石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

鬼の居ぬ間に:中東の政治的空白に暗躍する国々(3)

2020-12-14 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。


http://mylibrary.maeda1.jp/0520PoliticalVacuumInMe.pdf

(英語版)
(アラビア語版)

2.トルコ:中東の覇者を目指す危険な綱渡り

 欧州のBREXIT(英国のEU離脱)及び新型コロナ危機並びに米国の政権交代と言う政治の空白状況に助けられたのはトルコであろう。シリア内戦でロシアと緊密な軍事協力関係を築き上げ、S-400ミサイルシステムを導入するきっかけとなった。その一方ではロシアとイランに対するNATOの最前線として米国のステルス戦闘機F-35の導入を図った。西側の矛(F-35)と東側の盾(S-400)を同時に保有しようとするトルコの意図は西側にとってはまさに「矛盾」そのものである 。

EUがトルコをけん制できないのは東地中海の天然ガス開発問題も同様である。トルコはギリシャ、キプロス両国の反対を押し切って天然ガスの探鉱作業を強行した。さらにリビア中央政府と経済水域協定を締結しイスラエル、エジプト、レバノンによるヨーロッパ向けパイプライン計画を阻止しようとしている。内戦中のリビアでは、イタリアが政府側を、フランスが反政府側を支援しEUは一枚岩でない。トルコはEUの足元を見ている 。

トルコはイソップ物語のコウモリのように西側と東側の間で巧妙に立ち回っている。但し状況は常に変化している。ナゴルノ・カラバフ自治州の紛争でトルコはアゼルバイジャンを支援して仇敵アルメニアを撤退に追い込んだが、アルメニアびいきでイスラム恐怖症(Islamophobia)の西ヨーロッパ諸国はトルコを非難している 。内政も問題山積である。エルドアン大統領の支持基盤である公正発展党(AKP)はじり貧状態で、好調だった経済もインフレが進行し、公定歩合の引き上げを余儀なくされた。この経済政策変更では義理の息子の財務相が離反しエルドアン政権にほころびが出てきた 。イスタンブールのソフィア宮殿をモスクに戻す など、エルドアン大統領はイスラム保守層の人気取りに余念がないが、強権体制をいつまで維持できるか今が正念場である。

3.イスラエル:アラブの分断に成功、邪魔者は今のうちに消せ!

 イスラエルが過去四年間トランプ大統領にぴったりと寄り添うことで中東の中で最も得をした国となったことは言うまでもない。米国大使館のエルサレム移転、ヨルダン川西岸の入植促進だけでなく、米国の仲介によりUAE、バハレーン、スーダン、モロッコと国交を回復した。中東で孤立していたイスラエルはアラブ諸国の分断に成功、国際社会が唱えてきたイスラエル・パレスチナの二国家共存論を葬り去った。

 しかし米国がトランプ共和党政権からバイデン民主党政権に替わる来年1月以降、イスラエルに冬の時代が訪れる。両国関係が史上最悪であったオバマ前政権時代にバイデンが副大統領であったことを考えれば容易に想像できることである。それゆえにこそトランプ政権がレイム・ダック(死に体)になった今もイスラエルは既成事実の積み上げに血眼である。UAEはじめアラブ諸国を次々と和平に引き込んだイスラエルに残された敵はイランだけである。

宗教国家イランがイスラエルをムスリム(イスラム教徒)の敵と呼んでいることは、実はイスラエルが湾岸の世俗君主制国家と手を組む最大のチャンスでもある。ただイスラエルは人口ではエジプト、イラクはおろかサウジアラビアにも及ばず、経済余力ではUAE等の産油国に劣る。イスラエルが生き残るには諜報活動が欠かせない。そのイスラエルには世界に冠たるスパイ網モサドがある。

 最近イランの核開発のキーパーソンがテヘランで暗殺された。暗殺の手法は極めて精緻であり、イスラエルが手を下したことはほぼ間違いなさそうである 。実はUAEと国交を回復した直後イスラエルの高官が次々とドバイ空港に降り立っており、その中にはモサドの長官も含まれている。国際自由都市のドバイはスパイが暗躍するにはうってつけの街であり、実際過去にもハマス幹部の暗殺事件の舞台になったこともある 。今回の事件でイスラエルの諜報機関員が堂々とドバイに入国、そこからテヘランの実行犯に指示したと見るのは考えすぎであろうか。トランプ大統領在職中に邪魔者を消せ、と言うわけである。

(続く)

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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