恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラム。
まず8月8日に掲載された「今年の受賞作」と題されたコラム。全文を転載させていただくと、
「今期の芥川賞・直木賞受賞作はともに暴力がからんだ作品だった。
芥川賞を受賞した高橋弘希『送り火』の舞台は青森県の津軽地方。転校生の視点から、中学校に代々伝承されている遊びを装った『いじめ』を描いている。(中略)少年のそんな一言で始める『彼岸様』とは失神寸前まで縄跳びの縄で首を絞める遊びだったりするのである。
一方、直木賞を受賞した島本理生『ファーストラヴ』は女性臨床心理士の目を通して、ある事件の背景を描いた作品だ。アナウンサー志望の女子大生が面接の帰りに父親を殺害した事件である。調べていくうち、彼女は気づく。女子大生は少女時代に自分でもそうとは気づかぬ、ひどい性的虐待を受けていた。
作家は特に時代を意識してはいないだろうし、賞の選考委員も同じだろう。ただ、数十年の単位で見ると、受賞作にはやはりその時代時代のカラーが反映されている。
ってことは、いまは暴力の時代? というより暴力がやっと意識化されはじめた時代なんじゃないかと思う。(中略)今日の暴力は単純な殴る蹴るではない。だから厄介なのである。」
また、8月15日に掲載された「タイムスリップ小説」と題されたコラム。
「タイムスリップは小説の常套手段だけど、行き先が戦時中だったら?
荻原浩『僕たちの戦争』(2004)の主人公・尾島健太は十九歳のフリーター。サーフィンの最中に大波にのまれ、気がつくとそこは昭和19年9月12日の茨城だった。彼は霞ケ浦航空隊の飛行術練習生・石川吾一と入れ替わって2001年9月に飛んだ吾一は、摩天楼に飛行機が突入する映像を見て特攻隊の活躍が始まったと思いこむ。
藤岡陽子『晴れたらいいね』(2015)の主人公・高橋紗穂は24歳の看護師。彼女がタイムスリップした先は、昭和19年8月15日のマニラだった。そこは野戦病院。紗穂は日赤の従軍看護婦になっていた。
山田太一『終りに見た街』(1981)の一家の場合は、朝起きると昭和19年6月になっていた。子ども時代に戦争を体験している47歳の『私』はせめてこの時代には染まるまいと抵抗するが、徐々に無力感にさいなまれていく。
翌年の8月15日になれば戦争は終わる。その1点を頼りに、彼らはその日まで生き延びよう、周囲の人も助けようと考える。だが敗戦の日付など、渦中の人々の前では何の役にも立たないことを彼らは知る。『今日で終わり。ご苦労さん』とはならなかった日。戦争はゲームとはちがうんです。」
また、8月12日の日曜日に掲載された、「学生の貧困」と題された、山口二郎さんのコラム。
「前期の政治学の期末試験に、『あなたが今抱えている問題で、個人や家族の力で解決できないものをあげて、それを解決するための戦略を考えなさい』という問題を事前に公開し、準備させた。すると『年収百三万円の壁』を挙げた学生が十人くらいいた。
百三万円の壁とは、パート主婦の収入が百三万円を超えれば所得税を課税されるようになり、夫の扶養家族の地位を失うので、かえって不利益になるという話である。私は、この話は主婦のパートに関するものと思い込んでいたのだが、学生のアルバイトにも当てはまることを知って、愕然とした。格差や貧困という問題が若者の中に広がっていることは知っているつもりだったが、若者の苦労の度合いを再認識させられた。
学生は、遊興費ではなく、生活費や学費を稼ぐために働いているのである。一年に百万円稼ごうと思えば、およそ千時間働くことを意味する。そうなると、勉強時間を十分に確保できないだろう。切ないというか、いたたまれない思いである。
この数年、文科省は大学教育の中身を充実させろと強調してきた。教師としては異論はない。それにしても、学生に勉学に専念できる環境を整えなければ、教育の充実は空念仏に終わる。給付型奨学金制度の拡大など、政策の展開が急務である。」
ハラスメントとしての暴力、戦後まで続いたひどい民衆の心の傷、学生の貧困と、どの文章もとても勉強になりました。2番目の斎藤さんの文章については、安倍首相は2020年に憲法9条を改悪し、自衛隊を戦争のできる軍隊にしようと考えています。そのためには、今年の秋に行なわれる臨時国会で与党による発議がなされなければなりません。公明党は今のところ、9条の改悪に慎重な姿勢を崩しておらず、野党もオールジャパンで、市民運動と連携し(というか市民グループが自主的に始めたことですが)「安倍首相9条改悪を阻止する3000万人署名」を実施しています。まだ署名をしていない方は、地元の9条の会を検索し、電話すれば署名用紙を持ってきてくれると思いますので、是非署名されることをおススメします。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
P.S. 今から約30年前、東京都江東区で最寄りの駅が東陽町だった「早友」東陽町教室の教室長、および木場駅が最寄りの駅だった「清新塾」のやはり教室長だった伊藤先生、また、当時かわいかった生徒の皆さん、これを見たら是非下記までお知らせください。黒山さん福長さんと私が、首を長くして待っています。(また伊藤先生の情報をお持ちの方も是非お知らせください。連絡先は「m-goto@ceres.dti.ne.jp」です。よろしくお願いいたします。
まず8月8日に掲載された「今年の受賞作」と題されたコラム。全文を転載させていただくと、
「今期の芥川賞・直木賞受賞作はともに暴力がからんだ作品だった。
芥川賞を受賞した高橋弘希『送り火』の舞台は青森県の津軽地方。転校生の視点から、中学校に代々伝承されている遊びを装った『いじめ』を描いている。(中略)少年のそんな一言で始める『彼岸様』とは失神寸前まで縄跳びの縄で首を絞める遊びだったりするのである。
一方、直木賞を受賞した島本理生『ファーストラヴ』は女性臨床心理士の目を通して、ある事件の背景を描いた作品だ。アナウンサー志望の女子大生が面接の帰りに父親を殺害した事件である。調べていくうち、彼女は気づく。女子大生は少女時代に自分でもそうとは気づかぬ、ひどい性的虐待を受けていた。
作家は特に時代を意識してはいないだろうし、賞の選考委員も同じだろう。ただ、数十年の単位で見ると、受賞作にはやはりその時代時代のカラーが反映されている。
ってことは、いまは暴力の時代? というより暴力がやっと意識化されはじめた時代なんじゃないかと思う。(中略)今日の暴力は単純な殴る蹴るではない。だから厄介なのである。」
また、8月15日に掲載された「タイムスリップ小説」と題されたコラム。
「タイムスリップは小説の常套手段だけど、行き先が戦時中だったら?
