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一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

法曹界なう★2

2011-12-20 09:47:44 | 法曹界なう

法曹界なう★2
『面白い恋人』問題と、人の名前


                      弁護士  寺本倫子

 北海道の土産品として有名な菓子『白い恋人』を製造販売する石屋製菓が、吉本興業などが売り出した菓子『面白い恋人』が商標権を侵害しているなどとして、商法法と不正競争防止法に基づき販売の差止めを求める訴えを札幌地裁に起こしたとの記事があった(平成23年11月29日付朝日新聞朝刊)。

 『白い恋人』は、クッキーでホワイトチョコを挟んだ菓子であり、『面白い恋人』は、みたらし味のゴーフレットであり、平成22年7月から売り出され、石屋製菓によれば、「『面白い恋人』は、『白い恋人』にブランド力にただ乗りし、不当な利益を追求しようとしている、商道徳、コンプライアンス(法令遵守)の欠落は著しく断罪されるべきだ」と指摘しているという。当の私も、北海道の土産物と言えば、真っ先に思い出すのは、『白い恋人』であり、洒落た名前に、お土産としてもらったときも気分が良くなる。この名前を考えた人は、さぞやロマン溢れるセンスをお持ちではないかと想像してみたりする。名前から受けるそんなイメージからすれば、石屋製菓からしてみれば、今回の件は、「面白い」では済まされないとして立ち上がったのであろう。ただ、法的に見たらどうなのか、裁判所は、この差止め訴訟に対していかなる法的判断を下すのか、あるいは話し合いで終わるのか注目したい。

 『白い恋人』問題は、商品名の紛争であるが、人についても名前の問題が起きることがある。

 夫が昔の恋人の名前を生まれたばかりの子どもに付けたことが妻に発覚し、妻は怒り心頭、名を変更したいと考えたり、親に珍奇な名前、難読な名前を付けられた者が、名を変更したい場合は現実に生じる。通称や芸名は別として、ここで問題としているのは、戸籍上の名を変更できるかどうかである。

 まず、できるかどうか、という点については、戸籍法に規定があり、正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得ることによって、戸籍の届出ができると戸籍法107条の2に規定されている。よって、できるのである。しかし、家庭裁判所に名の変更許可申立をし、許可が下りなければならず、しかも、家庭裁判所は、「正当の事由」がなければ許可はしない。単に、自分の名が気に入らないからというだけでは家庭裁判所は認めてはくれない。では、どんな場合に、家庭裁判所は、「正当の事由」が認められるとして、許可してくれるのであろうか。

 過去の裁判例を探してみると、いくつか許可が認められたものがある。

・平成9年の事例で、申立人が戸籍上の氏名で呼ばれると、幼少期に受けた虐待の加害者ひいては加害行為を想起し、強い精神的苦痛を感じるなどから「正当事由」を認めた。

・同じく平成9年、平成中学三年の男子が僧名への変更許可を求めた事案で、申立人の僧侶になる意思は強く、今後も僧侶の道を歩むであろうことが推認され、僧名へ変更することが申立人の今後の生活に有益であり、改名したとしても他の者に対し格別の不利益や弊害を及ぼすとは考えられないなどとして「正当事由」を認めた。

・次に平成21年の事例で、申立人が、「長男」として出生届出がされ、「A」という男性的な名前が付けられたが、申立人は、性同一性傷害であり、「A」という男性的な名では生活に支障を来し、その名を使用することによて精神的な苦痛を被っているとして、「B」という女性的な名前への変更を申し立てた事件がある。

 この事件では、第一審である神戸家庭裁判所は、申立人が精神的苦痛を被っていることは認めつつも、軽視できない社会的支障、混乱が生じるなどとして、「正当な事由」は認められないとして、許可しなかった。これに対して、第二審である大阪高裁は、申立人は精神的苦痛を感じており、戸籍上の名の使用を強いることは社会観念上不当であり、名の変更によって職場や社会生活に混乱が生じるような事情は認められないとして、「正当な事由」を認め、名の変更を許可した。この事件では、性同一性障害に対する理解が第一審と第二審とでは大きく異なったことで結論が分かれたと思われる。性同一性障害について、社会として理解を深めていかなければならない気運のある中、第二審はこのような背景を踏まえた判断をしたといえよう。

