竹内貴久雄の部屋

文化史家、書籍編集者、盤歴60年のレコードCD収集家・音楽評論家の著作アーカイヴ。ときおり日々の雑感・収集余話を掲載

METライブビューイングの「メデア」は、必見です。

2022年11月26日 14時19分38秒 | オペラ(歌劇)をめぐって

昨日、今期のメトロポリタン歌劇場のライブビューイング第1作、ケルビーニ「メデア」を鑑賞しましたので、取り急ぎ、ご報告します。

 とにかく、歌も舞台も「凄い!」の一言。息を飲む、とは、こういうものなのだと思いました。ケルビーニは、早い段階で、オペラの大改革を開始していたのだなぁと、今更ながら思い知った次第です。雄弁なオーケストラの表現に、真っ向から挑むラドヴァノフスキーは、マリア・カラス以上かも知れません。この役を、これ程の迫真力で歌い、演技するとは思いませんでした。

 舞台の作りも独特。マクヴィカーの演出ですが、舞台背後に、天井からの俯瞰映像を写し出し、群集の動きも、メデアが這いずり回るのも、わかりました。

 言葉では、とても説明できない世界です。これは、メトの歴史に残る公演の一つだと思いました。


ロイヤル・オペラ、シネマシーズン2022/23が『蝶々夫人』でスタート!

2022年11月25日 09時44分58秒 | オペラ(歌劇)をめぐって

 今期のロイヤル・オペラの「シネマシーズン」は、史上最大規模だそうで、7本のオペラと6本のバレエというラインナップです。スタンダードな出し物をずらりと揃えた、いかにもコヴェントガーデンといった内容。オペラは「蝶々夫人」「アイーダ」「ラ・ボエーム」「セヴィリアの理髪師」「トゥーランドット」「フィガロの結婚」「イル・トロヴァトーレ」の7本です。

 昨日、12月9日から12月15日まで東宝シネマズ系で上映される『蝶々夫人』を、いちはやく鑑賞してきましたので、大急ぎでご紹介します。メモ書きで申し訳ありません。

 演出は2003年以来だったと思いますが、コヴェントガーデンでずっと上演され続けているものを、ブラッシュアップした改訂版だそうですが、印象は、とても新鮮でした。日本人スタッフを大勢アドバイザーに迎えてのものだそうで、「日本文化へのリスペクト」をテーマにしたものだとのことですが、そのせいか、ことさらに、ピンカートンが、伝統に無理解で傍若無人なアメリカ青年、」といった感じになっていて、あれッ、という人物になっていました。鼻持ちならない、といった雰囲気を、ことさらに強調していました。

 しかし、今回の演出の最大の特徴は、「舞台」の色調です。とても地味な色合いで統一されていて、それは茶の湯の世界というか、古い陶磁器のような、というか、そんな感じ。古美術に素人なので、乱暴な表現でもうしわけありませんが、例えば、ゼフィレッリの『トゥーランドット』がカラフルな日光東照宮のような色合いなのに対して、今回の『蝶々夫人』の世界は、まるで法隆寺だ、と言ったら、おわかりいただけるでしょうか?

 その色合いは、かなり説得力のある世界でした。

 ただ、もう30年くらい前でしたか、浅利圭太演出のスカラ座公演(マゼール指揮)の映像を見たとき、初めて、この物語の世界が、丘の上の「仮構世界」での夢物語なのだといったような意味で、絶えず、ヨコへの移動とタテ方向の移動とが交錯する世界なんだということを強調する必要がある、と思った私としては、この演出のヨコ方向の動きで終始している静かな「単調さ」の強調には「?」でした。

 ベテラン、ニコラ・ルイゾッティの指揮は、立派なのですが、これでいいのかなァと思って聴いていました。多弁で輪郭のくっきりしたオケがしっかりと鳴っているのですが、そのサウンドは、どこまでも分厚く、完全に「ヴェリズモ・オペラ」(例えば、レオンカヴァッロの『道化師』やジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』のような)の響きになっているのは、演出の舞台に比して、どうなんだろう、と思いました。そのギャップこそが、この時代の音楽の特徴なのかなあとも思いましたが……。

 考えてみれば、プッチーニ『蝶々夫人』の音楽が、これほどに明確に「ヴェリズモ」の響きで鳴り渡るのは、あまり聴いたことがないようにも思いました。ふだん、もっと高域の弦に寄った、水彩画のように繊細な色合いで聴いていたように(――というか、そうしているのを名演と思っていたような)気がしています。ルイゾッティの指揮で奏でるオケの音は、分厚く塗った油絵なのです。これも、このオペラの一面なのだという説得力はありました。

――というわけで、様々なことを感じ、考えさせる『蝶々夫人』です。久しぶりに、マンネリ打破の刺激満載の『蝶々夫人』でした!

