2018.9.4
前田 高行
7.天然ガスの価格
(2012年の日米価格差は6.1倍、昨年は2.7倍に縮まる!)
(1)2000年~2017年の天然ガス価格の推移
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-5-G01.pdf 参照)
天然ガスの取引価格には通常US$ per million BTU(百万BTU当たりのドル価格)と呼ばれる単位が使われている。BTUとはBritish Thermal Unitの略であり、およそ252カロリー、天然ガス25㎥に相当する[1]。
市場の自由取引にゆだねられた商品は価格が一本化されるものであるが(一物一価の法則)、天然ガスについては歴史的経緯により現在大きく分けて三つの価格帯がある。LNGを輸入する日本では原油価格にスライドして決定されている。巨額の初期投資を必要とするLNG事業では販売者(カタール・オーストラリアなどのガス開発事業者)と購入者(日本の商社、電力・ガス会社などのユーザー)の間で20年以上の長期安定的な契約を締結することが普通である。この場合価格も両者間で決定されるが、その指標として原油価格が使われているのである。
これに対してヨーロッパでは供給者(ロシア、ノルウェー、アルジェリアなど)と消費者(ヨーロッパ各国)がそれぞれ複数あり、パイプライン事業者を介して天然ガスが取引されており、EU独自の価格体系が形成されている。また完全な自由競争である米国では天然ガス価格は独立した多数の供給者と需要家が市場を介して取引をしており需給バランスにより変動する市況価格として形成される。その指標となる価格が「Henry Hub価格」と呼ばれるものである。
ここでは日本向けLNG価格(以下日本価格)、英国Heren NBP index価格(以下ヨーロッパ価格)及び米国Henry Hub価格(以下米国価格)について2000年から2017年までの推移を比較することとする。なお参考までに百万BTU当たりに換算した原油価格も合わせて比較の対象とした。
2000年の日本価格は4.7ドル、ヨーロッパ価格2.7ドル、米国価格4.2ドルであり、当時の原油価格は4.8ドルであった(いずれも百万BTU当たり)。ヨーロッパ価格が低く、日本価格及び米国価格及び原油価格は4ドル台で原油が最も高かった。この傾向は2002年まで続き、2003年には米国価格が一時的に原油価格、日本価格、ヨーロッパ価格のいずれをも上回った。
2004年以降原油価格の上昇に伴い天然ガス価格もアップし、2005年の価格は米国価格8.8ドル、原油価格8.7ドル、ヨーロッパ価格7.4ドル、日本価格6.1ドルとなり、日本向け価格が最も安くなった。しかしその後2008年にかけて原油価格が急騰する中で日本価格とヨーロッパ価格が原油価格を後追いする形で急激に上昇した中で、米国価格は横ばい傾向を示したのである。その結果2008年は原油価格16.8ドルに対し日本価格12.6ドル、ヨーロッパ価格10.8ドル、米国価格は8.9ドルとなり、日本価格と米国価格の格差は1.4倍に広がった。
2008年の反動で2009年には原油価格が急落、日本、EU、米国それぞれのガス価格も下落したが米国の下落幅が大きく、日米の価格差は2倍以上に広がった。2009年以降原油価格は再び急上昇したが、この時3地域の天然ガス価格は明暗を分けた。日本価格は原油価格に連動して上昇の一途をたどったのに比べヨーロッパ価格は緩やかな上昇にとどまった。そして米国価格は逆に下落した。この結果2012年は日本価格16.8ドルに対し米国価格は2.8ドルとなり、日本価格は実に米国価格の6倍を超えたのである。
2014年から2016年にかけては原油価格が暴落したため、2016年のガス価格は3地域とも大幅に下落した。中でも原油価格にリンクした日本向け価格は大きく下がり、2016年は6.94ドルと対前年の3分の2になった。2017年には原油価格が回復、日本向け価格も8.1ドル、27%上昇、ヨーロッパ及び米国でもほぼ同程度値上がりしている。この結果、米国と日本の価格差は2.7倍に縮小している。
(続く)
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