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早逝したケルテスが残した1964年ライヴ盤ブルックナーに聴く「シューベルト的〈歌〉と〈舞踏〉の精神」

2011年06月30日 11時41分45秒 | BBC-RADIOクラシックス


 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の6枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6081
【曲目】ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」
【演奏】イシュトバン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団
【録音日】1964年3月13日


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDには、不慮の水難事故により1973年に、わずか44年の生涯を終えてしまった名指揮者、イシュトバン・ケルテスによる演奏が収められている。この〈BBC-RADIO クラシックス〉には初登場だ。
 ケルテスは1929年にハンガリーの首都ブダペストに生まれた。1950年代の終わり頃、ハンガリーから西側に登場し、英デッカ=ロンドンから、ウィーン・フィルを振ったドヴォルザークの「新世界交響曲」で突然、世界の音楽ファンの前に現われた。その優れた才能を高く評価していたレコード会社の英断だったが、それ以来、ケルテスは、一躍、若手指揮者のホープとなった。
 1965年からは、ロンドン交響楽団の首席指揮者に就任したが、このCDの録音は、その前年の同オーケストラとのライヴ録音だ。曲目が、当時30歳代半ばという年齢にしては意外な、ブルックナーの「交響曲第4番」という重厚な作品だが、活力のある朗々とした響きで、グイグイと推進していく音楽は、既に、当時のケルテスの大器ぶりを十分に表わしている。
 ケルテスのブルックナー演奏は、この作曲家の作品の演奏でよく聴かれる響きとかなり異なり、徐々に昇りつめて行くといった方向よりも、最初から全力投球して走り出すような、開放感にあふれたもの。全体の流れは、はちきれそうな生命力にあふれ、大きな揺れ動きに包まれた歌がどこまでも続く。リズムは活力に満ちて生き物のようにうごめいている。これは、ブルックナーの音楽の中に眠るシューベルト的な〈歌〉と〈舞踏〉の精神を信じて、高らかに歌い切ったケルテスの青春の記念碑だ。
 この曲はケルテスにとって格別の思いがあるのか、正規の録音も英デッカ=ロンドンに残されているが、このライヴ盤の、一気呵成の情熱が音楽的充実と見事に結びついた演奏ほどの魅力はない。このCDは、志し半ばで事故死したケルテスの真の実力を伝える貴重な録音だ。(1996.7.30 執筆)

【当ブログへの再掲載に際しての付記】
 記載された執筆日でお気づきの通り、これは、「日本フィル」との来日ライヴDVDが発売されたり、長い間廃盤のままだった「バンベルク交響楽団」とのオイロディスク録音がCD化される以前に書いたものです。ケルテスは、ほんとうに「惜しい人を早くに失ってしまった」と思う指揮者のひとりです。西側への亡命直後と思われる歌劇場指揮者時代の「オテロ」の録音に関しては、以前、このブログ内で紹介しました。日フィル、バンベルク響の盤ともども、折に触れて執筆した文章は、このブログページを下にスクロールして左欄の「ブログ内検索」に「ケルテス」と入れれば、一気に出てきます。ご興味のある方はぜひご訪問ください。

【付記の訂正】
 友人に「検索したけど、日本フィルとのDVDは出てこなかった」と言われてしまいました。詩誌『孔雀船』の「リスニングルーム」欄で書いたつもりでいましたが、書いていなかったようです。申し訳ありません。ていねいな指揮姿を見ることができるということだけでも貴重な記録です。もう廃盤かもしれませんが、在庫を見かけたら買うべし、です。


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ロシアのチェロ奏者ナタリア・シャコフスカヤの経歴が、少し判りました。

2011年06月13日 11時03分31秒 | BBC-RADIOクラシックス



 以下の記述が、ワレフスカ来日コンサート実行委員会の渡辺一騎さんからのメールにありましたので、転載します。さすがに、チェロを追いかけている方だけあって、ロストロ以後の「ロシアン・スクール」にも詳しいですね。前回の私のブログ内容を補完するものとして、お読みください。

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 ブログの最新記事も読ませて頂きました。BBCシリーズ、ショスタコの協奏曲のものです。チェロ協奏曲を弾いているナタリア・シャコフスカヤについて補足させて下さい。
 いつからかは不明ですが、シャコフスカヤは、現在はポルトガルのリスボン音楽院の教授になっているはずです。フランスを代表する中堅女性チェリスト(二人しかいないうちの)の一人、ソニア・ヴィーダー=アサートンの師としても知られます。
 ここ5~6年で、メロディア時代の音源がいくつかCD復刻されましたが、最新の録音(といっても10年くらい前です)は上記ヴィーダー=アサートンのアルバムで、師弟でデュオを弾いているものです。
 現役時代は同世代の女性チェリスト(第3回のチャイコフスキー・コンクール優勝のカリーネ・ゲオルギアン、グートマン、あとは忘れました…(汗))よりも頭ひとつ抜きん出たイメージがありましたが、教職に就いたためか、その後は華々しい演奏活動をしていないのが残念です。

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ショスタコーヴィチのヴァイオリン、チェロ、ピアノそれぞれの協奏曲を、ゆかりの演奏家で聴く貴重な記録

2011年06月07日 10時29分56秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の5枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6080
【曲目】ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
      :チェロ協奏曲第1番
      :ピアノ協奏曲第1番第2番
【演奏】ダヴィット・オイストラッフ(vn)
      ロジェストヴェンスキー指揮フィルハーモニア管弦楽団
    ナターリャ・シャホスカヤ(vc)
      ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団
    ピーター・ドノホー(pf)
      M. ショスタコーヴィチ指揮BBC交響楽団
【録音日】1962年9月7日、1966年8月18日、1982年9月2日
 
