「うつろ庵」の玄関わきに、「紫式部」のごく小さな実が色付いた。
何時のことであったか、虚庵夫人がどこぞのお宅から一枝を頂いて、庭の片隅に挿し木をしてあったが、庭木の下でひょろひょろと枝をのばしていた。彼女は、細い枝が風に揺れる様が甚く気にいって、鉢に植え替えて玄関先の「あしらい」に置いた。
当初のごく小さな実が緑色の頃は、気にも留めなかったが、秋が深まるにつれて実は次第に紫色に色づいて、目を瞠った。山野に自生する「紫式部」そのままの姿が、「うつろ庵」の玄関先に再現されようとは、思いもよらぬ嬉しい驚きであった。
紫の実をつけるよく似た園芸種で、コムラサキ(小紫)或いは別名、コシキブ(小式部)という品種が最近もてはやされている。どちらかと言えば逞しい枝で、律義にも葉の付け根毎に沢山の紫の実をつける優れものだ。しかしながら、勝手な好みを言わせて貰えば、「これ見よがせ」なところがどうも頂けない。枝も葉も、それに紫の実の付き方も、どちらかと言えば疎らで、自然にくだけた姿の「紫式部」に、虚庵居士としては軍配を上げたいのだが・・・。
傍若無人な言い草は、苦労を重ねて品種改良をされた専門家に対して、失礼極まりないところだが、あくまで個人的な感性と好みの領域のことゆえに、ご勘弁願いたい。
しどけなく垂れ下がりたる枝先に
紫式部の小粒はおわしぬ
紫の粒つぶ何かを語らふや
額を寄せあひ秘めく風情に
秋雨に衣を替えむ襲はと
女官ら秘そめき語らひやまずも
秋深み紫式部の実の色に
葉色も襲の色目をいそぐや
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