石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

これからが正念場のBP(5)

2010-10-14 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

5.CEOの交代と資産売却で苦境乗り切り
 メキシコ湾の汚染問題と赤字172億ドルの中間決算と言う最悪の事態は人事と財務の両側面に深刻な影響を及ぼしている。人事の側面では当然のことながらトップの経営責任問題が問われ、10月1日付けでCEOのTony Haywardが退任し、Robert Dudleyに交替することが中間決算と同時に発表された 。Hayward氏は2007年にCEOに就任、手堅い手腕で安定した業績をあげておりその地位は当面安泰と見られていたが、今回の事故で米国の国会議員たちから槍玉にあげられ進退が極まった形である。

 新CEOのDudleyはもともと米国Amoco社出身の米国人であり、1998年にBPがAmocoを吸収合併したためBP社員になった。彼は2008年までBPとロシアの合弁石油TNK-BP社の社長として現地で陣頭指揮をとっていた。BPは石油生産量の3分の1をTNK-BPに依存しており、Dudley氏は最も重要な子会社のトップということになる。ただ2008年にこの合弁企業の主導権を巡りロシア側とBPが対立、ロシアはDudley氏の出国ビザを出さないなどの嫌がらせを行い、結局彼は社長を辞任したと言う経緯がある。

苦境のもう一つの側面である財務面であるが、そもそもBPの財務内容そのものは極めて良好であり855億ドルという手厚い株主資本がある。従って中間決算で計上した321億ドルの事故関連費用が結果的に多少上方修正されることがあったとしてもBPの屋台骨そのものが今回の事故で揺らぐことは無いと思われる。しかし過去に蓄積した株主資本をそのまま食いつぶすことは株主が許さないであろうし、だからと言ってこのまま手をこまねいていたのではBPは今後ExxonMobil及びShellに伍する超一流企業の地位を失う。

結局BPは当面は事業の中核ではない非中核的(ノンコア)資産を売却して必要資金を捻出しなければならない。7月中間決算でBPは今後18カ月で250-300億ドル規模の上流資産を中心としたノンコア資産の売却方針を示し、また2010-2011年の年間投資額を1割減の180億ドルに修正すると発表した。さらに前年度水準で75億ドルに相当する本年度の配当を見送ることについて株主の理解を求めた。

まず手を付けたのがカナダ、米国及びエジプトに有する石油・天然ガスの資産を米国の中堅エネルギー企業Apache社に売却することであった 。またコロンビアの権益を開発パートナーに売却する件 と合わせて約89億ドルを捻出している。このほかベトナム、パキスタンなどの資産を売却すると伝えられている。一方メディアには中東或いはアジアのBP資産の取得に色気を示すクウェイトの動きが報道される など、まさに死肉に群がるハイエナの様相すら呈している。

6.今後のBPは?
BPの資産売却計画は今後1年半に250-300億ドル規模とされ、この場合BPの資産規模はほぼ10%縮小し、石油と天然ガスを合計した生産量も現在の400万B/D(石油換算)から350万B/D前後に減少すると見込まれている 。

BPはノンコア資産売却の一方、今後の事業展開の焦点を発展著しい中国やインドなどアジアでの販売強化に重点を移す意向を示しており、同社販売部門のPaul Reed副社長は12月1日をめどに組織の簡素化とリストラが実施されると語っている 。

人事面では同社トップがBP生え抜きの英国人からBPに吸収合併されたAmoco出身の米国人Dudley氏に交代した。このことは米国の議会或いは世論対策にプラスに働くであろうが、逆に誇り高いBPプロパー社員には事故に対する米議員の一連のBPバッシングとともに割り切れないしこりを残し、今後のBP社内の結束にひびが入ることが懸念される。さらに日本支社を含め世界90カ国以上で約9万人の従業員を擁している同社が 、一部海外事務所の閉鎖を含め大規模なリストラを行う可能性も否定できない。

(完)

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