一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

北沢方邦の伊豆高原日記⑥

2006-07-01 18:13:29 | 伊豆高原日記

北沢方邦の伊豆高原日記⑥ 
Kitazawa, Masakuni


 知と文明のフォーラム第二回セミナー『性差とジェンダー1』(講師青木やよひ)についての感想文で、石井ゆたかさんが触れたからかもしれないが、カタツムリがあらわれ、雨に濡れたヴィラ・マーヤの敷石のうえに寝そべっていた。踏まれるといけないと、そっとつまみ、繁った草叢に放してやった。

ヴェトナム(越南)の現代音楽 (6月30日)
  打楽器奏者の上野信一のリサイタルで、ヴェトナムの現代音楽家ダオ(N.T.Dao)の『打楽器独奏のためのタイ・ソン(地域の名)』(1984)を聴き、心洗われる思いがした。

 華麗なテクニークと身体に似合わぬ(失礼!)繊細な感受性を兼ね備えた氏のリサイタルやアンサンブルをいつも楽しませていただいているが、この夜の悼尾を飾るこの曲は、竹や銅鑼(ゴング)などヴェトナム風の楽器をふんだんに使って、民族色あるいは民俗色ゆたかでさわやかな風を背景に吹かせながら、あくまで現代曲としての表現と構成を追及したもので、出色であった。

 映画や音楽あるいは絵画で、イラン、ヴェトナム、中国など第三世界のすぐれた芸術家が輩出し、21世紀の世界に希望をあたえているが、これもそのひとつだろう。

ならずもの国家
 ジョージ・W.ブッシュはかつて、当時もっとも民主化のすすんでいたハタミ政権下のイランを名指しして「ならずもの国家a rogue nation」と呼んだが、いまそのことばは、そのままイスラエルとアメリカに返上すべきだろう。たった二人のイスラエル兵の殺害と一人の兵士と一人の植民者の拘束を理由に、パレスティナ自治区のガザに武力侵攻し、橋や発電所を破壊し、空襲や艦砲射撃で子供を含む多くの市民を殺害する。いままで数々の国連決議を無視し、パレスティナ人の人権を無視しつづけてきたこの国家を「ならずもの」といわずしてなんと呼ぶべきなのだろう。

 アメリカ連邦最高裁は多数意見によって、グアンタナモ基地収容所のいわゆるテロリスト拘束と尋問は、軍事法廷法にも抵触し、憲法違反であると認定した。開設早々から法治国家に存在すべきでない人権無視の施設と批判されてきたが、大量破壊兵器(WMD)やテロリストとの戦いを名目にしたイラク戦争といい、ブッシュ政権下のアメリカも「ならずもの国家」にほかならない。それに加担しつづけてきた小泉政権下のわが国も、「ならずもの国家」の仲間(英語の意味でのギャング)であるだろう。

不思議の国のアリス:リサ・ランドール
 6月29日のNHKBS1「未来への提言」で、宇宙飛行士の若田氏が、物理学者のリサ・ランドール博士(DR. Lisa Randall)へのインタヴューを行っていた。内容が表面的であったのは、TVの啓蒙的な番組としての限界なのだろうが、彼女のきわめて人間的な魅力に触れただけでもよかったのかもしれない。 

 彼女はサンドラム(Dr. R. Sundrum)と共同で執筆した論文「小余剰次元から見る大質量階層」と「コンパクト化への代替案」(ともに1999)で注目を集めたひとである。近年、物質の最小単位は粒子ではなく弦(ストリング)であり、それはコンパクト化によって10乃至は11次元の時空を占め、われわれの見ている4次元時空の宇宙は、他の宇宙から膜(ブレーン)によって隔てられている、とする弦理論(ストリング・セオリー)がきわめて有力な仮説となっている。
 
 この説を唱える研究者の多くは、10または11次元も無限次元の置き換えにすぎないと考えているが、それはともかくこれが真実であれば、宇宙論や世界観の大変革であり、われわれの基本的なものの見方にも深甚な影響をおよぼす「思想」となるはずである。   

 この説のひとつの弱点は、ペンローズの指摘するように(Penrose. The Road to Reality,2004.p.897)、多重宇宙を直接多次元空間(ハイパースペース)で扱うと、あまりにも膨大な関数的自由度が発生することである。ランドールの提唱するように、われわれの時空を5次元とし、膜で隔てられた他の宇宙それぞれを余剰の1次元がつないでいるとすれば、少なくともこの問題は解決する。この点で彼女の考えは画期的なのだ。

 ただ私にいわせれば、時間をすべての宇宙をつらぬいく1次元としてよいのか、他の宇宙には他の時間軸は存在しないのか、問題となる。直接彼女に尋ねてみたいものである。



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