3.長期停滞の基本構造(1)
・歪んだ経済構造
日本経済の長期停滞の根底には、外需に強く依存する歪んだ経済構造が横たわっている。名目GDPに占める輸出の比率は17%程度と、他の国に比べてとくに高いというわけではない。だが、自動車、電機など特定の産業の輸出額が突出し、しかもそれらの輸出が電子、化学、硝子、鉄鋼など広範囲に及ぶ関連産業の生産を支えるという構造になっているために、日本経済は表面的な輸出比率以上に輸出に強く依存する経済体質になっているということである。
このことは、日本経済が円高や世界市場の停滞など輸出環境に直接に、しかも絶えず振り回される不安定な構造になっていることを意味する。また、このような不安定構造は、企業の慢性的リストラを誘発し、内需を停滞させる要因となるだけでなく、国の財政を圧迫し、国民負担の増大圧力を高め、将来の内需停滞の潜在要因となる。
・輸出競争力の低下
輸出に強く依存する経済構造のもとでは、輸出競争力を維持することが経済維持の必須条件となる。だが90年代後半以降、競争力の強さを誇ってきた液晶パネル、半導体などを中心に様々な分野で日本企業の競争力の低下が目立ち始め、これが日本経済の停滞に拍車をかけている。競争力の低下は、およそ以下のような要因によると考えられる。
第一はグローバル競争の激化によって浮き彫りにされた、国内のいわゆる市場と産業の成熟化である。すなわち、内需の伸びの弱まり、生産や販売の規模の拡大によるコスト削減が困難になっていることである。このことは、かりに法人税を引き下げたとしても、内需停滞をもたらしている原因を除去しない限り、競争力の復活は期待できないということを意味する。
第二は、グローバル化を背景にした外国企業、とりわけ東アジアの企業の台頭である。そしてそれを支えたのは、日本や欧米諸国などからの投資や技術移転、さらにはアジア諸国間の自由貿易協定をテコにした貿易拡大などである。
第三は、円高傾向である。円高による輸出競争力の低下は、日本経済の地殻変動の中身をなし、長期経済停滞の大きな要因となっている。しかも円高は、米国経済の状態から考えて今後長期化すると考えられる。ただし、競争力の低下をもたらしているのは円高といった外的要因だけではない。国内の経済基礎が安定しない限り、競争力は絶えず動揺することになる。
輸出競争力の低下は、さしあたり国際市場での生産・販売シェアの低下や輸出額減少などとなって現れる。また生産現場の海外移転にともなって日本からの製品輸出は減少し、逆に部品輸出は増大する傾向を示してきた。だが、円高やアジア企業の台頭で、製品輸出ばかりでなく部品の輸出にもかげりが出てきている。さらに、自動車会社の現地での部品調達などがこれに追い打ちをかけている。
また輸出の停滞は、国内での企業破綻を増大させるとともに、輸出企業に競争力強化のためのリストラ、とりわけ雇用・賃金の抑制を促してきた。裏を返せば、現在の輸出はリストラによって維持されているということである。