(注)HP「中東と石油」で最新版の「BP統計レポート:石油篇(2008年版)」全文を一括してご覧いただけます。
(BP統計:BP Statistical Review of World Energy June 2005)
(前回までの内容)
(第1回) 2004年の全世界、地域別および国別石油埋蔵量
(第2回) 2004年の地域別及び国別石油生産量
(第3回) 2004年の国別石油消費量
(第4回) 2004年の地域別石油エネルギーバランス
(第5回) 石油価格と消費量、生産量及び埋蔵量の推移
(第6回)「ピークオイル論」の検証
最近話題になっている「ピークオイル論」とは、石油の消費量が年々増加するにもかかわらず、ここ数年内に石油の生産がピークに達し以後は減退する、従ってその結果石油価格は今後ますます上昇する、と言うものである。石油生産が減退する最大の理由は、近年油田の新規発見のペースが低下するなど世界の石油可採埋蔵量が増えないことにある。通常の工業製品であれば設備を増強すれば生産能力はアップするが、天然資源の場合は生産(production)設備の増強ではなく資源の探鉱と開発(exploration & development)が生産能力アップの必須条件なのである。
1978年の第二次オイルショックで石油価格が急騰した時は、産油国或いは国際石油企業(メジャー)は超過利潤を探鉱活動に投資し、また日本などの非産油先進国も積極的な探鉱投資を行った。その後数年を経て80年代後半に埋蔵量が増加したのはその結果であると言えよう。しかし「ピークオイル論」は今後地球上で大規模な油田が発見される可能性に悲観的である。
本項では最近の石油埋蔵量の純増(又は純減)量を取り上げて、「ピークオイル論」の検証を試みることとする。上図はBP資料’Oil Proved Reserves History’(確認可採埋蔵量推移)の1999~2004年について各年末の埋蔵量と前年末の埋蔵量の差を地域別に表したものである。
埋蔵量については下記の等式が成立すると考えられる。前年末の埋蔵量 + 当年の新規追加埋蔵量 – 当年の生産量 = 当年末の埋蔵量 従って当年末の埋蔵量と前年末の埋蔵量の差がプラスの場合は、生産量を上回る埋蔵量の追加があったことを示し、逆にマイナスの場合は、追加埋蔵量が生産量以下であったことを示している。なお、1999年以降のデータのみを対象としたのは、世界第二の産油国であるロシアの埋蔵量が1998年以降しか示されていないからである。
図で明らかな通り1999年から2002年まで世界の石油埋蔵量は毎年200億~400億バレル近く増加していた。しかしながら2003年には増加量は100億バレルに減少し、2004年には増加量はついにゼロ(厳密には2億バレルの増加)に陥っている。即ち2004年には追加埋蔵量と生産量がほぼ等しくなっている。もしこの傾向が2005年以降も続けば、石油の確認可採埋蔵量は年々減少し地球上にある採掘可能な石油資源が枯渇に向かうことになる。
前項で見たように石油の生産量(=消費量)は年々増加しているため、新規油田の発見或いは既存油田の回収率向上などにより、増加する石油生産量以上の可採埋蔵量を追加しなければ石油枯渇のペースはますます早まるのである。「ピークオイル論」は、このような現状を踏まえて、石油生産がここ数年でピークに達し、今後も年々増加すると思われる石油需要を賄うことができないであろう、と言う悲観的な見通しに立っている。
因みに当年末の確認可採埋蔵量(R:Reserves)を同年の生産量(Production)で割った数値(R/P)は「可採年数」と呼ばれ、現在の生産ペースを続けた場合、何年で採掘可能な石油が枯渇するかを示す指標とされている。2004年のR/Pは40.5年(埋蔵量1兆2千億バレル÷生産量8,026万バレル/日)である。理論的には世界の石油は今後41年弱で枯渇することになる。
上図で地域別の増減を見た場合、北米は既に2000年から確認埋蔵量が年々減少する状況に陥っている。アジア大洋州地域も2001年から同じ状況である。それでも1999年から2002年までの世界の確認埋蔵量が増加しているのは、中東、ヨーロッパ・中央アジア、アフリカの三地域で大きな埋蔵量追加があったためである。しかしこの三地域も2003年には大幅に減少し、2004年にはついに増加量がほぼゼロになっている。
しかも確認埋蔵量増加の主要部分を占めている中東については増加要因に留意しなければならない。即ち中東の2000年の増加量162億バレル及び2002年の336億バレルは、それぞれカタールとイランによるものであるが、これは新規油田の発見ではなく、既存油田の可採埋蔵量を見直したものであり、その技術的根拠が極めて曖昧だからである。
中東産油国ではこのような埋蔵量の大幅な上方修正は過去にも幾度か見られる(例えば、サウジアラビアは1988年に1,700億バレルから2,600億バレルに見直している)。現在、産油国の国営石油会社或いはエクソン、シェル、BPなどの欧米メジャー石油企業は史上最高の業績であり、利益を油田の探鉱及び開発投資に振り向けている。この投資活動により新規油田が発見され或いは既存油田の回収率が向上すれば、数年後には確認可採埋蔵量が再び増加することが期待される。第二次オイルショック後の1980年代後半と同じような現象の再現である。
但し「ピークオイル論」はこのような見方を楽観的過ぎるとしており、また石油が世界の一部の地域、特に中東に偏在していることに留意しなければならない。先日の米国一般教書はこのような認識を踏まえたものであり、ブッシュ大統領はその対策として米国の石油浪費体質を戒め、中東への石油依存度を低下させ、同時にバイオマスなど非石油エネルギーの開発促進を掲げているのである。
(石油篇 完)