事件記者のページ

遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

三島由紀夫のナゾ

2011-08-09 16:54:59 | 本と雑誌
帰らざる夏 (講談社文芸文庫) 帰らざる夏 (講談社文芸文庫)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1993-08-04

あっちこっち道草しながらようやく読了した、見事に首尾整ったストーリー、本来純文学とはこういうものを言うんだと思う、破綻してても部分が優れてれば許されるなんてのは能のない作家の言い訳に過ぎない(しばしば部分的に優れてすらいないんだもんな)

 時は昭和20年8月15日、所は愛知県犬山市の陸軍幼年学校、16歳の主人公が過去を回想する、10年ほど年長のイトコが士官学校を出て出征し中国で戦死した、それもあったし今の世の中軍人が有利という周囲の勧めもあってここへ入ったが運動が苦手で苦労した、だが(本人は言わないがハンパでない美少年らしく)模範生徒の3年生(岐阜県出身、このところ続くなあ)がヒイキにしてくれたしハンサムでカッコイイ別の3年生が親戚の別荘へ誘ってくれたこともあった
 生徒監の少佐が厳しいのも辛い、彼は死んだイトコと同級だった、二二六事件の反乱軍と近いところにいたらしい、決起に参加せず戦死もしなかった自分は死に遅れたと思っている
(この辺はちょっと後で聞かされるのだが重要な伏線)
 今年に入って本土空襲が激化し東京にある自宅も焼けた、名古屋もほとんど丸焼けになった、もうすぐ本土決戦で自分たちはみんな死ぬ
 と思ったら正午の玉音放送、何かよく聞こえなかったがどうやら戦争が終わって日本は負けたということなのか、自分はいったいどうすれば・・・・
 東京へ行っていた生徒監と卒業生たちが飛行機で飛んで来た、中の一人はあのカッコイイ先輩、聞けば数日前から玉音放送のことはわかっていて、何とか放送を阻止するとか天皇を擁して反乱を起こすとかできないかと努力して来たが大勢に逆らうのは不可能だったとのこと、彼らはここでもう一度決起を呼びかけるが従うものはほとんどいない、生徒監は憲兵隊に連行される
 深夜一人別行動をとっていた先輩が別れを告げに来た、夜が明けたら腹を切るという、主人公は迷わず言った「お供します」

この要約だと重要な部分が抜けてる、幼年学校の軍国主義教育というか天皇を信仰する宗教教育を受けて先輩も主人公も完全に洗脳されちゃうところ、素直な主人公はともかく先輩はかなりのリクツ屋だし自分で勉強もしてる、学校の教育に疑問を持ってるという設定なので信仰の対象を失ったからとてアッサリ死を選ぶとはちょっと解せない気もする、「むかっ腹を切るのだ、そんな切り方はないが」って、だったら切らんでもいいじゃない・・・・

でもこれが精神医学者でもある加賀さんの「三島事件に対する解答」なんだろね、あれは男二人の情死だった、時期ハズレな天皇信仰はそのための言い訳って・・・違うかな?