川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

良い疫学と悪い疫学

2007-09-17 04:59:06 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
今書店に並んでいる、文芸春秋2007年10月号 「変な国・日本の禁煙原理主義」 というタイトルの対談で、養老孟司氏・山崎正和氏が、いろいろ述べているらしい。禁煙学会が公開質問状(http://www.nosmoke55.jp/action/0709bungeisyunju.pdf)を出している。
対談の内容はだいたい想像つくのだけれど、公開質問状をみていて、ふと意を得たりと思ったところ。
3. 疫学に信用はおけないとおっしゃっておられますか?、対談中に2件の疫学テ?ータ をもとに、こ?自分の主張を補強されておられる箇所か?あります。疫学には良い疫学 とタ?メな疫学の二種類か?あるのて?しょうか。そうなら、それはと?こて?見分けるのて?しょ うか。お教えくた?さい。


これは、まさにその通り。
疫学批判をする人が、タバコの害について印象を弱めるような疫学研究については大喜びでとりあげる。たとえば、パーキンソン病やアルツハイマーを抑えるのに効果がある、とか。でも、たいていそういうのは喫煙の害についてよりも、ずっと証拠の薄い疫学研究であって、場合によっては、もう否定されてしまっているものもある。でも、とてもうれしそうに、「タバコが健康によい!」と言いたがるのだよなあ。

疫学の土俵に乗るなら、こういうわずかな「効用」をのべるとどうじに、疫学があきからにした喫煙の諸々の害についても、ちゃんと受け止めて議論すべき、というのが、ぼくがいつも思っていることで、そのあたりが意を得たり、だったわけです。

ちなみに、アルツハイマーについては、今は、たぶん「関係ない」という結論だし、パーキンソンも喫煙が予防しているのではなくて、喫煙が交絡要因(真の原因ではない)というのが、一般的なとらえ方だと認識しているのですが、とすると、こ文藝春秋の対談は、正統な疫学研究をインチキといい、確立していない疫学研究をさも真実のようにのべる、うさんくさい議論ってことになりますね。

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28 コメント

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自分の嗜好を無理な論説を盾に正当化しようとする... (アオキ)
2007-09-17 11:59:21
だって悪いのはわかってるけど好きなんだもんと言われた方がよっぽどすっきりする。
と、病に倒れた喫煙者と話していると思います。
まして普段論理派っぽい看板を掲げている方たちにしてこれは…
まったくであります。 (カワバタヒロト)
2007-09-17 20:55:49
ちなみに、文藝春秋はいまだ未確認。
ちゃんと読んで、もしも、訂正すべきところがあったら、訂正する予定。
文藝春秋は気になりつつも未読ですが、まさに禁煙... (ワイネフ)
2007-09-18 01:00:21
自分に都合のいいデータだけのつまみ食いも、度が過ぎると本当に滑稽ですよね。

ところで、いま『禁煙ファシズムと戦う』のK氏とメールのやりとりをしています。疫学、科学についてのデタラメなつまみ食いの繰り返しに呆れているところです。
そのうちどこかに発表できるといいのですが。
あ、メールですか。 (カワバタヒロト)
2007-09-18 05:05:19
いやあ、お疲れ様です。
ご心労(?)、察します。
また、ワイネフさんのねばり強さに期待いたします。
NATROMさんとこに記事がありました。 (立花)
2007-09-19 15:24:17
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/200709

>やはり「大気、安静、栄養」がいちばん大事なのです。こんな話もあります。日本女性の寿命は大正九年を境に伸び始めているのですが、長い間その理由は判っていませんでした。それが数年前、建設省元河川局長の竹村公太郎氏が研究して、その時期に水道の塩素消毒が始まっていることを突き止めた。水が清潔になって、乳幼児の死亡率がぐっと下がり、女性の健康に好影響を与えていたのです。

のことでしょう。 「大気、安静、栄養」が一番大事だというのは、まさに疫学です。 塩素消毒と交絡している要因が多々ありそうですがねえ。
 知らないうちに、とんでもない記事(対談)が出... (zusammen)
2007-09-19 15:51:57
 でも、この対談の内容の誤り以上に、今回は、マスコミの報道はどこまで責められるべきなのかということを考えました。はっきり言って、TBSのオウム報道や関西テレビのあるある大事典など、過去に大問題になった報道より事実に反するひどい内容です。この辺りはどのようにマスコミ関係者は考えておられるのでしょうか?だからこそ、対談という形で対談者に責任をおっかぶしたのでしょうか?
 それと養老さんや養老さんの事務所は、今回に限らず、一切問い合わせや反論には答えず、「質問状」が来ても捨てるだけなんだそうです。
http://news.livedoor.com/article/detail/3311101/
 非常に大きな問題を含んでいて、しかもこのように言いっぱなしの場合は、私たちはどのように整理したらいいのでしょうかね。養老さんは、どのような研究者としての活動とは全く関係ないし、基礎知識もないのに、世の中からは研究者・医学者として見なされているからです。いろいろと考えさせられました。
私は数学を生業にしてるので医学のことに対する知... (sss)
2007-09-19 20:17:16
疫学に用いられる数学―当然主に統計学になりますが―を理解できていない人間が茶々を入れるから話がこじれると感じている次第です。

