「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「うつろ庵の金木犀」

2012-10-23 17:53:43 | 和歌

 夜遅くに東京から帰宅して、門被り松の下を経て玄関の扉に手を掛けたら、ごく微かだが馥郁とした清香が漂ってきた。 「あ、金木犀だ」 と思わず呟いた。

 暗闇ゆえ確かめるのは明朝にして、虚庵夫人にそのことを話したら、「そうなのよ! 金木犀が香るのよ」との返事であった。翌朝を待ちかねて金木犀の枝を確かめたら、黄緑色の莟がビッシリと付いていた。殆どが口を閉ざして、開花は未だ先のように見受けられたが、微かな香りだけは漂っていた。

 見上げれば、枝々の莟が満を持しているかの様に見受けられた。微かな香りは、気の早い莟みの幾つかが開花しているのであろうか。

 金木犀の変化は、予想を超えて早かった。
好天が続いて、あっという間に莟たちは黄金色に変色した。「うつろ庵」の庭一杯に馥郁たる香りが漂い、道行く人びとも香りにつられて、金木犀を見上げる日々だ。

 

 じじ・ばばは、何れその内に咲くだろう、などと悠長に構えていたが、條々の莟たちは天候の変化を敏感に感じ取って、固い莟を一斉に綻ばせた。金木犀の花はごく小ぶりだが、花数は無量大数だ。しかも、肉厚の花弁に蓄えた香りを一気に放散するので、その薫りに包まれて虚庵夫妻は夢み心地であった。

 香が濃密な状態では、時には「むせ返る」様な状態が醸されて、心地良さが損なわれることもあるが、不思議なことに金木犀の香は、慎ましやかな清香ゆえに、そんな「むせ返る」様な状況にならぬのが有難い。

 「過ぎたるは及ばざるが如し」との諺がある。
金木犀がそんな言葉を理解している筈もないが、爽やかさを身に付けた金木犀が、万人に受け入れられる所以であろうか。

 昨日の低気圧の通過で、横須賀も強風と豪雨がひどかった。
幸い家屋の被害は無かったが、朝見れば、金木犀の花が一面に散り敷いていた。

 


          夜遅く門被り松を経にしかば

          微かに香りて木犀迎えぬ


          只今と声をかければわぎもこは

          金木犀がと悦び伝えぬ 


          朝を待ち見上げる枝には金木犀の

          莟のかずかず口を閉ざして


          微かにも清香かおるは じじばばに

          間もなく咲くよと 前ぶれならむか


          好天に日を経ず莟は金色に

          かがやき薫りぬ庵の部屋にも


          行く人は「あれ、いい香り」と呟きて

          首をめぐらす しぐさおかしき


          清しくも香るものかわ金木犀は

          花みつるとも 控えをこころえ







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