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まもなく上映されるロイヤル・オペラ・ハウス『ラ・バヤデール』を2014年マリインスキー劇場と比較して

2019年01月10日 22時29分58秒 | オペラ(歌劇)をめぐって

「ロイヤル・オペラ・ハウス/シネマシーズン 201819」の第3弾が118(金曜日)に東宝シネマズ系の全国映画館で封切りとなる。演目は昨年1113日のバレエ公演『ラ・バヤデール』である。先日、昨日、いち早く鑑賞して思うところがいくつかあったのでご報告する。

 『ラ・バヤデール』は、『ドン・キホーテ』と並んで、レオン・ミンクスが作曲したバレエ音楽としてでは名高い作品だが、正直なところ、音楽だけを聴いているといささか退屈な、工夫の乏しい音楽なので、私もバレエ付きの映像でしか聴いたことのない音楽である。今回と同じコヴェントガーデン(英国ロイヤルオペラ)の公演の2009年公演(確か、NHKが放送していたように思う)の映像DVDが市販されているが、私はWOWWOWで何度か放送もしているマリインスキー劇場の2014年公演の映像が気に入っていた。

 マリインスキーのものは、初演されて以来のマリウス・プティパの振付を再現したもの、ということになっているが、初演が日本でいうと明治時代の初期に行われたのだから、もちろん映像があるわけではなく、紙の上での記録と語り継がれてきた記憶を繋ぎ合わせたものということになる。ロシア帝室バレエの基礎を切り開いたプティパの依頼で作曲された作品で、もちろん初演はロシアのマリインスキー劇場である。

『ラ・バヤデール』は当時のオリエンタリズムが横溢した作品で、いささか怪しげな古代インドが舞台となっている物語。この作品が、パリやロンドンで知られるようになるまでにはかなりの年月がかかったらしいが、ひょっとすると、むしろ日本のほうが、早かったかも知れない。何しろ、大正時代には日本海を渡って舞鶴港経由で京都、大阪方面にロシアの最新の芸術、文化動向が伝わってきていたのだから。そういえば、「インド舞踊」などのオリエンタルな動作が日本のレビュウなど舞踊界に入ってきたのは、いつごろからなのだろう。

 それはともかくとして、『バヤデール』の一番の見どころは、何といっても「第2幕」の幻想場面だろう。今回のロイヤル・オペラの公演映像でも、そこは、マリインスキーの公演とほとんど変わっていない。じつは、バレエ・ファンならご存知の方も多いことだが、ロイヤル・バレエのものは、30年ほど前の1989年に初演されたナタリア・マカロワ版である。ナタリア・マカロワはロシア(当時のソ連)から亡命してきたバレリーナ。彼女が自分の学んだ「伝プティパ」の振付を元に改作したものなのだ。今ではこれが、ロイヤル・バレエでの定番として根付いているというわけである。

 じつは、今回のロイヤルの公演を見始めて、第1幕では少々、辟易してしまったというのが正直な感想だ。もともとプティパの時代以来の「マイム」をバレエのつなぎにしてストーリーを説明する手法が、最近になって否定される傾向が出てきているようだが、マカロワ版は、むしろ、そうした小芝居の付け足しが目立つ振付だ。要するに「饒舌」なのだ。好意的に見れば、彼女は、この三角関係を描いた物語の底流になっている愛憎劇を、しっかりと描きたかったということなのだろう。

 だが、私としては、伝プティパのマリインスキー版第1幕での、上手(かみて)と下手(しもて)それぞれのグループの入退場の処理などの様式美や、思わずオペラ『サムソンとデリラ』や『ノルマ』の生贄を囲む祭礼場面を思い出してしまった円陣を組んでの踊りの完成度の高さなど、「これぞ古典」と唸らせるものだった。

 第1幕は、そんなわけで興ざめだったのだが、第2幕での見事に完成された群舞の幻想美に、伝プティパの美しさと寸分違わぬマカロワ版の美しさを発揮して、いよいよ最終幕。ここで、マカロワ演出の愛憎劇の意味が、しっかりと伝わってきて納得した。そして幕切れに来て、これはマリインスキー劇場の2014年公演映像を越えた感動のクライマックスだと思うに至った。記憶が不確かなので申し訳ないが、今回の公演は、以前のものとライティングなどは、より高度になっているように思うが、どうだろう。技術や機材がどんどん進化しているから、それもありうることかと思う。もちろん、衣装は、以前のものを踏襲しているのだが。

 いずれにしても、私は、ナタリア・マカロワという伝説的なバレリーナが、亡命してまで必死に守り、伝えたかったものの大きさを改めて知った。老境に達してきた彼女だが、今回の公演でも、まだ、若い踊り手たちを熱心に指導し続けたという。カーテンコールで、主演のプリンシパルに招き入れられて舞台袖から登場したマカロワの姿に、思わず私も心の中で惜しみない拍手を送った。

 

 

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