理解をしていないのに議論の土俵に上がっちゃいけません。このへんは何とかならないかな~といつも思います。

禁煙学界にしろ養老氏にしても同じです。疫学的データのよると~疫学は信用ならん~って君ら疫学についてわかってないだろう、と。むしろわかっていないからこそ『都合の良いデータを持ってくる』ことが可能になるわけです。

疫学について記事を書くならば最低限、濃度や測度の理論、分布過程などはわかっていて欲しい。

リヴァイアさんの記事にもその兆候が見られて

たいていそういうのは喫煙の害についてよりも、ずっと証拠の薄い疫学研究であって

とありますが、どのあたりが証拠が薄いと考えるのかが記載されていません。単に統計を取った機関の権威の大きさなどではお話にならないわけです。
インターネットは進化していますから論文のタイトルぐらいは誰でも検索できます。それを根拠として持ってくるぐらいのやる気は欲しいということです。

冒頭の公開質問状のような揚げ足の取り合いは見ていてくだらないの一言に尽きます。
これでは本場の疫学研究者が議論に参加しようとは思いません。
立花さん、ほんと笑えますよね。 (カワバタヒロト)
2007-09-19 21:27:51
このエントリ、文藝春秋をよまないまま、禁煙学会のコメントについてのコメントのつもりだったのですが、紹介頂いたエントリにあった抜き書きですでに脱力。

zusammenさん、そうですか、養老先生は、質問状が来ても捨てちゃうのですね。切ないです。

sssさん。数学を生業に、ということですので、よい疫学のテキストを読まれると、ぼくなどよりもよほどすんなり、疫学について理解できるのではないでしょうか。統計学は疫学のキモですが、「それだけ」ではないようなので、ぜひ、勉強された上で、またご意見をうかがいたいです。
現時点でおもしろく感じたのは、ぼくのエントリの中の「弱さ」を指摘いただいたのは、納得できるとして(なにしろ、ここで論陣を張るつもりはまったくない、へたれな議論ですから)、sssさん自身が疫学を理解しないまま、疫学のエッセンスについて語ろうとしているように感じられることです。
非常に危うい議論されていると思います。ぼくに対して(あるいは、公開質問者に対して)おっしゃったことが、そのまま自分に返ってくるわけですから。




sssさん、 (zusammen)
2007-09-20 09:20:01
 「統計学は科学の文法」と今日では言われます。自然科学で因果関係を論じる際に統計学という言葉を用いなければ、全く乱雑になってしまうからです。このことはご存じかと思います。医学も疫学を通じてようやく「科学的根拠に基づいた医学」と言えるようになりました。疫学が統計学の言葉を医学で使いやすくしたからです。でも疫学は疫学で統計学とは全く異なります。
 ところで、タバコと肺がんの問題は、こんな状況が共通認識になる前に、ガッチリと証明されてしまっていました。1960年代初めです。つまり、この問題に統計学の助けはいらないのです。Fisherがタバコ肺がんの問題に関して誤ったのもこの点だと思っています。論理とか科学の点でFisherは誤ったと思っています。
 私はこれだけはっきりした問題だと疫学知識さえもほとんどいらないと思っています。呼吸器内科・外科にいれば誰でも気づきます。実際最初の研究を仕上げたWynderは疫学知識などほとんど無かったわけです。医療現場にいなくっても、注意深く親戚や町内会のご葬儀を観察してまとめれば分かる問題です。タバコを吸わなければ肺がんで死ぬようなことは非常に稀になるのです。
 このような問題を疫学批判(あるいは疫学と混同した統計学批判)で問題をそらそうとしていること自体が問題です。
 数字を挙げていないように見えるのは、数字はこれまでさんざん挙げてきたからです。英語も日本語も、誰でも文字が読めれば数字を拾うことができます。一応大卒のようなsssさんがそれが出来ないはずはないでしょう。
 実は、タバコと肺がんの問題は専門家の問題ではありません。40年以上前から「あなた」が判断する問題になっているのです。これがこの問題の深刻さの核心の一つでもあります。
文藝春秋読んできました。 (カワバタヒロト)
2007-09-20 16:39:02
胸が痛くなるような内容ですね。
さいごの方の、シガレットはタバコの文化を破壊してしまい、マナーが形成されなかった、という部分はとても合意、なのですが。

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