石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

EU-OPECがエネルギー協議で行動計画を発表

2006-06-08 | OPECの動向

 6月7日、ベルギーのブリュッセルで第3回EU-OPECエネルギー協議が開催された。EUとOPECは急騰する石油価格について消費国と産油国双方の立場で意見を交換し、世界経済の安定のために共通の対応策を模索することを目的として昨年6月に第1回会合をブリュッセルで開催、続いて同年12月に第2回会合をウィーンで開催した。以下は第3回会合の共同記者発表の概要である。(詳細はOPECホームページ “Further steps forward in the EU-OPEC Energy Dialogue” 参照)

共同記者発表概要

・ 6/7、EUからMr. A. Piebalgs, European Commissioner for Energy, OPECからDr.Daukoru議長(ナイジェリア石油相)等が出席して第3回協議を行った。

・ 市場に十分な原油が供給され、備蓄も満足すべき水準にあるものの、余剰生産能力、製油所能力の逼迫、地政学的問題等が、原油及び製品価格に対する圧力となっていることでEU、OPEC双方の認識は一致した。

・ 今後のエネルギー戦略について相互の見解を述べ合ったが、供給及び需要それぞれに対する安全(security)はコインの表裏の関係にあることを確認した。また持続可能なエネルギーとしては3本の相互に支えあう柱、即ち経済発展、社会の進展及び環境保護を考慮に入れなければならない。

・ 現在のタイトな市場を緩和するには世界的な製油システムについて更なる投資が必要である。

・ 両者は次のような具体的な行動を取ることで合意した。

(1)EU-OPEC energy technology centreの設立を目指し、2007年初めに専門家会合を実施

(2)9月21日にリヤド(サウジアラビア)でJoint conference on carbon capture and storageを開催

(3)11月24日にブリュッセルでRound table on energy policiesを開催

(4)数ヶ月内にJoint EU-OPEC study on investment needs in the refining sectorを実施

(5)12月第1週に市場及び金融関係者を含め impact of financial speculative markets on oil prices(投機市場が石油価格に与える影響)に関する共同のイベントを実施

・次回会合は2007年6月にウィーンで開催

背景について 

 現在も70ドル近くで高止まりしたままの原油価格高騰の原因について、これまでは消費国の製油所能力の不足とする産油国側と、原油余剰生産能力の不足とする消費国側の非難の応酬に終始していた。EUとOPECが事態打開のために始めたのがこの定期協議である。

 両者はこれまでの2回の協議で論点を整理し、今回Energy technology centerの設立や会議・セミナーなど具体的な行動を起こすことで合意した。7月15-17日にロシアのペテルブルグで行われるG8サミットの主要議題はエネルギー問題であり、今回のEU-OPEC協議とその共同声明に盛られた行動計画は、G8サミットを念頭に置いたものである。

 日本は米国、中国に次いで世界第3位のエネルギー消費国であり、原油・天然ガスのほぼ全量を輸入に頼っている。日本としてもOPECとの定期協議の場を持つことが望ましいが、日本だけでは力不足であり、中国、インド、韓国などを巻き込んだアジアの消費国連合の結成が必要であろう。

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(ニュース解説)エネルギー大国、米中の衝突(その4)

2006-06-08 | その他
4. 自縄自縛の米国と「安保理タダ乗り」の中国
 石油獲得をめぐる中国との衝突で米国は中国に対して焦燥感を抱いているものと思われる。米国は世界の警察官を名乗り、民主化のリーダーを自認し、更には経済に透明性の原則を持ち込むことなどにより、国際社会での自らのビジネス活動に多くの制約を課すこととなった。これに対して、現在の中国はそのいずれの制約にも縛られずフリーハンドに国益第一で行動していると言えよう。

(1) 世界秩序の維持に使命感を抱く米国と気楽な中国
 1991年の旧ソ連邦崩壊により世界は米国一強体制となった。しかしその結果、米国は世界各地のあらゆる紛争に関与する「世界の警察官」の役割を背負う羽目になった。米国は冷戦終結後に起こる地域紛争を自国の強大な軍事力によって簡単に抑止することができ、国際紛争は無くなるだろうと見くびっていた。イラクのフセイン政権を打倒したのはその一例であろう。

