身体と心が変革される予感
今回の「知と文明フォーラム」第3回セミナー『ヨーガ――インド哲学とその実践』の目的は、身体と心の関係を学ぶことにあった。ヨーガの実践を通して、身体を動かすことで学ぶ、そして、ヨーガの思想的背景、つまりインド哲学の講義を受けることによって、その学びをさらに深くする。
7月15日の午後から翌16日の15時まで、したたる緑に囲まれた伊豆高原のセミナーハウスは、30代から70代までのヨギの熱気でむせかえるようであった。
と、書いたけれども、この私は、ただでも身体が硬い上に、日ごろの不摂生もたたり、身体が思うように動いてくれない。講師の北沢方邦先生と、パートナーである青木やよひ先生は、長年の実践の成果か、その身体は驚異的に柔軟である。180度脚は開き、開いたままで上半身が床につく。呆然とその動作を見守るばかりであった私は、少なくともこのセミナーでは、身体を通しての心身一如の実感にはほど遠いものであった。精進すれば、いつの日にか、両先生のような柔軟な身体になれるのだろうか。「私もかつては身体が硬かったのよ」と言われる青木先生の言葉も、虚ろに響くばかりであった。
しかし、ヨーガの基本だという呼吸法は、身体の硬さとは無縁のもの故、それなりに体得できたように思う。ヨーガの呼吸法とは「気(サンスクリット語でプラーナ)」を制御することである。それでは気とは何か。どうやら、気こそ、心と身体を結びつける重要な存在であるらしい。というよりも、気は、身体的であると同時に精神的な存在であるようなのだ。
息を吸い、止め、そして吐く、これを1:4:2で行うのが呼吸法(プラーナーヤーマ)の基本であると教わる。そして大事なのは呼吸を止めること――これをクムバカというようだが――であると。クムバカによって酸素が赤血球に吸収され身体中に酸素エネルギーがいきわたる。これこそ気の源泉であり、この気をコントロールすることで、おそらく心身一如の境地に達することができるのであろう。そんな日を遠くに夢見て、私は、毎朝満員電車の中で、このプラーナーヤーマを実践している。鞴の呼吸法(バストリカ)も教わったが、これは騒々しくて電車の中では実践はできない。
2日目は、最新の物理学理論が紹介される。衝撃的なのは「多重世界理論」で、それが描く世界のありようは、インド哲学の描くそれと近いものであるようなのだ。
数学や物理学の話は私には理解の外だが、多重世界理論によると、過去と未来が等しく、この世界は無限次元の空間から成っているという。過去と未来が等しい? 無限次元の空間? 「異界」や「他界」という言葉が思い浮かぶ。「輪廻転生」という言葉も。浄土真宗の篤い信者である91歳の義母は、輪廻転生を信じて疑わない。義母の世界と最新物理学の描く世界にどこか通じるものがあるのだろうか。「シュタイナー教育」で有名なルドルフ・シュタイナーは、教育のほかに、農学、医学、芸術、宗教など幅の広い分野で活躍した人だが、彼も輪廻転生を信じていて、私はこの部分だけはどうにもついていけないものを感じていた。あれほど理性的な人がどうして、という気持ちである。それが少し変わった。
今回のセミナーは、私の近代的合理主義的思考法を、かなりの程度に修正してくれたようだ。身体も心も、未知なる宇宙に向けて、扉を広く開けていこうという気持ちになっている。北沢先生、有難うございました。
2006年8月27日 j-mosa
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