東京ナイト

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「ミニヤコンカ奇跡の生還」

2010-11-07 07:16:05 | 
本は「ミニヤコンカ奇跡の生還」



この前、読んだ「処女峰アンナプルナ」は1950年の話だったけれど、こちらは1982年の物語。
どちらも同じヒマラヤ登山で、それぞれ登頂に成功し、下山中に遭難するという話だけど、だいぶ印象が違う。
「アンナプルナ」は下山後すぐに仲間やシェルパたちに助けられ、凍傷に罹った指を切断しながらという究極の脱出行だったものの、とにかくサポートはあった。

でもこの「ミニヤコンカ」は7556メートルの頂上付近で天候悪化のため何日もアタック隊員ふたりだけで閉じ込められ、ようやくサポートが待っているはずのキャンプにたどり着くと、そのキャンプは既に撤収され、ただ「アタック隊員二人の冥福を祈ります」という手紙だけが残されていた。
サポート隊は、アタック隊が遭難したと早合点し、撤収してしまっていたのだ!

ここから飢えと凍傷に苦しみながら、19日間に及ぶ戦いが始まる。
それは手足の指を全て失い、重度の内臓疾患に罹り、62キロあった体重が32キロにまで減ってしまうという本当に過酷なものだった。
たまたま薬草採りに来ていた現地の人に見つかるのが、あと一日遅かったら、間違いなく死んでいたそうだ。

最後は死力を尽くして這って下山するような壮絶な記録だけれど、読後は不思議と明るい印象がある。
それは著者の松田宏也さんがとても楽天的で明るい性格だからかもしれない。
頂上直下で閉じ込められている時も、演歌の替え歌でその時の状況を歌ってみたり、極限状況の中でも、著者のひょうきんな性格が出てしまう。
でも、だからこそ下山できたんだろうと思う。
楽天的な性格じゃなければ、サポート隊が撤収してしまったと分かった時点で、気持ちがめげてしまったはず。

という訳で、「奇跡の生還」を描いた迫真のドキュメントなんだけれど、なんだか明るい印象の不思議な本。
ちなみに著者はその後、社会復帰し、登山も再開し、今は大企業の役員にまでなっているそうだ。