兼好があやしうこそ物狂ほしけれと呟いたのは、書いている自分と書かれている文章との間に、何物か別個のあるものが介在して来ることを自覚的に捉えていた証しである。その呟きの言葉は必然として末尾から文頭に戻って行き、つれづれなるままにという言葉と運命的に反照し合い、文章と見えながら実はもう一つの見えない内語、ユリイカという叫びとなって現前することとなる。
この一個の文章そのものが、時の流れを超えて前後の文字が宿世の感応の下に生れ落ちるのだということを、書かれた言葉の外で叫んでいる。今見る編纂の、以下に続く二百数十段に残された文字もまた、この明白な自覚の下で徒然に何物か別個のあるものとともに、兼好の筆によって書きつけられたものとして残ったのである。
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