■このCDの演奏についてのメモ
 ショスタコーヴィッチの協奏曲作品が3曲収録されているが、それぞれ、演奏者の顔ぶれが興味深い。
 まず「ヴァイオリン協奏曲第1番」の、ダヴィッド・オイストラッフ。オイストラッフはショスタコーヴィッチに最も信頼されていたとされるヴァイオリニストで、1955年に行われた初演も彼の独奏、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルで行われている。
 この作品にとって、なくてはならないヴァイオリニストであるだけに、オイストラッフのこの曲の録音は多い。正規録音だけでも、初演の翌年に初演のメンバーとソ連メロディアに録音した他、ほぼ同時期に、アメリカでもミトロプーロス指揮ニューヨーク・フィルとで米コロンビアに録音している。77年には作曲者の息子のマキシム・ショスタコーヴィッチ指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と英EMIに録音している。1962年のエジンバラ音楽祭の演奏をライヴ収録した当CDは、その中間の時期を埋める記録ということになる。当時はまだ才能ある若手指揮者と目されていたロジェストヴェンスキーの、才気あふれる切れ味のよいバックに伍して、円熟期のオイストラッフが、この難曲をすっかり手中に収めた演奏を繰り広げている。
 「チェロ協奏曲第1番」は、その4年後1966年の録音で、伴奏指揮は同じくロジェストヴェンスキーだが、オーケストラは当時彼の手兵だったモスクワ放送交響楽団。チェロ独奏は、ナターリア・ショホスカヤという女性チェリスト。日本ではあまり名前を聞かないが、彼女はこの曲の初演者ロストロポーヴィッチの愛弟子で、モスクワ音楽院を卒業後、1962年の第2回チャイコフスキー国際コンクール、チェロ部門で優勝している。録音は少ないが、当時ロストロポーヴィッチは、彼女のチェロをほとんど手放しで称賛していたと言われる。この録音でも、この曲への自身のイメージを確信を持って強く主張しており、決して師の亜流になっていないことが感じられる。70年代半ば以降はモスクワ音楽院の教授をしている。
 「ピアノ協奏曲第2番」では、この曲を捧げられ、初演でピアノ独奏を担当したマキシム・ショスタコーヴィッチが、BBC交響楽団を指揮している。指揮者として成功していた彼が、西側への衝撃的な亡命後にエジンバラ音楽祭に出演した時の録音。ここでは、ピアノをイギリスの俊英ピーター・ドノホーが、爽やかに弾いている。中間楽章は、ピアノを優しく包む悲しみをたたえた旋律の、濃い翳りのあるオーケストラの表情が印象的だ。(1996.7.24 執筆)



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スティーヴ・ライヒとアダムスから思い出したテリー・ライリーなど、ミニマル・ミュージック全盛の時代

2011年05月19日 08時20分22秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の4枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6079
【曲目】ライヒ:砂漠の音楽
  アダムス:弦楽オーケストラのための《シェイカー・ループス》
【演奏】ペーター・エトヴェシュ指揮BBC交響楽団/BBCシンガース
    リチャード・バックリー指揮BBC交響楽団
【録音日】1985年7月29日、1984年11月22日
 
■このCDの演奏についてのメモ
 現代音楽の潮流に確固とした位置を占めるに至った、いわゆる〈ミニマル・ミュージック〉の作品を収めたCD。ミニマル・ミュージックとは、ごく短い音のパターンを執拗に反復しながら、いつの間にか少しずつ変化しているといった手法の音楽で、聴き手は独特の浮遊感の中に置かれる。1960年代半ば過ぎにアメリカで起こった作曲技法だが、ミニマル・ミュージックとしてはおそらく、テリー・ライリーの1964年の作品『IN-C』が、初期の代表作だろう。これは1968年に米CBSのLPで発売されたが、世界の作曲界に大きな影響を与えた。70年代以降は、このライリーとスティーヴ・ライヒが、ミニマル・ミュージックの分野での双壁で、日本も含む世界の各地で演奏され、また、新作の依頼がされたが、このCDに収められたライヒの作品も、ドイツのケルン放送局などの委嘱による作品。このCDでも指揮をしているペーター・エトヴェシュの指揮で1984年3月にケルンで初演され、ライヒの新境地を拓いた作品として著名だ。同年10月にはニューヨークに於いて、マイケル・ティルソン・トーマス指揮でアメリカ初演。このCDは、それに続く演奏で、初演時と同じエトヴェシュの指揮による英国初演の録音だ。
 エトヴェシュは、ルーマニア中部のトランシルバニア出身で、ハンガリーのブダペストで学んだ。バルトークの他、現代を代表するブーレーズ、シュトックハウゼンなどの作品の解釈で定評がある。一時期、シュトックハウゼン・アンサンブルでピアノ及び、パーカッションを担当していたというが、ブーレーズに推挙され、指揮者としては1980年にパリ、ロンドンでデビューした。以来、主として現代作品の貴重なスペシャリストとして、1988年まで、BBC交響楽団の首席客演指揮者として活躍した。現在は研究と後進の育成に力を注いでいるようだ。
 後半に収録された、ライヒの後に続く世代のジョン・アダムスが作曲した作品『シェイカー・ループス』は、1978年の秋にサンフランシスコに於いて作曲者自身の指揮で初演されたアダムスの代表作。このCDには、イギリスに於ける1984年の録音が収録されている。指揮は多くの現代作曲家の作品の初演を手掛けていることで知られるアメリカのリチャード・バックリー。バックリーとBBC交響楽団との関係は不明だが、イギリスを始めドイツ、フランス、チェコなどに、しばしば客演している。(1996.7.24 執筆)


