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ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その15

2020-09-05 01:46:00 | ノンジャンル
 今日から、角川シネマ有楽町でコロナが大々的に発生し始めた頃に行なわれた「若尾文子映画祭」の再上映の日程が発表されます。私は増村保造監督作品の『赤い天使』『最高殊勲夫人』『卍』『妻二人』をまだ観たことがないので、この映画祭はとてもありがたいイベントだと思っています。家から劇場までドアトゥドアで2時間以上かかり、電車代もバカにならず、生活も乱れる可能性がありますが、なんとしても、この4作は観たいものです。実際の映画祭は9月25日から10月の22日まで。それまでにコロナが収束に向かっているといいのですが……。

 さて、また昨日の続きです。

エピローグ タイピストたち
 1965年の冬、映画版《ドクトル・ジバゴ》が公開された。わたしたちはそろって観にいった。(中略)
 互いの顔を見られたのは嬉しかった。1963年の結婚式以来だったからだ。(中略)
 エンドロールが画面を流れていくあいだ、わたしたちはハンカチで目をぬぐった。《ドクトル・ジバゴ》は戦争の物語であり、愛の物語である。とはいえ、長い年月を経て、わたしたちの記憶に強く残るのは愛の物語のほうだ。

 クレムリンがソヴィエトの槌と鎌を下ろしてロシアの三色旗に取りかえる三年前、『ドクトル・ジバゴ』は初めて母なる国にやってきた━━合法的に、ということである。(中略)そして、その翌年、パステルナークの息子が亡き父に代わってノーベル文学賞を受け取った。

(中略)
 わたしたちのうち、いまも生き残っている者はコンピュータを使うようになった。デスクトップパソコンやノートパソコン、そしてスマートフォンを誕生日やクリスマスのプレゼントに子どもたちが買ってくれて、その使い方を孫たちが教えてくれたのだ。(中略)
 だれが最初にそれを見つけたかは、はっきりしない━━わたしたちはみんな同時にそれを見たようだったから。それは〈ワシントン・ポスト〉に掲載された、ロンドンでアメリカ女性がスパイ容疑で捕まり、アメリカ合衆国へ送還されるのを待っているという記事だった。それがこれほどの大騒ぎを引き起こしたのは、その女性が八十九歳で、罪状が何十年も前にソ連へ情報を漏洩したというものだった。(中略)
 けれど、わたしたちがその記事に関心を抱いた理由は、写真にある。
 女の顔は手錠をかけられた両手で隠されていたけれど、わたしたちは一瞥しただけでそれがだれかわかったのだ。(中略)
 その記事によれば、女はこの五十年間イギリスで暮らしていたという━━その女が三十年のあいだ経営していた、稀覯本を扱う古本屋の上で、2000年代初めに亡くなった名もなき女性といっしょに。
 わたしたちはほかの記事のなかにももうひとりの女性の名前がないか探したけれど、いまだ見つけられずにいる。
『ドクトル・ジバゴ』作戦の成功は、その後CIAの伝説になったものの、イリーナの仕事の記録は1958年の万国博覧会のあと、まばらになって、彼女に関するファイルは1980年代に退職した旨を記した短い報告だけで終わっていた。
 わたしたちの指は飛ぶようにキーボードを打つ。
「これ、彼女だったの?」
「これって、あのふたり?」
「そんなこと、ありえる?」
 そうであることを、わたしたちは秘かに願っている。

 ジュリー・クリスティー主演の映画『ドクトル・ジバゴ』を、私は高校生の時、神奈川県藤沢市の二番館で見て、感動したことを覚えています。ジュリー・クリスティーはその後もトリュフォーの『華氏451』に出演し、私にとって身近な存在になっていきました。彼女の出演作品はその後も、『恋』、『ギャンブラー』、『ナッシュビル』などを観ています。
 この小説も430ページを細かい字が埋めつくしていて、作られたものでしたが、正味3日で読み終わりました。スパイものとしても、恋愛ものとしても、一級品の作品だと思います。

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