しかし世界各地の紛争は少なくなるどころか多発している。そして紛争の根底にあるのは宗教或いは民族間の対立である。移民の国、米国では宗教或いは民族の共存共栄がなによりも優先され、古くは「人種のるつぼ(融合)」、最近では「サラダ・ボール(混在)」の譬えに象徴されるように、人種や宗教の対立を煽ることはタブーであった。米国は自国と同じように世界各国でも異なる宗教や民族の共存が可能であると誤信或いは過信した。

 ところが現実には世界各地で民族や宗教の対立が先鋭化し、そこでは民族浄化(エスニック・クレンジング)や異教徒排斥と言った狂気が支配し、大量殺戮が公然と行われている。先進各国もかつては同じような道をたどってきたのであるが、過ちを繰り返さないだけの学習効果を身につけた。しかし開発途上国の多くは未だにその段階に達していないようである。米国はその事実を十分認識しないままに「世界の警察官」の役を引き受けた。

 これに対して中国はどうであろうか。欧米先進国は第二次大戦で中東・北アフリカから太平洋まで自国の領土外に軍事力を展開した。旧ソ連も冷戦下で東欧やキューバに自国の軍隊を派遣した。そのため各地に深い傷跡を残し、外国の反感を醸成した。しかし中国は歴史的に見ても朝鮮半島、インドシナ半島など隣接のごく一部の国を除き、国外で軍事力を行使したことは殆ど無く、従って世界の大半の国には中国の軍事力が脅威と映らなかった。各国は装備の貧弱な中国の軍事力に頼るつもりはなかったであろうが、中にはスーダンのように人民解放軍の人海戦術によってパイプラインを敷設するなど経済開発で中国の恩恵を蒙る国もあった。

また中国は戦後60年、国連安全保障理事会の常任理事国でありながら、国際紛争の調停に積極的に取り組むでもなく、まして紛争地への平和維持軍派遣などの直接的な貢献も殆どなかった。その結果、米英仏及びロシア(旧ソ連)など他の常任理事国は紛争への介入により各国からの毀誉褒貶に晒される中で、中国は気楽な立場を享受したのである。むしろ現在のところ中国は常任理事国としての立場を最大限に利用し、欧米やロシアと対立するイスラムなど非西欧諸国を味方に引き込むと言う「漁夫の利」を得ていると言えよう。筆者が「中国の安保理タダ乗り論」を主張する所以である。

 最近の例であげるならばイランとの関係がその好例である。米国はイランのシャー(パーレビー元国王)の時代に同国王に加担しすぎたため、ホメイニ革命以降はイランとの関係が断絶した。米国はイラン敵視政策をエスカレートさせて「悪の枢軸国」と断定、最近では核兵器開発疑惑の問題を押し立て、国連制裁を課そうと躍起になっている。西欧型民主主義によって世界秩序を確立することを目的とし、そのための障害は根こそぎ排除すること-それこそが米国の使命感であろう。

 一方、中国はイランに対して歴史的には何の利害の対立も無い。また政治的イデオロギーを他国に押し付けようとする野望もない。今の中国にあるのは、国内の不満を表面化させないように経済成長を維持することである。そのためには経済成長に不可欠な石油・天然ガスを確保することであり、また自国製品の輸出市場を開拓することである。その点、イランは石油を確保するための絶好の対象である。こうして昨年、中国はイランとヤダバラン油田の開発契約を締結した。そして外交的にはイラン制裁問題について国連常任理事会で米国を強く牽制している。イランにとって中国は強い味方であろう。従って中国がヤダバラン油田の石油を手に入れる公算は大きい。油田開発になかなか着手しない日本側にしびれを切らしたイランが契約破棄をちらつかせているアザデガン油田のケースと対比すると、フリーハンドの中国の優位性が際立つ。

(続く)
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