うす暗くて長い廊下を独り歩いている。歩き続けている。肌理の細かい板が固く敷き詰められている。鉱物のように思索的でありながら、触れば冷たくはない。そのあたたかさだけ、足の裏には柔らかく当たる。両側は暗闇に溶けているが、無限に部屋が続いている。
前方には、ぼんやりした明かりが落ちているが、ある隔たりを越えて向こうには、なにが待っているのか分からない。しかも、それは怖さを喚び起こすものではない。言葉に尽くせぬ懐かしさを湿り気のように帯びた、一種のけむりが待っているようだ。
生まれ変わるとは、こんな気分なのだろうか。ひどく静まり返っていて、ちっとも怖くない。かえって、ささやかながらわくわくする廊下歩きだ。どうか、簡単に先が尽きることのないように。
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