壇にのぼり『ドクトル・ジバゴ』を糾弾した。(中略)
 議決事項は満場一致で支持され、懲罰は即時有効となった。ボリス・レオニドヴィッチ・パステルナークはソビエト連邦作家同盟から除名されたのだ。
 翌日、わたしはモスクワのアパートにあるすべての本、メモ、手紙、初期の原稿を集めた。ミーチャとわたしはそれを燃やすため、小さな家へ持ち帰った。(中略)
 わたしは彼にあと一日待ってほしいと頼んだ。イーラや母さんに別れを告げたいし、もう一度日の出を見たいからと。実際には、わたしには最後の計画があった━━そして、その計画がうまくいかなかったとしても、なんとか彼を冷静にできるかもしれないとわかっていた。(中略)

(中略)
 わたしはミーチャにフェージンの家へいっしょに行ってくれないかと頼んだ━━わたしの計画の第一歩である。(中略)
 新たに任命された作家同盟の書記長の、大きな丸太を積み重ねて建てられた立派な家の玄関を、わたしはノックした。(中略)ただちに本題に入った。「何か手を打たなければ、今夜、彼は自殺します」
「そんなことを言ってはいけない。(中略)彼を思いとどませるんだ」
「どうやって? こんなことをしたのはあなたと中央委員会の人たちじゃありませんか」(中略)
「ボリスがいまいる地獄は、彼が自分で作り出したものなんだ」(中略)
「何かできることはないんですか?」
 フェージンの答えは、ボリスとわたしがポリカルポフと面談できるよう取り計らってくれるというものだった。(中略)
 とはいえ、その必要はなかった。
 わたしが頼む前に、すでに事態を収拾したとボーリャから告げられたのだ。彼は電報を二通送っていた。一通はストックホルムにノーベル文学賞を辞退する電報、もう一通はクレムリンにそのことを知らせる電報を。(中略)

(また明日へ続きます……)

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P.S. 今から約30年前、最寄りの駅が東京都江東区の東陽駅町だった学習塾「早友」の当時の生徒の皆さん、これを見たら是非ご連絡下さい。久し振りに同窓会をしたいと思っています。黒山先生、福長先生と私で首を長くして待っています。連絡先は「m-goto@ceres.dti.ne.jp」です。よろしくお願いいたします!)

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