【ブログへの再掲載に際しての付記】
 それぞれ、曲の背景説明に終始していてぶっきらぼうな文章ですが、今から15年前には、やはり、こうした「コンテンポラリィ・ミュージック」について、あまり書く気は起らなかったというのが、正直なところです。同時代の演奏家に対する親密感と違って、「同時代の作品」に対しては、私は昔からそうだったと思います。問題提起の在り様が、私の中でなかなか客観化されないので、思うことはいろいろあるのですが書きづらいのです。そして、かなり距離が置けるようになった今日、「こうした音楽が持っていた意味」と、過去のものとして聴きはじめている自分に気づいて、ちょっと驚いています。
 文中で言及している『in C』は1970年代にすっかり気に入って、LP時代から愛聴盤でした。カセットにダビングして曲終わりでテープをカットし、B面に同じ録音を入れ、自動反転のカセットデッキにセットしてエンドレスで聴けるように加工できるようにしたときは、ご機嫌でした。今でも、ライリーのミニマル・ミュージックの正しい再生法だと思っています。ライリーはLPを2種類持っていたと思いますが、『in C』がCD化された時には、大喜びで買いました。CDはリピート再生が簡単で、いいですね。よく一杯飲みながら、本を読んでいました。
 ライヒの作品は、リルケ研究で著名な慶応義塾大学の塚越敏教授(故人)のお宅(沼袋)に、書籍編集者時代に原稿の打ち合わせで伺ったとき、聴かせていただいたのが最初です。塚越先生は、後に、私が『レコード芸術』誌に執筆をして「音楽評論家」と呼ばれるようになってしまったきっかけとなった同誌の編集者H氏を紹介した人です。1980年代の半ば頃のことだったと思います。
 アダムスという作曲家には、確かサイモン・ラトルも録音している作品があったと思いますが、既報のように現在、我が家の地震被害の修復中のCD棚の中にあるはずの1枚なので、現物の確認ができません。
 いずれにしても、このBBCのCD解説を書くために、ライヒは同曲異盤を探し出して購入し、聴き比べたのを覚えています。それが冒頭に掲載した写真のCDで、米ノンサッチから発売されたマイケル・ティルソン=トーマス盤です。1984年10月ニューヨークでのスタジオ録音です。(文献上で1984年10月にアメリカ初演、とあるのは、これを使用した「放送初演」なのかも知れませんが、未確認です。)『砂漠の音楽』は、ライヒがこだわっていたアメリカを代表する現代詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズのテクストを使用した音楽で、確かに「ミニマム」な繰り返しを多用した音楽ですが、私自身は、例えば日本の祭の「お神楽」を聴くようなビート感のある、美しくも抒情的でもある作品に聴こえるノンサッチ盤の方が、BBC盤よりも好きでした。そして、85年にLPも発売されていますが、写真のノンサッチ盤は、1991年にワーナー・ジャパンから発売された国内プレス盤です。中に封入された日本語解説書はLP時代の複写物です。こうしたジャンルでさえ、国内盤の発売があったのです。凄い時代でした。
 


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BBC放送局の音楽部長でもあったアーサー・ブリス、死の年に残された2つの貴重な録音で聴く作曲作品

2011年05月12日 12時54分50秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の3枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6078
【曲目】アーサー・ブリス:「管弦楽のための変容的変奏曲」
        :「ジョン・ブロウの主題による瞑想曲」
【演奏】ヴァーノン・ハンドリー指揮BBC交響楽団
    チャールズ・グローヴズ指揮
      ロイヤル・リヴァプール・フィル
【録音日】1975年1月7日、1975年7月4日
 

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、今世紀のイギリスの作曲家アーサー・ブリスの、第2次世界大戦後に発表された管弦楽作品が2曲収録されている。ブリスの思索的・暝想的な作風がよく表われた1枚となっている。どちらも録音が1975年となっているが、これは、ブリスの死の年にあたっている。
 当CDの前半に収録されている「変容的変奏曲」は1973年にヴァーノン・ハンドリー指揮ロンドン交響楽団によって初演されているが、それから約2年後の1975年1月7日に、当CDに収められた放送用の録音が行われた。指揮は初演と同じハンドリー。オーケストラはBBC交響楽団に代わった。
 この時、作曲者のブリスは80歳を超えていたが、リハーサルから演奏に至るまで立ち合ったという。ブリスは作曲家としての生涯の一時期、BBC放送局の音楽部長を務めていたこともあったので、その録音は、作曲者への敬愛にあふれたものだったようだ。ブリスは充分に満足し、その録音は、それからさらに2ヵ月後、1975年3月22日に放送されたが、そのわずか5日前に、ブリスは既に世を去っていた。このブリス最晩年の力作の真価を伝える演奏として、当CDの録音は貴重な記録となったのだ。
 このCDの後半には、比較的穏健な作風に移行していった時期のブリスの作風を代表する作品として有名な「ジョン・ブロウの主題による暝想曲」が収録されている。演奏はチャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルで、作曲者の死後3ヵ月余しか経過していない7月4日の演奏会ライヴ。図らずも、作曲者への追悼となってしまった演奏会の記録だ。終曲が荘厳に響きわたると、演奏者たちの、作曲者への追悼の念が伝わってくるような気持になる。これもまた、この作品にとって、特別な日の演奏であったにちがいない。
 ヴァーノン・ハンドリーは、1930年生まれのイギリスの指揮者。自国の作曲家の作品や北欧音楽の指揮で定評がある。
 チャールズ・グローヴズは、1915年生まれのイギリスの指揮者。この録音の頃は、ロイヤル・リヴァプール・フィルの首席指揮者として活躍していた。(1996.7.30 執筆)


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イギリスの管弦楽伴奏合唱曲の傑作、エルガー「海の絵」を自在に歌うJ・ベイカーのライヴ録音ほか

2011年04月06日 15時38分41秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の2枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6077
【曲目】エルガー:「海の絵」作品37
      :「ミュージック・メーカーズ」作品69
【演奏】ジャネット・ベイカー(ソプラノ)
    ジェームズ・ロッホラン指揮BBC交響楽団
    サラ・ウォルカー(メゾ・ソプラノ)
    BBCシンガーズ/BBC交響合唱団 
    ノーマン・デル・マー指揮/BBC交響楽団
【録音日】1982年9月9日、1982年11月24日
 
