「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「白山吹の実」

2011-02-10 00:44:33 | 和歌

 「うつろ庵」は海岸から、直線距離で三百米ほどの平地の住宅街にあるが、「山登りがしたいわ」との虚庵夫人の希望で、ほど遠からぬ山頂につながる街まで散歩した。これまで足を踏み入れたことも無い道を辿り、坂道や急な石段に息を切らせつつ、休み休み昇った。





 普段から平地の生活に慣れている二人にとって、急勾配の道や石段、或いは傾斜地の住宅街の佇まいには目を瞠った。そこには様々な工夫や、知恵を活かした生活のスタイルが垣間見えて、たまたま散歩で訪れた者にとっては新鮮な驚きであったが、住人にとっては、真剣なタタカイの連続であろうかと思われた。 

 夕暮れには未だ間もあったが、急な傾斜地の街並みは何故かモノトーンの雰囲気が漂っていた。ふと見ると、石垣から枝垂れていた一株の灌木に、黒々と光るかなり大きな種が生っていた。厳しい環境の住宅地の中でも、周辺の民家の佇まいとは趣を異にして、見上げれば植木の手入れ等も入念で、住人の感性のほどが偲ばれるお宅であった。

 黒い実をつけた灌木は、葉も枯れ落ちて丸裸であったが、暖かになれば緑葉を茂らせて、石垣を飾る姿が偲ばれた。帰宅して植物図鑑で調べたら、「白山吹」の実だと判った。 


              いや長き石段登れば更にまた

              向うに見ゆるは急な石段


              買物の帰りか媼は荷を置きて

              汗を拭いぬ凍てつく夕べに


              石段を息たえ絶えに登り来れば

              頂き近くも軒を連ねて


              いと険し勾配の地にも平安の

              人生送るや我が家を築けば


              石垣ゆ枝垂るるか細き枝先に

              黒く光れり 白山吹の実は







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