遥か遠方から、茜色の生垣が目に入った。
近づくに従って、茜一色に見えていた生垣は、どうやら鮮やかな花の部分と葉の織りなす錦らしいことが判別できた。生垣が「紅花満作」だと識別できたのは、五十メートル程近くになってからであった。
陽の当たる花の部分は、極めて鮮やかな牡丹色に映えて、緑葉や梅紫の若葉と共に織りなす生垣の帯は、目を瞠る見事なものであった。
山野に自生する「満作」は、高い枝に黄色の花を疎らにつけて咲くが、春の林の中などで出逢うと「ホッと」親しみを覚える。それに引き替え、この「紅花満作」は沢山の花を咲かせる園芸種だから、誠に華やかだ。
「常盤万作」も山地では巨木に育つが、白い可憐な花を咲かせるので、最近では民家の庭でも見かけることがある。
それにしても、満作の花は類い稀な花と云えよう。ごく細い紙片を束ねたかのような花を咲かせるのだから、造化の神様も真に乙なお遊びをするものだ。「紅花満作」や「常盤満作」の花弁は、くせが無い素直な花びらだが、「満作」の花びらは縮れがあって、近くで見れば手踊りをするかのような気配があるのも面白い。
満作の花と共に、春を愉しませて貰う虚庵居士だ。
遠くから目に入る茜の生垣が
気になる散歩は歩速が上がりぬ
生垣の茜の帯は近づけば
彩ゆたかな錦に変わりぬ
生垣の牡丹色にぞ咲く花は
紅花満作 満開なるかな
花ならず梅紫の若芽まで
共に織りなす見事な帯かな
生垣の「紅花満作」眺むれば
「常盤満作」 「満作」 おもほゆ
いと細き紙片の如き満作の
花びら愛でつつ春を惜しみぬ
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