世界変動展望

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論文・学会発表の多重発表などの研究者の不正行為について

2010-07-16 00:07:56 | 社会

研究者の不正行為は毎年そこそこある。研究者の不正行為とは論文・学会発表の盗用、捏造、多重発表、ギフトオーサーシップ、研究費の不正流用など様々だ。特に論文・学会発表の改ざん・捏造は大きな不正行為として報道されることがある。最近では

2005年5月
遺伝子を改変することで酵素の働きを抑えることに成功したと報告した論文で、データとなる画像が一部改ざんしてあったことが判明し、論文を撤回。

2005年12月
韓国国民の期待を背負った科学者ファン・ウソク(黄禹錫)が行っていたクローン胚ES細胞研究に疑義が発生。2006年1月に調査委員会により捏造だと断定され、論文は撤回

こういうことをやると研究者生命を絶たれる。

よくありがちな研究者の不正行為は論文の多重発表とギフトオーサーシップだ[1]。論文・学会発表の多重発表とはWikipediaによると「自己の過去の業績を複製したり、ほぼ同じデータを細部のみを訂正して新規の論文として発表すること」とされている。同じ内容の論文を複数の学会誌に投稿するのが典型例である。

ギフトオーサーシップとは全く、又はほとんど貢献のない研究者が論文の著者として名を連ねることである。教授や研究所の部長など責任者となっている者が行うことが多い。

論文・学会発表の多重投稿とギフトオーサーシップで共通しているのは、研究業績を水増しする点だ。出版論文数は研究者の重要な評価対象の一つなので、これを多く見せようとすることは、研究者や研究者を志す博士課程の学生にとって不正を犯そうとする動機となりえる。特に教授・准教授への昇進を目指す研究者やパーマネント研究職等への就任を目指す任期切れ間近の研究者は不正を犯す動機が強い。

上記のように全く同じ論文を複数の学会誌に投稿するというのは、まずいという意識が強くさすがにあまり見ないが、よくありがちなのは前の研究発表の内容に同じ研究過程で出た少し新しいデータ等を加えて新規論文として投稿するケースだ。従前の研究発表と比較すると重複している部分が多く、新規の部分が少ない論文や学会発表はよく見かける。

よく博士課程の学生で「私は論文を7本も出版した。普通の博士課程の学生はせいぜい論文3本出せればいいほうだ。ははは。」といって自分がいかにも優秀だと自慢げに話す学生は、あたかも自分が独立の内容で7本論文を出したと錯覚しているバカが多い。

論文の内容をきちんと見ると、発表内容は修士時代から続く研究テーマの一環であり、7本の論文は独立の内容ではなく、7本の論文のうち発表内容が重複しているものも多数ある。要は上記のように従前の研究発表に少しだけ新規の部分を加えて研究発表し、見かけ上の論文発表数を多くしているにすぎない。単なる水増し業績なのである。そういう業績は見る人が見ればすぐばれる。

こういう研究発表を多重投稿の不正行為と呼ぶかは別にしても、この類の研究発表が実に多いのは間違いない。おそらく山のようにあるだろう。こういう研究発表を不正行為といった場合は、山のような不正行為の研究発表が日々創出され続けたことになる。

では、どこまでが多重発表に該当するのか。その基準は人によって異なるが、日本原子力学会の二重投稿Q&Aによると、

「Q.組織だった審査が実施されている学術雑誌に掲載された論文の内容に、新たな知見、データ、考察を加えて原稿を作成しました。この原稿を論文(Article)として投稿できますか?


