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ロシア正教に改宗した現代イギリスの作曲家ジョン・タヴナーの作品を、ロジェストヴェンスキーの指揮で聴く

2013年04月26日 11時43分07秒 | BBC-RADIOクラシックス
 昨年の8月9日付けのブログに「第90回」を掲載して以来、中断していた「BBC-RADIOクラシックス」のライナーノートを再開します。いよいよ、あと10回で終わりです! まずは、毎回掲載しているリード文から(じつは、少しだけ書き直しました)。

 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、第二次大戦後のイギリスの音楽状況の流れをトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの91枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6102
【曲目】タヴナー:「アフマートワ・レクイエム」
    タヴナー:「6つのロシア民謡」
【演奏】ロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団
    フィリップ・ブリン=ユルソン(ソプラノ)
    ジョン・シャーリー=カーク(バス・バリトン)
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    ナッシュ・アンサンブル
    エリース・ロス(ソプラノ)
【録音日】1979年9月2日

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDで、現代イギリスの特異な作品であるジョン・タヴナーの「アクマートワ・レクイエム」を指揮しているゲンナジー・ロジェストヴェンスキーは、1931年生まれの旧ソ連の名指揮者だが、イギリスにとっては縁の深い指揮者のひとりだ。
 ロジェストヴェンスキーとロンドンの聴衆との最初の出会いは、ボリショイ・オペラの指揮者に就任した1956年のロンドン公演が最初と言われている。この時、ロジェストヴェンスキーはまだ25歳の青年だった。政治的に、いわゆる東側のヴェールの向うから突然登場した若き天才指揮者を、西側でいち早く評価し、以後盛んに招待演奏会のアプローチを続けたのはイギリスの音楽関係者だった。
 その後、たびたびのロンドン訪問で、その実力の程をロンドンの聴衆に示していたロジェストヴェンスキーは、結局、BBC交響楽団の首席指揮者に、1978年から82年までの間、就任した。もっと長く続くはずだったが、この有能な指揮者の国外流出を快く思わなかった当時のソ連政府の強引な引き戻し策により、4年間で終わってしまったのだった。
 1981年録音の当CDは、そのロジェストヴェンスキーがBBC交響楽団の首席指揮者をしていた時期に行われたプロムナード・コンサート(プロムス)の演奏だ。初演が、この1週間ほど前に、同じメンバーによってエジンバラ音楽祭で行われたのを受けて、BBC放送局が総力を結集したイベントとして公開、録音された演奏会の記録。曲目の「アクマートワ・レクイエム」は、ロシア正教に改宗した作曲者が、ロシアの詩人の作品に材を求めたもので、改宗の決意の表われなのか、あるいは、原詩に内在する力に動かされたのか、極めて密度の高い、独特の精神の重さを感じさせる音楽となって結実している。
 政治的には〈反スターリニズム〉の産物と目されるだろうが、そうした背景を抜きにして、音楽的に、極めて優れた求心力を持った作品であり、演奏であると感じられる。暗部の底を覗きこむような緊張と、カラフルでありながら、濃密で重量感のあるサウンドだ。現代作品の歌唱に多くの実績のある独唱者を配し、この作品の理想の指揮者を迎えたものと想像されるほどの仕上りを聴かせる演奏だ。
 「6つのロシア民謡」も初演のメンバーによる演奏で、初演後8ヵ月を経て満を持しての録音だ。第2曲の「庭の白樺」はチャイコフスキーの「第4交響曲」の終楽章の主題に選ばれた旋律と同じ。第6曲の日本人にも広く知られた「カリンカ」などとともに、タヴナーの、東洋的な語法への深い共感と特異な個性との共存が、わかりやすく表現されている。(1997.5.29 執筆)


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