 

【追記】

鑑賞した『蝶々夫人』のスタッフ、配役は、以下の通り。

原演出:モッシュ・ライザー/パトリス・コーリエ

再演出:デイジー・エヴァンス

美術:クリスティアン・フェヌイヤ

衣裳:アゴスティーノ・カヴァルカ

 

指揮:ニコラ・ルイゾッティ

 

蝶々さん:マリア・アグレスタ

ピンカートン:ジョシュア・ゲレーロ

スズキ:クリスティン・ライス

シャープレス:カルロス・アルヴァレス

ゴロー:カルロ・ボージ ほか

 

アグレスタは、このオペラのヴェリズモ的なタフさによく応える歌唱を、しっかりと聴かせていた。

シャープレスのアルバレスも、ベテランの貫禄で、よく、若者ピンカートンの過ちに苦悩する外交官を演じていた。

スズキのクリスティン・ライスも、役柄にぴたりとはまっていた。   

 

 


METライブビューイング2022-23が、まもなく始まります。

2022年11月22日 18時20分04秒 | オペラ(歌劇)をめぐって

 METライブビューイングが、今年も11月25日(金)から始まります。例年通り、10作品の上映ですが、今週の金曜日からの「第1作」は、何と、マリア・カラスが蘇演したことで知られるケルビーニの『メデア』です。これは、若き日のバーンスタインがミラノ・スカラ座でカラスの名唱を支えたライブ録音が有名ですが、私、じつは、実際の公演はもちろん、映像オペラでさえ、観たことがないので、楽しみにしています。メトでも、「初演」だそうですが、ラドヴァノフスキーが、相手役ポレンザーニで挑戦するそうです。

 全10作のラインナップは、公式サイトでご覧いただくとして、そのほかで私が注目しているのも、いろいろあります。ミレッラ・フレーニが晩年に何度も歌っていたジョルダーノの『フェドーラ』が第4作。

 現音楽監督のネゼ=セガンが第5作『ローエングリン』で登場するのも注目です。このワーグナー作品。昔はアバド、最近ではケント・ナガノといった、ワーグナーをあまり振らない指揮者が得意にしている作品ですが、ネゼ=セガンも、その仲間入りなのでしょうか? 興味深々です。

 今期は、女性指揮者が活躍するのも、時代を読むメトならではの起用ですね。第7作『ばらの騎士』がシモーネ・ヤング。この人の『カルメル会修道女の対話』は、去年ネゼ=セガンがメトで振った同作品より、ずっと、このオペラの音響の特徴を積極的に表現しているなと思っています。2008年ハンブルク歌劇場の映像。この女性指揮者の実力に、すっかり感心したソフトです。

 もうひとり、第9作『ドン・ジョヴァンニ』で登場する女性指揮者が、何とナタリー・シュトゥッツマンだそうです。私、この人は、歌手としての凄い才能しか知りません。でも『ドン・ジョヴァンニ』です。想像しただけで、ぞくぞくしてきます。

 今期のメト。たいへんです! 見逃せない出し物、満載です!!  公式サイトは下記です。

 https://www.shochiku.co.jp/met/

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 ところで、第2作は『椿姫』なのですが、これ、ヴィオレッタを歌うのが、『ランメルモールのルチア』で大熱唱したネイディーン・シエラです。

 そして『椿姫』のほうが観客動員力が高いということなのか、今期のライブビューイングのPRイベント作品は、こちらです。12月16日(金)が日本での上映初日ですが、その1週間前の12月9日(金)18時30分から、東京・東銀座の「東劇」で、トークイベント付きの「先行上映」が行われるそうです。

 今度の「椿姫」の演出が、前期のメト初演で好評だったマイケル・メイヤー版で、そのメイヤー演出のミュージカル「春のめざめ」日本公演で主役を演じたということでトークに起用されたのは俳優の柿澤勇人。司会は朝岡聡氏です。

 チケット発売が、11月25日(金)から「東劇ホームページ」で開始されますが、東劇窓口でも26日(土)からは販売されるそうです。詳細は、下記HPで「松竹シネマ」に入り、「劇場」→「関東」→「東劇」で、すぐたどり着きます。

smt-cinema.com

 

【付記】

これをUPしてから、9月3日に、同じようなことを書いているのを、自分で発見して、呆れました。ほんとに、すっかり忘れていたのです! 全10作のラインナップを見て、同じ感想が出てくるとは! それだけ、思っていることをそのまま書くと、同じになるということなんだなァと、ひとりで納得しています。皆様、申し訳ありません。