A. 論文(Article)として投稿できません。投稿すれば二重投稿となります。新たな知見、データ、考察のみで新規性と有用性を満足する原稿を作成して下さい。もちろん、著作権法に従って、掲載済みの論文内容の一部を引用することは可能です。[2]」

これが最低限度の基準といえよう。従来の発表に新しい部分を付け加えて発表する場合は、差分となる新規の部分だけで有用性等を満足し、発表としての核心と価値を持たねばならない。

少なくとも従前の発表と重なる内容を発表する場合、その部分に関しては多重発表されている。前の発表との差分が新規性であり、新しい発表の核心であり、発表の価値そのものである。しかし、発表を全体としてみると新規性のある部分に発表の核心がなく新規部分の発表価値が乏しい研究発表は、実質的にみて研究業績を水増しするだけの多重発表と見なされても仕方ないだろう

ギフトオーサーシップも研究界では常態的に行われているといってよい。よく教授昇進者の発表論文数の記録をみると、「筆頭著者での発表 50本、単著発表 15本、その他の発表 300本」などセカンドオーサー以下での発表論文数が異様に多い人がいるが、おそらくそういう人はギフトオーサーシップで論文数を多くしているのだろう。准教授・講師でも研究室の長となり研究室運営を任される大学・研究機関も多く、そういう研究室の学生は自分の論文の著者として指導教官を入れることが多い。端的にいって、教授等の指導教官がたいして貢献していなくても指導教官というだけで論文に名を連ねていることは非常に多い。

ひどい場合になると、自分が退職後大学教授として転出する上で有利になるために、部下の研究論文・学会発表等に著者として名前を記載するように指導する研究所の部長等がいる。典型的なギフトオーサーシップによる業績水増しである。かかる悪質行為は許されるべきではない。

本来は査読でこうした不正行為をチェックし排除すべきなのだが、査読には限界があり、研究発表の適正化の上でうまく機能していない[3]。研究界ではかかる業績の水増し行為に対する厳しい制裁措置などが不十分で、人事の上で十分に審査できないことも少なくないため業績水増しは「やった者勝ち」となっている側面がある。

今後はかかる不正行為に対して懲戒免職等の厳しい制裁措置を設け、研究発表の適正化を実現してほしい。


参考
[1] 二重投稿について
[2] "二重投稿に関するQ&A" (社)日本原子力学会 編集委員会 2008.7.25
[3]以下、Wikipediaからの引用 2009.10.25

科学における不正行為と査読の限界

査読では、科学者の手による「研究の捏造」や「盗用」などの科学における不正行為を見つけるような仕組みにはなっていない。

査読の段階でどのくらいの不正が発見されているかは明らかにされていない。

学術雑誌における査読では、科学による不正行為を発見しきれないのは、論文が正直に書かれていることを前提として査読が行われているからだ、とも言われる。

また、通常の場合査読者は論文の元になった全てのデータにアクセスできるわけではないから、ある部分については信用したうえで査読を行なわざるを得ないので、結局発見できないのだとも言われる。(データを必要としない数学分野などはあくまで例外である)。

査読を通過したものの、後に他の研究者によって科学における不正行為や間違いであったことが発見された事例が多数ある。

査読の限界の事例
イラクからヨルダンを経てアメリカに留学していた医師エリアス・アルサブディ(Elias Alsabti)は、テンプル大学やジェファーソン医科大学・ボストン大学などを転々とする中で、無名の学術雑誌に掲載されていた論文をそっくりそのまま盗用して他の無名の学術雑誌に投稿するという手段を繰り返した。こうして投稿した論文のうち60数編が実際に掲載され、そのことはアルサブディの業績に箔をつけることになった。結果としてアブサルディの技量の拙さを不審に感じた同僚によって真相が暴かれて、アルサブディは医師免許を剥奪されたが、論文が氾濫する中では査読による篩にも限界があることを露呈することになった。

2000年前後にかけて、米国のベル研究所を舞台に大掛かりな不正行為が行われた。ドイツ人の若手研究者であったヘンドリック・シェーン(Jan Hendrik Schön)による有機物超伝導体に関する論文は、通常の査読を経て、最高ランクの雑誌であるネイチャーやサイエンスに合計16本が掲載された。しかし、論文の結果が他のグループではまったく再現できないことなどから疑惑がもちあがり、最終的には実験結果のグラフの捏造が判明して全ての論文が撤回された。

黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大学教授が、査読を経てサイエンス誌に2004年および2005年に相次いで発表された、ヒトES細胞に関する論文は、後にまったくの捏造であったことが判明した。この不正は査読によってではなく、ファンの研究チームの元研究員による内部告発および電子掲示板での若手生物学者たちによる検証により発覚した。