石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

ウクライナ紛争で激変したロシアと西欧のエネルギー貿易(2)

2024-08-01 | その他

(西欧はガス・石油をどこから調達し、ロシアはどこへ転売したのか?)

 

(4倍に急増した米国産LNG輸入、全輸入量も増加しパイプラインの不足分を補填!)

2.LNG貿易の変化(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G10b.pdf参照)

 天然ガスのもう一つの貿易形態であるLNG(液化天然ガス)についてヨーロッパの輸入量と輸入相手国の変化を見ると、2019年のヨーロッパのLNG輸入量は1,198億㎥であった。これに対し2023年のLNG輸入量は1.4倍の1,691億㎥に達している。前項に述べた通りパイプラインによる生ガスの輸入量は4,713億㎥から3,408億㎥に減少しており、パイプラインによる不足をLNGで補っていることがわかる。この結果、総輸入量に対するLNGの比率は、2019年の20%から2023年には33%に拡大している。

 

 次に輸入相手国の変化を見ると、2019年のLNG輸入国トップはカタールの322億㎥であり、これに次ぐのがロシア205億㎥、米国183億㎥、ナイジェリア158億㎥、アルジェリア152億㎥であった。総輸入量に対する各国のシェアはカタール27%、ロシア17%、米国15%、ナイジェリア13%、アルジェリア13%である。

 

 しかし2023年には様相が一変し、トップの輸入国は米国となり、輸入量は1,144億㎥でシェアは45%に達した。ヨーロッパが輸入するLNGのほぼ半分は米国産が占めていることになる。一方、2019年にトップで27%を占めていたカタールの2023年のシェアは12%に急落、3位であったロシアのシェアも17%から12%に落ちている。

 

3.天然ガス価格の変動(図http://bpdatabase.maeda1.jp/6-G01b.pdf参照)

 ウクライナ紛争を契機とした天然ガス需給の激変は当然のことながら価格にも大きな影響を及ぼしている。天然ガスの価格指標として(1)日本価格(全量LNG)、(2)オランダTTF価格(パイプラインを中心とし一部LNG組み合わせ)及び(3)米国Henry Hub価格(ほぼ全量パイプライン)の3種類がある。従来は日本価格が最も高く、これにオランダTTF(ヨーロッパ)価格が続き、米国価格が3者の中で最安値であった。さらに日本とヨーロッパの価格は原油価格にスライドする部分が大きいのに対して、米国は豊富な資源量と縦横に張り巡らされたパイプライン網により独自の市場価格を形成している。

 

このような構図は2020年まで続き、同年の年間平均原油(Brent)価格が42ドルであったのに対して、天然ガス価格は100万BTU当たり日本価格が7.65ドル、オランダTTFは3.13ドル、米国Henry Hub価格は1.99ドルであった。

 

 しかし21年から22年にかけて原油価格が70ドルから100ドル超に急騰、これに伴い日本のLNG価格は9.93ドルから16.98ドルに上昇、米国価格も連動して3.84ドルから6.38ドルにアップしている。ところがオランダTTF価格は日米をはるかに上回る急騰ぶりで、2021年には日本価格を上回る15.67ドルに急騰、さらに2022年には2020年の10倍を超える37.09ドルに暴騰した。2023年には日本価格とほぼ同等な水準に落ち着いているが、過去3カ年の価格変動は異常であった。ロシアからの天然ガス輸入停止によりヨーロッパ各国で天然ガス(特にLNG)の争奪戦が起きたことを示していると言えよう。

 

(続く)

 

 

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2024-08-01 | その他

 これまでにブログおよび各種の雑誌への寄稿等に発表したレポート、エッセイ等を「マイ・ライブラリー(論稿集)」としてまとめました。 日々のニュースをモニタリングしているブログ「石油と中東」及び荒葉一也編集ブログ「OCIN Initiative」及び「Middle East Informant」とあわせてお読みください。

おすすめのコーナー:

・(New)EI世界エネルギー統計2024年版

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・世界ランクシリーズ10 報道の自由度

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・(再録)サウジアラビア・サウド家

・エッセイ「挽歌・アラビア石油(私の追想録)」

 

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(188)

2024-08-01 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(21

 

188 シリア情勢:敵の敵は味方か敵か?(5/5)

しかし最近になって諸外国の共通目標がIS(イスラム国)の壊滅に絞られた。これに対して劣勢に立ったIS(イスラム国)が欧米やロシアに住むムスリム(イスラーム教徒)に自爆テロを呼びかけている。さらにIS戦闘員が自国に戻ってテロ活動を行う恐れも大きい。前者はホームグローン・テロ、即ち「ご当地テロ」であり、後者は「里帰りテロ」ということになる。これら「ご当地テロ」と「里帰りテロ」を防ぐためにもできるだけ早くISを壊滅しなければならない。そのISに今対抗できるのはシリア政府の正規軍とシリア民主軍のクルド人部隊しかない。ただクルド人部隊は米露トルコいずれも支援する立場にない。

 

結局奇妙なことに米国など欧米諸国は空爆でIS(イスラム国)の拠点を叩くだけで、アサド政権退陣の要求はひとまず棚上げし、シリア政府とロシアの軍事行動を黙認することになる。シーア派のアサド政権が最大の敵であり、消去法で已む無くリベラル反政府勢力のシリア民主軍を応援してきたサウジアラビアなど湾岸諸国は米国からはしごを外された格好である。

 

敵の敵は味方か、それとも別の敵か? 混迷深まるシリア情勢は先の見えない中東情勢そのものと言えよう。

 

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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