 個人の名とはいえ、そうやすやすと変更を認めては社会的に混乱が起こることは否めず、単なる個人的な感情だけで裁判所は「正当な事由」があるとは認めてくれない。しかし、考えてもみれば、元来、親から授かった名。余程の事情でもない限り、大切にしたいと思うが、どうだろうか。


法曹界なう★1

2011-08-12 07:33:07 | 法曹界なう

法曹界なう★1
司法修習生の給費問題は、まだ終わっていない

                        弁護士 寺本倫子

 最近の法曹界の話題として、司法修習生の給費制廃止の問題があります。政府は、8月4日に、法曹養成改革に関する関係省庁副大臣らの検討会議を開催し、これまで司法修習生に月額約20万円の給料を支払っていたのを、今年度11月に入所する司法修習生からは、希望者のみ無利子の「貸与制」に移行する方針を確認しました。最近こそ、ニュースで話題になっていますので、ご存じの方が大半でしょうけれど、そもそも、司法修習生にこれだけの額の給料が支払われていたことをご存じなかったのではないでしょうか。「給料」は、税金から支払われているのですから、国民にとっては重大な関心事であるべきです。

 司法試験に合格すると、最高裁判所に司法修習生として採用され、修習を行います。身分は、準公務員です。司法修習を経て、卒業直前に行われる試験(二回試験と言われています。一回試験は司法試験のことです。)に合格しないと、裁判官、検察官、弁護士にはなれません。司法修習期間は1998年開始の修習生は2年間でしたが、その後、徐々に短くなっており、2006年からは1年間になりました。研修所の教官(裁判官、検察官、弁護士から任命されます。)が、期間が短くなっても、最低限、どうしても教えておきたいことがあり、削ることはできないので、当然、詰め込み型になったり、宿題型のみになるなど、無理な時間割になるとおっしゃられていたのを聞いたことがあります。

 そもそも、何のために司法修習を行うのかというと、司法試験に合格しただけでは、法律についての、解釈論を学んだに過ぎないわけで、これを実務において生かせるようにするための最低限、必要なことを学ぶことにあります。しっかり勉強してもらわないと困るので、修習期間中のアルバイトは禁止されています。国家の役目として、給料を支払って実務家となるべく能力を身に付けさていたわけです。

 ところが、給費制度を維持してくには税金が投入されるわけですが、国家の財政状況が苦しいことや、司法試験合格者を年々、増やしていることを考えると、今までどおり給費制を維持してよいのか、という疑問が起きてきたわけです。

 裁判所法には、すでに、「司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習資金を貸与するものとする。」と定められています(裁判所法67条の2)。しかし、弁護士会などの強い反対により、議員立法で給与制を1年間延長する裁判所法改正法が成立しました。今回は、政府により、貸与制に移行することが確認されたわけです。

 弁護士会は、これまでに、「給費制の維持」を唱えてきましたが、その理由としては、法曹の育成は国家の責務であること、給費制ではなく、「貸与制」にしてしまうと、司法修習を終えた時点で、多額の債務を背負った弁護士等ができることになる(法科大学院制度に移行したことにより、法科大学院に通う間に、多額の債務を背負っている者が現れていることが背景にあります。)、貧しい人は法律家になることを敬遠してしまうなどが主なものです。しかし、震災による財源問題もあることでしょう、「貸与制」実施がされるのは確実です。

 この問題は、税金の使途の問題のみならず、今後の司法のあり方に少なからず影響を与える可能性があると私は考えています。司法関係者のみならず、広く国民の皆さんに関心を持って頂きたいものです。