青森県三沢市のホテルに宿泊した際の朝の散歩については、「山薄荷・やまはっか」 に書いたが、朝の湖面に映った景色が心に残ったので、ここにご紹介する。
「みちのく」の話の後で「信州・蓼科高原」の「秋の麒麟草」等などをご紹介し、再び「みちのく」に話題が戻るのは皆さんを混乱させて申し訳ないが、虚庵居士の頭の中では時空を自由に超えるので、お付き合い願いたい。今後もこの手の飛躍はままあろうかと思われるが、ご勘弁願いたい。
湖が見え隠れする小道を経て、鬱蒼と茂る林の中をゆったりと歩を運んだ。巨木が両側から覆いかぶさる道路の脇は、大きな川石を積み上げた立派な石垣が続いていた。石垣に沿って進んだら、その先の暗闇がポッカリと開けて、橋が見えた。
湖に架かる橋からは、両岸の鬱蒼と茂った樹の枝が開けて、遠く近代的なホテルと御殿風の茅葺の建物が湖面に映って、異次元の世界を醸していた。
絵葉書風な景気ではあるが、このホテルのオーナーは何を考えてこの様な設えをしたのであろうかと気になった。公園を遥かに超えるような規模の広大な敷地と湖。湖の最奥部には御殿風の茅葺の建物と浮舞台を設えて、スケールの大きなイベントを催す心算だったのだろうか。それにしては観客席のスペースが見当たらないが・・・。
ごく限られたセレブを対象にして、例えば結婚式など、この景観と設えを独り占めさせようと考えたのかしらん。あるいは、有り余る資金の使い方に窮して、歴史文化を代表する建築物等を移築して、一大レジャーランドを造ろうとしたのだろうか・・・。
湖面に映った景色を眺めていたら、溢れる自然の中の古今の建造物の姿が、なぜかうら寂しく見えて来た。栄華を誇った嘗ての歴史上の人物とその遺構も、歴史に支えられるもの以外は、全てが消えゆく運命をたどった。オーナの思惑を超えて、やがてこれらの建造物も朽ち果てるのが定めであろう。
湖の水面は、息をひそめてあらゆる物をあるがままに写しているが、それも一たび風が吹いて波立てば、水面の映像はたちまち崩れるのが必定だ。向うに見える建造物も、それを映す水面も共に、その時々のあるが侭がこの世の定めというものであろう。
鬱蒼と茂れる林を抜け出でて
次元の異なる世界が開きぬ
湖の水面は息をひそめるや
自然と古今のたてもの映すは
思ふらくやがてこれらも朽ち果てむか
うら寂しくも歴史の定めは
明鏡もやがてそよ吹く風あらば
乱るる影もあるが侭にて
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