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朝倉かすみ『ほかに誰がいる』

2006-12-23 17:21:06 | ノンジャンル
 昨日の引き続き、青山ブックセンターHMV渋谷店の店員さんが推薦の朝倉かすみさん「ほかに誰がいる」の紹介です。最初に見た時は「ほかに誰かいる」と読み違え、ホラー小説かな、と思いました。
 主人公の女子高3年生の本城は、同じ学年の賀集(がしゅう)玲子に一目惚れし、やがて親友になります。本城は賀集のことを自分の中では天鵞絨(ビロード)と呼び、毎晩100回彼女の名前をノートに書きます。彼女は夜になると自転車で賀集の家の前の公園に行き、そこから彼女の部屋の明かりを見て、恋心を燃やしますが、ある日その場を賀集に見つかってしまい、公園で犬を散歩させてる青年に会いに来ているのだ、とその場限りの嘘をつきます。しかし、賀集は本当に主人公が嘘で言った青年に会い、彼と恋仲になります。
 受けた大学をすべて落ちた本城は、賀集の幸福を祈ってそれを祝福しなければならない、と自分に言い聞かせますが、何かが自分の中で壊れ、裁ちバサミで髪の毛と耳を少し切り落とし、二度と公園へ行けなくなるように自転車をハンマーで叩き潰し、自分の右足まで叩き潰してしまいます。精神病院に入院し、退院すると自宅で療養し、その間に海外に留学した賀集から手紙が何通も届きますが、本城は開封しません。高校時代の男友達タマイと遊べるまで回復しましたが、ある日冗談で本城が彼の頭をぶったことがきっかけで、タマイは死んでしまいます。
 ある日レントゲン技師の名前が賀集だと知り、玲子の父だと思った本城は彼の誘いに乗り、愛人となり、妊娠します。これで玲子と切っても切れないつながりができた、と思ったところ、愛人は玲子とは何のゆかりもない人であることが分かり、死んだタマイと話をしながら、寝ている愛人にオイルを撒いて火をつけ、静かな狂気の中へ進んで行くのでした。
 ストーカーの話です。完全に狂ってます。が、これはトリュフォー監督の「アデルの恋の物語」を想起させる狂気であり、情熱であり、誠実さなのだと思います。題名の「ほかに誰がいる」は、賀集にふさわしい人間は私の「ほかに誰がいる」?、という意味だった訳です。推薦者の言われるように、「繊細な心理描写」はあるかもしれませんが、「思春期のあやうい部分」というのは、明らかに違うでしょう。これは思春期だろうが、老年期だろうが、こういう人は存在すると思います。
 ある種の女性が持つ狂おしい恋心に触れたい方には、オススメです。