■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、ロマン派音楽が終焉を迎えていた19世紀の終わりから今世紀にかけて、イギリスに花開いたロマン派的音楽の最後の大輪ともいうべきエルガーの作品の内、管弦楽伴奏の声楽曲を2曲収めたアルバム。
 2曲の内では「海の絵」が、その美しい旋律で形成された上質の風景画のような世界がことさら愛されて、このジャンルに比較的傑作の多いイギリス音楽の中でも、代表的な作品となっている。そのため、録音も多いが、中でも、当CDと同じジャネット・ベイカーがバルビローリ指揮ロンドン交響楽団をバックに歌うEMI盤が、この曲の代表盤と言われてきた。バルビローリとの録音は1965年に行われているが、当CDの方は、それから17年後の1982年のプロムナード・コンサートでのライヴ録音だ。両方の歌唱を聴き比べて、すぐに気付くのは、ベイカーの声質がその十数年の間に随分と丸みを持ったことだが、それ以上に音楽がこなれていて、自在さを増しているのが聴きとれる。もちろん、年齢的な老練さが加わっているのは間違いないが、同時に、細心の注意を払って歌い込んでいることが感じられるスタジオ録音と、自身の感興に率直な自発性を大事にしたライヴ録音との違いもあるだろう。
 今回のCDの歌唱の魅力が、そこにある。バルビローリ盤にはどこか気の抜けない張り詰めたものがあるが、このライヴ盤は、音楽がずっと身近かになって微笑んでいるような感覚がうれしい。バルビローリの、主張のはっきりした深い呼吸の伴奏に比べて、ロッホランの指揮がずっと淡々としたペースを基本にしていることも、ベイカーの歌の息づかいを伸びやかなものにしているようだ。
 ジャネット・ベイカーは1931年生まれのイギリスを代表するメゾ・ソプラノ。ロッホランも同じく1931年生まれ。若いころはオペラ・ハウスの練習指揮者などで下積みをしていたが、60年代半ば以降、BBCスコティッシュ響、ハレ管、バンベルク響などの首席指揮者、音楽監督を歴任した。
 「ミュージック・メーカーズ」は、合唱を主体に、メゾ・ソプラノ独唱も加わるという大規模な作品。音楽の表現の振幅も大きい作品だが、ここでは1919年生まれのベテラン指揮者、ノーマン・デル・マーが全体をよくまとめている。この1982年の演奏は、当時、イギリスの批評家から高く評価されたものだと言われている。  (1996.7.30 執筆)


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第2次大戦中のBBC放送の果敢な活動と大指揮者ボールトに思いを馳せるヴォーン・ウイリアムズの2作品

2011年03月31日 14時42分56秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の1枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6076
【曲目】ヴォーン・ウイリアムズ:仮面舞踏劇「ヨブ」
      :「天路歴程」放送劇のための劇音楽による組曲
【演奏】ヴァーノン・ハンドリー指揮/BBCノーザン交響楽団
    グローヴズ指揮BBCノーザン交響楽団
     デリス・ジョーンズ(ソプラノ)
     エルザ・ケンダル(コントラルト)
     ロビン・レガーテ(テノール)
     BBCノーザン・シンガーズ
【録音日】1976年10月26日、1975年10月16日


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDには、イギリス近代の作曲家ヴォーン・ウイリアムズの、めずらしい作品が2曲収録されているが、この内、前半に収められた舞踊劇のための作品「ヨブ」の演奏については、エードリアン・ボールトのことに触れないわけにはいかない。
 ボールトは「ヴォーン・ウィリアムズ交響曲全集」をいち早く録音したことでも知られている指揮者で、この作曲家の良き理解者として貢献している。この作品も、演奏会形式での初演は作曲者自身の指揮で行われたが、舞踊公演としての初演の指揮は、ボールトに委ねられている。この作品が、ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場のレパートリーとして定着した背景にも、ボールトの尽力があったようだ。1889年生まれのボールトは、戦後もイギリス指揮界の重鎮として活躍を続けていたものの、1979年には現役を引退した。彼の最後のプロムナード(プロムス)出演となった77年には、BBCノーザン交響楽団とで、この作品「ヨブ」が演奏されている。この作品とボールトの関係は、これほどに深いものなのだ。
 当CDは、そのボールトのラスト・プロムスの1年前の録音で、オーケストラはそれと同じBBCノーザン響。おそらくはBBC放送局が将来ための記録保存のひとつとして収録したものと思われるが、指揮を担当しているのは、初演以来この作品に関わってきたボールトではなく、ヴァーノン・ハンドリーだ。この作品が初演された1930年に生まれたハンドリーは、60年代半ば以降、高齢のボールトの助手を務めていた指揮者なので、当CDの演奏も、ボールトの意を受けてのものと考えてよいだろう。古代趣味的な音楽に、モダンな響きを持ち込んだ個性的作品だけに、その味わいに精通していたボールトの意を受けていると思われるハンドリーの録音は、ひとつの規範となる演奏と言ってよいだろう。
 後半の「天路歴程」もボールトによって初演されている。これは正に、BBC放送局との縁の深い作品で、ラジオ・ドラマの付随音楽として作曲されたこの作品の1943年9月の初演とは、そのドラマのBBCでの放送のことだ。1943年と言えば、第2次世界大戦の最中だ。この作品が、そうした時期に全英に放送されたドラマのためのものであることは、記憶にとどめておきたい。
 BBCは戦後30年を機に、この作品の最新録音での再放送を企画し、初演当時のディレクターを呼び戻したりしての再現を試みたという。それが当CDの録音だ。ただ、指揮は、ボールトではなくチャールズ・マッケラスが担当している(1996.7.26 執筆)


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「ボストン・ポップス」のフィードラーがBBCのオケを指揮したコンサートは「異文化交流的な面白さ」?

2011年03月25日 17時19分35秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の15枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6075
【アルバムタイトル】「ロンドンのアーサー・フィードラー」
【曲目】チャイコフスキー:ポロネーズ
    ハチャトゥリアン:バレエ「ガイーヌ」より
     (ばらの乙女たちの踊り/子守歌/剣の舞)
    リトルフ:スケルツォ~交響的協奏曲第4番より
    リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調
    チャイコフスキー:スラヴ行進曲
    オッフェンバック:バレエ「パリの喜び」より
    レノン/マッカートニー:ヘイ・ジュ―ド~イエスタデイ
【演奏】アーサー・フィードラー指揮/BBCコンサート管弦楽団
     ムーラ・リンパ二―(ピアノ)
【録音日】1970年9月(日付未詳)


