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「プロムス」の恒例「ラスト・ナイト」の救世主(?)ロッホランの名演を精選した「とっておきの一枚」

2013年05月30日 12時12分06秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、第二次大戦後のイギリスの音楽状況の流れをトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。


 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの94枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6105
【アルバムタイトル】『ザ・ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムス』
【曲目】サリバン(マッケラス編)『パイナップル・ポル』組曲
    C・ランバート『リオ・グランド』
    イベール『ディヴェルティスマン』
    エルガー『威風堂々』第1番
    H・ウッド『イギリスの海の歌による幻想曲』
    T・アーン『ルール・ブリタニア』
    H・パリー『エルサレム』
    スコットランド民謡『蛍の光』
【演奏】ジェームズ・ロッホラン指揮BBC交響楽団
  BBCシンガーズ、BBC交響合唱団
  ピーター・ドノホー(pf)、ベンジャミン・ラクリン(br)
【録音日】1977年9月17日、1979年9月15日、1982年9月11日、1984年9月15日

■このCDの演奏についてのメモ
 ロンドンで毎夏7月中旬から9月中旬に行われる「プロムナード・コンサート」(略称:プロムス)の最終夜(ラスト・ナイト)は、イギリスの正に国民的行事で、ロイヤル・アルバート・ホールに集まった7000人余の聴衆たちは、やがて手拍子、足踏み、喚声で参加し、手にかざした英国国旗の小旗を振って合唱に加わるという、実に賑やかな音楽の祭典だ。オーケストラは、1927年以来プロムスを財政的に支援しているBBC放送のメイン・オーケストラ、BBC交響楽団だ。その生き生きとした様子は、CDでは、100周年の記念に1994年のラスト・ナイトのライヴ録音がワーナーから発売されたので、ご記憶の方も多いと思う。指揮は首席指揮者を務めるアンドリュー・デイヴィスだった。
 さて、BBC放送の豊富なライヴ音源から制作されている《BBC-RADIO クラシックス》シリーズにも、いよいよラスト・ナイトが登場した。指揮はジェイムズ・ロッホランだ。
 実は、「LAST NIGHT OF PROMS」の当シリーズへの登場と聞いたとき、私は不覚にも、プロムスの代名詞ともなっている名指揮者サージェントあたりの録音かと思っていたので、ロッホランと知って少々意外な感じがした。しかし、録音データを見て、ひとまず納得。演奏を聴いて、更に納得した次第だが、それはリスナーの方々のお楽しみとして、直接当CDをお聴きいただくとして、ヤボなガイド役としては、私なりに録音データで納得した事柄についてだけ、お伝えしようと思う。
 このCDの録音は、ある特定の年のラスト・ナイトをそのまま収録したものではない。77年、79年、82年、84年の4年分の中から、選びぬいてCD化するという、当シリーズの特徴である「コーサートの丸ごと収録ではなく、良いものだけを収録する」というコンセプトが、ここでも採用されている。アルバムの担当ディレクターは多くのディスコグラフィの著者として日本でもその名を知られるジョン・ハント。経験と知識豊富な彼の選択は、おそらく当を得たものだろうと思う。ご承知のようにラスト・ナイトは長い伝統によってプログラムの組み立てが確立しているので、毎年、同じ曲目がいくつか登場する。数年分のロッホランの同曲異演の中から、最良のものが選ばれているに違いない。「パイナップル・ポル」組曲に至っては、途中の曲目から録音年が変るという念の入れようだ。
 では、なぜロッホランなのか? 原則としてBBC交響楽団の首席指揮者が担当することになっているラスト・ナイトの指揮が、ロッホランに委ねられているのは、1977年という年が、ルドルフ・ケンペの76年の急逝によって首席指揮者不在となっていたことと関係があるのではないだろうか? 翌78年からはロシアのロジェストヴェンスキーが首席指揮者に就任するが、ラスト・ナイトは〈イギリス人の音楽魂〉を知っているロッホランが引続き担当したということかも知れない。ロッホランの指揮ぶりが、ラスト・ナイトを大切に育ててきた聴衆に受け入れられたのだ。このCDは、ラスト・ナイトのエア・ポケットとも言うべき時期を、見事に切抜けたロッホランの仕事を記念する1枚と言えるだろう。
 ジェイムズ・ロッホランは、1931年にグラスゴーに生まれ、60年代からイギリスを中心に活躍。71年から84年までは、バルビローリの後任としてハレ管弦楽団の首席指揮者の地位に就いていた。 (1997.8.20 執筆)


