1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。
――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの86枚目。
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【日本盤規格番号】CRCB-6097
【曲目】シベリウス:交響曲第5番
ニールセン:交響曲第4番「不滅」
【演奏】ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団
【録音日】1968年8月9日、1965年7月30日
■このCDの演奏についてのメモ
バルビローリは、BBC-RADIOクラシックスのシリーズには初登場だが、イギリスの指揮者の中でもとりわけファンの多い指揮者だ。そのロマンティックな歌にあふれた芸風が愛されているからだろうが、そうしたバルビローリ・ファンにはぜひとも聴いていただきたいアルバムだ。曲目はいずれもバルビローリの得意曲で、したがって、これまでのレパートリーを広げるものではない。そして、オーケストラが長年にわたって首席指揮者をしていたハレ管弦楽団だから、これまでのスタジオ録音盤と同じコンビだ。だが、今回はライヴ録音という楽しみがある。
バルビローリのファンならばよくご承知のように、当時のハレ管は、メジャー・レーベルに録音するオーケストラとして、決して技術的水準の優れたオーケストラではなかった。どちらかというと、バルビローリのイギリス国内での人気が、EMIというメジャー・レーベルのオーケストラ起用の最低基準に特例をもたらしたふしがある。だから、録音や編集の段階での補正は、かなり行われていたのではないかと思われる。バルビローリ・ファンからはお叱りを受けそうだが、現実に、ハレ管との英ニクサ(英パイ)というマイナー・レーベルへの録音と、EMIへの録音とを聴いてみて、そう感じることがある。これは、バルビローリ・ファンのひとりとしての私の、偽らざる感想としてお許しいただきたい。
さて、そこで、今回のライヴ盤だ。
これまで発売されたスタジオ録音について、先に記そう。シベリウスの交響曲第5番は、1957年にハレ管と英ニクサに録音(その後、英パイに移り、やがてEMIからCDで復刻発売)し、66年に同オーケストラとEMIに再録音している。ニールセンの《不滅》は59年の英ニクサ録音がある。これに、今回のライヴ盤が加わったわけだ。どちらも、スタジオ録音では到達できなかったロマンティックな音楽の起伏の自然な盛り上がりが、ライヴ盤で顕著に聴かれるのが何よりうれしい。
例えば、第1楽章の10分経過あたりからのじわじわとテンポが速まっていく生きた感覚は貴重だ。いたるところでくっきりと聴きとれる対旋律も、これまでさほど深い意味付けを感じなかったが、実はほんとにバルビローリはそうしたことに意味を求めていないようだ。旋律の太い流れに身をゆだねていればよいのかもしれないと思わせるような、甘美でしかも沈んだ歌に専心した第2楽章など、随所で「これがバルビローリだ!」と言いたくなる。自然体のバルビローリ盤の登場をよろこびたい。(1997.1.28 執筆)