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田嶋陽子『フィルムの中の女 ヒロインはなぜ殺されるのか』その4

2020-09-13 00:16:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

・これから母が娘に残してやれるのは、自分の人生がおもしろかったか、つまらなかったか、なんで損をしたか、なにをし残したのか、そういった体験と本音を真心から伝えることではないでしょうか。母は沈黙を捨てることです。

・エロスのいのちは自由です。エロスは、通常、結婚生活の中で窒息死しています。エロスと結婚生活とは、相容れない要素があるわけで、おそらく、オーロラとギャレットの二人は、年の功で、その轍を踏まないよう、知恵を生かした生活をすることになるはずです。


・現代版『白雪姫』『エミリーの未来』

・この映画は、母と娘の葛藤や相克を描いているわけではありません。
 生ききれなかった母が、生きようとしている娘、成功した娘を妬み、その毒気で一方的に娘を苦しめる、いわば〈母の娘いじめ〉を扱った現代版『白雪姫』なのです。

・母は仕事を夢み、娘は家庭を夢みる。母は家庭にあって孤独であり、娘は仕事を愛して孤独である。
 男であれば家庭も仕事も持てるのに、大方の女はどちらか一方しか選べない。

・人生を燃焼させつつあるイザベルは社会問題を悩み、くすぶったまま燃えようとしない人生をかかえた母は魂を病み、自己欺瞞と憎悪で腹わたを腐らせています。


レズビアン版『人形の家』『リアンナ』

・私は、この映画はレズビアン版『人形の家』だと思います。19世紀に書かれたイプセンの『人形の家』は、主人公のノラが「私はあなたの小鳥じゃありません。私はこれからは人間として生きていきます」と宣言して、家を出ていく場面で終ります。

・『リアンナ』の場合は、男と結婚しているリアンナが、女と恋愛して家を飛び出してしまいます。
 19世紀あたりから、小説には、恋愛をすることで階級のちがいを越えたり社会規範を打ち破ったりして、勇気ある行動を示すヒロインがたくさん登場してきます。そういった文学の世界の影響もあって、女の人は「恋愛しています」と言えば、すべてが正当化されてしまうようなところがあります。

・そこがまたリアンナの無防備なところで、そんなこと(自分がレズビアンであること)を不用意に他人に言って歩いたら、異性愛を正常と見なす社会から抹殺されかねない状況なのに、彼女にはそういう社会の偏見に対する配慮がまったくありません。レズビアンになったことを単純に喜んで“私メンスがあったのよ”みたいな感じであちこちにふれ回ってしまいます。逆に言うとリアンナのその純粋さが、彼女をカムアウトさせたのだし、この映画を明るく力強いものにしているとも言えます。そして本来なら、リアンナの無防備さがそのまま通用する社会が当然なのだと、セイルズ監督は考えているんじゃないかと思います。

・今、アメリカのキャリア・ウーマンたちは、職場での恋愛はしないようにしているという話を聞きました。職場恋愛をすると、必ず女性の方が職を失う状況があるからです。

・いくら仕事を探しても手に入る仕事はスーパーのレジ係、という女の現実も知ります。(中略)同じアパートに女同士で住んでいる自立した女たちの明るい存在に励まされ、部屋の模様替えをはじめとして、楽しい暮らしを工夫するようになります。そして、最後には異性愛者のサンディと友情を復活させるところまでいきます。


「女らしさ」の神話からの脱皮『存在の耐えられない軽さ』

・トマシュとサビーナは、ある意味でもうすでに完成している人間です。


自己欺瞞からの再生『私の中のもう一人の私』

・これまでこの世の中では〈理性〉のほうが〈感情〉よりランクが上で、〈理性〉は男性に、〈感情〉は女性に、振り分けられてきたきらいがあります。

・彼女の中には、誰の何を基準にしたのかよく分からない「客観」の方を価値あるものとする価値観があるわけです。(中略)この「客観的に見る」ことがいいことなのだという価値観は、やはりさっき見たような理性偏重から発想されています。

・ですから本当に腹の底から何かを感じたら、ある意味では、とても怖いことになります。〈感じる〉ことは、元来、行動に結びつくからです。感じたまま正直に生きたら、世間や良識からはみ出してしまうかもしれません。それがこわいから人はその〈感情〉を〈抑圧〉するのです。

・この映画は一見、産まなかった女を、非難しているかのように見えるし、後悔もさせてもいますが、それでもそれをもう一歩進めて、人間だれでも〈孕む〉ことができるんだ。人間をもっとも人間たらしめている〈考える〉という営為そのものが、自分の人生を、そしてまた、仕事の成果をも新しく〈孕む〉力になっていくんだ、そういうメッセージを伝えてきます。


 260ページを超える単行本でしたが、わかりやすい文章のおかげで2日間で読んでしまいました。フェミニスト以外の方にも是非読んでほしい本です。

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~moto

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