■このCDの演奏についてのメモ
 アメリカにおけるクラシック音楽のライト・コンサートの草分け、アーサー・フィードラー(1894~1979)が、ロンドンに客演した時のライヴ収録のアルバム。オーケストラは、BBC放送局のライト・コンサート用のオーケストラ、BBCコンサート管弦楽団だ。数日にわたるものの再編集かもしれないが、1枚のCDとしての仕上りは尻上がりのノリを持っている。実に多彩なプログラムだが、ピアノ独奏にベテラン、ムーラ・リンパニーが加わっているのも豪華な顔ぶれだ。
 実際の演奏会ではどうであったかわからないが、このCDの収録曲目にフィードラーの得意曲ガーシュインやルロイ・アンダーソンの作品がないのは、やはり、自身が育てたボストン・ポップス・オーケストラとは違うレパートリーを意識していたからだろうか? 代って、リトルフの「スケルツォ」はロンドンのコンサートには欠かせない人気曲。こうした曲目が演奏されているところにも、フィードラーのサービス精神が表われているようだ。続くリストの「ピアノ協奏曲」は、いつになくリラックスして弾きくずすリンパニーのテンポの揺れに、フィードラーが大きな身振りの表情付けで、しっとりと歌い上げる。くつろいだ雰囲気の中での歌い上げがムードたっぷりで、ロマンス映画の場面が連続していくような、豊かな映像的イマジネーションが広がりる演奏だ。こうしたスタイルの演奏はフィードラーの独壇場だ。冒頭の「ポロネーズ」や「ガイーヌ」では多少とも他流試合的な硬さが聴かれるが、このリストは実に楽しく、自由闊達な音楽が展開している。
 「スラヴ行進曲」では、生まじめにリズムを刻み、それでいてゴージャスなサウンドを開放する、いつものフィードラー節が聞かれる。一方、「パリの喜び」では、ロンドン・スタイルがオーケストラ側に確立しているのか、いつものフィードラーと少し肌合いが違うようだ。このあたり、手兵ボストン・ポップス盤と聴き比べてみると面白いが、ロンドンのコンサートにすっかり同化したフィードラーは、それなりに絶好調だ。
 コンサートのクライマックスは、フィードラー自身のアレンジによる「ビートルズ・ナンバー」をひっさげての登場。大オーケストラを駆使したフィードラー・サウンドが満喫できる。(1996.6.30 執筆)





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ボールトの十八番、ヴォーン・ウイリアムズの交響曲をBBCのライヴ収録で聴く。

2011年03月08日 14時08分16秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の14枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6074
【曲目】ヴォーン・ウイリアムズ:「交響曲第6番」
             :「田園交響曲」(交響曲第3番) 
【演奏】エイドリアン・ボールト指揮/BBC交響楽団
【録音日】1972年8月16日、1966年12月12日

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDで指揮をしているエードリアン・ボールトは、1889年に生まれ、1983年にイギリス指揮界の重鎮と言われながら94歳の高齢で世を去った。ボールトは、イギリスの近代作品の紹介に尽力したが、特にエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストなどの作品を積極的に取り上げた。中でもヴォーン・ウィリアムズは、数々の初演の指揮を行い、また9曲の交響曲すべてを2回ずつ録音しているほど得意にしていた。
 参考までにボールトの「ヴォーン・ウィリアムズ交響曲」の録音記録の概略を紹介しよう。ボールトは1952年から53年にかけて英デッカにモノラルで「第1番」から「第7番」までを一気に録音し(当時は、これが全集だった)、その後1955年に作曲された「第8番」を翌1956年に英デッカにステレオで録音、さらに1958年作曲の最後の交響曲「第9番」の初演セッションによる録音が米エベレストに残されている。オーケストラはいずれもロンドン・フィルハーモニー。
 その後1967年から71年にかけて、英EMIにステレオによる全9曲の全集が録音され、これは、オーケストラが1、2、5、7、8、9番がロンドン・フィル、3、4、6番がニュー・フィルハーモニア管となっている。
 以上のそれぞれ2度ずつの録音の他、「第6番」に英HMVのSPレコード初出のロンドン交響楽団による録音がある。
 今回のCDは、こうした一連の録音を補完するもの。ボールトによるヴォーン・ウィリアムズの交響曲録音が、このBBC-RADIOクラシックスシリーズでは1枚もリリースされないのが不思議だったが、今回、初めて「第6番」と「第3番」が登場したわけだ。オーケストラは、ボールトによるヴォーン・ウィリアムズの交響曲録音では初登場のBBC交響楽団。しかもライヴ収録だ。
 それだけでなく、「第6番」に関しては、初演者ボールトの、初演の際と同じBBC交響楽団による、初演の会場ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ収録ということでも、興味のつきない記録と言えるだろう。
 ボールトのヴォーン・ウィリアムズ作品の演奏は、この作曲家の均衡のとれた近代的抒情精神から、力強い歌の積極的な流れを掴みとることにある。あふれ出る心象表現は、一見なだらかで穏やかな音楽の中にも、起伏の大きな世界を宿していることが感じとれるのだ。(1996.6.29 執筆)



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「近代人の抒情精神」の在り様を、ボールト指揮のイギリス20世紀音楽から感じとる

2011年03月04日 11時08分04秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の13枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6073
【アルバムタイトル】「ボールト/イギリス音楽秘曲集」
【曲目】モ―ラン:「シンフォニエッタ」
    ロースソーン:「弦楽オーケストラのための協奏曲」
    ブリス:弦楽合奏のための音楽
【演奏】エイドリアン・ボールト指揮/フィルハーモニア管弦楽団/
      BBC交響楽団/ロンドン交響楽団
【録音日】1963年3月18日、1966年(日付不明、スタジオ録音)、1971年8月2日