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第一次世界大戦の英霊に捧げられた「合唱交響曲」に、演劇要素と合唱とが結合した英国伝統の芸術表現を聴く

2013年05月15日 16時21分09秒 | BBC-RADIOクラシックス

 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、第二次大戦後のイギリスの音楽状況の流れをトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。


 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの93枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6104
【曲目】アーサー・ブリス:合唱交響曲『朝の英雄たち』
【演奏】チャールズ・グローヴズ指揮BBC交響楽団
    BBC交響合唱団(ガレス・モレル指揮)
    リチャード・ベイカー(朗読)
【録音日】1982年8月12日

■このCDの演奏についてのメモ
 「第一次世界大戦の犠牲者たちへの鎮魂の願いを込めた合唱交響曲」と作曲者によって副題されている作品。今世紀のイギリスを代表する作曲家のひとり、アーサー・ブリスによる〈大叙事詩〉とも言うべき、スケールの大きな作品の録音だ。〈合唱音楽〉の伝統がしっかり根付いているイギリスだけに、ヴォーン=ウィリアムズの「海の交響曲」など、このジャンルには傑作が多いイギリス音楽の中でも、この1930年に完成された合唱交響曲は、特に楽しめる作品のひとつだ。
 演奏の水準も非常に高く、伸びやかで広々とした世界の豊かな歌心が、聴く者の精神を、最後には暖かで穏やかなもので包んでくれる。幸福な〈時〉で満たしてくれる音楽にめぐり会えたことに感謝したくなる演奏だ。
 ブリスの作品としてはめずらしいと言って良いほど、全編が爽やかで、しなやかな流れに貫かれているが、それには、名指揮者グローヴズの力も大きく貢献しているだろう。グローヴズの創る音楽には、いつも、自然体の自由さと、大らかなすがすがしさがある。その人なつこい眼差しには、言葉では言い尽くせぬ〈音楽のよろこび〉が宿っている。ブリスの、戦争の犠牲者たちへの鎮魂の思いが美しく昇華されている名演奏だ。正に、タイトルの「朝の英雄」に込められた作曲者の心情に相応しいものと思う。
 第1楽章と第5楽章では、朗読が用いられているが、第1楽章の朗読の背景で奏でられる音楽には、イギリスの田園風景が広がって行く。そして、第5楽章では、独白劇のような緊張がある。当時の交響曲的作品としては珍しい手法だが、シェークスピア劇を生んだイギリスの、演劇美学を味わうような側面も聴かせる作品だ。このCDは〈合唱〉と〈朗読〉という、イギリスが得意とする芸術を巧みに織り込んだ、〈イギリス音楽〉の魅力の総合とも言うべき傑作の、決定的名演と言ってよいものと思う。グローヴズには、ロイヤル・リヴァプール・フィル他との1975年録音が英EMIにあるが、これは当CDの演奏ほどには音楽が練れていない。
 指揮のチャールズ・グローヴズは、1915年ロンドンに生まれ、1992年、同じくロンドンで心不全により急死したイギリスの指揮者。イギリスの音楽に囲まれて成長し、イギリスの聴衆と共に育ったと言っても過言ではない生涯を送った指揮者のひとりだ。
 なお、この名演での、見事に音楽と融け合った朗読を担当しているリチャード・ベイカーは、1925年にロンドンに生まれた。放送、ミュージカルまで、活動の幅は広く、音楽作品のナレーターとしては、なくてはならない逸材とされている。彼が手掛けた仕事は、オネゲル「ダビデ王」、ウォルトン「ファサード」、プロコフィエフ「ピーターと狼」シェーンベルク「ワルソーの生き残り」など、多岐にわたっている。(1997.5.30 執筆)


