(注)本稿は「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」の下記URLで一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0189BpGas2011.pdf
5.世界の天然ガス貿易(その2):LNGによる輸出入
1964年、アルジェリアからフランス向けを皮切りに始まったLNG貿易は、近年輸出国、輸入国及び貿易量それぞれの面で急速に拡大している。2010年のLNG輸出国の数は17カ国、輸入国は22カ国に上り、それらの国々が取引したLNGの総量は2,976億立方米(以下㎥)に達した。貿易国のうち米国及びベルギーのように輸出・輸入の双方を行っている国を含めLNG貿易に関与する国は年々増加している。
(1)LNGの輸出国と輸出量
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-3-96bLngExport2010.pdf 参照)
まず輸出面で見ると、最大のLNG輸出国は中東のカタールであり、同国は昨年1年間で758億㎥を輸出、世界全体の輸出量の26%を占めている。前年(2009年)の輸出量495億㎥を50%上回る驚異的な増加であった。これはかねてから同国が標榜していたLNG年産7,700万トン体制が整ったことにより本格的な輸出の拡大に乗り出したためである。
カタールに続くのがインドネシアの314億㎥(シェア11%)、第3位はマレーシアの305億㎥(同10%)であり両国の輸出量は殆ど差が無い。これら3カ国で世界のLNG輸出の半分近くを占めている。第4位以下はオーストラリア254億㎥(同9%)、ナイジェリア239億㎥、トリニダード・トバゴ204億㎥、アルジェリア193億㎥、ロシア134億㎥、オマーン115億㎥となっており、以上の9カ国が年間輸出量100億㎥を超える国である。そのほかにLNGを輸出している国々はエジプト、ブルネイ、UAE、イエメン、エクアトール・ギニア、ノルウェー等である。
(2)LNGの輸入国と輸入量
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-3-97bLngImport2010.pdf 参照)
次にLNGの輸入を国別で見ると、最大の輸入国は日本である。日本の2010年の輸入量は935億㎥で世界全体の31%を占めている。第2位は韓国の444億㎥(シェア15%)、第3位はスペイン275億㎥(シェア9%)であり、これら3カ国だけで世界のLNG輸入の56%に達する。3カ国に続くのが、英国(187億㎥)、台湾(149億㎥)、フランス(139億㎥)、中国(128億㎥)、インド(122億㎥)、米国(106億㎥)であり、以上9カ国が年間輸入量100億㎥を超えている。このほかLNGを輸入している国はイタリア、トルコ、ベルギー、メキシコなどである。
(3)1997年と2010年の貿易量と輸出入国の比較
(輸出図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-3-91bLngExport1997vs2010.pdf参照)
(輸入図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-3-91cLngImport1997vs2010.pdf参照)
LNG貿易の拡大を1997年と2010年で比較すると、量的側面では1997年に1,113億㎥であった貿易量は、2010年には2.7倍の2,976億㎥に増加している。
輸出について見ると、LNGの輸出国の数は1997年には9カ国であったものが、2010年には17カ国に達している。1997年当時は国別輸出量ではインドネシアの357億㎥がもっとも多く、これに次ぐのがアルジェリア(243億㎥)、マレーシア(201億㎥)であり、この3カ国でLNG輸出全体の7割強を占めていた。カタールはこの年に始めて日本向けの輸出を開始したばかりであり、オーストラリア、ブルネイ、UAEの輸出量はカタールを上回っていた。
ところが2010年になると、上述の通りカタールが世界最大のLNG輸出国となり、97年に首位であったインドネシアは第2位となっている。輸出上位3カ国のが全輸出量に占める割合を見ると、1997年(インドネシア、アルジェリア及びマレーシア)の72%に対し2010年(カタール、インドネシア及びマレーシア)は46%にとどまっている。このことからLNG貿易が多様化したことがわかる。
同様のことを輸入について比較すると、1997年には9カ国に過ぎなかったLNG輸入国の数が2010年には22カ国に増加している。1997年にLNGを最も多く輸入したのは日本の643億㎥であり、全世界(1,113億㎥)の実に6割を占めていた。そして日本に次いで輸入量が多かったのは韓国(157億㎥)であり、続いてフランス(92億㎥)、スペイン(67億㎥)、台湾(41億㎥)であった。これに対して2010年の日本の輸入量は1997年の約1.5倍の935億㎥に達しているが、世界輸入に占める割合は31%に低下している。この間、2位の韓国は2.8倍に増加している。中国は2006年に初めてLNGの輸入国となったが、わずか5年後の2010年には世界第7位のLNG輸入国となっている。輸入量第8位のインドもほぼ同様である。
(4)2006~2010年の輸出入量の推移
2006年に2,111億㎥であった世界のLNG貿易は2007年には2,264億㎥に増加、2008年は停滞したものの、2009年は7.2%増の2,428億㎥となり、2010年は対前年比23%増の2,976億㎥に急増した。
これを輸出国別で見ると、カタールが5年間を通じて最大の輸出国であった。2006年にはインドネシア、マレーシアの2カ国との差は小さかったが、両国の輸出量が伸び悩む中で、カタールは5年間で2.4倍に急増している。この間の世界全体の増加率は1.4倍であり、カタールの成長は際立っている。
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-3-96aLngExport2006-10.pdf 参照)
一方輸入については5年間を通じて日本がLNG輸入量トップであり、2位韓国と2倍以上の差がある。但し韓国を含め日本以外の殆どの国は毎年LNG輸入量が大幅に増加している。特に中国と英国の伸びが目覚ましく、中国の場合は10億㎥(‘06年)→39億㎥(‘07年)→44億㎥(‘08年)→76億㎥(‘09年)→128億㎥(‘10年)と5年間で10倍以上に膨らんでいる。また英国の場合は’08年に10億㎥に過ぎなかった輸入量が‘10年には187億㎥となっている。同国は大型LNG受入設備を建設しカタールから多量のLNGを輸入する態勢を整えたのである。
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-3-97aLngImport2006-10.pdf 参照)
LNG貿易には輸出国におけるガス液化及び出荷設備の建設、LNG運搬船建造さらには輸入国におけるLNG受入設備および再ガス化設備の建設に巨額の投資が必要であるため、これまで普及のペースは遅かった。しかし天然ガスは石油や石炭に比べて環境負荷が低いとしてその評価が高まっており、また世界各国に出荷あるいは受入設備が次々と完成して、LNGのサプライ・チェーンが整備されつつある。LNG出荷設備の新設が輸入国の増加をもたらし、また出荷設備を新設して新たにLNG輸出に参入する国が生まれるなど、LNG貿易拡大の好循環が始まっている。LNG貿易は今後安定的に拡大するものと思われる。さらに輸出入国の数が増えることによりスポット市場も生まれており、今後国際的なLNG取引がますます盛んになることは間違いない。
(続く)
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