荻原浩『僕たちの戦争』(2004)の主人公・尾島健太は十九歳のフリーター。サーフィンの最中に大波にのまれ、気がつくとそこは昭和19年9月12日の茨城だった。彼は霞ケ浦航空隊の飛行術練習生・石川吾一と入れ替わって2001年9月に飛んだ吾一は、摩天楼に飛行機が突入する映像を見て特攻隊の活躍が始まったと思いこむ。
藤岡陽子『晴れたらいいね』(2015)の主人公・高橋紗穂は24歳の看護師。彼女がタイムスリップした先は、昭和19年8月15日のマニラだった。そこは野戦病院。紗穂は日赤の従軍看護婦になっていた。
山田太一『終りに見た街』(1981)の一家の場合は、朝起きると昭和19年6月になっていた。子ども時代に戦争を体験している47歳の『私』はせめてこの時代には染まるまいと抵抗するが、徐々に無力感にさいなまれていく。
翌年の8月15日になれば戦争は終わる。その1点を頼りに、彼らはその日まで生き延びよう、周囲の人も助けようと考える。だが敗戦の日付など、渦中の人々の前では何の役にも立たないことを彼らは知る。『今日で終わり。ご苦労さん』とはならなかった日。戦争はゲームとはちがうんです。」
また、8月12日の日曜日に掲載された、「学生の貧困」と題された、山口二郎さんのコラム。
「前期の政治学の期末試験に、『あなたが今抱えている問題で、個人や家族の力で解決できないものをあげて、それを解決するための戦略を考えなさい』という問題を事前に公開し、準備させた。すると『年収百三万円の壁』を挙げた学生が十人くらいいた。
百三万円の壁とは、パート主婦の収入が百三万円を超えれば所得税を課税されるようになり、夫の扶養家族の地位を失うので、かえって不利益になるという話である。私は、この話は主婦のパートに関するものと思い込んでいたのだが、学生のアルバイトにも当てはまることを知って、愕然とした。格差や貧困という問題が若者の中に広がっていることは知っているつもりだったが、若者の苦労の度合いを再認識させられた。
学生は、遊興費ではなく、生活費や学費を稼ぐために働いているのである。一年に百万円稼ごうと思えば、およそ千時間働くことを意味する。そうなると、勉強時間を十分に確保できないだろう。切ないというか、いたたまれない思いである。
この数年、文科省は大学教育の中身を充実させろと強調してきた。教師としては異論はない。それにしても、学生に勉学に専念できる環境を整えなければ、教育の充実は空念仏に終わる。給付型奨学金制度の拡大など、政策の展開が急務である。」
ハラスメントとしての暴力、戦後まで続いたひどい民衆の心の傷、学生の貧困と、どの文章もとても勉強になりました。2番目の斎藤さんの文章については、安倍首相は2020年に憲法9条を改悪し、自衛隊を戦争のできる軍隊にしようと考えています。そのためには、今年の秋に行なわれる臨時国会で与党による発議がなされなければなりません。公明党は今のところ、9条の改悪に慎重な姿勢を崩しておらず、野党もオールジャパンで、市民運動と連携し(というか市民グループが自主的に始めたことですが)「安倍首相9条改悪を阻止する3000万人署名」を実施しています。まだ署名をしていない方は、地元の9条の会を検索し、電話すれば署名用紙を持ってきてくれると思いますので、是非署名されることをおススメします。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
P.S. 今から約30年前、東京都江東区で最寄りの駅が東陽町だった「早友」東陽町教室の教室長、および木場駅が最寄りの駅だった「清新塾」のやはり教室長だった伊藤先生、また、当時かわいかった生徒の皆さん、これを見たら是非下記までお知らせください。黒山さん福長さんと私が、首を長くして待っています。(また伊藤先生の情報をお持ちの方も是非お知らせください。連絡先は「m-goto@ceres.dti.ne.jp」です。よろしくお願いいたします。