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、オーケストラも録音時期もばらばらだが、いずれも、エードリアン・ボールトの指揮によるイギリス近代の弦楽合奏を主体にした作品が収録されている。日本の音楽ファンにはめずらしい作品ばかりだが、イギリスの音楽趣味の、良い意味での保守的な抒情性を、モダンな響きの中で花開かせた佳品が、ボールトの好演で聴ける1枚だ。
 エードリアン・ボールトは1889年に生まれ、1983年に、イギリス指揮界の重鎮と言われながら94歳の高齢で世を去った。イギリスの近代作品の紹介に尽力する一方で、若き日にライプチッヒ音楽院やニキッシュに学んだ幅広いレパートリーを持ち、ドイツ古典派から後期ロマン派の作品まで、多くの作品を取り上げてイギリスの聴衆に愛された。
 ボールトのレパートリーは、イギリス近代作品では、特にエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストなどの作品を積極的に取り上げた。そのことからも感じられるように、抒情的なメロディ・ラインの抑揚を、近代精神のなかで力強く歌い上げることが得意だったようだ。そうしたボールトの特質が、このCDに収録された作品では、特に美しい成果をあげているように感じられる。
 中でも、ロースソーンの「弦楽オーケストラのための協奏曲」は、スタジオ収録による鮮明さもあって、第1楽章での低弦の力強さと高域の悲痛な音色とのバランスの取れた歌い上げなどに、特に、ボールトの演奏の魅力が現われている。
 また、ブリスの「弦楽合奏のための音楽」は、1935年のザルツブルクでの世界初演を、ウィーン・フィルを振って指揮したのがボールトだった。このCDには、1971年の「ブリス生誕80年記念コンサート」でのライヴが収録されている。ここでは、ライヴ録音特有の、曲想の盛り上がりに自然に追随するテンポの速まりを誘っていて、思いがけなくも、ボールトの親しげなまなざしを感じる。ボールトにとって、これは、自身の内から込み上げる音楽のひとつだったのだろう。彼らイギリス人たちの抒情精神の魅力が凝縮された世界の、最良の演奏のひとつにちがいない。(1996.6.29 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 これは、私の好きなCDのひとつ。文中にもあるように、馴染みのない曲ばかりなので、ビックネームと多額の広告宣伝費にしか反応しない人たちから冷淡に扱われて、まったく話題にならなかったCDですが、再三書いているように、こうした貴重な音源をリリースしたことにこそ、このシリーズの意義も価値もあるのです。豊かな音楽体験の芽を、自ら摘んでしまうような日本の、貧しい新譜紹介ビジネスから覚醒した音楽ファンを、もっともっと増やさなければならないと思うことしきりです。



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スークがプロムスに初登場した1964年のドヴォルザークと翌年のベートーヴェン、2つの協奏曲を聴く

2011年02月28日 16時19分19秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の12枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6072
【曲目】ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61
    ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品53
【演奏】ヨゼフ・スーク(vn)
    マルコム・サージェント指揮BBC交響楽団
【録音日】1965年9月9日、1964年8月27日


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDでヴァイオリン独奏を担当しているヨゼフ・スークは、1929年8月8日にプラハに生まれた。ヴァイオリニストで、作曲家としても著名な同名のヨゼフ・スークが祖父、大作曲家ドヴォルザークの娘が祖母という、音楽的に恵まれた環境に生まれている。
 初め室内楽奏者として出発し、本格的ソロ活動は1959年以降と言われているが、そのことは、スークが、いわゆる華麗な技巧を聴かせるヴァイオリニストと、かなり肌合いの異なる成長をしてきたことを物語っている。そして、よく知られているように、ソリストとしての活動が本格的になってからも、スーク・トリオでの活動など、室内楽の分野で充実した演奏が続いている。
 このCDでの、周囲の気配を豊かに呼吸し、自身の内に取り込み、しなやかに、軽やかに歌うスークのヴァイオリンを聴くと、スークが、音楽の愉悦の瞬間を聴き手に快感として伝えることができる、数少ない音楽家のひとりだということがよくわかる。それは、経歴からも察せられるように、スークが本質的にアンサンブルの妙手だからでもあるだろう。
 このCDに収められたドヴォルザークの協奏曲は、スークにとって、ロンドン名物のプロムナード・コンサート(プロムス)へのデビュー年の録音だ。音楽を心の底から素直に楽しむ集い、《プロムス》の雰囲気に溶け込み、大歓迎された翌年1965年のプロムスには、ベートーヴェンの協奏曲で再登場している。それが冒頭に収録された演奏だ。伴奏はどちらも、当時のプロムスの主役、マルコム・サージェント率いるBBC交響楽団。
 サージェントの好サポートを得て、ドヴォルザークでは、何ひとつ不安の影のない穏やかで慈しみにあふれた第2楽章が、ことさら美しい演奏として聴かれる。オーケストラや聴衆と深く結ばれた、暖かな気配に包まれたスークの幸福な演奏は、この作品の、最も美しい演奏と言ってよいだろう。
 翌年のベートーヴェンも、この作曲家としてはめずらしい温和なたたずまいを持った作品が、しなやかで伸び伸びした動きのなかで、ひときわ輝いている演奏だ。スークの、心の中のわずかな動きを映し出すようなこまやかなニュアンスが、自在な音楽として達成されている。アンサンブルの名手ならではの、ライヴ録音の利点が刻印された貴重な記録を、大切に聴きたいと思う。(1996.6.28 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 この「BBCラジオ・クラシックス」のシリーズはイギリスで発売されたオリジナルの段階ですべてプロデューサー名を記載する欄があり、それを日本盤でも踏襲しているのですが、時折プロデューサーの個人名が無記載で「BBC Transcription」とだけ記載されたものがあります。ライナーノート執筆時には知らなかったのですが、それが、昨年11月7日の当ブログで触れている「BBCトランスクリプション・サービス」として、海外の放送局に対して既に業務用LPレコードとして流布している音源であるという意味だったのでしょう。ご興味のある方は、再度、11月7日の当ブログをお読みください。このページ左の欄外をず~っと下に降りて行って「2010年11月」をクリックすると、11月分の当ブログが日付順(降順)で表示されます。



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プロムスの夜、ロンドンはウォルトンの人気曲「ベルシャザールの饗宴」で盛り上がる?