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作曲者と指揮者の深い友情を聴くハウエルズ『楽園への讃歌』。俊英ベイリーのチェロで『ファンタジア』も。

2013年05月10日 11時26分40秒 | BBC-RADIOクラシックス
 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、第二次大戦後のイギリスの音楽状況の流れをトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。


 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの92枚目

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【日本盤規格番号】CRCB-6103
【曲目】ハウエルズ:楽園への讃歌
      :チェロと管弦楽のためのファンタジア
【演奏】ドナルド・ハント指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
    スリー・コアーズ・フェスティバル合唱団
    アプリール・カンテロ(sop.)
    デイヴィッド・ジョンストン(te.)
       ―――――――
    ノーマン・デル・マー指揮BBCスコティッシュ交響楽団
    アレクサンダー・ベイリー(チェロ)    
【録音日】1977年8月23日、1982年8月12日

■このCDの演奏についてのメモ
 「楽園への讃歌」は作曲者ハウエルズ自身の家族の不幸を作曲の動機とした、美しく清澄な作品だ。このような生い立ちの作品としては、フォーレの有名な「レクイエム」が真っ先に挙げられるだろうが、このハウエルズの作品の場合、初演に漕ぎ着けるまでにも、多くの困難があったようだ。結局、初演の場となったのは、作曲者の生地に近く、若き日に音楽を学んだ町、グロスターだった。
 このCDに収録された演奏で指揮をしているドナルド・ハントは、このグロスターに生まれた宗教音楽の指揮者、オルガニスト、作曲家として、長く活動している人物。オルガン曲や多くの「キャロル」を作曲しているが、この「楽園への讃歌」の初演がやっとのことで行われた1950年には、初演の地グロスターのカテドラルの若きオルガニストだった。
 1930年生まれのドナルド・ハントが、グロスター・カテドラルのオルガニストに就任したのは、彼が18歳の1948年で、ここには54年まで在籍していたから、ハントにとって、青春時代の記憶に、この「楽園への讃歌」の初演が刻みこまれているかも知れない。
 いずれにしても、このCDに収められた演奏は、初演後20数年を経て、再び、同地に於て行われた記念コンサートの記録であり、リハーサルには作曲者自身も立合ったという。作曲者と指揮者とは深い友情に結ばれたが、この幸福な再演の後、5年余を経て、作曲者は世を去ってしまった。
 後に残されたこの演奏のCDは、イギリス南西部グロースターシャー州に位置する古い州都、グロスターに縁を持つ作品をめぐる二人の音楽家の友情が生んだ、ひとつの美しい花として聴くこともできるだろう。
 余白に収められた「チェロと管弦楽のためのファンタジア」も、幼くして世を去った息子への思いがこめられているというが、ここでチェロ独奏を担当しているアレクサンダー・ベイリーも、作曲者ハウエルズにロンドンの王立音楽院で学んでいる。
 イギリスを代表するチェリストのひとりで、エルガー、ウォルトンといったイギリスの作品の演奏に定評があるほか、ペンデレッキの「第2チェロ協奏曲」のカナダでの初演や、スタンフォードの「協奏曲」の世界初録音が話題となっている。
 伴奏指揮のノーマン・デル・マーは1919年に生まれ、1994年に世を去ったイギリスの指揮者。BBCスコティッシュ交響楽団などで活躍し、後期ロマン派を得意にしていた。特にリヒャルト・シュトラウスについては著作もあり、周到な研究を演奏で実践していたと言われる。(1997.5.29 執筆)


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