「ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン」が、表題のように改称されてしまいました。もともと、コヴェントガーデンの「シネマ」はバレエとオペラが半々でしたから、そのこと自体は何も変わっていないのですが、「ロイヤル・オペラ」としては、バレエを前面に出したいということなのでしょう。それはいいのですが、全10演目の内、オペラが4本しかないというのは、少々残念です。パッパーノが音楽監督を降りたので、大きな話題が少ないのでしょうか?
今期のオペラは、『フィガロの結婚』『ホフマン物語』『ワルキューレ』『トゥーランドット』ですが、『ワルキューレ』は、昨年の『ラインの黄金』に続いてパッパーノ指揮のプロダクションです。
さて、本日は、今週の金曜日、29日からの1週間、「東宝シネマズ日本橋」ほか、全国の東宝系で上映される『フィガロの結婚』を、先日、いち早く試写で観てきましたので、それについて少し書きます。
スタッフ、キャストは以下のとおり。
指揮:ジュリア・ジョーンズ
演出:デイヴィット・マクヴィカー
フィガロ:ルカ・ミケレッティ
スザンナ:シボーン・スタッグ
バルトロ:ピーター・カルマン
マルチェリーナ:レベッカ・エヴァンス
ケルビーノ:ジンジャー・コスター=ジャクソン
アルマヴィーヴァ伯爵:ヒュー・モンターギュ・レンドール
バルバリーナ:イザベラ・ディアス
ほか
マクヴィカーの演出による『フィガロの結婚』は、もう何度も見ているはずだが、今回ほど演出の意図がはっきりと透けて見える舞台は初めてだった。演出のマクヴィカーがリハーサルに付きっきりで演技指導をしていたらしいことが、幕間の舞台ウラ映像や、演出家インタビューなどからもうかがえたが、要するに、演出家が前に出過ぎている観が強いのは、少々困りものだと思う。その分だけ、これまでのどの公演映像よりも、マクヴィカーの演出意図がよくわかる(わかり過ぎる!)のは、皮肉なことであるが……。
リハでは、歌手ひとりひとりの一挙手一投足まで、音(音楽)に合わせて指示している場面が至る場面にあるようだった。おそらく、そのせいだろう、「歌」の、音楽としての勢いが、しばしば死んでしまっているのだ。どこか、音楽の輪郭をなぞっているような、こわごわと歩んでいるような、〈走らない〉音楽になりがちだった。指揮者も含めて、出演者全員が演出家の言いなりに動いて委縮しているように感じられるのは、決して褒められることではないが、このオペラがどのようなオペラか、ということが、こんなにもわかりやすい舞台公演は初めて見たようにも思った。
音楽の仕上がりは、イタリア・オペラの軽やかさよりも、ドイツ・オペラの重厚な響きを意識したもので、かなり低域にウエイトを置いたもの。自由さというか、自在感が犠牲になった音楽になっているのだが、細部までよく聞こえる音楽でもある。ひょっとしたら、そうしたことも含めてすべて、マクヴィカーと指揮のジュリア・ジョーンズが一緒になって、何かを意図しているのかもしれない、と、ふと、思った。やはり、一度見ただけでは即断できない。
この女性指揮者について、予備知識がなかったので、慌てて調べたら、ヴッパータール交響楽団を振ったワーグナーとベルリオーズのCDがあるという。なかなかの曲者なのかも知れない。
どうも、うまくまとまらない「ご紹介」になってしまったが、『フィガロの結婚』という、モーツァルトのオペラ創作の一大転換点となった作品、そして、イタリア・オペラ、ドイツ・オペラ双方のその後の発展に大きな影響を与えた作品の実像を探るには、様々な意味で格好の上演映像だと思う。私も、時間を作ってもう一度見ようか、と思った。