2011年02月23日 14時15分10秒 | BBC-RADIOクラシックス
 



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の11枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6071
【曲目】ウォルトン:オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」
         :「賢き乙女たち」
         :小管弦楽のための「昼寝」
         :組曲「ヘンリー5世」より
【演奏】ジョン・プリッチャ―ド指揮BBC交響楽団
      /ステファン・ロバーツ(バリトン)
      /BBCシンガーズ/BBC交響合唱団
      /ロンドン・フィルハーモニー合唱団
    チャールズ・マッケラス指揮イギリス室内管弦楽団
【録音日】1984年7月20日(「ベルシャザール~」のみ)
     1982年3月28日(上記以外の曲)


■このCDの演奏についてのメモ
 ロンドンのクラシック音楽界の夏の風物詩ともなったプロムナード・コンサート(プロムス)は1994年に 100回目のシーズンを迎えた。その最終日のコンサートのライヴ録音CDが発売されているが、その中で、ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」が演奏されている。この大規模な合唱を伴った作品は、多様な打楽器を効果的に使用した現代作品特有の音響的な面白さも持っている。
 使用される打楽器を列記すると、ティンパニ、小太鼓、中太鼓、大太鼓、トライアングル、タンブリン、カスタネット、シンバル、ゴング、シロフォーン、グロッケンシュピール、ウッド・ブロック、スラップスティック、かな床、といったもので、これらを駆使して、6名からなる2群のブラスバンドで金管を増強した大規模のオーケストラと、大合唱にオルガンまで加わるという壮麗な作品。合唱好きのロンドンっ子たちのフェスティバルを盛り上げる作品として、1931年の初演以来、人気の高い作品なのだ。
 当CDには、戦後世代の指揮者ではプロムスで人気ナンバー1だったと言われるプリッチャードの指揮による、1984年のプロムナード・コンサートでの演奏がライヴ収録されている。プリッチャードの指揮はライヴ収録でありながら、この大編成の音響を、決して直線的になることなく、しなやかに、豊かな陰影を込めて歌わせている。それでいてリズムの立ち上がりも充分だ。さすがにオペラ・ハウスでの経験の長かった指揮者だけのことはある。
 一方、バッハの作品をウォルトンが編曲したバレエ曲「賢き乙女たち」では、バッハの音楽に流麗な横の流れを付加したようなアレンジの中から、一定した律動感を的確に引き出したマッケラスの指揮が光る。マッケラスは、ヤナーチェクの精力的な紹介で知られ、また古典音楽の演奏などでも、その学究的なアプローチに定評があるが、若いころには、サドラーズ・ウェルズで、オペレッタや、バレエ公演の指揮者をしていた。そうしたマッケラスの経験と知識が、ほどよく融合した温和で、さわやかな演奏だ。(1996.6.29 執筆)

【当ブログへの再掲載に際しての付記】
 冒頭で述べているのは、このライナーノートを執筆した当時、確かテルデックの発売だったと思いますが、アンドリュー・デイヴィス指揮の1994年の「プロムス・ラスト・ナイト」とか云うCDが発売されて話題になっていたので、それを枕話にしたものです。その時には「プロムスも、もう終わってしまうのか」などと勘違いした人も出ていたので、会う人ごとに訂正に苦労した記憶があります。「ラスト・ナイト」ですから、ただ、その年度の最終日、千秋楽に過ぎません。
 このBBCシリーズは、1984年のプロムスを中心にウォルトン作品を集めたCDです。「ペルシャザール~」以外はマッケラス指揮イギリス室内管弦楽団。もちろん、小編成のオーケストラにふさわしく、巨大なプロムス会場=ロイヤルアルバート・ホールではなく、バービカン・ホールでの1982年ライブ録音です。
 「ベルシャザール~」は「ゲロンテウスの夢」と並んで、イギリスでは異常なほどに人気の高い曲で、カタログを調べると、主だったイギリスの指揮者の殆んどが録音を残していてびっくりします。
 サドラーズ・ウェルズは、マッケラスが指揮者陣のひとりだった1960年代くらいまでは、軽音楽系の殿堂のような活動をしていて、多くのレコードで、その当時の演奏スタイルを聴くことが出来ます。もちろん、英国国内のみの発売が多いので、ロンドンの中古レコード店あたりでないと、十分にそろってはいませんが、オッフェンバックもヨハン・シュトラウスも、英語で歌っています!

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プロムス会場6000人収容の巨大ホール「ロイヤル・アルバート」に響いたメシアンのオルガン曲を聴く

2011年02月17日 13時26分21秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の10枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6070
【曲目】メシアン:「主の降誕」
        :「キリストの昇天」
【演奏】フランシス・グリアー
    ティモシー・ボンド
    (オルガン:ロイヤル・アルバート・ホール)
【録音日】1985年8月17日、1981年8月22日

■このCDの演奏についてのメモ
 現代の最も重要な作曲家のひとりだったオリヴィエ・メシアンは、つい先頃、1992年に世を去ったが、作曲家としての生活の傍ら、生涯を通して教会のオルガニストとしての生活を続けていたことでも知られている。
 メシアンにとってはオルガンのための作品は重要なジャンルであり、自作自演の録音もいくつか残されている。そうした中で、イギリスでは、サイモン・プレストンがメシアンのオルガン曲奏者として著名で、CDもまとまって発売されている。
 今回CD化されたのは、いずれも、ロンドンの夏の行事としてすっかり定着したプロムナード・コンサートでのライヴ収録だ。したがって、6000人以上収容できる巨大ホール、ロイヤル・アルバート・ホールのオルガンを使用している。オルガン演奏の場合、それぞれが、どこのオルガンを使用しているかは、大変重要だが、私の知る限り、ロイヤル・アルバート・ホールでのメシアン作品の収録は、これまでなかったのではないだろうか?
 「主の降誕」は1985年のライヴで、演奏者はフランシス・グリアー。生年が不祥だが、キングズ・カレッジで学び、1981年以降、オルガニストとして活動しているということだから、比較的若い世代に属する演奏家と思われる。その後、インドで暝想修業を経験して帰国、催眠療法のカウンセリングを行ったり、多方面で活躍している。鳥の鳴き声を初めとして、自然界の音を巧みに取り込むメシアンの音楽世界を、詩情豊かに演奏する達者なオルガニストだ。
 「キリストの昇天」は1981年のライヴ録音で、オルガンを弾いているのはティモシー・ボンド。ボンドの生年も手元のデータからはわからないが、現代音楽への関心の高い人のようで、メシアンの他、シェーンベルク、リゲティ、シュトックハウゼン、クセナキス、ルチアーノ・ベリオなどがレパートリー。王立音楽院で教鞭もとっている。(1996.7.1 執筆)

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ロンドンを中心とするイギリス人たちの「内なる異国」のイメージを、ダウンズ指揮BBCフィルで聴く

