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ツェムリンスキー『叙情交響曲』は、ギーレン/BBC響盤が、おそらく、最も標準的な演奏だと思う。

2012年04月25日 11時34分52秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの83枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6093
【曲目】ツェムリンスキー:叙情交響曲 作品18
        :メーテルランクの詩による6つの歌曲 作品13
【演奏】エリザベート・ゼーダーシュトレーム(sp.)
    トーマス・アレン(br.)
    ミヒャエル・ギーレン指揮BBC交響楽団
    フェリシティ・パルマー(sp.)
    ベルンハルト・クレー指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
【録音日】1981年2月18日、1986年6月6日

■このCDの演奏についてのメモ
 つい先頃、シノポリ盤が登場したばかりのツェムリンスキー『抒情交響曲』だが、BBC-RADIOクラシックスの1枚にも同曲が加わった。録音は最近のものではなく1981年2月で、BBC交響楽団の創立50周年を記念するコンサートを収録したものだ。指揮は当時このオーケストラの首席客演指揮者(78~82年の5年間就任)だったオーストリア出身のミヒャエル・ギーレンだ。
 今でこそ、ツェムリンスキーの名前はかなり浸透しているが、50年代の終わりから始まったマーラー再評価の高まりの中からツェムリンスキーの名前が取りざたされ注目を集めたのは生誕100年の1972年以降だ。日本では若杉弘指揮の京都市交響楽団が、やっと78年7月4日に日本初演を行っている。そして、この交響曲のメジャー・レーベルによる録音は、81年3月に行われたドイツ・グラモフォンのマゼール指揮ベルリン・フィル盤まで待たなければならなかった。
 それに先行するドイツ、オーストリア圏の録音として、当CDの余白に収められた「6つの歌曲」の伴奏指揮をしているベルンハルト・クレーによるベルリン放送交響楽団(西ベルリン)盤がある。80年6月の録音で、ドイツ・シュワンからLPが発売されている。意欲的な活動をしていた人々が、先を争って、ツェムリンスキー作品の演奏を競っていた当時の状況が浮かびあがってくるようだ。
 BBC交響楽団も、当CDのギーレンに先立ち、既に1978年には早々と「抒情交響曲」の演奏をしている。ドロシー・ドロウのソブラノ、ジークムント・ニムスゲルンのバリトン、ガブリエル・フェッロの指揮で、これはイタリアのフォニト・チェトラからLP発売されている。私の知る限り、これがツェムリンスキー復権後の初の「抒情交響曲」の録音だ。
 もっとも、同じBBC響でもフェッロ盤は、表情豊かな歌に溢れた演奏で、オペラの一場面をちぎって美しく並べて見せたような味わいに満ちて、世紀末的な刹那の美を表わした個性的演奏。特に第2楽章が特徴的だ。これに比べてギーレン盤は、全体の構成を重んじた標準的演奏に引き戻して、当時の音楽的関心の方向に沿っているように思われる。この曲の存在を最も広く知らしめたマゼール盤がオーケストラに細心の表現を求めて多くのことを語り尽くしているのに比し、控え目で抑制された様式で、この曲の紹介という役割をまっとうしている。
 この曲はこれからも多くの演奏家によって、様々の角度からの解釈が試みられるだろう。そうした際の尺度となる演奏が、このギーレン盤となると思う。(1997.1.26 執筆)

【当ブログへの再掲載に際しての付記】
ここで私が言いたかったのは、マゼール盤が決して標準的な演奏ではなく、むしろ、多面的な表情づけが、この曲をとても〈饒舌〉にしているということです。そして、フェッロ盤は、ひょっとすると、作曲当時の聴衆のイメージに一番近いのかもしれないと思うのです。
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名手カンポーリの美音に酔う、色彩の作曲家アーサー・ブリス「ヴァイオリン協奏曲」自作指揮の記録!

2012年04月11日 10時40分22秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの82枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6092
【曲目】アーサー・ブリス:ヴァイオリン協奏曲
        :バレエ「シャロット姫」作品86
【演奏】アルフレッド・カンポーリ(vn.)
    アーサー・ブリス指揮BBC交響楽団
【録音日】1968年12月16日

■このCDの演奏についてのメモ
 BBC-RADIOクラシックスでは、アーサー・ブリスの作品集としては、CRCB-6078 に次ぐ2枚目のアルバムだが、今回のアルバムでまず注目されるのはオーケストラの指揮が作曲者のブリス自身であることだろう。ブリスは自作を中心に指揮活動もしているので、これまでにもいくつかの自作の録音が知られているほか、エルガーの作品の録音が輸入盤のカタログに載っている。その中には、当アルバムに収められた「ヴァイオリン協奏曲」の初演当時の録音もあるようだが、当アルバムのもう1曲、バレエ「令嬢シャロット」は、これが当作品そのものの世界初録音、おそらく、現在入手できるものとしても、これが唯一のものだろう。
 ブリスは、その出世作である「色彩交響曲」などでも、その題名が示すとおり色彩感の豊かな作風を聴かせるが、それに暝想的な作風が次第に加わっていった作曲家だ。
 そうした特徴をことさら感じるのが、弦楽の巧みな扱いで、これは「令嬢シャロット」のプロローグや、それに続く部分にもよく表われている。流れるような旋律が美しく織り込まれた佳品を、ブリスの指揮は十分に楽しませてくれる。おそらく、この作品で最も大切なのは、流動感のあるしなやかな音楽の運びなのだろうということが、いたるところで聴き取れる。落ち着きのある進行とともに、気品を感じさせる作品であり、演奏だ。
 なお、この演奏は、録音された1968年の年末にBBC放送によって全英に放送されたが、それが放送初演だったという。1958年に書き上げられ、バレエとして舞台初演されてから、既に10年が経過していた。
 名ヴァイオリニスト、カンポーリのために書かれた「ヴァイオリン協奏曲」は、前述の1度目の録音(筆者未聴)も、カタログの記載によれば当然ながら初演者のカンポーリによる独奏で、伴奏がブリス指揮ロンドン・フィルとなっている。録音は初演と同年の1955年とされており、モノラル録音だ。今回のCDはもちろんステレオ録音で、カンポーリは60歳を過ぎているが、それでも、カンポーリらしい甘美な音色が曲趣に合って、この作品の魅力を十全に伝える演奏となっている。弦楽を主体としながらも、きらめくような色彩の豊かさを表現したブリスの音楽の魅力を伝える代表盤のひとつと言えるだろう。
 アルフレッド・カンポーリは1906年にローマに生まれたヴァイオリニスト。1911年にロンドンに移り、以来ロンドンを中心に活躍した。60年代には最後のヴィルトゥオーソのひとりとして2度の来日を果したが、1991年に長い生涯を終えた。(1997.1.26 執筆)


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