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川上未映子『ぜんぶの後に残るもの』

2012-07-16 03:09:00 | ノンジャンル
 オットー・プレミンジャー監督・製作の'79年作品『ヒューマン・ファクター』をWOWOWシネマで見ました。ロシアのスパイである英国情報部員が、アフリカ人の妻子をロンドンに置いて、ロシアへ亡命するまでを描いた映画でしたが、音楽の使い方などが多分に情緒的で、プレミンジャー独特のシリアスな面があまり見られませんでした。

 さて、川上未映子さんの'11年作品『ぜんぶの後に残るもの』を読みました。週間新潮に「オモロマンティック・ボム!」の題で'10年4月22日号から'11年5月12日号まで連載されたエッセイに、日本経済新聞の「プロムナード」欄に'11年3月31日から4月28日の間に載った、地震関連のエッセイを加えてできた本です。
 いつもの「川上節」はここでも健在で、例えば、「幸運を引き寄せるとか、ポジティブなことはどんどん口に出して実現しようとか、とにかく『好き』とか『うれしい』とか『喜びをシェア』とか―そういうハッピーなものがまるっと『善』であると前提していて、(後略)」とか、「家に居ながら出会い頭的な日々を送ってきたわたし」とか、「問題なのは解決策を講じるのではなくただ想像するというのが剣呑で」とか、「師走に入り、みなさんはお仕事、噂の年末進行などにずるずるにされているころなのではないですか。どうですか。」とか、「色の限界はそれを見るこちらの目の限界。本当の色の数%しか感知できないとはよくきく噂だけれども、だとしたら世界には本当の色があるなんていうことを知ったってそこからどうすればいいんだろう。なはんて古今東西の歴々が考えてきてだからってこれもまたどうしようもなかったことの手触りを歩きながらさっとなぞってうっちゃるいまは2011年の冬である。」とか‥‥。
 また、「なるほど」と思わせる文章もいくつかあり、例えば、「(前略)スキップなんていうのは言葉で『してみようか』なんて思ってするものではなく、体が直接に発揮されるからこそのスキップなわけであって。『走ってみようか』ではなく気がついたら走ってた。『告白しようか』ではなく気がついたら突進してた。どうやら、そんなふうに一直線に汗ばむことのできる季節は過ぎてしまっていたようです。よかったよかった。」とか、他にもそのような部分が多くありました。
 内容は至って自分自身に関することが多く、気楽に読める内容は前作『夏の入り口、模様の出口』と同様でした。あっと言う間に読めてしまう楽しいエッセイ集です。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/