2011年02月08日 14時02分05秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の9枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6069
【曲目】バックス:交響詩「ティンタジェルの城」
        :北方のバラード第2番
        :北方のバラード第3番
    バントック:異教の交響曲
【演奏】エドワード・ダウンズ指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
【録音日】1983年9月2日、1982年9月23日、1984年1月27日


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、ロンドンを中心としたイギリスにとって、〈内なる異国〉ともいうべき世界のイメージがコンパクトに収められたようなアルバムになっている。
 前半の3曲がアーノルド・バックスの作品で、後半にはグランヴィル・バントックの作品が収録されているが、いずれもアイルランドやケルト、あるいはスコットランドなど、北方を想起させる作品ばかりだ。しかし、北方ネイティブの作品ではなく、北方への憧憬が創作のインスピレーションとなっている点でも、また共通している。
 演奏は、かつてBBCノーザン交響楽団と呼ばれていたマンチェスターを本拠地とするオーケストラ、BBCフィルハーモニックで、指揮がエドワード・ダウンズだ。
 私たち日本人には、彼らイギリス人たちの中にあるアイルランドやケルト文化への空間的・時間的距離の実感がどのようなものであるかは、想像すら出来かねるが、ダウンズは、こうした作品の演奏に適任者のひとりなのだろう。
 めずらしい作品ばかりが収録されていて、このアルバムの演奏以外に聴いたことがないので、比較のしようがないのだが、いずれの作品にも共通しているのは、メロディ・ラインの枠組が茫漠とした広がりを持っていて、一見とりとめのないことだ。こうした地を這うように流れ出てくる音楽は、ともすれば、とらえどころのない世界に陥ってしまう。だが、ダウンズの指揮は、作品の随所に聴かれる夢想的な情緒の周辺に漂う曖昧模糊とした雰囲気への程良い距離感が、これらの作品にふさわしい。曲想の流れに沿った自然なメリハリが効いている。穏やかな起伏の中から、名口上役による幻想的な物語が前面にせり出してくるような、達者な語り口でまとめられている。
 指揮のダウンズは、1924年バーミンガム生まれ。ロンドンの王立音楽院を卒業。現在はロイヤル・オペラ・ハウスの首席指揮者として活躍しているが、このCDの録音の頃は、BBCフィルの首席指揮者だった。50年代から協奏曲の手堅い伴奏指揮で、しばしばレコードに登場しているが、オペラ畑で数々の英国初演を手掛けるなど、意欲的な仕事で知られている。(1996.6.29 執筆)



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ハーパーのソプラノで歌われるブリテン『イリュミナシオン』に聴くアルチュール・ランボーの詩世界

2011年02月04日 11時32分23秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第3期発売の15点の8枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6068
【曲目】ブリテン:イリュミナシオン 作品18 
        :狩りをする我等の祖先 作品8
        :4つのフランス語の歌
    ブリッジ:子守歌   
【演奏】チャールズ・グローブズ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
    エドワード・ダウンズ指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
    スチュワート・ベッドフォード指揮イギリス室内管弦楽団
    ヒーザー・ハーパー(ソプラノ)
【録音日】1978年5月30日、1986年2月12日、1980年3月30日


■このCDの演奏についてのメモ
 今世紀を代表するイギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによる、オーケストラとソプラノ独唱による作品を中心にしたアルバムで、ソプラノ独唱はすべてヒーザー・ハーパーによるが、オーケストラおよび指揮者はそれぞれ異なる。
 ヒーザー・ハーパー(ヘザー・ハーパーと表記することもある)は、1930年5月8日にイギリスのベルファーストに生まれ、ロンドン・トリニティ・カレッジで学んだ。初めはピアノを学んでいたが、声楽に転じたとされている。
 一時アンブロジアン・シンガーズ及びBBC合唱団に所属していたが、1954年にオックスフォード大学オペラ・クラブでヴェルディ「マクベス」のマクベス夫人役を歌い、次いで、1956年にはBBC放送でのヴェルディ「椿姫」のヴィオレッタ役で成功を収めた。翌57年からグラインドボーン音楽祭に出演、1960年にはクレンペラー指揮のメンデルスゾーン「真夏の夜の夢」の録音に抜擢されて、初録音をしている。その後、マーラー歌手として、ショルティ「第2」「第8」、マゼール「第4」、ハイティンク「第8」「嘆きの歌」などの録音に参加している。また、ブーレーズ指揮の「ウェーベルン全集」にも加わっており、現代作品は得意にしている。
 ブリテン作品では、1962年の「戦争レクイエム」初演に参加した後、歌劇「ピーター・グライムズ」のエレン役でも出演している。
 こうした経歴からもうかがえるように、ハーパーは、知的で神経のこまやかな表現力を持ったソプラノ歌手だ。まとまった歌曲集としては、前記のブーレーズによるウェーベルンの他には、同じくブーレーズ指揮でラヴェルの歌曲集「シェエラザード」があるくらいだったハーパーの歌曲集として、このブリテン作品のCDは、ハーパーの実力を示す1枚ともなっている。
 指揮を担当している3人についても簡単に紹介しよう。チャールズ・グローブズは1915年にロンドンに生まれ、1992に世を去った名指揮者。エドワード・ダウンズは1924年バーミンガム生まれ。BBCフィルの首席指揮者を経て、1991年からロイヤル・オペラの首席指揮者を務めている。スチュアート・ベッドフォードは1939年ロンドン生まれ。指揮者としては1967年にサドラーズ・ウェルズでデビューしたが、1965年以降、王立音楽院の教授としてブリテン作品の研究者として、むしろ著名な人物だ。(1996.6.29 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 発売当時、ほとんど話題にならなかったCDアルバムだが、ハーパーの細やかで繊細な表現は、もっと聴かれていいと思う。特に『イリュミナシオン』は、グローブズの柔和な表情の指揮ともども、ソプラノによる歌唱が、ブリテン自身の指揮によるテノールのピーター・ピアースの英デッカ盤や、同じくテノールのポストリッジとのラトル/ベルリン・フィル盤とは別の魅力で聴かせる。アルチュール・ランボーの詩世界の異相を聴く思いだ。


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